Winter Trivial  Story   作:南雲悠介

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 鷹志は“意識”内で初めて迦楼羅と対面する。迦楼羅は鷹志に小鳩を守れるのかを問う。その言葉に鷹志は決意を新たにするのだった


聖騎士ホーク ~バーサスガルーダ・ダークブラック~

 Episode:Takashi

 

 羽田鷹志 編

 

 Chapter:Takashi Haneda

 

 Wing of Hawk

 

 

【鷹志】

「ん……」

 

 カーテンの間から漏れて来た日差しで目を覚ます。

 

 隣を見ると渡来さんはまだ寝ているみたいだから彼女を起こさないようにベッドから起き上がる。

 

【鷹志】

「喉が渇いたなあ」

 

 部屋から出て台所で飲みものを飲もう。確かこの間買っておいたジュースがまだ残っているはずだから。

 

 小鳩はまだ寝てるんだろうか? 起こしちゃ悪いからゆっくり歩こう。

 

 小鳩の部屋を通り過ぎて下に降りる。

 

【鷹志】

「ふう……」

 

 ジュースを飲み終えて洗面所で顔を洗う。

 

 一度起きてしまったから“意識”もすっかり覚醒してしまいもう一度寝るのは難しくなっていた。

 

 朝ごはんができるまでは部屋でのんびりしておこう。

 

 前に寝起きの顔は見せられないって言ってたけど今日は僕の方が早く起きたから見ることができるかもしれない。 

 

【小鳩】

「タカシお兄ちゃんもう起きてるの?」

 

 部屋の外から小鳩が覗いている。もしかしてさっきジュースを飲みに行く時に起こしちゃったのかもしれない。

 

【鷹志】

「うん。今日は早めに起きたんだ。渡来さんはまだ寝てるから僕は下に降りるよ」

 

【小鳩】

「私もジュース飲もうかな」

 

【鷹志】

「僕はさっき飲んだよ。それじゃあ小鳩の分は僕が用意するから」

 

【小鳩】

「ありがとう。そういえばお兄ちゃんあの部屋で寝てたんだね」

 

【鷹志】

「うん。渡来さんは僕の部屋で寝てたんだけど夜に部屋に来てね。だから一緒に寝てたんだ」

 

【小鳩】

「そうなんだ」

 

【小鳩】

「じゃあ、渡来さんが起きてくる前に朝ごはんの準備をしないとね」

 

 台所に行って朝ごはんの準備を始める小鳩。

 

 僕はテレビを点けて朝の情報番組を見る。

 

 アナウンサーが用意された原稿を読み上げて朝のニュースを伝えていた。

 

 最近は物騒なニュースが多かったけど今朝は落ち着いた話題みたいだ。

 

 YFBの皆も変な事件とかに巻き込まれてないといいのだけれど……最近は色々と忙しくて集会とかにも顔を出すことができないでいるから。

 

 彼らは僕にとってはとても大切な友人たちでもある。

 

 そんなことを考えながらテレビに映った綺麗な景色を見て思った。

 

 世界が平和でありますように

 

【叔母さん】

「タカシ君。朝ごはんの準備ができたから彼女さんを起こしてもいいわよ」

 

【鷹志】

「そうですね。それじゃあ渡来さんを起こしてきます」

 

 僕は二階に上がって部屋の中を覗いた。

 

 渡来さんはまだ寝てるみたいだ。ベッドの側に寄って眠っている彼女の顔をみつめた──

 

 ──寝ている時に見せる無防備な顔。普段とは違った顔を見るとなんだか安心する。

 

【鷹志】

「渡来さん。朝だよ起きて」

 

 彼女の耳元で優しく囁く。

 

【明日香】

「ん、んん……?」

 

 渡来さんは寝ぼけているようで目を擦ってからじっと僕の顔を見詰めてきた。

 

【明日香】

「羽田君? どうしたの」

 

【鷹志】

「おはよう。朝ごはんの準備ができたから起こしに来たんだよ」

 

【明日香】

「そおなんだ」

 

 渡来さんはベッドから体を起こして背伸びをする。

 

 綺麗な髪は朝の日差しに照らされてより一層輝いていた。

 

【鷹志】

「それじゃあ行こうか」

 

 僕は起きたばかりの彼女の手を優しく握ってほっぺたにキスをした。

 

 渡来さんは照れ隠しな表情をしてから手を握り返してくれた。

 

 今日も彼女と過ごす大切な一日が始まるんだ。

 

 叔母さんたちを待たせるのはよくない。僕は渡来さんの手を引いて階段を下りた。

 

 朝ごはんを食べ終えた僕たちは朝の時間をのんびりと過ごしていた。

 

 二人だけの時間はゆっくりと流れていく。

 

 ──渡来さんは体を寄せてきた。彼女の髪はすごく綺麗で僕は触ってみたくなった。

 

【鷹志】

「ちょっと触ってもいいかな?」

 

【明日香】

「うん」

 

 僕は優しく渡来さんの頭を撫でる。彼女はうっとりした表情で僕を見つめてきた。

 

 この表情も僕だけが知っている渡来さんの本当の一面。

 

【鷹志】

「もう少しこっちに体寄せてくれないかな?」

 

 僕は渡来さんの温もりを少しでも感じていたくて彼女の体を抱き寄せていた。

 

【明日香】

「羽田君の匂い好きだよ」

 

【鷹志】

「そう? 渡来さんの方がいい匂いがすると思うけど?」

 

【明日香】

「私の匂いをしっかりと刻み込んでいかないとね」

 

【鷹志】

「えっ……?」

 

 僕たちはお互いの体を寄せ合う。吐息が感じられる距離で見詰め合った。

 

【明日香】

「ん……」

 

 渡来さんの方から唇を重ねてきた。

 

 彼女から求めてくれるなんて珍しいこともあるんだなあ。

 

【明日香】

「私の唇の感触を覚えたら浮気もできなくなるしね」

 

【鷹志】

「──浮気なんてしないけど……」

 

【明日香】

「羽田君は気がついてないだけだよ。自分がモテるってことに」

 

【鷹志】

「そうかなあ。僕なんてモテないと思うけど」

 

【明日香】

「ん……はむ……ちゅっ」

 

 渡来さんは啄むように唇を押し付けてくる。僕たちは何度も何度も唇を重ねる

 

【鷹志】

「わ、渡来さん、苦しいよ」

 

【明日香】

「ちゅっ……ダメだよ。私のキスがないと生きてゆけない体になってもらうから」

 

【明日香】

「羽田君仲のいい女の子が多すぎると思う。玉泉に鳳さんに」

 

【鷹志】

「玉泉さんも鳳さんは僕の兄弟がお世話になったからで」

 

 次の言葉を言う前に唇を塞がれる。僕は息をするので精一杯だ。

 

【明日香】

「山科とも仲がいいし」

 

【鷹志】

「山科さんとは何にもないから。友達なだけだよ」

 

 嘘は言ってない。山科さんは大切な友達だからね。

 

 最近の渡来さんは心配性すぎるんじゃないかと思う。

 

【明日香】

「下級生の女子とも仲良さそうに話してたし」

 

【鷹志】

「それって誰のこと? 玉泉さんじゃないよね」

 

【明日香】

「いつも羽田君のことを見てる子だよ」

 

 渡来さんはそういう風に言うけど心当たりがない……

 

 僕のことをいつも見てる子なんているんだろうか? 特別誰かの視線を感じたことなんてない。

 

【明日香】

「バレンタインの時もたくさんもらってたし」

 

【鷹志】

「偶然だよ……ほとんどが義理チョコばかりだと思う」

 

 今年のバレンタインはいつもよりも多めにチョコレートを貰った。

 

 針生さんとかと比べると少ないんだろうけど、今までの僕からしたら考えられない量だった。

 

 下級生の子が綺麗なラッピングしたチョコレートをくれたけど多分他の男子にも配ったものの余りだろう。

 

【鷹志】

「でも、チョコレートは全部渡来さんが食べちゃったじゃないか」

 

【明日香】

「量が多かったから食べるのに苦労したよ」

 

【明日香】

「義理にしてはすごく力が入ってたやつもあったしね」

 

【明日香】

「全く油断ならない」

 

【鷹志】

「えっ……?」

 

【明日香】

「彼氏がいる男にチョコあげるなんてね」

 

【鷹志】

「渡来さんも義理チョコならクラスの男子皆に配るんじゃないの?」

 

【明日香】

「そういう子もいるとは思うけど私はしないかな」

 

【鷹志】

「去年は誰かにあげたりはしたの?」

 

【明日香】

「去年は先輩にはあげたかな」

 

【鷹志】

「そうなんだ。僕は去年は全く貰えなかったよ。ていうか今年が初めてだった」

 

【鷹志】

「これは僕の予想なんだけどね。まだ学園の皆が僕と渡来さんが本当の恋人関係にあるって知らないんじゃないかな?」

 

【鷹志】

「実際僕たちが付き合い出したのは最近だしさ」

 

【明日香】

「じゃあ、皆に教えてあげないとダメだよね」

 

 渡来さんは笑顔で僕の胸に顔を埋める。僕は彼女の頭を優しく撫でた。

 

【明日香】

「私もまだ男子からナンパされることもあるんだ。羽田君がいない時が多いけど」

 

【明日香】

「彼氏がいるって言っても信じてくれなくてさー本当うんざり……」

 

【鷹志】

「それは仕方ないと思うよ。渡来さんみたいに魅力的な子が目の前にいるんだったら誰だって声をかけるだろうし」

 

【明日香】

「でもそれって私を外見だけしか判断してないよね? 可愛いから声をかけるんでしょ」

 

【鷹志】

「多分そうだろうね。昔の僕なら渡来さんに声をかける勇気すら無かったからそういう積極的な人は正直羨ましいって感じてたよ」

 

【明日香】

「とにかく羽田君はもっと自信を持った方がいいと思うよ。私の彼氏は世界一かっこいーんだからさ」

 

【鷹志】

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

【明日香】

「けど、カッコよくなりすぎると他の女が寄り付いてくるしなー」

 

【鷹志】

「それはないんじゃないかな……」

 

 僕に他の女の子が寄って来るなんて事はないと思う。だってさ、渡来さんと付き合わなかったら恋人すらできなかった思うんだ。

 

 だからこそ最初で最後の恋を大事にしたい。

 

 こうやって渡来さんと過ごす一秒一秒が僕にとって何よりも耐え難いものに変わっていく。

 

【明日香】

「キスの続きしよっか」

 

 渡来さんは笑顔でそう言うと唇を重ねてきた。

 

【明日香】

「ちゅっ……はむ。私のキスで調教しないとね」

 

 僕が息をするまでに何度も唇を重ねる渡来さん。

 

【鷹志】

「調教ってどういうこと?」

 

【明日香】

「ん、ちゅうっ……ちゅ。言葉通りの意味だけど?」

 

 僕は渡来さんの言葉の意味を理解できずポカーンと口を開けていた。

 

【明日香】

「彼女に調教されてる男を狙う物好きな女はいないから」

 

【鷹志】

「渡来さんは心配性だなあ」

 

 それだけ僕の事を大切に思ってくれるのは嬉しいけど少しは信用してくれてもいいと思う。

 

 朝の暖かい日だまりを感じながら僕たちはお互いの気持ちを確かめ合った。

 

 キスの余韻に浸っていて朝ごはんを食べるのが遅くなったのはいうまでもなかった。

 

 渡来さんはお昼を作るのを手伝うために台所に立っていた。

 

 小鳩や叔母さんと何かを話しているけど僕には聞こえない。

 

 作り笑顔じゃない本当の渡来さんの笑顔を見た。彼女の本当の笑顔はすごく眩しくて素敵だ。

 

 僕は昼食ができるまでの間叔母さんが入れてくれたお茶を飲みながらテレビを見る。

 

 しばらくしてたら叔父さんも降りてきて皆で食卓を囲む。

 

 ──いいなあ。皆でこうやって食事をするのは本当に嬉しい。

 

 渡来さんも今では羽田家の一人になっている。叔父さんと叔母に色々聞かれて大変そうだ。

 

 僕は渡来さんの反応を見ながら食事を続ける。

 

【明日香】

「そうですね。タカシさんとはクラスメートだったんですが今はお付き合いさせてもらっています」

 

 僕との出会いを説明している渡来さんはすごく可愛い。

 

 呼び方も普段は羽田君なのに叔父さんたちと会話する際は名前で呼んでくれている。

 

【鷹志】

「渡来さん。緊張することはないと思うよ」

 

【叔父さん】

「そうだよ。鷹志君の彼女さんなら私たちの家族も同然なんだからね。遠慮しないでいいよ」

 

 叔父さんたちの言葉に照れて顔を下に向ける彼女がすごく可愛いと思った。

 

 いつもよりも会話の多い朝の食卓。これからはこういうのが増えていくと嬉しい。

 

【叔母さん】

「じゃあ、洗い物は私と小鳩がやっておくからタカシ君は部屋に行ってていいわよ」

 

【鷹志】

「自分の食器くらいは自分で洗いますよ」

 

【叔母さん】

「いいのよ。渡来さんと一緒に過ごす時間がほしいでしょう?」

 

 僕は叔母さんに気遣いに感謝をして部屋に向かう。外では叔父さんが趣味のガーデニングをやっていた。

 

【鷹志】

「これからどうする?」 

 

 二人で部屋でのんびりしながら今日の予定を立てることにした。

 

【鷹志】

「どこかに出かけたいのなら僕も色々と準備するよ」

 

【明日香】

「いいよ今日は。羽田君と一緒にいるから」

 

 そう言うと渡来さんは僕の隣に座って長い髪を肩に下ろした。

 

【明日香】

「羽田家の皆はすごく優しいよね」

 

【鷹志】

「叔父さんも叔母さんも渡来さんが来るのを楽しみにしてたからね。僕もあんなに楽しい朝ご飯は久しぶりだったよ」

 

【鷹志】

「これからは何度だってうちに来てくれてもいいからね」

 

【明日香】

「これからもずっと一緒だから」

 

 隣に座った渡来さんを抱きとめて優しく髪を撫でた。

 

 僕たちはゆっくりと流れる時間の中でお互いの気持ちを改めて確認し合った。

 

【鷹志】

「これからこうやって一緒に過ごしていく時間が増えていくんだね」

 

【明日香】

「そうだね。こういう時間がもっと増えていくといいよね」

 

 僕たちはお互いを見つめ合って手を握る。渡来さんの手はすごく暖かった。

 

【鷹志】

「退屈してない? どこかに出かけた方がいいかな」

 

【明日香】

「退屈なんてしてないよ。むしろこの状況を楽しんでるよ」

 

 目を閉じた渡来さんにキスをして二人だけの時間を過ごしていくのだった。

 

 冬の部屋は暖房器具のおかげで暖かったけれど僕たちの体温は上がっていくばかりだ。

 

【明日香】

「……すぅ」

 

 眠った渡来さんを抱えて隣の部屋のベッドに運んだ。起こしちゃ悪いから僕は自分の部屋で勉強をしてよう。

 

 自分の部屋に戻った僕は机にノートを出して勉強を始める。だけど渡来さんの事が気になってあまり集中できなかった。

 

【 】

「………………」

 

【 】

「…………」

 

【 】

「……」

 

【声】

「目覚めよホーク」

 

 

 ……誰かの声が聞こえる。誰だろう? 僕を呼ぶのは──

 

【伽楼羅】

「もはは、黄金の鷹よ! 随分と感が鈍ったようだな」

 

【鷹志】

「ここは」

 

 僕はこの場所は知っている。

 

 初めて千歳くんと会った場所で今ままで僕がグレタガルドだと思っていた場所だ。

 

≪中二階≫には待機室呼ばれている扉が無数に並んでいる。 

 

 もうここに来ることはないと思っていた。

 

 でもまだ感覚がはっきりとしないや。頭を空っぽにして“意識”を深く潜らせていく。

 

 地面に降りた僕は声のした方へ歩き始めた。

 

 もう千歳くんの待機室は消えていて殆どの扉はドアノブさえも回せない状態だった。

 

【伽楼羅】

「ふむん、イーグルとファルコンは逝ったか」

 

【鷹志】

「君は確か伊丹くん?」

 

「伊丹伽楼羅」僕たちの中で一番最初に生まれた兄弟。

 

 彼は小鳩の為に自ら奈落の闇に身を投じた。

 

 彼に直接会ったのは初めてだけど、いつも僕たちの事を見ていた。

 

 誰よりも生きることに渇望し僕たちの中で生き続けている。

 

【鷹志】

「……どうしておれが君と会話ができるの? おれたちは統合したはずなんじゃ」

 

【伽楼羅】

「愚問だ。イーグルとファルコンは統合したようだが俺は貴様らと統合なんぞする気はないということだ!」

 

 伊丹くんは手に持った杖を僕の方へ振りかざす。僕は咄嗟に体を横へ避けながら杖の一撃をかわした。

 

 普段の僕では考えられないほど素早い動きだ。ふと成田隼人だった時のことを思い出した。

 

 地面がえぐり取られるほど大きな隕石が落ちた後の床を見ることしかできなかった。

 

 伊丹くんはすぐに杖を上に掲げて呪文を唱え始めた。

 

【伽楼羅】

「今は貴様が玉座にいるようだが、その場所は本来俺のものだ今すぐ消えてもらおう」

 

 伊丹くんは杖を上に掲げて呪文を唱え始めた。

 

【伽楼羅】

「賢者王の一撃を受けよ」

 

【鷹志】

「うわあ!」

 

 僕は彼の出した魔法の直撃を受けてしまい床に膝をついた。

 

【伽楼羅】

「ぶはは、弱いな。貴様それでも万色の四枚羽根の一人、聖騎士ホーク・シアンブルーか! さあ! 立たぬか!」

 

【鷹志】

「伊丹くんどうしてこんなことを?」

 

【伽楼羅】

「知れたことよ。簒奪者の分際で玉座でふんぞり返るなぞ百年早いわ!」

 

 伊丹くんはもう一度杖を大きく掲げて呪文を唱える。僕は傷付いた体を起こして伊丹くんに突進した。

 

【伽楼羅】

「馬鹿め! 自ら死ににきたか」

 

 僕はもう逃げないって決めたんだ! 僕に後を託してくれた千歳くんと成田くんそして僕の大切な人たちの為に。

 

 顎を引いて拳を軽く握って前に突き出した──おじいさん直伝のボクサースタイル! 

 

 左右の足に体重をかけながら半身でリズムを取る、グレタガルドで戦っていた時の感覚が蘇る! 

 

 

【伽楼羅】

「小賢しい。ファルコンの真似事か!」

 

 伊丹くんは杖を持って突撃してきた。

 

【鷹志】

「!」

 

 僕は体を反らして突撃を交わして状態を戻すと同時に力のこもった右を伊丹くんめがけて放った! 

 

 

【伽楼羅】

「ぶぱ!」

 

 伊丹くんは顔面に拳がクリーンヒットすると地面に転がる──僕はすぐに拳を構えてワンツーのコンビネーションでパンチを打っていく。

 

 初めてやったはずなのに体が動きを覚えている。 

 

【伽楼羅】

「ぐぅ……!」

 

 咄嗟に彼の注意を逸らすことに成功した。

 

【伽楼羅】

「猪口才な! 剣を失った聖騎士なんぞに余は負けん」

 

【鷹志】

「はあ!」

 

 僕は伊丹くんの杖を拾い上げて奈落の彼方に放り投げた。

 

【伽楼羅】

「ええい、小賢しい真似を」

 

 もう杖はない。僕は体制を整えて伊丹くんに接近する。

 

【伽楼羅】

「油断した。泣き虫ホークにしてはよくやるわ」

 

 彼は涼しげな眼差しをこちらに向けると手を前に出した。

 

 “万色の四枚羽根”の一人聖騎士ホーク・シアンブルーとしてグレタガルドの勇者だった時の記憶がよみがえる。

 

【伽楼羅】

「甘いわ! 杖を奪ったくらいで賢者王の魔術を防げると思うてか!」

 

 伊丹くんの放った攻撃魔法が僕に降り注ぐ。

 

【鷹志】

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

【伽楼羅】

「ほう、耐えたか。褒めてやってもいいぞ黄金の鷹よ」

 

 僕がここに呼ばれたのは何か理由があるはずだ──

 

 ──伊丹くんと争う為なんかじゃない。

 

【鷹志】

「おれをここに呼んだって事は何か大事な話があるんでしょ?」

 

【伽楼羅】

「貴様は表の世界でこれから一人で生き抜いて行く事になるだろうが、本当に小鳩様をお守りできるのか?」

 

【伽楼羅】

「いつもイーグルやファルコンに守ってもらっていた弱虫が一人で生き抜くことができるのか?」

 

【伽楼羅】

「だからこそ貴様を試したのだ。本当に小鳩様をお守りするだけの力があるのかをな!」

 

【鷹志】

「伊丹くん……」

 

 彼にも色々な考えがあると思う。小鳩の事を一番に考えているからこそ泣き虫で弱虫な僕を認めるわけにはいかないんだろう。

 

【鷹志】

「確かに君の言う通りかもしれない。僕はまだまだ弱くて小鳩を守るには力不足かもしれない」

 

【鷹志】

「だけど、僕はもう逃げないって決めたんだ。今は悲しい時には涙を流すことだってできる」

 

【伽楼羅】

「……」

 

【鷹志】

「だから千歳くんや成田くんの思いも背負って生きていくことにしたんだ。もちろん君の思いだってそうだよ伊丹くん」

 

【伽楼羅】

「想いだと……?」

 

 伊丹くんは明後日の方向を睨んで何かを考えてるみたいだった。

 

【鷹志】

「君が何を考えているのかは分からないけど僕はそのつもりだよ」

 

【伽楼羅】

「小鳩様を守れるのは俺だけだと思っていたが……」

 

 伊丹くんの眼差しから敵意が消えてゆくのが分かった。

 

 彼は誰よりも生きることに執着して小鳩のことをいつも考えていた。

 

【伽楼羅】

「ホークよ。その言葉に嘘偽りはないな?」

 

【鷹志】

「もちろん」

 

【伽楼羅】

「小鳩様を悲しみに暮れされたら許さぬぞ」

 

【鷹志】

「分かってる」

 

【伽楼羅】

「お兄ちゃんの力が必要になったらいつでも言うがよい」

 

【鷹志】

「うん。ありがとう伊丹くん」  

 

 体が消えかけている彼にお礼を言う。

 

 そして目覚めが近い僕の体は脳内のイメージが強く浮かんできて慣れない感覚に戸惑うこともなく身を任せることにした。

 

 いつの間にか机で寝てたようだ。初めての感覚に目が覚めた僕は勉強中のノートを見直した。

 

 頭の中は経験したことのないモヤモヤとした感じだった。

 

 それもすぐになくなりいつもの感覚を取り戻す。

 

 

【鷹志】

「はい」

 

【小鳩】

「タカシお兄ちゃんいる?」

 

 小鳩に呼ばれて部屋の外に出る。

 

【小鳩】

「あれ? 渡来さんは一緒じゃないの」

 

【鷹志】

「寝ちゃったから隣の部屋まで運んだんだ。何か用?」

 

【小鳩】

「うん。これから夕飯の買い物に行くんだけど一緒にどうかなって思って」

 

【鷹志】

「そうなんだ。うん、いいよ。すぐに支度するから」

 

【小鳩】

「渡来さんはどうしよう?」

 

【鷹志】

「うーん。無理に起こしちゃうのも悪いから寝かせておいてあげよう。叔父さんたちに伝えておけば大丈夫だろうし」

 

【小鳩】

「そうだね。でも、渡来さんと一緒に買い物行きたかったなあ」

 

【鷹志】

「もしかしたら起きてるかもしれないから部屋を覗いてみるよ」

 

【鷹志】

「まだ寝てるかな」

 

 渡来さんの様子を確認してから部屋を出ようとすると

 

【明日香】

「そこで何をしてる?」

 

【鷹志】

「起きてたんだ。いや、ちょっとねこれから小鳩と買い物に行ってくるんだけど」

 

【明日香】

「えっ……て言うことは私はこの家に一人でお留守番してろってこと?」

 

【鷹志】

「小鳩は渡来さんと一緒に行きたいって行ったよ」

 

【明日香】

「そうなの? それじゃあ私も支度するから待ってて」

 

【鷹志】

「じゃあ、準備ができるまで外で待ってるよ」

 

 僕は一旦部屋の外に出て渡来さんを待つことにした。

 

【明日香】

「おまたせ。ん、小鳩ちゃんは?」

 

【鷹志】

「下で待ってるよ。それじゃあ行こうか」

 

【鷹志】

「じゃあ、行ってきます」

 

【叔父さん】

「ああ、行っておいで」

 

 叔父さんたちに見送られて羽田家を出る。

 

【鷹志】

「こういうのもいいものだよね」

 

【明日香】

「えっ……?」

 

【鷹志】

「買い物だけどこうやって小鳩と渡来さんと一緒に出かけることができるのはすごく嬉しいんだ」

 

【小鳩】

「私もかな……今日は渡来さんといっぱいお話したいですし」

 

【明日香】

「私もだよ。小鳩ちゃんとゆっくり話したいと思ったの」

 

【鷹志】

「ははは」

 

【明日香】

「おい、何がおかしい」

 

【鷹志】

「いやあ。だってこんなにも嬉しいことがあるんだなって。渡来さんと小鳩本当に仲良しなんだね」

 

【小鳩】

「仲良し? うん! そうだね」

 

 そういうと小鳩は隣にいる渡来さんと楽しそうにお喋りを始めた。

 

 その様子をとても微笑ましく感じた僕はニコニコとしていた。

 

【小鳩】

「今日はお買いものに付き合ってくれてありがとう」

 

【鷹志】

「うん。僕も小鳩と一緒に買い物できて嬉しかったよ」

 

【明日香】

「私も楽しかったよ~」

 

【鷹志】

「それじゃあ、渡来さんを家まで送ってくれるよ」

 

 外で待っている渡来さんを家まで送るために羽田家を出た。

 

【鷹志】

「どうだった今日は?」

 

【明日香】

「そうだね。楽しかったかなー」

 

【鷹志】

「良かったね。こういうのも悪くない気がするよ」

 

【鷹志】

「叔父さんたちもすごく嬉しそうにしてたし、また家に来てよ。渡来さんはもう羽田家の一員でもあるんだから」

 

【明日香】

「うん。近いうちにまたお邪魔させてもらうね」

 

 そして、僕らは自然と手を繋ぐ。人通りも少ないから手をつないでいても周囲に気を遣わなくていいんだ。

 

【鷹志】

「今度は僕が渡来さんの家に泊まりに行く番かな?」

 

【明日香】

「うっ、今はいいかな」

 

【鷹志】

「どうして? 何度も行ってるじゃない」

 

【明日香】

「ちゃんと掃除しないといけないの。彼氏を汚れた部屋に泊めるわけにはいかないから」

 

 掃除って……渡来さんの部屋はいつも綺麗に掃除されてると思うんだけどなあ。

 

 僕の何も無い部屋よりも生活感を感じることができて好きなんだけどね。

 

【明日香】

「楽しい時間ってあっという間に過ぎていくよね」

 

【鷹志】

「そうだね。でも、僕たちはいつだって楽しい時間を共有してると感じてるよ。些細なことでも渡来さんと一緒なら何倍だって楽しくなるんだ」

 

【明日香】

「そうなんだ」

 

【鷹志】

「うん。だからこそ、この毎日を大切にしたいんだよね」

 

【明日香】

「私もかな。羽田君と過ごす毎日はすごく大切だよ」

 

 ──お互いに幸せを共有できる関係。

 

 小さなことでも彼女が見せてくれる色はとても綺麗で眩しい。僕はいつだって違った色を見ることができるのだろう。そんな事を話しながら晴れた空を見上げた。

 

 今日は一人で柳木原まで来ていた。最近は時間があればここに寄ることも増えてきた。

 

 新作ゲームを買うのが目的だけどたまにはこの街をじっくりと歩いて見るものいいかもしれない。

 

 そしていつもの場所、アレキサンダーへと自然と足を運んでいた。

 

【日和子】

「いらっしゃいませ。って、羽田先輩」

 

【鷹志】

「こんにちは玉泉さん」

 

【日和子】

「すぐに席までご案内します」

 

【鷹志】

「大丈夫だよ。カウンターのところが空いてるしそこに座るよ」

 

【日和子】

「はあ。そうですか」

 

【日和子】

「では。どうぞごゆっくり」

 

 玉泉さんは表情を変えずに仕事に戻っていく。さすがキンキンクールビューティーだね。

 

【狩男】

「おお! タカシじゃないか。お前が来るのを待ってたぞ」

 

 カウンター席を選んだのは軽部店長と話がしたかったからでもある。

 

【鷹志】

「こんにちは。それでこの間言っていた企画のことはどうなりましたか?」

 

【狩男】

「それがだな。こちらでも二人美女を確保できることになったんだ」

 

【鷹志】

「それってもしかして」

 

【狩男】

「みなまで言うな。とにかく楽しみにしておいてくれ」

 

【鷹志】

「おれの方でも誰か連れて来れればいいんですが……」

 

【狩男】

「その件なんだが」

 

【英里子】

「おっ、羽田じゃん何してんだよ」

 

【鷹志】

「こんにちは。日野さんは今日はお休みですか?」

 

【英里子】

「そう。羽田もさー店長なんかと話してたら変な影響受けるかもしれないぞ」

 

【狩男】

「おいおい何を言うんだ。俺たちは今男同士の大事な話をしている最中だぞ」

 

 軽部店長は笑顔で指を立てながら日野さんにそう答えると僕が頼んだコーヒーを作り始めた。

 

【英里子】

「そういえばさ、お前最近うちで働かないよな?」

 

【鷹志】

「今はお金に少しだけ余裕がありますからでも、ここで働くのはいい経験になりましたよ」

 

【英里子】

「そしたら、また働けばいいじゃんか。お前今は確か自宅学習の期間だよな。家で勉強ばっかりだと肩こるぞ」

 

【鷹志】

「そうですね。機会があればお願いしたいですね」

 

【英里子】

「実はさお前を目当てに通ってきてる客がいるんだよね」

 

【鷹志】

「おれをですか?」

 

【英里子】

「そそ、この間なんかさ。あっ、たまひよもその人の事知ってるみたいだし聞いてみようか」

 

 そう言うと日野さんは立ち上がってもうすぐ休憩時間になる玉泉さんと何か話している。

 

【英里子】

「時間もちょうどいいしたまひよも会話に混ざりなって」

 

【日和子】

「はあ。それじゃあ失礼します」

 

 控えめに席に座る玉泉さんこうして見ると彼女はとても素敵な女の子だってわかる。

 

 整った顔立ちに眼鏡が大人の雰囲気を感じさせる。

 

 クールビューティーって言葉が一番よく似合う。そう、それだ。

 

【英里子】

「羽田の事を目当てに来るお客さんってどんな人だっけ?」

 

【日和子】

「大人しい感じの子ですね。いつもあそこの席で本を読んでます」

 

 玉泉さんはその彼女が座っている席を指差した。へえー、そんな子がいるんだ。

 

【英里子】

「うちに来るようになったのはまだ羽田が働いてた時だよな」

 

【日和子】

「ええ、羽田先輩が働いてないのが分かったのか最近はあまり来てないですよ」

 

【鷹志】

「そうなんだ。そのお客さんはおれに何か用でもあるのかなあ?」

 

 頭の中で色々考えたけど僕がここで働いていたことを知っている人は限られてるし、その中に玉泉さんたちが言うような子はいなかった気がする。

 

【英里子】

「あれじゃね。これは私の予想だけどあれは羽田の元カノとかじゃないか?」

 

【日和子】

「そうなんですか?」

 

【鷹志】

「違うよ……おれが今まで付き合った事がある女の子は一人もいないから」

 

【狩男】

「もしや、鷹志と俺を見間違えたかもしれないぞ。俺なら全世界に何億のファンがいてもおかしくはないからな」

 

【二人】

「それはないでしょ」

 

【狩男】

「二人同時に否定!?」

 

【鷹志】

「軽部店長はすごく面白くて楽しい人だからきっとファンも多いんだろうなあ」

 

【英里子】

「お前それ本気で言ってるのか?」

 

【狩男】

「ハッハッハ! 俺の魅力を理解できるとは成長したなタカシ」

 

 楽しいなあ。千歳くんはこんな楽しい場所で毎日を過ごしていたんだね。

 

【英里子】

「店長と羽田だったら羽田の方が数倍マシだよな」

 

【日和子】

「でも、羽田先輩ってかなり天然ですよね」

 

【鷹志】

「そうなのかな? 天然っていうのがどういうものかよく分からないんだけど」

 

【英里子】

「渡来さんとのやりとりとか見てるとねそう感じるんだよ」

 

【日和子】

「私はあまり見たことないんですけどどういう感じなんですか?」

 

【英里子】

「なんていうかねー見れば分かるよ」

 

 女の子二人の会話に入るタイミングを見計らう。

 

 うーん、どうやら僕にはここで話題を変えられるようなボキャブラリーはなさそうだ。

 

 それから軽部店長と打ち合わせをしてから店を出る。

 

 外はもう夜になっていて静かな群青色の空が広がっていた。

 

 その日僕がゲームを買うのを忘れたのは言うまでもない。

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