帰りに明日香に卒業式後に付き合ってほしい場所があるという約束をして家路につくのだった。
Episode:Takashi
羽田鷹志 編
Chapter:Takashi Haneda
Wing of Hawk
【鷹志】
「もう朝か」
まだ眠り足りない意識を起きることへ向けて布団から飛び上がる。
時計はいつもよりも早い時間に目覚ましがセットされていた。
【鷹志】
「ふわあああ」
大きなあくびが出てなんだかみっともない気もするけれど家にいて誰にも見られていないから別にいいよね。
カーテンを開けて日の光を部屋の中に入れる。
前までは朝は苦手だったんだけど今はすごく気持ちがいい朝を迎えることができている。
いつまでもこうしていたいけれど時間は限られている。
僕はパジャマから制服に着替えて部屋を出た。
【小鳩】
「お兄ちゃん。おはよう」
台所では小鳩が朝ごはんの準備をしている──
【鷹志】
「──おはよう小鳩。今日の朝ごはんは何かな?」
【小鳩】
「今日はナメコのお味噌汁と昨日の残りのお肉を炒めたよ」
【鷹志】
「美味しそうだね。うん、ナメコのお味噌汁って美味しいよね僕も好きだよ」
【小鳩】
「今、準備してるところだからもう少ししたらできるよ」
【鷹志】
「お茶碗とかを居間に運んでおくよ」
【小鳩】
「ありがとう」
僕は叔父さんたちの食器を今まで運んでおこう。少しでも小鳩の役に立ちたいからね。
【小鳩】
「タカシお兄ちゃんは今日学校?」
【鷹志】
「うん、今日は学校で最後の行事があるんだ。僕も参加するんだよ」
【小鳩】
「へえー」
目をまん丸にして僕の顔を見る小鳩。
確かに昔の僕なら自分から進んで学校行事に参加することはなかったと思うんだ。
色んなことに積極的になれたのは多分千歳くんのおかげだろう。
っと言っても針生さんの変わりだからちゃんとその役割が務まるのかは分からないんだけどね。
【鷹志】
「じゃあ行ってきます」
朝ごはんを食べ終えて家を出る。
最近では食べる量も少しずつ増やしてきた。いつも朝はパン食だったけど最近ではご飯が多くなってきている。
成田くんは肉が好きだったから僕も肉を食べているけれども食事はバランスよく取らないといけない気がする。
いつものように通学路を通る。今日は渡来さんは休みだから僕ひとりで通学する。
通学路に三年生の姿はほとんどなく一、二年生が多い。
僕はいつもよりもゆっくり目に歩いて学校に登校した。
【女生徒D】
「おはようございます。もしかして”学園プリンセスコンテスト”に参加する人でしょうか?」
校門の前ではコンテストの大弾幕が垂れ下がっていてすごく盛り上がっているみたいだ。
僕は係の女生徒に体育館の待合室まで案内される。
体育館に行く途中の廊下に僕のポスターが貼られていてなんだか恥ずかしい。
他の男子生徒がかっこよくポーズを取る中でいつもと変わらない顔の自分が少しだけ場違いに感じた。
聞いた話によると投票は設置されたポスターによる前投票と本番でのスピーチの評価を合わせて結果を判断するようだ。
【鷹志】
「ふう」
待合室に案内されて参加者のために準備された椅子に座る。
周りにはコンテストに参加する男子生徒達もいる。
皆すごくおしゃれでかっこいいアクセサリーなんかも身につけている。
僕は普通の制服だからかえって目立ってしまう。
場違いな感じもするけれど針生さんの代わりをしっかりと努めないといけないなあ。
それぞれの出番が終わって僕の番が近づいて来る。
【鷹志】
「緊張するなあ」
僕の出番はコンテストの一番最後。これは事前に番号を書かれた籤を引いて決めた。
皆がいいアピールをする中で僕が最後に何か言って女の子たちの心に響くのかな?
【女生徒F】
「いよいよだねーアンタの好きな羽田先輩が出るんでしょ?」
【女生徒E】
「う、うん」
【女生徒G】
「ねえねえ今日のコンテスト誰に投票した?」
【女生徒H】
「ええ~教えないよ」
【女生徒F】
「もう少ししたら体育館でコンテスト出る人たちのアピールがあるわよ」
【女生徒G】
「うそ!? それは楽しみだなー」
【女生徒F】
「私たち実行委員がちゃんと投票を集計したから不正はないわよ」
【女生徒H】
「そろそろ体育館に集まる時間じゃない?」
【女生徒F】
「そうね。じゃあ行こうかしら」
【男子A】
「じゃあ、ハニーたち俺に投票よろしく!」
僕の二つ前の生徒がアピール終えて控え室に戻ってくる。目が合うと彼は爽やかな笑顔で答えてくれた。
知らないクラスの人だけど僕も彼に出番を終えてお疲れ様の意思表示をする。
それに気づいて彼はフランクな表情で手を挙げてくれた。
【女生徒D】
「次の人お願いします」
僕の前の生徒が部屋を出て行く。
次の人がアピールするまでの間体育館の横断幕が閉じられ次にアピールをする生徒が希望した背景に変えられる。
色々と凝った演出で女の子たちを楽しませているみたいだ。
僕はそういうのは気にしないで担当する委員の人に全部任せておいたからどういうふうな感じになるのかはまだ知らない。
自分の出番が近づいてくると思うとすごく緊張する。
【鷹志】
「世界が平和でありますように」
心を落ち着かせようといつもの言葉を呟く。
優しかったおじいさんに教わったいつも僕の心を穏やかにしてくれるおまじない。
【女生徒D】
「次の人お願いしまーす」
【鷹志】
「はい」
僕は立ち上がり係の生徒と一緒に体育館袖で待機する。
僕の前の人が色々な言葉を使ってアピールしている。
彼の必死さは見ているこっちにも伝わってきた。
【女生徒C】
「アピールありがとうございました! それでは次は最後の人のアピールタイムです」
【女生徒C】
「アピール前に背景を変更するのでしばらくお待ちください」
【女生徒D】
「横断幕が閉じたら真ん中に移動してくださいあとは私たちがやりますから」
【鷹志】
「わかりました」
話が終わり横断幕が閉じる。僕は深呼吸をしてステージに移動する。
【女生徒C】
「お待たせしました最後のプリンス候補の登場です!」
司会の女の子が言い終えると会場からたくさんの拍手が起こる。
僕が今まで受けたことがない大きな拍手だった。
【鷹志】
「(飾ることのないようにいつも通りの僕でいよう)」
幕が開けられていよいよ僕の番だ。
多くの拍手に迎えられて僕はステージに立つ。
なんだか緊張するけれど自分の役割をしっかりと果たそう。
【鷹志】
「おれみたいなのがこの場所に立っているのは場違いは気がするんだけど今日はこのコンテストに来てくれた女の子たちにまずはありがとうと伝えたい」
自信を持って自分言葉で感謝の気持ちを伝える。それからは飾らないいつもの自分でコンテストに臨んだ。
【女生徒F】
「それでは候補者の人に色々と質問をしていくコーナー!」
司会役の女性生徒がそう言うと担当の生徒が僕の方にやってくる。
【女生徒F】
「それでは質問なんですが羽田さんはどうしてこのコンテストに出ることにしたんですか?」
【鷹志】
「おれは今まで学校行事に積極的に参加したことがなかったから最後くらいは思い出を残しておきたいと思ったんです」
【鷹志】
「元々依頼されたのは別の人だったんだけどそのひとの代わりに出ることに決めました」
【鷹志】
「だからおれがそのひとの代わりになるのかはわからないけれど自分のできることを精一杯頑張りたいと思います」
【女生徒F】
「なるほど~では、次の質問ですが好みの女の子のタイプを教えてもらえますか」
【鷹志】
「そうだなあ。優しくて思いやりのある子が好きかな」
【女生徒F】
「なるほど」
【鷹志】
「でも、ここにいる女の子たちもきっと素敵な子ばかりなんだろうなあ」
【女生徒F】
「それはどうなんでしょうねー」
【鷹志】
「いや、きっとそうだよ」
【鷹志】
「おれはかっこいいことや気取った言葉は言えないけれど、おれの言葉が皆に少しでも伝わればいいなとも思うんだ」
【鷹志】
「だからこのコンテストを少しでも楽しんでもらえたらすごく嬉しい」
【女生徒F】
「色々と考えてるんですねー」
女生徒からの質問に答えていく。
最初は緊張してたけど話すうちにそんなことは感じられないようになった。
【女生徒F】
「先輩のポスターって他の候補者の人とはちょっと違いますよね~」
彼女がそう言うとステージに僕の映ったポスターが現れる。
たくさんのひとに自分の顔を見られるというのはなんだか恥ずかしい。
【鷹志】
「そうかなあ? おれよりも他のひとのポスターの方がすごくよく写っていると思うけど……」
【女生徒F】
「このシンプルさがあえていいなあって思っちゃいましたよ!」
【鷹志】
「そうなんだ。ありがとう」
少し照れくさい僕は視線を前に向けると見慣れたリボンの生徒が見えた。
あれは林田さんと玉泉さんか……二人とも意外と近くにいたのか。
【美咲】
「は!」
【日和子】
「リンダどうしたの、急に大きな声出して」
【美咲】
「タマちゃん! 今先輩こっち見たよ」
【日和子】
「気のせいじゃない? 女子は私らの他にもいるんだしさ」
【美咲】
「またそういうことばかり言って! きっと私の熱い視線に気づいてくれたんだよ」
【日和子】
「リンダ羽田先輩の出番が来るまでずっとそわそわしてたよね」
【美咲】
「私今日のコンテストをすごく楽しみにしてたんだー他の候補の人もすごく素敵だと思うけどやっぱり一番は羽田先輩だよ! ね、ね、タマちゃんもそう思うでしょ」
【日和子】
「まあ、私も羽田先輩に投票したけどさ」
【日和子】
「羽田先輩って変にカッコつけないところがポイント高いと思う。他の人と比べてもシンプルな感じがいいよね」
【美咲】
「そうだよね~タマちゃんよくわかってる」
【日和子】
「今までアピールした人たちの中だと羽田先輩が一番いいかな」
【美咲】
「私なんて今日の先輩の素晴らしい言葉のひとつひとつを脳内のハードディスクに何度も記憶したよ」
【日和子】
「ほら、先輩の話をちゃんと聞こうよ」
【鷹志】
「ははは。それにはノーコメントかなあ」
緊張をしないように色々な質問をしてくれる係の子には感謝したい。
【女生徒F】
「色々と聞きたいことがありますけどもう時間なので」
係の子は腕時計を見ながら時間を確認する。どうやら僕の出番は終わりみたいだ。
他の候補の生徒みたいに気が利いたことは言えなかったけど僕の想いは伝わったんじゃないかと思う。
【女生徒C】
「お疲れ様でしたー」
アピールを終えて控え室で休憩する。係の生徒から飲み物を渡されたからそれを飲みながら結果を待とう。
結果が気になるのか控え室にいる他の男子生徒はそわそわとしている。
髪や服装を整えている。
【鷹志】
「ん?」
一息ついている時に携帯が鳴っているのに気がついた。僕は控え室を出て男子トイレに向かう。
【鷹志】
「もしもし」
【明日香】
「あ、羽田君? 私、渡来」
【鷹志】
「渡来さん? どうしたの」
【明日香】
「どうしたのはこっちのセリフだよ。羽田君今どこにいるの?」
【鷹志】
「今は学校にいるけど」
【明日香】
「学校? 今日って何かあったっけ」
【鷹志】
「前に言ったじゃない。僕が針生さんに代わりに出ることになった学校行事に参加してるんだ」
【明日香】
「それっていつ終わるの?」
【鷹志】
「僕がトリだったからもうすぐ終わると思うけどなにかあったの」
【明日香】
「電話で話すのもなんだしこれからそっちに行く。学校なんでしょだったらすぐに会えるしね」
【鷹志】
「今から来るの? 時間がかかるんじゃないかな」
【明日香】
「ちょっと話したいこともあるからちょうどいいよ」
【明日香】
「待ち合わせはどこにしておく?」
【鷹志】
「コンテストの会場が体育館だから体育館の前でいいかな」
【明日香】
「あい、了解。それじゃあ今から行くね」
渡来さんとの通話を終えて携帯をポケットにしまう。けれど何か急ぎの用事でもあるんだろうか?
僕はトイレを出て体育館へと急いだ。
【女生徒C】
「それでは第一回美空学園プリンスコンテスト優勝者そしてソラ学No.1プリンスはこの人です!」
【女生徒C】
「3年A組 羽田鷹志さん!」
【美咲】
「タマちゃん! 先輩がナンバーワンだって!」
【女生徒C】
「それではたくさんの候補者がいる中で激戦を制した羽田鷹志さんへ投票した女子のコメントを見てましょう」
『草食系男子に惹かれちゃいました!』
『最初は微妙かなとも感じたんだけどよく見たら整った顔をしていてとても素敵だなと感じました。アピールタイムでもイメージ通りでポイント高いです』
『三年生にこんな人がいるのは知りませんでしたー私のイイ男ネットワークに新しい情報を入れておこうかなと』
【女生徒C】
「まだまだ色々とコメントがありますが時間がないので紹介するのは控えさせてもらいます」
【女生徒C】
「では美空学園で一番素敵なプリンス様にここにいる女子生徒に全員に向けて何か言ってもらいましょう!」
【女生徒F】
「それが羽田先輩の姿が見えないのよ」
【女生徒C】
「え!? すぐに捜しなさいよ!」
【女生徒F】
「今皆で探してるわよ」
【女生徒C】
「すみません、控え室にいたはずの羽田鷹志さんが見当たらないようなので今係の生徒に捜索を依頼していますのでもうしばらくお待ちください」
【鷹志】
「なんだろう? 随分と騒がしいなあ」
トイレから体育館に戻る廊下を歩いているとなんだかすごく慌ただしさを感じる。
もう結果は出たんだろうか?
初めて自分から進んで参加した学校行事が終わりを迎える。僕は僕なりにしっかりと役割を果たせたと自分でもそう思える。
【校内放送】
「3年A組の羽田鷹志さん。至急体育館まで来てください」
校内放送で自分の名前が呼ばれていることに驚いて急いで体育館に向かった。
【女生徒F】
「これでよしっと、流石に校内放送で呼び出せばすぐに見つかるでしょ」
【女生徒D】
「最初からこうすれば私たちが無駄な体力使わなくても良かったのに」
【女生徒F】
「ボヤくなボヤくな。さ、私たちも早く戻りましょ」
【鷹志】
「やっと着いた……」
普段の運動不足が祟ったのか体育館に行くまでにすっかり息が上がっている。
こんなんじゃ成田くんに笑われちゃうかな。
【女生徒F】
「あ! 戻ってきた。急いでください! 待ってたんです」
休む間もなく僕は係の女の子にさっきまで居た体育館のステージの傍まで連れて行かれた。
【女生徒C】
「大変お待たせしました! それではナンバーワンプリンスに登場してもらいましょう」
再び幕が上がりたくさんの拍手の中、僕は状況を理解できずに佇んだ。
【鷹志】
「これは一体どういうことなのかな?」
【女生徒F】
「説明が遅れてすみません。実は羽田鷹志さん、アナタが第一回ソラ学No.1プリンスに選ばれたんですよ! おめでとうございます」
彼女の言葉が終わると会場からもう一度拍手が起こる。
【鷹志】
「えっ……? おれがプリンス?」
やっぱり状況を飲み込めずぽかんとしてしまう。
【鷹志】
「どうしておれが?」
【女生徒F】
「女子生徒皆からの投票結果で羽田さんが一番になったんですよ」
投票結果で僕が一番? 本当にそんなことがありえるんだろうか
【鷹志】
「あの……おれにも何が何やらよくわからないけどおれに投票してくれた皆には感謝の気持ちを伝えたいと思う」
【鷹志】
「本当にありがとう」
僕の言葉に女の子たちから声援を受ける。なんだか変な感じだなあ。
【女生徒C】
「それではこの後はプリンスとの記念撮影と握手会があるのでお楽しみに!」
どうやら優勝した候補は女の子達との撮影会などのイベントがあるようだ。僕は少しの休憩時間をもらいたい。
【明日香】
「うわあすごいなあ」
廊下には羽田くんのポスターが貼られていた。なんたらコンテストに出るっていうのは聞いたいたけど。
他の候補者のポスターはすごく派手で目立つから羽田くんの普通のポスターがかえって目に留まるんだよなあ。
【校内放送】
「3年A組の羽田鷹志さん。至急体育館まで来てください」
ん? 羽田くんが呼ばれてる。もしかしたら。
校内放送を聞いた私は待ち合わせ場所の体育館に向かうことにした。
【下級生A】
「あのっ、すみません…………今度は私と一枚写真を取ってもらえますか?」
【鷹志】
「わかりました一枚だけでいいんだね」
記念撮影をしたいという女子が想像していたよりも多いことに驚いた。
【女生徒E】
「わ、私もお願いします……」
【鷹志】
「わかりました」
こういうことは初めてだからどういうふうに振舞えばいいのか分からないけど変に気取らないでありのままの自分でいよう
【女生徒E】
「ありがとうございます!」
【女生徒F】
「良かったわね」
【女生徒E】
「うん!」
喜んでくれてみたいで本当によかった。写真を撮ってあげた女の子は友達の子と一緒に楽しそうだ。
【鷹志】
「楽しんでもらっておれも嬉しいよ」
誰かの笑顔を見ることってこんなにも楽しいことだったんだね。僕は改めてそう思いコンテスト最後の仕事をこなそうと気合を入れ直した。
【明日香】
「あれー? いないなあ」
体育館の前に着いたけど羽田くんはいない。
彼が時間に遅れて来るなんてありえないから何かあったのかも。
体育館の中を覗くとコンテストはもう終わったみたいで今は係の生徒たちが資材の片付けをやっている。
【明日香】
「あのすみません~美空学園プリンスコンテストってもう終わっちゃったんですか?」
【係員】
「えっ……? ああはい、もうコンテストは終わりましたよ」
係の子は時間を気にしながら私が聞いたことに答えてくれた。
忙しそうにしている人に声をかけちゃったのは悪いことしたかな。
【係員】
「今、優勝した人が別の会場で撮影会と握手会が行われているのでコンテストの結果が気になるのならそちらの方に行かれてはどうですか?」
【明日香】
「撮影会か~」
優勝したひとには興味はないけど羽田君を探す途中だし行かなくてもいいような気もするんだけど。
【明日香】
「電話かけるか」
携帯を出して羽田くんに電話をかける。
【明日香】
「ダメだ。繋がらない」
呼び出し音は鳴るけど出ない。っていうことはもしかしたら──―
──私は係の子に教えてもらった会場に向かうことにした。
【女生徒G】
「次は私にもお願いします」
【鷹志】
「はい」
僕は次々と撮影を終わらせていく。中にはポーズやセリフを準備している子とかもいる。
【女生徒C】
「少し休憩を入れますね」
握手と撮影会を立て続けにやっていたから少しだけ疲れが溜まってたから休ませてもらうのはありがたい。
僕は休憩室の椅子に横になる。
【鷹志】
「着信?」
【鷹志】
「もしもし」
【明日香】
「もしもし、羽田君。今どこにいるの?」
【鷹志】
「ああ渡来さん? ごめん。今ちょっと立て込んでてて……」
【明日香】
「学校の中にはいるんだよね」
【鷹志】
「うん。もう少ししたら終わるから学園の外で待っててくれるかな?」
【明日香】
「いいよ面倒だから今からそっちに行くね。で、どこにいるの?」
【鷹志】
「僕が今いる場所はね──」
【明日香】
「──やっぱりか」
どうやら羽田君は今コンテストで優勝した人がやっている撮影会場にいるみたい。
ってことは羽田君がコンテストで優勝したわけか。
体育館で”学園プリンセスコンテスト”の事を聞いていた。
コンテストは前もって一二年生の女子生徒の間での投票をやってその中から選ばれた一番のプリンス”ソラ学ナンバーワンプリンス”を決める。
私は少し早足で会場に急いだ。
【女生徒D】
「羽田さんしっかりと休めましたか?」
【鷹志】
「はい。もう大丈夫です」
十分に体と心を休めた僕はもう一度撮影会場に向かう。
【鷲介】
「押忍! アゲ一丁、ぬるっと行こう!」
千歳くんならきっとこういうふうにしてテンションを上げていくんだろう。
僕のキャラじゃないかもしれないけれど彼に倣ってみるのも悪くない気がする。
【鷹志】
「ぬるっと行こう!」
頬を叩いて気合を入れ直した。
【明日香】
「ここかー」
会場に着いて予想以上に賑わっているのがよくわかる。うちの学校はこういう行事にも力を入れるんだなあ。
さて、羽田くんはどこかな?
【女生徒H】
「ねえねえあれってプリンセスじゃない?」
【女生徒G】
「ほんとだーなんでプリンセスがここにいるんだろ」
【美咲】
「タマちゃんあれ見てよ!」
【日和子】
「なにどうしたのリンダ?」
【日和子】
「渡来先輩……? なんでここにいるんだろう」
【美咲】
「もしかしてプリンセスも羽田先輩のことを応援しに来たのかな?」
【日和子】
「違うと思うよ。なんかそういう雰囲気じゃないし」
【下級生A】
「あのー羽田先輩って彼女はいるんですか? あのあの! もしもいないのなら私と付き合ってください!」
【鷹志】
「ははは」
【明日香】
「おほほほ~ごめん遊ばせ」
【下級生A】
「なんなんですかアナタ? 今は私の番なんですけどっ!」
【明日香】
「ごめん遊ばせーうちの鷹志になにか御用かしら?」
【下級生A】
「えっ……?」
【明日香】
「あら、言ってる意味が分からないのですね。もう一度言いますね。私の鷹志さんに何か御用かしら?」
【下級生A】
「私のって……」
【明日香】
「うん、コンテストに来ている女の子たちには悪いですけど羽田鷹志さんは私とお付き合いしてますのよ」
【下級生B】
「プリンセスには恋人がいるって話は聞いてたけどそれがまさか羽田さんだったなんて」
【下級生A】
「いきなり出てきて何を言うんですか! 今はまだ撮影会の途中ですよ。邪魔しないでください」
【明日香】
「なら私も参加しますわ。鷹志さんそれでいいですわね」
【鷹志】
「ええ!?」
【明日香】
「おい、なんでそこで驚く」
【鷹志〕
「やだなあ。もちろん渡来さんも参加して大丈夫だよ、あ、でも順番があるからそれは守ってね」
今日の渡来さんはいつにもまして迫力がある僕は自体を丸く収めるために適当に答えてしまう。
【鷹志】
「渡来さんが参加しても大丈夫ですか?」
【女生徒C】
「すみません。参加できるのは投票権を持つ一二年生だけなんです」
【鷹志】
「そうなんだ。ごめんね渡来さんそういうことらしいから」
【明日香】
「私も急に参加したいなんて言って空気が読めなかったかも……ごめんなさい」
【明日香】
「それじゃあ終わるまで待ってるからね」
【鷹志】
「うん、ごめんね」
僕がそう言い終えると渡来さんは会場から外に出る。場にはなんとも言いがたい空気が漂っていた。
僕はこういう空気は苦手だ──
──そうグレタガルドに召喚される時にいつも感じていたグロリアスマテリアルに似ている。
【鷹志】
「(世界が平和でありますように)」
おじいさんから教わったおまじないで心を落ち着かせる。そうだ、こういう時は僕が頑張らないと。
【鷹志】
「それじゃあ続きをやりましょうか? 最後までコンテストを楽しんでくださいね」
僕は並んでいる女の子たちに笑顔を向ける。皆が悲しい顔をしているなら僕が笑って皆を笑顔にしよう。
そういう役目は千歳くんが得意だろう。今の僕には彼の積極性も備わっているんだ。自信を持とう。
【女生徒C】
「お疲れさまでしたー今日は本当にありがとうございました!」
【鷹志】
「こちらこそ。とても楽しい時間が過ごせたよありがとう」
コンサートの全てが終わり帰る支度をする。渡来さんが待ってるだろうから早く行ってあげたい。
【鷹志】
「おまたせ」
【明日香】
「もう全部終わったの?」
【鷹志】
「うん、もう全部終わったから大丈夫だよ」
【明日香】
「それじゃあ少し歩こうか」
【鷹志】
「そうだね。今日はなんだかすごく心地いいよ」
僕は渡来さんと一緒に歩く。
やっぱり彼女はとても素敵なひとだ。そして、この幸せな時間を過ごせる僕は本当に恵まれているなと改めてそう思えた。
【明日香】
「それにしても驚いたよー羽田君がプリンスに選ばれるなんてね」
【鷹志】
「僕もだよ。僕よりももっとかっこいひとはいたのにどういて自分が選ばれたのかよく分からないよ」
【明日香】
「自然体が良かったんじゃない? 変にかっこをつけなくてありのままの自分を出したから皆羽田君に投票したんじゃないかな」
【鷹志】
「ありのままの自分か」
【明日香】
「で、撮影会で他の女の子たちにどんなことを聞かれたの?」
渡来さんはいきなり低い声で僕に問い詰める。
【鷹志】
「そんな変なことは聞かれていないよ。趣味とか休日の過ごし方とかそういったこと」
【明日香】
「ふーん」
【鷹志】
「彼女がいるのかっていう質問には正直に答えようかどうか悩んだよ」
【明日香】
「なんで? 正直に彼女がいますって言えばよかったじゃん」
【鷹志】
「確かにそうなんだけど、そう言っちゃうと会話が終わっちゃうでしょ? せっかく僕と話すことを楽しみにしてくれているのに自分から会話を終わらせるようなことを言うのはどうかなって思ったんだ」
【明日香】
「正直あれだけ人気が出るとは思わなかった」
【明日香】
「まあ、ライバルがいくら増えようが負ける気はしないけどね」
【鷹志】
「大丈夫だよ。僕が一番好きなひとは渡来さんだけだから」
【明日香】
「いきなり恥ずかしいこと言わないで!」
渡来さんは唇を尖らせて俯いた。これは彼女なりの照れ隠し。その仕草もすごくグッとくる。
【鷹志】
「そういえば僕に用事があったんだよね?」
【明日香】
「ああそうだった」
【明日香】
「あのね、羽田君は卒業式の後時間あるかな?」
【鷹志】
「卒業式は確かお昼で終わりだったから、うん、大丈夫時間はあるよ」
【明日香】
「良かった。卒業式終わったらちょっと付き合ってほしいんだ」
【鷹志】
「そうなんだ。一度着替えてから渡来さんの用事に付き合うのはダメかな?」
【明日香】
「私は別にいいけど着替えて柳木原まで行くとなると時間かからない?」
【鷹志】
「渡来さんの用事は一日時間を使うことなの?」
【明日香】
「ううん、夕方だけだよ」
【鷹志】
「そっか、じゃあ一度帰って着替えてから待ち合わせするっていうのはどうかな」
【明日香】
「羽田君がそれでいいなら私は構わないよ」
【鷹志】
「うん、それじゃあ一度お互い帰って着替えて来るってことで。それに卒業証書を家に置いておきたいからね。荷物があると移動に困るし」
【明日香】
「そうだね」
【鷹志】
「近くまで手を繋いで帰ろうよ」
【明日香】
「うんいいよ」
僕らは指を絡める。手を繋ぐのはやっぱりまだ緊張する。
そして、隣には僕だけのプリンセスがいてくれる。
【鷹志】
「これからはいつだってこうして手を繋ぐことができるんだね」
【明日香】
「どうしたの急に」
【鷹志】
「ちょっと考えてたんだもしも渡来さんと恋人になれなかったらって」
【鷹志】
「多分だけど渡来さんがいなかったら僕はもうこの世界にはいなかったと思う」
自分の存在意義なんてないと思っていた。
グレタガルドの先代王“コンドル”の定めた次期王候補4人のうちの1人聖騎士ホーク・シアンブルーの≪転生≫した姿だということをずっと信じていた。
役目を終えたあと僕の魂はグレタガルドに還るだけだった。
だけど、それは僕自身が憧れていた都合のいい世界。
現実は楽しいことばかりじゃないってことを渡来さんが教えてくれた。
皆から気味悪がられていた僕の冒険譚も無駄じゃないと言ってくれた。
大切なのは向こうの世界から何を持ちかえるか。
何かを持ちかえればそれは逃避行じゃなくて探索。翼を捜す旅。
【鷹志】
「だから僕は本当に渡来さんには感謝しているんだ」
【明日香】
「私も羽田君だから好きになれた。人嫌いで外では仮面を付けていた自分が素のままでいられる存在、それが羽田君なの」
【鷹志】
「僕だってそうだよ。渡来さんと一緒にいると毎日がすごく楽しんだ、それは今までの僕だったら絶対に感じることはできなかったと思う」
【明日香】
「ひとつだけお願いしてもいい?」
【鷹志】
「なにかな?」
【明日香】
「羽田君消えたりしないでね」
【鷹志】
「それってもしかして……」
【明日香】
「私も自分なりに羽田君の病気のことを勉強してるんだ。治療が必要なことも長い期間かかって治していかなくちゃいけない病気だっていうこともわかってる。だから、私は病気を治した羽田君をおかえりって迎えてあげたいんだ」
【鷹志】
「昔優しかったおじいさんが教えてくれたことがあるんだ」
【牧師】
「いいかいタカシ君。君には誰にでも優しくすることができる心の強さがあるんだ、それを忘れてはいけないよ」
【明日香】
「大切なことをいっぱい教えてもらったんだね」
【鷹志】
「おじいさんには本当に感謝してもしきれないよ。もう一度会ってちゃんとお礼を言いたかった」
僕は空を見上げる。おじいさんはきっと天国でも毎日元気に過ごしていることだろう。
だから心配しないで僕たちは大丈夫。どうかそこで見守っていてください。
渡来さんと手を繋ぎ直す、これから先も彼女の為に生きてゆこう。
そしてこの大切な時間が一秒でも長く続きますように。
群青色の空を見上げて僕たちの囁かな幸せを静かに祈った。
お久しぶりです。ようやく10話が書き上がりました!
残り2話になりいよいよ本当のクライマックスが近づいています。
11話と最終話は普段よりも短めな話にしようかと思います。
最後までこの作品を読んでくださる皆さんに感謝です。
それでは次回をお楽しみに