【鷹志】
「やあ、また来てくれてありがとう。君と会うのはすごく久しぶりな気がするよ」
【鷹志】
「僕の事を覚えてくれていたら嬉しい」
【鷹志】
「これから君にまた、僕の物語を聞いてもらうことになるだろう。例え、幾年過ぎたとしても決して忘れることがない思い出」
【鷹志】
「大切な時間を大好きな人と過ごす事、前までの僕ならこんな幸せな時間が過ごせるなんて思いもしなかっただろう」
【鷹志】
「そんな大切な時間をくれた渡来さんに感謝をしたい」
【鷹志】
「今は毎日違った色を見せる彼女の表情に幸福と愛おしさを感じながら生きている」
【鷹志】
「彼女の見せる色に真っ白だった僕の世界の色は染まっていく。些細な幸せをお互い共有して同じ道をゆっくりとだけれど一緒に歩いている」
【鷹志】
「賑やかな朝を彼女と過ごし、穏やかな夜は囁かな会話を楽しむ。少しずつ変わっていく僕の日常」
【鷹志】
「その変化を感じながら、色褪せることのないように、忘れることのないようにしよう」
【鷹志】
「千歳くんと成田くん。そして伊丹くんも僕の大切な兄弟だ。皆の思いを胸に抱いて彼らの分まで生きてゆこう」
【鷹志】
「彼らからもらった色々な経験とたくさんの思い出。それも大事にしていきたい」
【鷹志】
「君には今までたくさんの物語を見てもらったと思う。その物語の一つ一つが僕にとってはかけがえのないものだとも言える――」
【鷹志】
「――だからこそ、君には遠慮なんかしないで語ろうと思う。最後まで付き合ってくれると嬉しい」
僕たちの世界は今日も平和だった。
そして、僕と彼女の囁かな日常はいつまでも続いているんだ。
Episode:Takashi
羽田鷹志 編
Chapter:Takashi Haneda
Wing of Hawk
2月の空はどこまでもくすんだ白が広がっていた。
僕はこの空が嫌いじゃない。何もかもを溶かしてくれる白い色。
この空を見ていると、どんな悩みも些細な事だと思えてしまう。そんな空を見上げて考える。
こんな些細な幸せがいつまでも続きますようにと。
【鷹志】
「おはよう渡来さん。昨日は夜遅くに電話してごめんね」
僕は渡来さんにあいさつをしてから二人で並んで歩く。
冬は本格的でまだまだ寒い時期が続いているのだけれど、こうやって渡来さんと一緒に登校できることをすごく嬉しく感じるんだ。
前までは一緒に学校に行くこともできなかったからね。
三年生は自宅学習の期間を迎えていて本当はもう学校に行かなくてもいいのだけれど、僕は最後の学生生活を楽しみたいと思って登校してる。
渡来さんもそれに付き合ってくれている──彼女はもう大学への推薦入学も決まっていて後は卒業を待つだけ。
とある事情があって早々と受験戦争から脱落してしまった僕は卒業までの間、少しでも長く彼女と一緒に時間を過ごしたいと考えるようになった。
【明日香】
「これすごく暖かいよ。ありがとうね! 羽田君」
渡来さんは僕がプレゼントした手袋とマフラーを使ってくれているみたいだ。
女の子の好きなブランドとかは知らないから買う前に小鳩に聞いておいて良かった。
小鳩にお店を教えてもらってこの間買いに行ってきたんだ。
【鷹志】
「気に入ってくれたみたいだね」
【鷹志】
「ごめんね。自宅学習期間なのに僕に付き合ってもらって」
【明日香】
「別に気にしなくてもいいよ。私も羽田君と一緒に過ごしたいと思ってたから」
【鷹志】
「昨日電話で話した事なんだけどね、学校を卒業してからにしようと思ってるんだ」
美空学園を卒業したら僕は本格的に病気の治療をする事に決めている。
卒業が近いから今は病院に入院する準備とかも始めていて毎日少しずつ必要な荷物をまとめている。
いつでも病院に入院できる準備は整ってるんだ。
病気の治療のために勉強も少しずつだけれど始めている。
少しでも勉強していた方が治療にスムーズに入っていけるからと思ったからだ。
そして、この病気を治すことは僕だけの願いじゃない。千歳くんや成田くんの願いでもある。
僕は千歳くんの顔を思い出した。
【鷲介】
「それじゃねタカシ君、また来世~」
最後まで笑顔だった千歳くん。彼の笑顔を思い出すとどこか懐かしい感覚を思い出すことができた。
千歳くんは消えたら自分の顔も忘れるって言ってたけど僕は決して忘れない。
人の顔を覚えるのは苦手だけど、大切な兄弟の顔だけは忘れちゃいけないと思うんだ。
そして話した事はないけれど僕の為に苦労をかけたかもしれない成田くん。
二人の大切な兄弟がいてくれたからこそ、今の僕がこうやって現実に向き合うことができたんだ。
僕がもっと早くにグレタガルドが偶像のものだって気がついて現実と向き合うことができていたら違った形で二人と会うことができたのかもしれない。
【鷹志】
「(二人共、本当にありがとう)」
僕は心の中で大切な二人の兄弟にありがとうってお礼を言った。
渡来さんと離れ離れになるのは寂しいけど一生の別れでもないし空はどこまでも繋がってるんだから会おうと思えばいつだって会える。
【明日香】
「そういえばさ羽田君、今日は暇?」
【鷹志】
「特に予定はないけど……」
【明日香】
「そうなんだ。それじゃあ放課後どこか寄ってかない?」
学校終わりに渡来さんとどこかに行くのは日課になってる。
いつもは僕の方から渡来さんを誘うけれど、彼女の方から誘ってくるのは久しぶりだ。
【鷹志】
「うん、いいよどこに行こうか?」
【明日香】
「もう行く場所は決めてるんだ──」
【明日香】
「──ところでさ羽田君はバレンタインのお返しはどうするの?」
渡来さんは唐突に尋ねてきた。
今年のバレンタインは去年よりもたくさんのチョコレートを貰った。
女の子からチョコレートを貰う事なんて殆どなかったから少し嬉しかったけど、貰った。
チョコレートは全部渡来さんが食べちゃったからお返しはどうするか考えていなかった。
そういえば下級生からも少し貰ったんだっけ。お返しをするのが大変だなあ。何にしよう?
【鷹志】
「そうだね、せっかく貰ったんだからお返しはちゃんとしないとね。ねえ、渡来さん、お返しって何がいいと思う?」
こういうのは女の子に聞くのが一番だと思う。僕の考えよりも渡来さんの方がいいからね。
【明日香】
「知らない」
【鷹志】
「あっ、待ってよ! 渡来さん」
すたすたと歩き始める渡来さんを僕は息を切らしながら走って追いかけた。
歩いているだけなのにすごく早い。
【鷹志】
「渡来さん歩くの早すぎだよ……」
【明日香】
「うーん? このまま羽田君を置いて一人で学校行くつもりだったからねー」
【鷹志】
「ええ!? どうしてそんなことするの……」
【明日香】
「君はねー自分の胸に手を当てて聞いてごらんよ」
自分の胸に手を当ててみる、心臓のトクんと言う鼓動が聞こえる。
この音が渡来さんの言うことに何か関係あるのかな?
【明日香】
「羽田くんはさ、彼女よりも他の子から貰ったチョコお返しの方が大事なの?」
【鷹志】
「えっ? でも、お返しはしなくちゃいけないでしょ」
【鷹志】
「それに渡来さんだってお返しどうするのって聞いてたじゃない」
【明日香】
「そうかもしれないけど、彼女よりも大切なのかって聞いてるの!」
【鷹志】
「そんなことないよ。僕は渡来さんが一番大切だよ」
【明日香】
「だったらいいよね?」
【鷹志】
「うーん、でも、それだと貰った人にも悪い気がするけどなあ」
【明日香】
「羽田君、さっき私のことが一番大切だって言ったよね?」
渡来さんは笑顔を崩さずに僕に顔を近づけてきた。その迫力に圧倒されて何も言えなくなった。
【明日香】
「まあ、今回は許してあげる」
渡来さんはすごく綺麗な顔を見せてくれた。
その優しい笑顔に見とれてしまったのは彼女には内緒にしておこう。
【鷹志】
「はは、ありがとう」
【明日香】
「羽田君はもっと彼氏としての自覚を持ってだねー」
人差し指を立てて僕に言う渡来さん。それなりに自覚はあると思うんだけどなあ。
【明日香】
「寒いから羽田君に温めてもらおうっと」
渡来さんは寒そうに腕を絡めてくる。いきなりだから少しドキッとした。
【鷹志】
「うん、僕も同じこと考えてたよ」
手を繋いだり腕を組んだりするのは未だに照れくさい。
付き合ってから結構な時間が経つのに未だに慣れないや。
【明日香】
「羽田君。暖かい」
布越しにだけど僕も渡来さんの温もりを感じることができた。
【明日香】
「時間もまだあるし、少しだけどこかに寄って行こうか?」
僕たちは学校の近くに新しくできたコンビニに寄ることにした。
渡来さんに何か暖かいものでも買ってあげよう。僕はカバンの中に入れている財布を出して中を確認する。
うん、これなら大丈夫そうだ。
今月は無駄遣いはしなかったし、千歳くんの代わりとしてアレキサンダーで少しだけアルバイトさせてもらったからお金には余裕はある。
僕は渡来さんと一緒にコンビニに入った。
【鷹志】
「何にしよう渡来さんは決まった」
【明日香】
「そうだね~これにしようかな」
渡来さんは棚に並べられた商品をじっくりと見ながら何を買うのかを決めていた。
ただ商品を選んでいるだけなのにやっぱり渡来さんってすごく綺麗だなあ。
渡来さんに見とれてないで僕も選ばないと、慌てて視線を商品棚に移す。
最近は学園の食堂でお昼を食べているからコンビニで何かを買うっていうのは久しぶりだなあ。
【明日香】
「早く選ばないと遅刻しちゃうよね」
【鷹志】
「そうだね」
渡来さんは新商品のパンと野菜ジュースを手に取る。
女の子は低カロリーな食事がいいってテレビのアナウンサーも言ってた気がする、渡来さんらしいや。
【明日香】
「じゃあ、行こう。あまり遅くなると遅刻しちゃうし」
【鷹志】
「うん。そうだね」
僕も新発売のパンと飲みものを取ってレジに向かう。
レジの横にあるケースの中に暖かい飲み物が入っている。
そうだ、渡来さんに買ってあげよう。
ケースからお茶のペットボトルを取り出してカゴに入れる。
【鷹志】
「お金は僕が払うから」
【明日香】
「えっ……? いいの」
【鷹志】
「うん。渡来さんに暖かい飲み物を買ってあげるよ」
【明日香】
「ありがと。羽田君」
彼女の笑顔を見るとすごく優しい気持ちになることができる。
僕たちはコンビニを後にして学校へと向かった。
外は二月の寒さを感じることができる冷たい風が吹きすさんでいた。
通学路を歩いてるクラスメートとお互いに挨拶を交わす。こういうのはすごく気持ちが
いい。
前の僕なら挨拶すらされずにいただろうから。
千歳くんたちと統合してからの僕は現実に向き合って生きていこうと思えるようになった。
それは渡来さんのおかげでもある、僕はこれからも彼女の為に生きていこう。
【鷹志】
「そういえば、昨日テレビで見たんだけどさ、最近、柳木原に新しいお店ができたみたいだよ」
【明日香】
「ふーん、そうなんだ」
今日は身近な話題にしてみたんだけど、渡来さんは興味が無いみたいだ。
いつも似たような話題しか言えない自分が情けない、渡来さんにはいつも笑顔でいてほしいからもっと頑張らないと。
誰かと会話するのって本当に難しい。
相手の事を考えて話題を作っても、空回りすることも多い。僕の場合ほとんどだけれど……
渡来さんを楽しませるような会話はできているんだろうか?
彼氏なのに彼女を退屈させてるようじゃダメだよね。
【明日香】
「羽田君どうしたの? なんか元気ないね」
【鷹志】
「えっ……? ああ、気にしないで、ちょっと考え事してただけだから」
【明日香】
「羽田君って時々私に何も言わないで色々考えてる事があるよね」
【鷹志】
「そうかなあ。そんなことはないと思うけど」
【明日香】
「そうだよ。何でもってわけじゃないけど、少しは私にも教えてほしいな。私だって羽田君の考えてる事知りたいんだよ?」
【鷹志】
「そっか、心配かけちゃったかな? ごめんね」
【明日香】
「彼女が彼氏を心配するのは当然だよ」
【鷹志】
「ほら僕、彼氏らしい事とかあんまりできてないから」
【明日香】
「そんなことないよ。いつも頑張ってくれてるとことかが好きだから」
【明日香】
「いつもありがとね! 羽田君」
【鷹志】
「うん」
ありがとうって本当にいい言葉だなあ。
誰かにありがとうって言ってもらえるとすごくいい気持ちになれるし、心を暖かくさせてくれる言葉だね。
【鷹志】
「こちらこそ。いつも本当にありがとう」
僕も渡来さんにお礼を言う。お互いに清々しい気持ちになることができた。
最近じゃ些細なことにも関心を持てるようになってきた。
いい傾向かもしれない、続けていかなくちゃ。
何気ない日常。それがすごく大切に感じる。
こうやって大好きな人と一緒に過ごして新しい毎日を見ることが一番の幸せなのかもしれない。
それは幸福なことじゃないかな?
そんな事を考えながら空を見上げる。晴れた空は今日も変わりない白だった。
学校に着いてから渡来さんは友達と会ってくると言って先に行ってしまった。
そういえば、最近一緒に教室に行くことが少ない。
渡来さんにも用事があるんだから僕が無理に引き止めちゃ悪い気がする。
でも、少し寂しいなあ。
僕は渡来さんと一緒に教室に行った回数を数える。
恋人だっていつも一緒にいるってわけじゃないし、僕たちだってついこの間までは恋人ごっこをしてた仲だったわけで、まだまだお互いの分からないことも多いのかもしれない。
僕は空気が読めないって言われることが多いから気を付けないと。
3-Aの教室の前には針生さんが二年生の女子と何かを話しているようだった。
【鷹志】
「おはようございます。針生さん」
【蔵人】
「あァ? ああ、羽田か」
針生さんはメガネのブリッジに指をかけて表情変えずに言う。
【鷹志】
「何かあったんですか?」
状況が理解できてない僕は針生さんに聞いてみることにした。
【蔵人】
「いや、このイージーガールズ達がちょっとな」
二年生の子たちは僕が針生さんに挨拶をすると、少しだけ申し訳なさそうな表情をする。
【鷹志】
「おれのことは気にせず話を続けていいよ」
【女子E】
「えっ……? すみません」
何度も頭を下げる女の子。そんなに頭を下げられるとこっちの方が申し訳なってくる。
【蔵人】
「いや、もう話は終わったよ」
針生さんはペットボトルの水を一気に飲み干してゴミ箱に投げ入れた。
【蔵人】
「俺はそういうのには興味ねェから。他を当たってくれ」
針生さんは女の子たちにそう答えると教室に入る。
僕もそれに釣られて教室に入る。針生さん一体なんの話をしてたんだろうか?
昼休みにでも聞いてみようかな。
今の時期は自由登校だから教室には数人の生徒しかいなかった。
針生さんも本当なら登校しなくてもいいのだけれど僕の最後の学校生活に付き合ってく
れている。
針生さんは本当にロックでかっこいい人だ。
渡来さんとの用事が無い時は二人で学術的好奇心を探求する為に色々な場所に出かける。
この間も二人で柳木原の街を詮索して色々な物を見て回った。その事も大切な思い出でもある。
十人程度のクラスメートが登校してきて席に座る。担任の恩田先生が来たから委員長して号令をかける。
昼休みになった。朝にコンビニで買ったパンを食べながら針生さんの席を見る。
席に人影はない。
針生さんは二時間目の授業が始まる前にはもういなかったっけ、彼がいないのは珍しいことじゃないけれど今日は聞きたいことがあったのになあ。
そんな事を考えながらパンを食べる。美味しいなあ、コンビニのパンなのに美味しく感じた。
こうやって一人でお昼を食べるのはいつ振りだろうか?
最近じゃ渡来さんといつも一緒だったし、たまに針生さんと話しながら食べたりする事もあったけど、一人で食べるのは本当に久しぶりだ。
前は一人で食べるのが当たり前だったのに。
【蔵人】
「羽田」
【鷹志】
「わっ! 針生さん!?」
急に針生さんに声をかけられた。いきなりだったから後ろに倒れそうになったけど、何とか持ち直して体を起こす。
【鷹志】
「どうしたんですか針生さん。おれに何か用ですか?」
【蔵人】
「用がないなら声かけないでしょ。今、いいか?」
【鷹志】
「丁度おれも針生さんに聞きたい事があったんです」
針生さんは僕の前の席に座って手に持ってるペットボトルの水を飲み始める。
【鷹志】
「そういえば今朝は一体何の話をしてんたんですか?」
先に聞いてみることにした。針生さんは視線を窓の外に向ける。
【蔵人】
「別に特別な用ってわけじゃねえんだけどなァ、ちょっと頼まれ事されただけさ」
【鷹志】
「頼まれ事ですか?」
【蔵人】
「今度学園が三年最後の思い出作り為に何やらイベントをやるみたいなんだが、俺はそのイベントへの参加を頼まれてなァ」
【鷹志】
「そうだったんですか」
この時期に何をやるんだろうか? 三年生は卒業を控えてるから長期的な行事には参加できないんじゃないかな。
【鷹志】
「でも、どうして針生さんに頼みに来たんでしょうか?」
【蔵人】
「さあな」
針生さんは水を飲み干して何か考えてるみたいだ。言葉が出るまで僕は黙って待とう。
しばらく沈黙が続いたけれど針生さんは何か思いついたみたいで口元を少しだけ釣り上げた。
【蔵人】
「羽田、お前出てみないか?」
【鷹志】
「えっ……? どうしてですか?」
【蔵人】
「だから、俺が頼まれたイベントにお前が出ればいいって話しさ」
【鷹志】
「おれがですか……でも、針生さんがお願いされたんですよね?」
針生さんは僕を指名してきた。
針生さんが頼まれたのに僕が出ても何も意味はないと思うけど……
【鷹志】
「お、おれが出ても意味ないって思いますけど」
【蔵人】
「俺はそうは思わないけどなァ、お前だって最後くらい思い出は作りたいでしょ?」
確かに学校生活でこれといった思い出が少ない。
こっちの世界で生きていく事なんて決めていなかったし、自分は消えるだけの存在だと思っていた。
三年間も過ごしたこの学校で楽しかった思い出を聞かれれば答えるのに悩んでしまう。
針生さんの言うことも最もだと感じた。最後くらい思い出を作りたいと思った。
今まで意欲的に学校の行事に参加ことはなかったからいい機会かもしれない。
【蔵人】
「ま、お前が嫌ってのなら別にいいんだけどなァ」
【鷹志】
「いえ、針生さん。おれ出ます。針生さんの言う通りでおれも学校生活で最後くらい思い出を作っておかなくちゃいけないと思いました」
【蔵人】
「まあ、お前がそういうんならいいんじゃないか。俺は初めから出る気なんてなかったしなァ」
【鷹志】
「それじゃあ、今朝来てた二年の子達にはおれが出るようになったって伝えておきますね」
【蔵人】
「あァ、頼む」
【鷹志】
「そういえば、針生さん。『妹は異世界人』はプレイしましたか? おれはもうクリアしたんですが、あれは妹萌えの新しい可能性に挑戦した作品なんです!」
僕はこの間買ったギャルゲーの話をすることにした。
前に話をした時に針生さんも興味を持ってくれてたし、プレイした感想くらいは言っておこう。
なかなか面白いゲームだったから。
【蔵人】
「いや、まだだ」
【鷹志】
「それと、この間ゲームショップで見つけたゲームもすごく面白かったので針生さんにもやってほしいです」
この間行きつけのゲームショップのフェアで買ったゲームを針生さんに勧めた。
針生さんならきっとあのゲームの良さが分かってくれるはずだ。
【蔵人】
「相変わらずギャルゲーって言うのは本当に奥深いよなァ」
【鷹志】
「そうですね。針生さん、もし良かったなんですけど今度一緒にゲームショップに行きませんか? おれも針生さんにオススメしたいゲームがまだまだあるんです」
【蔵人】
「そいつァロックだな。そうだな今週の日曜にでもどうだ?」
【鷹志】
「日曜ですね。分かりました。じゃあ、今度の日曜日に」
今週の休みに針生さんとゲームショップに行く約束をする。
趣味の少ない僕にとってゲームは気楽に楽しめる趣味でもある。
誰かと一緒にゲームショップに行くのなんて久しぶりだなあ。
前に渡来さんと一緒に行ったことがあるのだけど、あの時は自分のゲーム好きを隠していたし針生さんとゲーム買うことなんて今までに一度も無かったから何だか新鮮だ。
針生さんとギャルゲー話をしているうちに昼休みはあっという間に終わった。
放課後になった。僕は渡来さんと一緒に出かける約束をしてたのを思い出す。
渡来さんと出かけるのはすごく楽しい。僕は帰り支度を整えて席を立った。
【明日香】
「じゃあ、羽田くん。行こうか」
【鷹志】
「うん」
渡来さんと一緒に教室から出る。学校からしばらく離れた場所を歩いていると渡来さんが僕の傍に寄ってきた。
【鷹志】
「ん、どうしたの? 渡来さん」
彼女は恥ずかしそうに手を出している。あっ、そうか!
普段から空気を読めないって言われる僕だけど渡来さんが何をしてほしいのかはすぐに分かった。
僕は彼女の手を取る。渡来さんの手は少し冷たかった。僕は強く手を握って温めてあげようと思った。
渡来さんの温もりを感じることができた。
すごくいい匂いもするし、僕は心臓の鼓動を渡来さんに聞かれてないか心配になった。
【明日香】
「羽田君、何か変なこと考えてるでしょ?」
【鷹志】
「そ、そんな事考えてないよ……」
渡来さんに図星をつかれてちょっと焦ったというのは秘密にしておこうかな。
柳木原に着いた。学校が終わった後に柳木原に来るのも最近は多くなった。
最近では森里君のお見舞いでよく来る事が殆どだったけど。他にも渡来さんと一緒に色んな店を見て回ったりもした。
針生さんと映画を見に行ったこともあったなあ。
柳木原は以前千歳君や成田君だった僕がアルバイトしていた場所でもある。
僕もたまにだけど二人が働いていたアルバイトして先に顔を出して働かせてもらうことがある。
受験を理由に全部休ませてもらっているけどお金が厳しくなった時は働かせてもらっている。
【鷹志】
「ん? あの車は」
道に停まっているピンクのミニバン。春日さんのクレープ屋さん、パルクレープの車だ。
今日は随分と早い時間に営業しているんだなあ。
いつもは夜の時間帯にしかお店に行くことがないから夕方に営業しているなんて珍しいなと思った。
よし、渡来さんにクレープでもご馳走してあげよう。
【鷹志】
「ちょっとクレープを買ってくるね渡来さんは何がいい?」
【明日香】
「甘いのなら何でもいいよ」
【鷹志】
「うん。じゃあ買ってくるよ」
【鷹志】
「こんにちは! 春日さん」
【春恵】
「ああ、ドラじゃないかい! 今日はどうしたんだい?」
お店から身を乗り出して僕の挨拶に答えてくれる春日さん。
春日さんは成田君がお世話になっていた人で、この店パルクレープの店長でもある。
成田君たちと統合してからは僕も柳木原で見かけた時は寄らせてもらっている。
ここのクレープは独特な味のが多いけれどすごく美味しい。
【鷹志】
「ちょっと通りがかっただけなんですけど丁度いいからクレープを買いに来たんですがオススメはありますか?」
【春恵】
「おっ、彼女連れかい! アンタも隅に置けないねーよしきた! 今日はサービスするよ」
少し離れたところで待っている渡来さんの事を見て言う春日さん。
最初僕と渡来さんが付き合っている事を説明しても中々信じてもらえなかった。
柳木原の人たちにはやっぱり成田君のイメージが強いみたいだ。僕は彼みたいに振舞うことはできないけれど、少しずつこの街の雰囲気にも慣れてきたところだ。
【鷹志】
「──そんな悪いですよ。おれ、ちゃんとお金払いますから」
僕は二人分のクレープ代を払おうとポケットから財布を出そうとしたけれど春日さんは手を前に出して断る。
【春恵】
「遠慮なんかするもんじゃないよ。彼女さんもいるんだし久しぶりにドラが来たからね。また寄ってくれるかい?」
【鷹志】
「はい」
【春恵】
「これ新発売なんだ! 持って行きな」
春日さんは新発売だと言うクレープを手早く二人分焼いてくれた。
【春恵】
「じゃあ、ドラ頑張るんだよ!」
【鷹志】
「はい!」
僕は春日さんに頭を下げてパルクレープを後にした。
僕はクレープをもらって渡来さんに渡す。
新発売って言ってたけど何味なんだろうか? 自分のクレープと渡来さんのクレープを見
比べてみる。
見た目は同じに見えるけど味が違うのかもしれない、後で渡来さんのを少しだけ分けてもらおう。
美味しいなあ。クレープを食べるとフルーツの味が口の中いっぱいに広がってきた。
チョコレートのクリームに包まれたフルーツがすごく美味しい。
普段甘いものはあまり食べないけどこのクレープならいつも食べていたいと思える。
【明日香】
「羽田君、口にクリーム付いてるよ」
【鷹志】
「えっ?」
【明日香】
「何だか羽田君、子どもみたいだね」
【鷹志】
「そんなことないよ……。このクレープすごく美味しいんだ」
恥ずかしいから全力で否定してはみたけれど渡来さんに見られちゃってるしすごくカッコ悪い。
【鷹志】
「カッコ悪いとこ見せちゃったかな?」
【明日香】
「そんなことないよ。逆に羽田君にも子どもっぽい一面があるんだなあって発見があったしね」
【明日香】
「こういうのを見れるのは私だけだからね」
渡来さんは嬉しそうな表情をした。僕は彼女のこういう表情がすごく好きだ。
この大好きな笑顔をこれからも守っていこう。
モンキホーテの前を通る。そういえば最近はここの地下1Fのエビ塩とんこつラーメンを食べてないや。
そうだ、今日はまだ時間があるから寄っていこう。渡来さんにも食べてほしいからね。
【鷹志】
「ねえ、渡来さんちょっとモンキホーテに寄っていかない? ここの地下1Fのエビ塩とんこつラーメンが美味しいんだ。だから渡来さんにも食べてもらいたくてね」
【明日香】
「ふーん、そうなんだ」
【鷹志】
「渡来さんにも食べてほしいなあ。どう?」
【明日香】
「羽田君がオススメするんだったら食べてみようかな」
【鷹志】
「うん、じゃあ寄っていこうよ」
僕たちはモンキホーテに入る。前に針生さんと二人で電気製品を見たんだっけ。
あの時は針生さんの用事に付き合う形でここに来た。
その事を渡来さんに話したらなんだかすごく機嫌が悪かったのは覚えてる。
針生さんとは前に約束してたから渡来さんが怒ることでもないと思うんだけどなあ。別に女の子と一緒に行った訳でもないのに。
【明日香】
「美味しいねー羽田君が勧める理由も分かる気がするよ」
うん、やっぱりここのエビ塩とんこつラーメンは美味しい。
何度食べても飽きがこないし、渡来さんも喜んでくれてるみたいだ。
連れて来て良かった。僕たちは二人分の会計を済ませて店を出る。
【鷹志】
「あれは?」
蛎崎うに、新シングル発売!!
店を出ると大きなディスプレイに映し出された文字を見る。
そうかあ、蛎崎うにの新しいCDが発売されるんだっけ。
この間アルバムが発売されてたけどもう新しいCDが出るんだ。人気の歌手は大変だなあ。
僕はディスプレイを見ながらそんな事を考えてた。
そういえば小鳩がこのCDが欲しいって言ってたような気がする。
まだ時間もあるし買ってあげよう。思えば今まで小鳩にはちゃんとしたプレゼントは送れてなかったし。
【鷹志】
「渡来さん、ちょっとCDショップに寄ってもいいかな?」
【明日香】
「えっ……何で?」
【鷹志】
「ちょっと買いたいCDがあってね」
【明日香】
「いいよ。私も気になる曲あるし」
【鷹志】
「ありがとう」
渡来さんの優しさに感謝する、僕の彼女はとても素敵な人なんだ。
僕たちは近くのCDショップに寄ることにした。
この店は品揃えも良いから結構気に入っている。
店に入ると入口の所に大きな看板で蛎崎うにのコーナーが紹介されていた。
店の中にも大きなポスターが貼られている。
僕はコーナーに行き、CDを手に取る。良かった、売り切れてなくて。
【明日香】
「羽田君、蛎崎うに好きなんだ」
【鷹志】
「えっ……? うん、まあ、普通かな」
【鷹志】
「僕じゃなくて小鳩がこのCDが欲しいって言ってたんだ」
【明日香】
「そうなんだ。羽田君妹思いなんだねー」
【鷹志】
「そうかなあ? 小鳩には今までちゃんとした贈り物が贈れていなかったからね。いい機会だと思うんだけどなあ」
CDショップを出た僕達は色んな店を回った。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
【明日香】
「じゃあね、ここでいいよ」
渡来さんを家まで送り届ける。夜に女の子をひとりで帰すわけにはいかない。
夜道は危ないし渡来さんに何かあったら大変だからね。
【鷹志】
「うん。それじゃあ渡来さん、また明日」
【明日香】
「おやすみ。羽田君また明日ね」
【鷹志】
「おやすみ」
渡来さんに手を振って別れる。帰ったらメールしよう。話したい事はまだあるしね。
僕は渡来さんを家まで送り届けて家路に着く、小鳩喜んでくれるといいなあ
手にぶら下げた袋から見えるCDを見てそんなことを思う。
ふと夜の空を見上げる。星が綺麗に輝いてるけど街の明るさに霞んで見える。
空を見上げないと見ることはできない星の輝き、この空は嫌いじゃない。
今日は静かな群青色の空を見て考えた。
【鷹志】
「ただいま」
玄関の電気は消えていたけど小鳩はいるみたいだ。
小鳩の部屋からは流行りの音楽が聞こえてくる。
僕が帰ってきたのを気づいたのかスリッパの音が聞こえる。
【小鳩】
「お兄ちゃん。おかえり」
【鷹志】
「ただいま。これ、小鳩に」
僕は買ったCDの入った袋を小鳩に渡す。
【小鳩】
「え、これなに?」
小鳩は手に持っている袋の中からCDを出す。
【小鳩】
「これ、どうしたの?」
【鷹志】
「今日渡来さんと一緒に寄り道した時に買ったんだ。小鳩、この前蛎崎うにのCDが欲しいって言ってたでしょ?」
【小鳩】
「ありがとう! タカシお兄ちゃん」
【鷹志】
「良かったね」
【小鳩】
「うん!」
小鳩の嬉しそうな顔を見れて良かった。
【鷹志】
「(いつも本当にありがとう。小鳩)」
僕は小さい声で大切な妹にお礼を言った。
【鷹志】
「ふう」
お風呂から上がって濡れた髪を乾かす。まだまだ寒い時期が続いているからきちんと乾かさないと風邪を引いちゃうかしれない。
椅子に座ってさっき淹れて来たココアを飲む。
そういえば針生さんの代わりに出ることになった行事って何だろうか?
明日時間があれば聞いておこう。
【鷹志】
「あっ、そうだ渡来さんにメールしないと」
携帯を手に取ったけどメールのタイトルを何にするかで悩んだ。
数分悩んで結局無題でメールを送る。送信完了の文字を確認して携帯を置く。
目を閉じて今日あった色々な事を考えているとメールの着信音が聞こえる。
もう返事が来た。携帯で差出人を確認する。
渡来さんだ。彼女からのメールはすごく嬉しい。頬を緩めながらメールを開いた。
『今日は楽しかったね。ていうかさ羽田君。昼休み先輩と何の話をしてたの?』
『ああ、何か針生さんが学校の行事に出てほしいって頼まれたみたいなんだけど。針生さんは出ないから代わりに僕が出ないかって頼まれたんだ』
『それで羽田君は先輩の代わりに出ることにしたと』
『えっ、どうして分かったの?』
『明日香さんは彼氏の事はなんでもお見通しなのだよ』
『いい思い出になるんじゃないかと思うんだ。でも、何の行事なのかは知らないから明日にでも聞いておこうかな』
僕は寝るまでの間渡来さんとメールをする。最近は電話で話すことが多かったからこうやってメールするのも悪くない。
『ごめん。今日はもう疲れたから寝るね。おやすみ羽田君』
『おやすみ、渡来さん』
メールを送信して携帯を枕元に置いた。眠たいけどまだ寝るには早い時間だ。
何をしようか?
布団から出て机に向かう。パソコンの電源を入れてサイトを巡回する。
パソコンは起動音を立ててお気に入りのデスクトップが表示される。
新しいパソコンも買いたいなあ。今度柳木原に行った時にでもお店を見て回ろう。
千歳くんたちが貯めてくれたお金を使うおうかなあ。
激白──引き出しの預金通帳を見ながら。
【鷹志】
「そういえばこの間、掲示板でゲームの攻略法について話してたんだっけ。取り敢えず掲示板に顔くらいは出しておこう」
ゲームの掲示板を覗くと僕が聞いた質問に丁寧にレスをしてくれてる人がいる。
僕もその人のレスに返信をしておいた。
書き込みが完了しました。
その文字を見て一息をつく。
それからはいつも見ているゲームの攻略サイト、話題の小説を紹介してるネットのページ、ネットのニュースをまとめているサイトを見る。
【鷹志】
「うん、これくらいかな。サイトとかも全部見たし」
寝るのが遅くなるのはよくない。前は寝不足で怒られることもあったけど、最近は早く寝るように心がけてるから寝不足になることが少ない。
パソコンの電源を切って布団に入る。
目覚ましのアラームの設定も忘れないようにしないと。
今日も色んなことがあったなあ。渡来さんと色んなところに行ったんだっけ。
明日もまた二人でどこかに出かけるんだろう。渡来さんと一緒ならどこに行っても楽しい。
もう遅い時間だし、寝よう。部屋の電気を消す。目を閉じて睡魔に抗うことなく身を任せた。
【鷹志】
「ん」
枕元にある目覚ましのアラーム音で目を覚ます。
まだ眠り足りない体を起こして布団から出る。最近は目覚めがいいや。
カーテンを開けて朝の日差しを部屋の中に入れる。今日の空はいつもと変わらない白だった。
もうすぐ朝食の準備ができる頃だろう。小鳩が起こしに来るかもしれないから着替えておこう。
【小鳩】
「……お、お兄ちゃん、朝だよ」
控えめなノックが聞こえた。もう小鳩が起こしに来ちゃったかな。
いつもよりも早く起きたのに妹に起こしに来てもらうなんて兄として情けないや。
【鷹志】
「今行くよ」
布団を上げて部屋を出る。今日も羽田家の一日が始まるんだ。
朝の食卓にはいつもより多めの朝ごはんと飲み物が並べられていた。
パン食の僕は最近ではご飯も食べるようになったから食べる量を増やした。
小鳩は朝の情報番組を見ながら朝食を食べている。そんな妹の姿をすごく微笑ましく感じた。
朝はいつも小鳩と会話をするようにしている。今まではお互いにどこかすれ違っていた。
家族ごっこをしていた僕たち……でも、今は少しでも本当の兄弟に近づけているんじゃないだろうか?
だからこそ、この毎日の会話を大事にしようと思えるんだ。
【小鳩】
「あのっ……お兄ちゃん」
【鷹志】
「どうかした? 小鳩」
【小鳩】
「えっと、昨日はCDどもありがと」
【鷹志】
「どうしたしまして。うん、喜んでもらえたみたいだね。良かった」
昨日買ったCDを小鳩は気に入ってくれたみたいだ。
最近小鳩にはちゃんとしたものを贈れてなかったからいいきっかけになった。
誕生日の時以来の久しぶりのプレゼントだからね。僕は座布団に座って朝食のパンを食べる。
テレビにはいつも見ている情報番組が映っていてレポーターの足立アナが柳木原に新しくできたお店を紹介していた。
【局アナ】
「見てくださいあら、なんて素敵なんでしょうお店の料理。こんな美味しいものをご馳走されちゃったら、女性はみんなクラッときちゃいますよねー」
【小鳩】
「この人、今日も同じこと言ってる」
【鷹志】
「そうだね。でも、足立アナって意外とファンが多いみたいだよ」
【小鳩】
「そうなんだ……あっ、確か吉川さんのお父さんも好きだって聞いたよ」
【鷹志】
「へぇー」
【鷹志】
「小鳩もいつだって友達を家に呼んでもいいんだよ。おれも小鳩の友達に会ってみたいからね」
【小鳩】
「うん! 吉川さんも家に来るとすごく楽しそうにしてるよ。お兄ちゃんがいて羨ましいっていつも言ってる」
【鷹志】
「ははは、小鳩のお兄さんとしてもっと頑張らないと」
【小鳩】
「もっと精進するように」
楽しいなあ。こうやって小鳩と会話するのがすごく嬉しく感じる。
小鳩は僕の病気のせいで今まで友達と遊んだりする約束すらできないでいた。
でも、最近ではクラスの友達を家に連れてきて仲良さそうにしているのを見かけることもある。
病気のせいで小鳩にすごく迷惑をかけていたんだなって改めて感じて申し訳なくなった。
これからは小鳩が少しでも笑顔でいてくれるように頑張らないと。
【鷹志】
「それじゃあ行ってきます」
【小鳩】
「うん、行ってらっしゃい! タカシお兄ちゃん」
家を出て渡来さんと待ち合わせしてる場所まで歩く。
【鷹志】
「寒いなあ」
外の寒さは本格的でいつもよりも厚着をしてきたのに寒く感じる。
制服の上にコートを着込んでいるけどそれだけじゃこの寒さは防げない、こういう日はどこか暖かい場所でココアでも飲みながらゆっくりしたいなあ。
渡来さんとの待ち合わせ場所に着いて時間を確認する。
うん、今日は早めに着いたみたいだ。いつも僕がここに来た時は渡来さんは先に来てるから待てせなくてすみそうだ。
【明日香】
「ごめん遅れちゃって。待った?」
【鷹志】
「ううん、僕も今さっき着いたばかりだから」
【明日香】
「そう? なら良かった」
僕たちは並んで通学路を歩く。こうやって渡来さんと一緒に登校できるのもあとどれくらいだろう。
卒業したら病院で治療することが決まってるから柳木原を離れないといけない。
こうやって渡来さんと過ごせる時間も限られてくる。
【明日香】
「今日も寒いね……」
【鷹志】
「そうだね、渡来さんは寒いのは平気?」
【明日香】
「うーん、あんまり得意じゃないかも」
【鷹志】
「そうなんだ。僕も苦手かな……」
【明日香】
「ねえ羽田君、今度の日曜だけど予定空いてる?」
【鷹志】
「日曜? 日曜は針生さんと約束をしてるよ」
【明日香】
「先輩と? なにそれ、私聞いてない」
【鷹志】
「言ってないからね。でも、どうして?」
【明日香】
「日曜日に買い物に付き合ってほしいなって思って」
【鷹志】
「買い物? ああ、そうか荷物持ちは必要だもんね。うん。針生さんとの約束が終わったら渡来さんの買い物に付き合うよ」
【明日香】
「できれば日曜は一日中付き合ってほしいんだけど」
【鷹志】
「うーん……僕もそうしたいけど針生さんとの約束もあるからなあ」
【明日香】
「羽田君は私と先輩どっちが大事なの?」
【鷹志】
「それは渡来さんだけど」
【明日香】
「じゃあ私の用事に付き合って!」
渡来さんに強くお願いされたら断れない。針生さんには予定を土曜日に変えてもらおう。
日曜は渡来さんと過ごす時間に当てよう。
うん、それがいい。
僕はいつだって渡来さんと過ごす時間を大切に考えてるんだ。
今までず一緒に過ごせなかった分、彼女との一時を楽しみたい。
最初僕と渡来さんは仮面恋人で、お互いに遠慮して距離を開けて接していた。
だから三年間渡来さんとできなかったことをいっぱいやりたい、一緒に過ごせる時間を何よりも大事にしたいって思うようになった。
【明日香】
「恋人ごっこしてた頃と比べると今こうやって羽田君と一緒に登校してるなんて考えもしなかったよ」
【鷹志】
「僕もかなあ。渡来さんと一緒に帰ったりどこかに行くことなんて無いって思っていたよ」
【鷹志】
「でも、僕にとって渡来さんが初恋の人だったんだよね」
【明日香】
「えっ……? そうだったの?」
【鷹志】
「うん、なんていうかね、ずっと渡来さんに憧れてたんだ。でも、最初は好きとは違う感情だったのかもしれないけど」
【明日香】
「そうだったんだ」
【鷹志】
「渡来さんは僕にとって初恋の人で、それが今は恋人だね」
【明日香】
「そうだね」
僕は渡来さんの手を優しく握る。すると渡来さんも握り返してくれた。
通学路に人はいるけど、そんなことは気にしていられない。
僕は渡来さんと手を繋ぎたかったんだから。
【明日香】
「ごめん、羽田君。私友達と用があるから先に教室に行ってて」
【鷹志】
「うん。渡来さんも遅れないようにね」
僕は渡来さんと別れて教室に向かう。途中でクラスメートとの他愛ない会話を交わし教室の前に来る。
【女子E】
「あのっ、すみません……」
教室の前には昨日針生さんに頼み事をしていた女子生徒がいる。
彼女は3-Aの教室の前で誰かに話しかけていた。また針生さんに用事でもあるのかな?
ああ、そうだ。丁度いい機会だから言っておこう。
僕は昨日、針生さんから代わりに出るように頼まれた学校行事のことを思い出した。
僕が出るって言えば彼女たちももうここに来る必要もないだろうから。
【鷹志】
「おはよう。君は昨日針生さんと話してた子だよね? 今日も針生さんに用事があるの?」
【女子E】
「えっ……?」
いきなり話しかけられたものだから彼女は驚いた顔して何度も僕の顔を見直していた。
【鷹志】
「針生さんにお願いしたことだけどね、おれが代わりに出ることにしたから気にしなくていいよ」
【女子E】
「ええ!?」
【女子E】
「先輩がですか……?」
【鷹志】
「うん。それじゃあ、伝えておいたからね」
チャイムの音が聞こえたから僕は教室に入る。渡来さんも教室に入っていく姿が見えた。間に合って良かった。
【鷹志】
「礼」
午前中の授業も終わりお昼になった。僕は渡来さんとお昼を食べる為に彼女の席に向か
う。
昨日は一緒にお昼食べれなかったからね、今日は一緒に食べたい。
【鷹志】
「渡来さん」
【明日香】
「羽田君、どうしたの?」
【鷹志】
「いや……ほら、お昼になったでしょ。一緒にお昼でもどうかなって思って」
【明日香】
「うん、いいよ」
【鷹志】
「即答だね」
【明日香】
「うん、昨日一緒にお昼できなかったでしょ。だから今日は羽田君とお昼食べようと思ってお弁当作ってきたの」
そう言って渡来さんはカバンの中からを二つ弁当を取り出して机の上に置いた。渡来さんの弁当はすごく美味しい。
何度か手料理を食べさせてもらったけど渡来さんは本当に料理が上手だ。
【鷹志】
「僕は渡来さんの作ってくれたお弁当好きだよ」
【明日香】
「そうなんだ? 今まで何度か作ってきたことあったけど、そんな風に言われたのは初めてだよ」
渡来さんは自分の机から椅子を持ってきて僕の机の隣に座った。
【明日香】
「恥ずかしいから早く食べて」
顔を赤らめながら言う渡来さんの姿はすごく微笑ましい。
本当なら屋上とかで食べた方がいいのかもしれないけど、幸い教室には人が少なくて人目を気にする必要はなかった。
【鷹志】
「うん。それじゃあいただきます」
僕が食べる様子をちらちらと確認している。弁当は何度も持ってきているのに未だに慣れないみたいだ。
恥ずかしがっている渡来さんを見ながら食べるのもいいけど、それじゃあ味が分からなくなりそうだから一つひとつのおかずをよく味わって食べることにした。
おいしいなあ。味付けも僕の好みだし、おかずも僕が好きなものが入ってる。
この間好きなおかずについて色々聞かれたから答えておいた。
おかずの味を一つずつ確かめながゆっくりと咀嚼する。冷凍食品は使っていないみたいだ。
前に渡来さんが言っていたけれど時間が無い時は冷凍食品がいいんだって。
確かに弁当に冷凍食品が使われることは多い。
朝早く起きて作らないといけないなら尚更だ。
でも、この弁当にはちゃんと手作りされたおかずが入っている。
やっぱり手作りって言うのが一番いい。
【鷹志】
「ごちそうさま。美味しかったよ」
お箸を置いて手を合わせる。作ってくれた彼女に感謝の気持ちを表した
【鷹志】
「渡来さん、本当にありがとう」
【明日香】
「うん。喜んでくれて良かった」
【鷹志】
「毎日じゃなくてもいいからまたお弁当作ってきてくれないかな?」
【明日香】
「そうだね……。羽田君がそういうなら頑張ってみるよ」
【明日香】
「それよりかさ、今日も放課後はどこかに寄っていかない?」
【鷹志】
「いいよ。僕も渡来さんとどこかに出かけたいってさ」
渡来さんと話をしているうちに昼休みはあっという間に過ぎていった。
学校が終わったら今日も柳木原に寄る。今日はどこで過ごそうかな?
また、愉快で素敵な人たちに出会えるかもしれない。
【恩田】
「それでは、今日はここまで。では委員長号令をお願いします」
【鷹志】
「礼」
今日も学校での一日が終わった。僕は帰り支度を整えて渡来さんの席に行く。二人で校門の前まで来て渡来さんに聞いてみた。
【鷹志】
「今日はどこに行こうか渡来さんどこか行きたいところはある?」
【明日香】
「うーん、そうだね、考えてなかったよ」
【鷹志】
「えっ……なにそれ」
【明日香】
「だって羽田君と一緒にいれればどこだって良かったから」
【鷹志】
「そうなんだ、僕もかなあ。渡来さんと一緒に過ごせるなら場所とかは気にしないかな」
【鷹志】
「じゃあ歩きながら考えようか」
うーん、どこに寄って行こうかなあ。
モンキホーテはこの前行っちゃったしなあ、女の子が喜びそうな場所ってどこだろう?
渡来さんと付き合うようになってからそういったところに詳しくはなったけどまだまだ分からないことの方が多い。
つまんないところに行って渡来さんを退屈させちゃったら悪いし。
【鷹志】
「そうだなあ、どこに行こうか?」
【明日香】
「羽田君はどこか行きたいところはないの?」
【鷹志】
「僕は渡来さんに付き合うつもりだったから特には決めてないけど」
【明日香】
「じゃあ、歩きながら考えようか」
【鷹志】
「そうだね」
【鷹志】
「アレキサンダーとかはどうかな? ゆっくり過ごすのもいいと思うけど」
咄嗟に柳木原にある洋食レストランの名前を言ってみた。アレキサンダーは千歳くんがアルバイトしていた店でもある。
前に来た時は千歳くんのお世話になった人達に病気の事を伝えるために訪れた。
そこで初めてアレキサンダーで働く愉快で素敵な人たちに再会することができた。
僕はあの場所が大好きだ。
渡来さんと僕が付き合ってる事を伝えるとすごく驚いてた。軽部店長からは色々聞かれて大変だったなあ。
【明日香】
「うーんそうだね」
【鷹志】
「じゃあそうする?」
僕たちはアレキサンダーに行くことにした。
【明日香】
「羽田くんってさ、時間がある時はアレキサンダーでアルバイトしてるんだよね?」
【鷹志】
「うん。本当に時間がある時だけだけどね、店長の軽部さんも来れる時に来てくれればいいって言ってくれてるし」
【明日香】
「ふーん、あっ、そうだ玉泉にはイジメられてない?」
【鷹志】
「そんなことないよ玉泉さんは僕の教育係として仕事を教えてもらってるんだ」
【明日香】
「ほら、病気の事、話に行った時に玉泉が随分と羽田君のこと気にしてたじゃんか」
病気の事をアレキサンダーの皆に話に行った時に千歳くんに仕事を教えていた玉泉さんに初め会った。
玉泉さんは同じ美空学園の生徒で二年の学級委員長をやっている。
渡来さんは美術委員会の関係で玉泉さんと親しいみたいだ。
最初は僕の病気の事も理解できずにいて僕の事を千歳くんだと思い急にいなくなったことを何度も怒られた。
千歳くんの事もすごく大切に思っていてくれていたようだ。
確かに急に自分の大切な人が目の前からいなくなったら誰だってそういう風に思うだろ
う。
玉泉さんは千歳くんのことを大切に思っていたからこそ辛いんだ。
軽部店長や一緒に働いてる日野さんや受験生の望月さんも僕にとても親しくしてくれる。
玉泉さんなりに僕たちの病気の事を調べてくれたみたいで僕がアルバイトする時にきちんと謝ってそして僕たちの病気にも向き合ってくれた。
【鷹志】
「それじゃあ行く場所はアレキサンダーでいいかな?」
【明日香】
「うん」
僕たちは人気の多い花水木通り歩く。この街に来るといつも新しい気持ちになることが
できる。
目の前には渡来さんと一緒に何度も行った店が並んでいた。
【鷹志】
「寒いね」
【明日香】
「そうだね」
僕は渡来さんが寒そうにしているのを見て少しだけ体を彼女の方に寄せた。
【明日香】
「羽田君、まだ人気が多いから手は繋げないね」
【鷹志】
「そうかなあ? 僕はそういうのは気にしないよ」
【明日香】
「ちょっとは気にしてよ! 恥ずかしいんだから!!」
【鷹志】
「えっ、別に恥ずかしいことだとは思わないけど」
【明日香】
「羽田君が思わなくても私は思うの!!」
【鷹志】
「渡来さんは恥ずかしがり屋だなあ」
【鷹志】
「いてて、何で足を踏むの渡来さん」
渡来さんはズンズンと先に進んで行く。
そんなに急がなくても時間はまだまだあるのになあ。僕は急いで渡来さんを追いかけた。
【鷹志】
「そういえば二人でアレキサンダーに行くのは久しぶりだね」
【鷹志】
「アレキサンダーって素敵な店だよね。この間来た時はゆっくりすることができなかったよね」
渡来さんと話してるうちにアレキサンダーに着いた。何度来てもこのお店の独特な感じは気に入っている。
そして楽しい人たちにまた会うことができる嬉しさに心を躍らせた。
【狩男】
「おお、鷹志じゃないか! 彼女連れとは大層な身分だな」
【鷹志】
「あはは……こんばんは」
僕は軽部店長に挨拶してテーブルに座る。
このアレキサンダーの雰囲気はすごく好きだ。
軽部店長やここで働く人達とはついこの間初めて会ったのだけれど、もう何度も会っているような懐かしい感じがする。
事情を話しても千歳くんと変わらない接し方をしてくれる優しくて愉快な人たちばかりが働いている。
時間がある時は僕もアレキサンダーでアルバイトさせてもらっている。
テーブルに座って数分も経たないうちに店員さんがメニューを持ってきた。
【英里子】
「メニューでございます。ん、ええっと千歳?」
【鷹志】
「こんばんは。日野さん」
彼女は日野英里子さん。アレキサンダーで働いてるウエイトレスさん。
僕たちがいつもお店に来るといつもこんな感じで話しかけてくれる。
初めて事情を話に行った時に日野さんに渡来さんのことを色々聞かれて大変だった。
【英里子】
「ああー千歳じゃなくて羽田の方か、お前ら顔が似てるから見分けつかないんだよね」
日野さんはメニューをテーブルの上に置くと渡来さんの方を見る。
【英里子】
「何度見てもこんなキレイな子とお前が付き合ってるなんて思えねー」
確かに渡来さんは綺麗だ。
それは付き合ってる僕自身が一番よく分かってることだろうけど他の人に言われると改めてそうなんだなって思える。
【紀奈子】
「ああ、羽田君! 来てくれたんだ! おひさー」
この明るくて元気な人は望月紀奈子さん。受験を終えて晴れて大学生活を送ることに決まっている。
念願の目標を達成してアレキサンダーでのアルバイトも再開している。
望月さんの合格祝いには僕も呼ばれてカラオケでささやきマテリアルの主題歌を歌って盛り上げた。
【鷹志】
「望月さんもこんばんは」
【英里子】
「紀奈子さん。千歳と羽田の区別がつくの?」
【紀奈子】
「まあねーこの守ってあげたくなる感じですぐに分かるよ」
【英里子】
「確かにね~千歳と比べて羽田って何か清純系な感じがするよな」
【紀奈子】
「そうそう。でさ、羽田君。今まで何人の女の子と付き合って来たの?」
【鷹志】
「えっ……?」
【英里子】
「別に隠さなくたってうちらには分かる。10人くらいだろ?」
【鷹志】
「そんなにはいませんけど……」
【紀奈子】
「嘘だー羽田君なら7人くらいは付き合ってると思ってたよ」
【英里子】
「羽田さーその純情さを売りに今まで何人の女をたぶらかしたんだ?」
【鷹志】
「付き合うのは渡来さんが初めてですよ」
【英里子】
「えっ……それマジの話? いいって渡来さんがいるからって嘘つかなくても」
【紀奈子】
「そうだよーお姉さんたちに言ってみ? 渡来さんには内緒にしておいてあげるから」
【鷹志】
「あの、すぐ傍に渡来さんがいるんですが……」
【紀奈子】
「それじゃあ羽田くんさ今度バイトに来た時に本当の事教えてよ」
【英里子】
「おっと、いけねー客が来た。さっさと注文しろよ羽田」
日野さんと望月さんはそれぞれの仕事に戻っていった。
メニューを見ながら考える。
この間来た時は軽部店長のオススメの料理を注文したから今日は自分で決めよう。
メニューのページを捲る。うーん、どれも美味しそうだ。
ん? 冬限定のオリジナルケーキっていうのがある。
考え事をしながらメニューを見てたから気づかなかったけど新メニューみたいだ。
メニューに書かれている絵を見るとすごく美味しそうなケーキにオススメのマークが付
いている。
なるほど、今の時期のオススメはこのケーキなんだ。
これにしよう。特製のケーキなのに値段も手頃だそれに美味しそうだし。
【明日香】
「うーん、羽田君は何を注文するの?」
【鷹志】
「僕はこの冬限定のオリジナルケーキって言うのが美味しそうだなって」
メニューのページを指差して渡来さんに見せる。
【明日香】
「これかあ、じゃあ私もこれにしようかな」
【鷹志】
「えっ、渡来さんは食べたいのを注文しないの?」
【明日香】
「たまには羽田君と同じメニューにするのもいいかなあってね」
【鷹志】
「そうなんだ。じゃあ、食べさせ合いっことかしちゃう?」
【明日香】
「うっ、それは恥ずかしいからいい」
二人で同じものを注文するなんてカップルではよくあることだね。
僕たちは運ばれてきたケーキを食べる。美味しいなあ。
前に小鳩が近くのお店でケーキを買ってきてくれたけどあの店のケーキと同じくらい美味しいと思う。
大好きな人と一緒に食べているんだからいつも以上に美味しく感じてるのかな?
【狩男】
「鷹志、ちょっといいか」
【鷹志】
「はい。なんですか?」
いきなり後ろから軽部店長に声を掛けられる。
軽部店長は僕だけをテーブルから人気の少ない場所まで遠ざける。
渡来さんに聞かれるとまずい内容なんだろうなあ。
いつも空気が読めないと言われる僕だけど、さすがにそれくらいは分かった。
【狩男】
「今度アレキサンダーで面白いイベントがあるんだがお前も参加してみないか?」
【鷹志】
「えっ……おれにですか?」
【狩男】
「そうだ。盛り上がること間違いなしのイベントだ!」
【鷹志】
「どんなイベントなんですか?」
【狩男】
「その名も【コスプレ美少女ご奉仕大会】どうだ! いい名前だろう」
【狩男】
「ここだけの話なんだが俺だけじゃ可愛い子が集まらなくてなーそこでお前を使ってギャルを集めようと考えたわけさ」
軽部店長は耳打ちでそう伝えるとニヤリと笑って腕を僕の肩に絡めてきた。
けれど、僕に頼んでも仕方ないと思うけどなあ。そういうのは僕よりも鳳君の方がいいんじゃないんだろうか?
【狩男】
「渡来君もお前が言えば参加していくれると思うんだが……どう思う?」
【鷹志】
「……どうでしょう? 内容にもよると思いますけど渡来さんはそういうのには参加しない気がします」
【狩男】
「そうか。まあ、渡来君が参加してくれるかは分からんが最低でも一人くらいは美少女を連れてきてくれると助かる」
【鷹志】
「具体的にはどんな感じになるんですか?」
【狩男】
「それは参加してのお楽しみだ!」
【鷹志】
「(どうしようかな? 面白そうなイベントではあるし……軽部店長にはいつもお世話になってるから参加してみるのもいいかもしれない)」
【鷹志】
「分かりました。おれで良かったら参加します」
【狩男】
「おお! そうか。お前ならそう言うと思ってたぞ」
軽部店長は僕の肩を叩いて言う。そこまで感謝されるとすごく嬉しくなる。
【狩男】
「当日はピチピチのギャル達によるご奉仕が待ってるぞ! はっはっは」
【鷹志】
「あはは……楽しみにしておきますね」
軽部店長は仕事に戻る。
少し早足気味で渡来さんの待つ席に戻った。
【明日香】
「店長さんと何を話してたの?」
【鷹志】
「えっ……? ああ、何でもないよ。ちょっと軽部店長の用事に誘われただけなんだ」
渡来さんはとっくにケーキを食べ終えていて僕が戻って来るのを待っていたみたいだ。
僕は残りのケーキを食べ終わって席を立つ。
【鷹志】
「じゃあ行こうか」
【明日香】
「うん」
ふたり分のお金を払って店を出る。
外はもう暗くなっていて、街のネオンが眩しくギラギラと光っていた。
成田くんの時に随分と見慣れた風景でもある。
ふと成田隼人だった記憶が蘇る。夜の柳木原で体験した色んな出来事。色んな人たちとの出会い。
無意識にそういった出来事を思い出すことがある。
【鷹志】
「他にどこか行きたいところはある?」
【明日香】
「うーん。特にないかな。羽田君は?」
【鷹志】
「僕もかな。それじゃあ、もう帰ろうか」
【明日香】
「そうだね。あまり遅くなるといけないし」
【鷹志】
「じゃあ、家まで送るよ」
【明日香】
「うん。ありがとう」
明日も学校だから早めに帰ろう。
僕は平気だけど渡来さんは最近、寝不足気味だって言ってたからあまり遅くなるのはよくない。
夜もメールとか電話をしてる事もあって寝るのが遅くなっているみたいだ。
小鳩も夕飯を作って待っていてくれている。早く帰らないといけない。
【明日香】
「ここでいいよ。本当は部屋まできてほしいけど今日はもう遅いから諦める」
【鷹志】
「うん、ごめんね。次来た時はお邪魔させてもらうよ」
【明日香】
「羽田君だったらいつだって来ていいから」
【鷹志】
「それじゃあ渡来さん。おやすみ」
【明日香】
「うん、おやすみ」
渡来さんに手を振って別れる。振り返るとまだ手を振っていてくれた。
僕も手を振り返す。
【鷹志】
「(ありがとう。僕たちのプリンセス)」
群青色の空の下、僕たちのプリンセスにありがとうを言う。
家に帰り着いた後、小鳩と一緒に夕飯を食べる。どうやら僕が帰って来るまで待っててくれたみたいだ。
小鳩は学校での事を楽しそうに話していた。今度また友達を家に連れてくるらしい。
会えれば挨拶をしておこう。
部屋に入ってパソコンで今度発売するゲームの情報をチェックしてから寝よう。
風呂上がりの体を冷やさないように暖房を入れる。
叔父さんが用意してくれた石油ストーブは古ぼけた感じがするけれど、僕の部屋を暖め
るにはちょうどいい。
【鷹志】
「勉強しよう」
本棚から本を出してノートを広げる。
付箋が付けてあるところまではノートに写してあるけど復習もしっかりやっておかないと。
病気の事が少しでも知りたくて臨床心理とかに関する本を何冊か買った。
入院する前に少しでも知識を頭に入れておきたかったからだ。
一日も早くこの病気を治したい。
それは僕ひとりだけの願いじゃない。
不安定な僕を支える為に生まれた二人の兄弟──
──僕が現実から逃げていた間の時間を千歳鷲介と成田隼人が繋ぎ、昼、夕方、夜の時間帯はそれぞれの人格が受け持つようになった。
千歳君と成田君は普段から面談という方法で人格同士の会話をしていた。
僕に表の世界で生きてもらうことは前から二人で話し合って決めていたようだ。
その為に二人はアルバイトをして治療の為のお金を残していってくれたんだ。
だからこそ僕はその大切な兄弟たちの分まで一生懸命に生きていかないといけない。
【鷹志】
「(心配しないで僕は大丈夫だよ)」
僕の中にいる兄弟にそう伝える。皆の思いも背負っているんだ。
【鷹志】
「うん。これくらいかな」
明日も早い。
僕は机の上の本を片付けてからノートを閉じた。
毎日数時間の勉強の時間を終えて布団を敷いてその上に倒れこむ。
目覚ましをセットしてから部屋の電気を消して布団に入ると自然と眠りにつくことができた。
おやすみなさい。
*あとがき*
今回「Winter Trivial Story」を読んで頂き本当にありがとうございます。
物語を書くのは初めてなので読みづらかった部分が多かったんじゃないかと。
けれど、興味を持ってこの物語を読んでくれた人たちに自分が描きたい世界が少しでも伝わってくれたなら嬉しいです。
前から『俺たちに翼はない』のショートストーリーを書きたいと思っていました。
そして余裕が出来たので今回の投稿に踏み切った感じです。
この話を機会におれつばの魅力を皆さんにも知ってもらえればいいなあ。
魅力的なキャラクターが多いおれつばですが、その中で自分が一番気に入っているカップリングの二人を主役にさせてもらいました。
すでにゲームをプレイ済みの方にはもう一度おれつばの面白さを思い出してもらい、未
プレイの方はこれを機会に是非『俺たちに翼はない』をプレイするきっかけになれば嬉しいです。
冬の些細な物語を皆さんにお届けできたんじゃないかと、これからもこの物語は続いていきますので応援よろしくお願いします。
それでは皆さんの「世界が平和でありますように」