Winter Trivial  Story   作:南雲悠介

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京たちとのライブを楽しんだ鷹志は明日香と一緒に柳木原へ行くことに
そこで春恵や鳴との再会して新しいことに挑戦を始めるのだった


懐かしい再会

 Episode:Takashi

 

 羽田鷹志 編

 

 Chapter:Takashi Haneda

 

 Wing of Hawk

 

 

 

【鷹志】

「おはよう」

 

【小鳩】

「お兄ちゃんおはよう」

 

 いつもよりも早い時間に起きてテレビを見ると最近人気のアニメが放送されている。

 

 今日は山科さんと一緒にライブに行くんだ。渡来さんも来るみたいだし楽しい時間になればいいなあ。

 

【小鳩】

「この曲いいよね」

 

【鷹志】

「そうだね。元々は今やってるアニメの主題歌なんだけど、普通に聞いてもすごくいいと思うよ」

 

 テレビではちょうど今、人気のアニメの曲が流れていて歌ってる歌手の人の特集番組がやっている。

 

 子ども向けの内容なのだけど世界観や設定がすごく面白く大人にも人気のある作品だ。

 

 うん、僕は普通に好きかな。

 

 

【小鳩】

「CD出たら買おうかな」

 

【鷹志】

「僕もネットで配信されたら買うつもりだよ。小鳩が音楽プレイヤーを持っているなら入れてあげるけど」

 

【小鳩】

「私、そういうの持ってない……」

 

【鷹志】

「だったら僕が買ってあげるよ。お金には余裕があるから」

 

【小鳩】

「えっ……? でも」

 

【鷹志】

「気にしなくていいよ。いつも家で聴いてばかりいるでしょ? 音楽が外で聴けるようになったらきっと楽しいよ」

 

 柳木原の電気店をいくつか見て回ったこともあってそういう情報には詳しい。小鳩にちょうどいい感じのがあった気がする。

 

【鷹志】

「今度一緒に買いに行こうか」

 

【小鳩】

「うん!」

 

 話をしているうちにそろそろいい時間になってきた。僕は朝ごはんを食べて家を出る。

 

 外はまだまだ寒いけど晴れやかな空が広がっていて今日もいい朝だ。

 

【鷹志】

「おはよう山科さん」

 

 山科さんは音楽を聴いてるみたいだ。僕は彼女に聞こえるくらいの声で挨拶をする。

 

【京】

「……? 羽田君」

 

【鷹志】

「少し早かったかな? 今日は誘ってくれてありがとう」

 

【京】

「渡来さんと一緒じゃなかったの?」

 

【鷹志】

「うん。先に行ってていいって言うメールだけはもらった」

 

 僕は山科さんと渡来さんが来るまで待っていることにした。山科さんとふたりっきりで話すのは随分と久しぶりだ。

 

【京】

「そういえば羽田君はこのバンドは知ってるんだっけ?」

 

【鷹志】

「知ってるよ。ネットで結構話題になってるし、アニメの主題歌も歌ってるよね」

 

【京】

「そう、元々はアニメの主題歌を歌うようなバンドじゃなかったんだけどメンバーの一人がそのアニメのファンでどうしても歌いたいって他のメンバーを説得したみたいだよ」

 

【鷹志】

「あの曲はすごくアニメの世界観にも合ってるいい曲だと思うよ。おれ、CDが発売されたら買うよ」

 

【京】

「私もかな……でも、アニメの方はまだ見てないんだよね」

 

【鷹志】

「そうなんだ。面白いからアニメの方もオススメだよ、特に主人公の設定がすごくユニークでね」

 

【京】

「何時ごろ放送してるんだっけ?」

 

【鷹志】

「深夜1時。結構遅い時間だよね」

 

 羽田家には録画機が無いからリアルタイムで視聴している。成田くんだった時の僕なら夜の時間を過ごしていたからその時間帯に起きているのは辛くない。

 

【京】

「私は体調が悪いとすぐに寝ちゃうから深夜アニメは見ないかな。たまに調子がいい時はパソコンばっかりやってるし」

 

【鷹志】

「おれも始まる時間まで起きている時はネットで色々調べてたりしてるかな。たまにそのまま寝ちゃうことあるけどね」

 

【京】

「羽田君らしいね」

 

 いいなあ、こういうの。僕は友達との些細な会話を楽しみ渡来さんを待った。

 

【明日香】

「お待たせー」

 

【鷹志】

「おはよう。時間よりも早いくらいだよ」

 

 僕は時計で時間を確認した。渡来さんはきっちり5分前に集合場所まで来てくれた。

 

【京】

「おはよう。今日は忙しいのに誘っちゃってごめん」

 

【明日香】

「別に~まあ、私もカレシが心配だったしね」

 

【鷹志】

「心配? 何を心配することがあるの」

 

【明日香】

「これだよ……山科どう思う?」

 

【京】

「うーん。でも、これが羽田君だと思うけど」

 

【明日香】

「確かに」

 

 僕たちは笑い合いながらライブ会場に向かう。世界が平和でありますように

 

【明日香】

「結構人多いねー」

 

【鷹志】

「人気のバンドだからね仕方ないよ。渡来さんチケットは忘れてない?」

 

【明日香】

「だいじょうぶ」

 

 渡来さんは財布の中からチケットを取り出してみせた。僕もポケットに入れてあるチケットを出す。

 

【鷹志】

「誰かひとり入れないなんてことにならないでほんとうに良かった」

 

 開演までまだしばらく時間がある。こうやって待っているのもなんだか楽しい。

 

【明日香】

「そういえば山科と羽田君ってさ仲いいよね」

 

【京】

「えっ……」

 

【鷹志】

「そうなのかな?」

 

 山科さんとは色々あった。恋人の事で悩んでいた彼女に手を差しのべてあげたこと、泣いていた彼女を抱きしめてあげたことその記憶が蘇ってくる。

 

 あの時、僕が彼女の力になりたいって言った言葉は嘘じゃない。

 

【鷹志】

「山科さんは大切な友達だから大事にしたいと思ってるんだ」

 

【明日香】

「ふーん」

 

【京】

「私は今日は渡来さんと羽田君にも楽しんでほしいって思ってるんだ」

 

【明日香】

「そうだね、こうやって皆で出かけるのも悪くないし。先輩も来れば良かったのに」

 

【鷹志】

「針生さんは今日は化石の発掘に行ってるみたいだよ。なんでも新種の生物が発見できるかもしれないって」

 

【明日香】

「先輩、次は発掘にハマってるんだ……」

 

【鷹志】

「針生さんはいつもあくなき探究心でロマンを求めるからね。かっこいいよ」

 

 ロックでかっこいい針生さん。世の中の様々な出来事に関心を持てる広い心と感性を持ってる。

 

 僕もああいう風な人間になれたらいいなあと思う。

 

【京】

「羽田君はしょっちゅう針生さんと一緒に出かけてるよね」

 

【鷹志】

「うん。僕は針生さんの用事に付き合う形なんだけどね、ふたりで色々な世界を見ているんだ」

 

【鷹志】

「針生さんは感性が豊かだから色んな事を楽しめるんだ」

 

【明日香】

「う、羽田君まで先輩の影響を受け始めてる」

 

【京】

「実は渡来さんといる時間よりも一緒にいる時間が長かったりして」

 

【明日香】

「どうかなーでも、二人だけで何をやってるかは気になる」

 

【鷹志】

「別に普通だと思うけど……」

 

【京】

「あ、そろそろ入場始まるよ」

 

 ライブ会場の入口もざわざわ騒がしくなってきた。僕たちは人の波に合わせるように会場に吸い込まれていく。

 

 さすがは人気の歌手のライブだ、外にいてもすごい熱気を感じることができる。

 

【明日香】

「すごい熱気だね」

 

【鷹志】

「何か言った?」

 

【明日香】

「すごい熱気だって言ったの」

 

 ライブの音で声がかき消されていたから渡来さんは声が聞こえるほど近くまで寄ってきた。

 

 顔が近いドキドキする。

 

 会場全体がひとつになってみんなで盛り上がる。こういう光景も悪くない気がする。

 

 僕たちはライブを最後まで楽しんだ。

 

 

【明日香】

「楽しかったね」

 

【鷹志】

「そうだね」

 

 僕たちは柳木原に新しくできた喫茶店で一息つく。前にテレビで特集が組まれるほど人気のお店らしい

 

【京】

「やっぱり生の音声はいいよね」

 

【鷹志】

「うん、本当に来て良かったと思うよ。山科さん誘ってくれてありがとう」

 

【京】

「どういたしまして」

 

【明日香】

「これからどうする?」

 

【京】

「私は帰るけど羽田君と渡来さんはどこかに寄っていくの?」

 

【鷹志】

「おれはちょっと買いたい本があるから本屋に行こうと考えてるよ」

 

【明日香】

「うーん、私は特に予定もないしなぁ。羽田君の買い物に付き合うのも悪くないかも」

 

 それぞれの目的も決まったし僕たちは喫茶店を出た。

 

 山科さんと別れて柳木原に向かう電車に乗る。相変わらず窮屈だけど、昔ほど嫌じゃない。

 

【鷹志】

「渡来さんは本当に僕の用事に付き合ってよかったの?」

 

【明日香】

「別にいいよ。だっていつも私の用事にも付き合ってもらってるじゃん」

 

【鷹志】

「勉強用の本を何冊か買おうかな」

 

【明日香】

「それって病気のためのやつ?」

 

【鷹志】

「そうだよ」

 

 入院する前にしっかりと知識を得ておきたいと考えてるんだ。少しでもスムーズに治療に専念することができるように。

 

 

【鷹志】

「じゃあ僕は本を買ってくるから渡来さんはゆっくり見て回ってていいから」

 

【明日香】

「おっけー」

 

 渡来さんはファッション雑誌の置かれているコーナーの方に向かう。

 

 さて、お目当ての本を探すことにしよう。

 

【鷹志】

「ん?」

 

『第21回祥玄社文芸賞 入選!』

 

 僕は自然とそのコーナーに足を向けてみた。

 

 細川玉木の最新作『いつだってプリズム』は一年に十度の重版がかかる大ヒット作でネットでの評判も良好だ。

 

 もちろん僕も2冊買って1冊を小鳩に勧めた。

 

 今では小鳩もすっかり細川玉木先生のファンだ。皆を幸せにできる細川先生は素敵だなあ。

 

 今度本人に会ったら改めて感想を言っておこう。

 

【明日香】

「もういいの?」

 

【鷹志】

「うん、買いたかった本はもう買えたから」

 

【鷹志】

「まだ時間があるけどどこかに寄っていく?」

 

【明日香】

「どうしようかなあ」

 

【鳴】

「あ、ドラさんじゃないですか!」

 

【鷹志】

「やあ、鳳さん」

 

【明日香】

「こんにちは」

 

【鳴】

「こんにちはー」

 

【鷹志】

「鳳さんも何か本を買うの?」

 

【鳴】

「そうですねー私は『いつだってプリズム』を買いに来たんです」

 

【鷹志】

「そうなんだ、あれはすごくいい話だからオススメするよ」

 

【鳴】

「実はですねーもう読んだんです。今回のは知り合いに勧めたくて買いに来たんです」

 

【鷹志】

「なるほど、僕も妹に一冊買ってあげたよ」

 

【鳴】

「キューちゃんにですか?」

 

【鷹志】

「うん。今では小鳩もすっかり細川玉木先生のファンだよ」

 

【鳴】

「それはよかったです。じゃあ、私はこれで」

 

【鷹志】

「時間取らせちゃってごめんね。また柳木原で会う機会があればいつでも声をかけてよ」

 

【鳴】

「はい! ではドラさんもデート楽しんでくださいねー」

 

 いつも元気な鳳さん。

 

 小鳩とも仲良くしてくれてるみたいだから今度ちゃんとお礼を言わないといけないなあ。

 

【明日香】

「羽田君は友達多いよね」

 

【鷹志】

「そうだね。千歳くんや成田くんの友達も今では僕の友達だから数は多いかもね」

 

 前までの僕には考えられないほど愉快な友達たちに囲まれている。

 

 その出会いは僕に様々な“再会”を与えてくれた。

 

 友達が少なかった僕が今では両手で数えても足りないくらいの友達がいる。

 

 柳木原でそんな皆と出会うことをいつも楽しみにしているんだ。

 

 

【鷹志】

「だからこそ僕は今のこの瞬間を大切にしたいと思っているんだ。もちろんそう思えるようになった一番の理由は渡来さんだけどね」

 

 彼女が僕をこの世界にとどまらせてくれた。グレタガルドを認めてくれた。僕が今こうしていられているのは渡来さんのおかげだから。

 

【明日香】

「私も羽田君みたいな想像力が豊かな人になりたい」

 

【鷹志】

「渡来さんは変わってるね。僕みたいになりたいなんて」

 

【明日香】

「そう? 私も羽田君くらい感性が豊かならいいなと思ってるんだ」

 

【鷹志】

「自分ではそんなに想像力があるとは思えないんだけどね、うん、まあ、普通かな」

 

 自分がの想像力がどのくらい豊かなのかは分からない。でも、渡来さんと付き合うようになってから今まで以上に色んなことに目を向けられるようになったんだ。

 

【鷹志】

「でも、感性が豊かになったのは針生さんのおかげでもあるんだ」

 

【明日香】

「羽田君先輩に結構影響を受けてるよね」

 

【鷹志】

「そうだね、針生さんは本当にロックでかっこいい人だよ。いつも探究心をもって世界の色んなことに興味を持ってるから僕の知らない分野のことも知ることができるんだ」

 

【鷹志】

「色んな知識を頭に入れることは大事だよね」

 

【明日香】

「それと羽田君は誰にでも平等に接することができるのはすごいと思う」

 

【明日香】

「私だったらやっぱり苦手な人とは話すのは苦労するしそういうのが態度に出ちゃうからなー」

 

【明日香】

「前にも言ったと思うけど私って基本的に人嫌いだから、友達もいないし」

 

【鷹志】

「人付き合いって難しいよね。相手のことを考えて言葉を選んだりしないといけないし」

 

 人付き合いの難しさは一番理解しているつもりだ。前の僕は相手を不快にさせるようなことしかしてなかっただろう。

 

 空気が読めていないことが多くて迷惑に思われていただろう。

 

 だけど、今はたくさんの人から感謝の言葉を言われたり皆と笑顔で会話できるようになった。

 

【鷹志】

「少し休憩しようか?」

 

 僕たちはおしゃれなカフェに入ってひと休み。ずっと歩きっぱなしだったから渡来さんも疲れただろうし。

 

【鷹志】

「疲れたでしょう? ここで少し休んでいこうよ」

 

【明日香】

「そうだね。そういえばこのお店って最近新しくオープンしたみたいだよ」

 

 確かに店の中は結構な人がいる。新しくオープンした店に興味を持つのは他の人も同じみたいだ。

 

 僕たちは空いてる席に座ってからメニューを開いた。

 

【鷹志】

「ちょっとトイレに行ってくるからゆっくり選んでて」

 

 渡来を席に残して僕はお手洗いに向かった。

 

【鷹志】

「ふぅ……」

 

 用を足しハンカチで手を拭きながら席に戻る。

 

【鷹志】

「ん?」

 

【客】

「ねえねえ彼女ひとりで何してんの?」

 

【明日香】

「ごめんなさい。人を待ってるんです」

 

 あれはナンパだろう。渡来さんは綺麗だから声をかけたくなる気持ちは分からなくはないけど……

 

 僕は急ぎ足で席に戻った。

 

 

【鷹志】

「おまたせ」

 

【明日香】

「遅いよ。私はメニュー決まったよ」

 

【客】

「え? 彼氏持ち?」

 

【鷹志】

「まだ何か?」

 

【客】

「い、いや何でも……」

 

 男の人は自分の席に戻っていく。けど、彼は店の中にいる他のお客にも注目を集めていた。

 

【鷹志】

「ごめん……僕が遅くなったから」

 

【明日香】

「そんなに遅くはなかったよ。て言うか普通こんなところでナンパなんてするかなあ」

 

【明日香】

「ああいう男はモテないね。うん、断言してもいい」

 

【鷹志】

「あはは」

 

 渡来さんみたいな綺麗な人を見かけたら誰だって声をかけたくはなるんだろうけど、こんな人目のあるところで声をかけるほどの勇気が僕にはない。

 

【明日香】

「彼氏がいるって説明しようとしてたところに羽田君が戻ってきてくれて良かった」

 

【鷹志】

「ちょうど席に戻ろうとしてたからタイミングは良かったみたいだね」

 

【明日香】

「ホント早く戻ってきてくれてよかったよ」

 

【明日香】

「羽田君をナンパするような女子がいたら私がガツンと言ってあげるよ」

 

【鷹志】

「僕に声をかけてくるような女の子はいないと思うけど」

 

【明日香】

「羽田君がまだ気がついてないだけだよ」

 

 って渡来さんは言うけどそうなのかなあ? 

 

 女の子にモテたことなんて今まで一度もない。千歳君たちと統合してからは女の子の知り合いも増えてきたけど。

 

【鷹志】

「そろそろ行こうか?」

 

 僕たちはカフェを出て歩き始める。もう外は夕方になっていて茜色が空を包んでいた。

 

 千歳くんが好きだったこの茜色を見ていると彼の笑顔が思い浮かんできた。

 

 

【鷹志】

「僕はこれから知り合いのところをいくつか回るけど渡来さんはどうする?」

 

【明日香】

「せっかくだから羽田君の予定に付き合うのも悪くないかな」

 

【鷹志】

「それじゃあ行こうか」

 

 僕たちはいつもお世話になっている人たちに会うために柳木原へ向かった。

 

 

【春恵】

「おや、ドラじゃないか」

 

【鷹志】

「こんばんは春日さん」

 

【春恵】

「春日さんなんて他人行儀だねーパルでいいって何度も言ってるだろ」

 

【鷹志】

「すみません。その呼び方にはまだ慣れなくて」

 

【春恵】

「たまには顔を出してやりなよ皆よろこぶよ」

 

【鷹志】

「そうですね。時間がある限りは寄らせてもらいます」

 

【春恵】

「渡来さんも元気にしてたかい?」

 

【明日香】

「そうですね。まあ、元気です」

 

【鷹志】

「どうしたの渡来さん。春日さんと会うのに緊張してるの?」

 

【明日香】

「そういうわけじゃないんだけど」

 

【春恵】

「少ししたら鳴坊も来るしそれまではいるんだろ?」

 

【鷹志】

「鳳さんとはさっき本屋で会いましたよ」

 

【春恵】

「そうかい。この間鳴がドラに会って色々話をしたって嬉しそうに言ってたよ」

 

【鷹志】

「そうなんですね。実は結構会ってたりするんです」

 

【春恵】

「あたしらの知らない人の知り合いも結構いたりするんだろ?」

 

【鷹志】

「そうですね。でも、アレキサンダーの皆とかは春日さんも知ってますよね」

 

【春恵】

「あそこの連中にはたまに会うくらいさね。前に軽部の兄さんには世話になったことがあってね」

 

 春日さんは前に軽部店長にお世話になって、アレキサンダーの制服も着たことがあるみたい。

 

 でも、春日さんがあの制服を着ているところが想像できない……

 

【春恵】

「そうだ、渡来さんは最近どうなんだい?」

 

【明日香】

「えっ……? そうですね順調です」

 

 渡来さんは急に話題を振られてとっさにいつもの笑顔を向けた。

 

【春恵】

「ドラが何かしたらすぐに言うんだよ。お姉さんは女の味方だからね」

 

【明日香】

「そうですねーなにかあればすぐに相談します」

 

【鷹志】

「あはは」

 

 渡来さんは人付き合いが苦手だって言ってたけれど春日さんやYFBの皆ともうまく接することができている。

 

 お互い前と比べてたくさんの知り合いができた。

 

【プラチナ】

「ああ! ドラさん久しぶりですね」

 

【鷹志】

「こんばんはプラチナさん」

 

【春恵】

「おおプラチナも来たのかい。仕事は終わったのかい?」

 

【プラチナ】

「ええ、今日は軽い打ち合わせだけでしたので」

 

 プラチナさんは今小さな劇団でレッスンをしながら舞台俳優を目指している。

 

 最初はドラマのエキストラの仕事がほとんどだったのらしいけど、最近では脇役も演じるほどだ。

 

 新しい仕事を毎日頑張っているみたいだ。

 

 

【プラチナ】

「ああそうだ。これ今度僕が出るドラマなんですけど」

 

 プラチナさんはカバンからドラマのポスターを出して見せてくれた。

 

 若手の俳優さんもたくさん出演するみたいでキャストの中に自分の名前が書かれていることをアピールしている。

 

【鷹志】

「でも、すごいなあプラチナさん。このドラマってテレビでも宣伝されてますよね」

 

【プラチナ】

「いやー、実はオーディションはガヤで受けたんですけど監督が思った以上に僕の演技を気に入ってくれたみたいですぐに合格したんです」

 

【春恵】

「チョイ役でもすごいじゃないか! んで、このドラマはいつから始まるんだい?」

 

【プラチナ】

「4月に始まる予定です。今は撮影の真っ最中です」

 

【春恵】

「そうかい。けど、身近にこんな有名人ができて嬉しいよ」

 

【プラチナ】

「まあ、そんなに重要な役ってわけじゃないんですけどね。あ、ドラさんも期待しててください」

 

【鷹志】

「楽しみにしてますね」

 

【プラチナ】

「そうだ今度はドラさんの彼女さんのことを教えてくださいよ」

 

【鷹志】

「渡来さんのことですか?」

 

【プラチナ】

「僕からしてみたら一体どうすればこんな綺麗な人と知りあえるのかが気になりますけどね」

 

【鷹志】

「渡来さんはクラスメートでちょっと色々あったんです」

 

 渡来さんとは今までたくさんのことがあったのだけど、その一つ一つが僕にとっては大切な思い出でもある。

 

 プラチナさんと春日さんに渡来さんとの出会いを色々と話した。こういう話を誰かに言うのはあまり好きではないけれど、春日さんたちになら話しても大丈夫だろう。

 

【プラチナ】

「おっと、時間だ。ドラさんと彼女さんとの馴れ初めはこんどじっくり聞くことにしましょう」

 

【春恵】

「なんだい今日は仕事は終わったんじゃなかったのかい?」

 

【プラチナ】

「そうなんですけど、このあと仕事仲間との飲み会があるんです」

 

【プラチナ】

「同僚とのコミュニケーションは大事ですしねー」

 

【プラチナ】

「それじゃあもう行かないと」

 

 そう言うとプラチナさんは夜の街に消えていった。皆充実した毎日を過ごしてるんだな。

 

 ここはとてものどかな国で、心のやさしいひとたちが暮らしている。僕もその素敵な人たちに囲まれて幸せな時間を過ごしているんだ。

 

【鷹志】

「おれたちもそろそろ帰ります。また寄らせてもらいますね」

 

【春恵】

「あいよ、それじゃあサービスしとくよ」

 

 寒空の下焼きたてのクレープを頬張る。ふたりで並んで歩く街並みはいつもと変わらないでいた。

 

 この幸せな時間が少しでも続いていきますようにと夜の空に願った。

 

 世界が平和でありますように

 

 

【鷹志】

「ふぅ……」

 

 風呂上がりのほてった体を冷やさないように暖かいココアを飲む。

 

 パソコンを立ち上げて小説の評価をしているサイトへアクセスする。

 

 玉泉さんの新作“いつだってプリズム”がスレッドで話題になっている。

 

 僕も読んだ感想を掲示板に書き込んでいく。

 

 僕個人は細川玉木先生の作品をすごく気に入っている。三作目が発売された時は真っ先に書店に足を運んだ。

 

 アレキサンダーに行った時は日野さんや望月さんと一緒に“いつだってプリズム”の良さを語り合った。

 

 この本がたくさんの人たちに読まれると嬉しいな。たくさんの人を笑顔にできる本だと思う。

 

【鷹志】

「そういえば今度小鳩と一緒に買い物をするんだっけ」

 

 小鳩が携帯音楽プレイヤーを持ってないみたいだから一緒に買いにいくことにした。

 

 いつ頃がいいだろうか? ちょっと聞いてこよう。

 

【鷹志】

「小鳩起きてる?」

 

【小鳩】

「どしたの?」

 

【鷹志】

「今朝の音楽プレイヤーを買いに行く件なんだけどいつ頃がいい?」

 

【小鳩】

「うーん。タカシお兄ちゃんが忙しくない日でいいよ」

 

【鷹志】

「そう? なら明日行こうか」

 

【小鳩】

「明日は予定がないの?」

 

【鷹志】

「何もないよ。この間も渡来さんと一緒に買い物をしたけど今度は二人だけで行こう」

 

【小鳩】

「うん。分かった」

 

 

 明日の予定を決めてから小鳩の部屋を出た。ふたりだけで買い物をするなんて久しぶりでなんだか楽しみだ。

 

 部屋に戻って今日の分の勉強を終える。明日は早めに起きないといけないなあ。

 

 目覚ましのアラームを設定したから布団に入った。

 

 おやすみ。また明日

 

 

【鷹志】

「おはよう」

 

【小鳩】

「タカシお兄ちゃんおはよう」

 

【鷹志】

「支度はできてる?」

 

 

 電車に乗って柳木原へこうやって出かけるのも悪くない気がする。

 

【鷹志】

「もう少しこっちによらないと危ないよ」

 

【小鳩】

「うん」

 

 満員電車の窮屈さを妹に感じさせなければいいのだけど、こればっかりは僕でもどうすることはできない。

 

 小鳩を席に座らせて僕はつり革をつかんだ。隣にいるおじさんの汗がすごいな……

 

 そんなことを考えながら電車にゆられて目的地に着くのを待った。

 

 

【車内アナウンス】

「終点ー、柳木原です。お忘れ物のないようご注意ください」

 

【鷹志】

「忘れ物はない?」

 

【小鳩】

「大丈夫。タカシお兄ちゃんは心配しすぎだよ」

 

【鷹志】

「そうかなあ? でも、小鳩のことを考えるとついついおせっかいがすぎちゃうんだ」

 

 僕らは並んで改札を出る。小鳩はぎこちない動きで僕の後ろをついてくる。

 

 人が多いからはぐれないようにしないといけない。僕は周囲に目を配らせながら歩いた。

 

 

【鷹志】

「それじゃあ行こうか」

 

 いつも行く馴染みの電気屋まで小鳩を案内する。こうやってふたりで柳木原を歩くのは久しぶりだ。

 

【亜衣】

「あれもしかして隼人君?」

 

【鷹志】

「えっ……?」

 

【鷹志】

「やあ、香田さん。こんにちは」

 

【亜衣】

「隼人君は今日は何してんの?」

 

【鷹志】

「ちょっと買い物をね」

 

【亜衣】

「そうなんだー」

 

 そう言いながら小鳩の方を見る香田さん。

 

【亜衣】

「確か鳴ちゃんの友達のコバッティだっけ?」

 

【小鳩】

「え? はいそうです」

 

【亜衣】

「コバッティは隼人君とどういう関係なん?」

 

【鷹志】

「妹だよ」

 

【亜衣】

「ええ!? それマジで言っての? 隼人君」

 

【鷹志】

「本当だよ。小鳩はおれの妹」

 

【亜衣】

「本当なの?」

 

【小鳩】

「ほ、本当です……」

 

【亜衣】

「へ、へえーそおなんだ」

 

 僕と小鳩の顔を見比べて何かを考えてるみたいだ。香田さんは森里くんから僕たちの事情を少しだけ聞いているらしい。

 

 彼女が好きだった成田隼人は僕だということを理解できているんだろうか? 

 

 

【亜衣】

「コバッティちょっとお兄さん借りてもいいかな?」

 

【小鳩】

「え?」

 

【亜衣】

「少しだけお話がしたいだけなのダメ?」

 

【小鳩】

「す、少しだけなら」

 

【亜衣】

「ありがとー少しだけ借りてくね」

 

 香田さんは小鳩から距離をとってからまずなにを言うのかを考えているようだ。

 

 僕は緊張した表情で彼女をみつめた。

 

 

【亜衣】

「ええっと、隼人君。じゃなかった今は羽田さん? でしたっけ」

 

【亜衣】

「事情はカズ君から聞いたんだーでも、まだ信じられなくて」

 

【鷹志】

「無理もないと思うよ。おれだって今香田さんにどう説明すればいいのか悩んでいたし」

 

【亜衣】

「そうなの?」

 

【鷹志】

「うん。だけど、これだけは言わせてほしい。成田隼人は僕なんだ」

 

【鷹志】

「君が会った彼と今の僕はまったく違うかもしれないでも、僕は彼の分まで生きていくことに決めたんだ。だから、今までどおり成田くんの名前で呼んでくれても構わないよ」

 

 僕の言葉に香田さんは俯いている。悪いことをしちゃっかな? 

 

 彼女の好きだった成田隼人とここにいる羽田鷹志が同じだって思うのは難しいことだろう。

 

 だけど、僕は道を譲ってくれた彼らの分までこの世界で生きていこうと決めた。

 

 それが今の僕にできることじゃないかと思う。

 

 

【亜衣】

「うん。じゃあ、隼人君って呼ぶようにする」

 

【亜衣】

「それに私は隼人君に振られたからいまさら未練がましくつきまとおうなんて考えてないの」

 

【亜衣】

「ただ、今の隼人君にありがとうを言いたくて」

 

【亜衣】

「きゃはは私をふったことを後悔するくらいにいい女になってやるんだー」

 

【鷹志】

「香田さんならきっとなれるよ。ごめん。おれにそんなこという資格はないよね」

 

【亜衣】

「ううん。これで私も気持ちに区切りつけることができたから。それじゃね隼人君、また会ったら亜衣ぽんのほうから積極的に絡みにいくから覚悟しておいてね」

 

 香田さんはそういって元気に走り去っていた。次に会うときは新しい彼女に出会うことができるだろう。

 

 その出会いを楽しみにしておこう。

 

 

【鷹志】

「おまたせ」

 

【小鳩】

「もう話は終わったの?」

 

【鷹志】

「うん」

 

 会話は少しで終わってしまう。小鳩も詮索してこないから無理に香田さんとの会話の内容を話す必要はない。

 

 僕たちは電気屋に入って音楽プレイヤーを探すことに。

 

 

【小鳩】

「色んな種類があるんだね」

 

【鷹志】

「そうだね。小鳩がどのくらいのCDを持っているかは知らないけど曲を入れるのなら容量が多きいほうがいいかもね」

 

【鷹志】

「僕は他のところを見てまわるから小鳩はじっくり選んでいていいよ」

 

【小鳩】

「うん!」

 

 小鳩と別れたパソコンコーナーを見てまわる。

 

 僕の部屋にあるパソコンは叔父さんからもらったものだからそろそろ自分で新しいパソコンを買いたいなあ。

 

 いいものが買いたいけどそういう商品は値段が高くなる。

 

 千歳くんたちの貯金を使うわけにはいかないし僕も本格的にお金を貯めないと。

 

 パソコン以外の電化製品をいくつか見て小鳩のところに戻る。

 

 

【小鳩】

「あ、タカシお兄ちゃん戻ってきた」

 

【鷹志】

「ほしいのは決まった?」

 

【小鳩】

「うん。これにしようかなって」

 

 最近発売された新しい音楽プレイヤーを見せてくれた。

 

 容量も大きいし曲を入れるのも難しくないタイプだからいいかもしれない。

 

【鷹志】

「それじゃあ、それで決まりだね」

 

【鷹志】

「ついでにこれも買っておこう」

 

 専用のケースの一緒に買っておいた。傷を防ぐ仕様になっているから外に持っていくのを躊躇わずに済みそうだ。

 

【小鳩】

「今日はありがとう」

 

【鷹志】

「気にしなくていいよ。僕も小鳩が喜んでくれるのが一番嬉しいからね」

 

 楽しそうにスキップをする小鳩を見ているとこっちまで楽しい気持ちになる。

 

 今まで苦労をかけたぶん小鳩には笑顔でいてほしいんだ。

 

 夕飯を外食で済ませて家に帰り着いた。

 

 

【鷹志】

「さっき買った音楽プレイヤーに曲を入れてあげるよ」

 

 パソコンを経由しないと音楽を入れられないからその作業は僕がやってあげよう。小鳩からCDを借りて作業にとりかかる。

 

 

【鷹志】

「小鳩終わったよ」

 

【小鳩】

「ありがとう」

 

【鷹志】

「他に曲を追加したい時はまた言ってね」

 

 部屋に戻って電気屋で買ったUSBメモリーをパソコンに付ける。

 

 データのバックアップを取る。データを移している最中にメモ帳を開いて文章を打ち込んでいく。

 

 ああ、そうだ。そういえばまだ言っていなかったね。実は最近小説を書いているんだ。

 

 どうしてそんなことを始めたのかというと千歳くんがやっていたことを僕がやるようにしたっていうだけのことなんだ。

 

 編集の米田さんにはまだ正式にお願いしてはいないけど小説がひと段落ついたら自分で原稿を持ち込もうと思っている。

 

 題材は僕たちの物語。何処にでもある、ありふれた物語だ。

 

 まだ人に見せれるほどレベルには達していないけど、完成したらまずは君に見てもらおうかな。

 

 僕の物語を見守ってくれた君にはいつも感謝しているよ。

 

 小説に区切りを付けて明日のことを考える。

 

 前は明日のことを考えることなんてしなかったけど今では明日が来るのが待ち遠しいんだ。

 

 そういえば、針生さんの変わりに出ることに学校の行事のことはどうなるんだろう? 

 

 色々考えているうちに眠気が来る。倒れこむように布団に入り目を閉じた。

 

 おやすみなさい。また明日



















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