Winter Trivial  Story   作:南雲悠介

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 鷹志の誕生日パーティをやるためにアレキサンダーを尋ねる明日香。
 鷹志の友人たちを誘い賑やかな誕生日会を企画するのだった。小鳩から今までの話を聞き、改めてこれからのことを考える。


明日香の決意/未来への思い

 Episode:Takashi

 

 羽田鷹志 編

 

 Chapter:Takashi Haneda

 

 Wing of Hawk

 

 

【明日香】

「こんにちはー」

 

【紀奈子】

「あ、渡来さんだーいらっしゃい」

 

【明日香】

「どうもです」

 

【紀奈子】

「私もついさっき来たところなの。ねえねえ? お話でもしない」

 

【明日香】

「すみません。ちょっと店長さんに用事があるんです」

 

【紀奈子】

「そおなんだ、邪魔してごめんねーまた今度お話しようよ」

 

 私は望月さんと話を終わって店長さんを呼ぶ。アレキサンダーには何回か来てるんだけどひとりで来るのはまだなんか緊張する。

 

【狩男】

「は~いご指名の軽部狩男です」

 

 店長さんは蛎崎うにの決めポーズの 『横ぴぃ──す☆』をしながらやってくる。

 

【狩男】

「どうだ俺の『横ぴぃ──す☆』は? なかなか決まってるだろ」

 

 ヒゲを弄りウインクして言う。や、どうと言われても……

 

【明日香】

「すみません。私そういうのはよく分からないので……」

 

【狩男】

「ハッハッハ! いやー、渡来君は真面目だな。うちの女性陣にも是非とも見習ってほしい」

 

【英里子】

「おいヒゲ聞こえてるからな」

 

【狩男】

「許してチョンマゲ。日野君はノリがイイところが魅力なのに」

 

【狩男】

「それで渡来君は今日は一体なんの用だ?」

 

【明日香】

「この間話をした羽田君のパーティーのことなんですけど」

 

【狩男】

「ああそのことか、安心しろ当日は貸切にして誕生会をやるんだろ? そういうふうで話は進めている」

 

【明日香】

「ありがとうございます。すみません忙しい時期なのに」

 

【狩男】

「なに気にするな。大勢で集まって騒ぐのも悪くないだろ。友達をたくさん連れてこい」

 

【狩男】

「できればピチピチギャルがいいんだがな」

 

 そう言うと店長さんは仕事に戻っていく。やっぱりこのひとは相変わらずだなあ。

 

 それからアレキサンダーを出て次の目的地に向かう。

 

【明日香】

「ええっと朝はいないんだったっけ?」

 

 平和通りに着いてからピンクのミニバンを探す。私が歩く度に男たちが振り返る。もう慣れたけど嫌だなー早く帰りたい。

 

【鳴】

「あ」

 

【明日香】

「あ」

 

 ちょうどいいタイミングで目が合ってしまった。確か彼女は鳳鳴さん。羽田君の友人のひとりでもある。

 

【鳴】

「ええっと、アナタは確かドラさんのー」

 

 羽田君はここではドラさん(ドラキュラが由来らしい)と呼ばれている。

 

 この子鳳鳴さんはあの有名な新進気鋭のイラストレーター鳳凰寺翔の妹みたい。

 

【明日香】

「渡来明日香です。よろしく」

 

 フレンドリー気味に手を差し出すと鳳さんはすこし戸惑った表情をしてから握手してくれた。

 

【鳴】

「今日はドラさんと一緒じゃないんですね」

 

 近くにできたというおしゃれなカフェでお茶をする。たまにはこういうのも悪くない気がする。

 

【明日香】

「うん。私個人で色々とならなくちゃいけないことがあったんだ」

 

【鳴】

「はーそうなんですね」

 

 そう言うと鳳さんは俯いてしまう。ヤバイ、これはすごく気まずい雰囲気……

 

【明日香】

「ねえ鳳さんは友達の誕生日会とかに参加したことはあるの?」

 

 場の空気を変えるために話題を提供することにした。

 

【鳴】

「えっ……? 参加したことは無いですね。私友達少ないですからね」

 

【明日香】

「そうなんだ」

 

 マズイ……失礼なこと聞いちゃったのかな。

 

【明日香】

「もしでいいんだけどさ。鳳さんに羽田君の誕生日会に参加して欲しいんだ」

 

【鳴】

「えっ……私にですか?」

 

【明日香】

「うん。強制じゃないんだけどね。鳳さんも羽田君の友達のひとりでもあるから声をかけてみたの」

 

【鳴】

「私が行ったらお邪魔になりませんか?」

 

【明日香】

「そんなことないよ。私も鳳さんに参加して欲しいって思ってるし羽田君もきっと喜ぶんじゃないかな」

 

【鳴】

「じゃあ、参加してみます」

 

【明日香】

「良かったーありがとうね」

 

【鳴】

「いえいえーこちらこそ誘っていただいて申し訳ないです」

 

【明日香】

「ちょっと馴れ馴れしい感じがするんだけどこれからは鳴ちゃんって呼んでもいいかな?」

 

【鳴】

「!」

 

【鳴】

「イイですイイです! 呼んでいいです! ただ、私みたいなのが渡来さんみたいに素敵なひとに名前で呼んでもらえるのは少しおこがましいですがー」

 

【明日香】

「気にしなくていいよ。羽田君の友達は私の友達でもあるから」

 

【鳴】

「嬉しいです! 今日渡来さんに出会えたことが私とって今年一番のハッピーです」

 

 鳴ちゃんはその場で何度もジャンプして喜んでくれた。チクショウ。なんて可愛い表現なんだ! 私には無理だなー。

 

【鳴】

「じゃあ私も渡来さんのことを名前で呼んでもいいでしょうか?」

 

【明日香】

「もちろん」

 

【鳴】

「ありがとうございます! じゃあ、明日香さんこれからもよろしくお願いします」

 

 お互いに頭を下げ合ってもう一度握手をする。鳴ちゃんの緊張は完全に解けて最初にした握手みたいなぎこちなさは感じなかった。

 

【鳴】

「じゃあ、明日香さんまた逢いましょう」

 

 鳴ちゃんと別れて私は次の目的地に向かうことにした。

 

 誕生日パーティーに誘ったひとには羽田君には内緒にして欲しいとお願いしておいた。

 

 サプライズで驚かせたいからね。小鳩ちゃんから今までの羽田君の誕生日の話を色々と聞いた限りでは羽田君は誰からか誕生日をお祝いしてもらうことなんて無かったみたい。

 

 

【小鳩】

「私はタカシお兄ちゃんにお誕生日のお祝いをしてもらったからお返しがしたいです」

 

【明日香】

「そうだよね。でも、羽田君なら自分の誕生日を忘れているかもしれないよね」

 

【小鳩】

「そうですね……今までは優先することが少なかったですし」

 

【明日香】

「気づかれないように誕生日パーティーをやるのは問題なさそうだよね」

 

【小鳩】

「私もお友達を呼んでもいいですか?」

 

【明日香】

「もちろんだよ。賑やかな方がいいしね。私も何人か知り合いに声はかけるつもりなんだ」

 

【小鳩】

「プレゼントはかぶらないものが良いですよね」

 

【明日香】

「そうだね。その為に小鳩ちゃんが何をあげるのか聞いてもいいかな?」

 

【小鳩】

「私はお財布をあげるつもりです」

 

【明日香】

「お財布ーいいかもね」

 

【小鳩】

「タカシお兄ちゃんが使っているお財布は子どもの頃から使っている奴で結構ボロボロになってるんです」

 

【小鳩】

「最近では私にばっかりプレゼントをくれて自分の物はあまり買ってないんです」

 

【鷹志】

「入院するまでの間小鳩には今までにできなかったことをしてあげたいんだ」

 

 羽田君がそう言っていたのを思い出す。妹想いのいいお兄ちゃんだね。

 

【明日香】

「小鳩ちゃんからのプレゼントなら何でも嬉しいと思うよ」

 

【小鳩】

「そうでしょうか?」

 

【明日香】

「いつも小鳩ちゃんの事を話す羽田君の表情はすごく優しいよ」

 

 羽田君はいつだって誰かの力になりたいと思っていて、ほかのひとのために行動できるところは見習わなきゃいけないなー。

 

【小鳩】

「あの……良かったら少しだけ私の話を聞いてもらえませんか?」

 

【明日香】

「うん、いいよ。何でも聞いてあげるから安心して話してごらん」

 

 小鳩ちゃんは前に会った時に少しだけ話してくれた今までの羽田君との生活のことを話し始めた。

 

【小鳩】

「最初タカシお兄ちゃんに会った時はまだ小さくてその存在を受け入れることができませんでした……」

 

【明日香】

「実は私もあったことあるんだ」

 

【小鳩】

「渡来さんは千歳さんや成田さんに会ったことがあるんですか?」

 

【明日香】

「一度だけね。わしのすけとは少しだけ話をしたことがあるよ。あと目つきの悪い方の羽田君とも」

 

【小鳩】

「そうなんですね……私も千歳さんと成田さんとはあまり話したことがないんです」

 

【小鳩】

「いつも夜遅くまで働いていたみたいで家に帰り着く時間まで起きていることがなかったんです」

 

『千歳鷲介』と『成田隼人』。羽田君の中にいた別の人格。私も会ったことは殆どないけど感じも話し方も羽田君とは別人だった。

 

【小鳩】

「前に千歳さんに言われたことがあるんです。これから自分たちが消えても鷹志お兄ちゃんとふたりだけでやってける? って」

 

【小鳩】

「千歳さんも成田さんも元々牧師さんとの約束で鷹志お兄ちゃんに全部を任せるつもりだったんです」

 

【明日香】

「羽田君からも少しだけ聞いたよ。羽田君の病気を治すためにお金を貯めていてくれたんだよね?」

 

【小鳩】

「私の本当のお兄ちゃんがいなくなって次から次へと別のひとばかりが出てきました……」

 

【小鳩】

「でも、気がついた時には誰もいなくて鷹志お兄ちゃんたちが残ったんです」

 

 小鳩ちゃんの本当のお兄さん『羽田鷹志』君がいなくなってから彼は次々に新しい人格を作っていった。

 

 だけど、結局どの人格も自分の存在意義を見失い消えていき残ったのが羽田君たちだった。

 

 私も前に羽田君から話を聞いて知っていたけど、普通のひとはこんな話をされても素直に受け入れることはできないんじゃないかな? 

 

 私は明日夢のことを思い出した。誰にも言えなかった私だけの友達──

 

 ──そしていつの間にか見えなくなっていた。

 

 だけど明日夢が見えなくなったことで私は成長することができた。この世界は素晴らしいことばかりじゃないんだってわかった。辛いことや苦しいことがあっても前を向いて生きていかなくちゃいけない。

 

 今では羽田君が私に世界の楽しさを教えてくれる。

 

 彼といると素のままの自分でいられる、何も気を遣うことない本当の自分でいることができる。

 

【明日香】

「辛いことだよね……大好きなお兄ちゃんじゃなくて別の人がそこにいるんだもんね。居て当然のひとがそこにいないんだよね」

 

 私だったらそういう状況になったらどうするのだろう? 

 

 ある日羽田君がいなくなって別のひとがそこにいる。

 

 その現実を受け入れることができるんだろうか? 

 

【小鳩】

「お兄ちゃんに会えないのは辛いですけど今は本当のお兄ちゃんと同じくくらい大切なお兄ちゃんがいてくれますから」

 

【明日香】

「良かった。小鳩ちゃんがタカシお兄ちゃんのことをそういうふうに思っていてくれて」

 

【小鳩】

「えっ……?」

 

【明日香】

「前にね羽田君が言ってたの『僕は今まで小鳩に迷惑ばかりかけてきたからこれからは迷惑をかけたくない』って、あとは小鳩ちゃんは自分をもっと大切にしてほしいとも言ってたかな」

 

【明日香】

「前にも言ったことあるよね。これからは私にも手伝わせてって。もう、小鳩ちゃんだけが頑張らなくてもいいんだよ」

 

 私はいつもよりも優しい口調で小鳩ちゃんに語りかける。彼女と話しているとこちらまですごく優しい気持ちになることができる。

 

【明日香】

「今まで本当にありがとうね。そしてこの先は私もいるからね」

 

【小鳩】

「あ、ありがとうございます」

 

【小鳩】

「あの、私からもひとつお願いがあるんですけどいいですか?」

 

【明日香】

「もちろん。なになに渡来さんに言ってごらんよ」

 

【小鳩】

「渡来さんはタカシお兄ちゃんの大切なひとです。だから私にとっても大切なひとになっていくと思うんです」

 

【小鳩】

「だから、これからは渡来さんじゃなくて明日香さんって呼んでもいいですか?」

 

【明日香】

「いい! 小鳩ちゃんなら許すよ。私も名前で呼んでもらえた方が嬉しいしね。なんだったら明日香お姉ちゃんって呼んでくれてもいいよ」

 

【小鳩】

「明日香お姉ちゃんですか」

 

【明日香】

「小鳩ちゃんは羽田君の妹なんだから私にとっても大切な存在で本当の妹みたいに思ってるんだー」

 

【小鳩】

「わ、私も明日香お姉ちゃんみたい素敵なひとが自分のお姉ちゃんになってくれるのはすごく嬉しいです」

 

【明日香】

「私も小鳩ちゃんみたいなかわいい妹が欲しかったんだよね」

 

【小鳩】

「新しい家族が増えて嬉しいなー」

 

【明日香】

「私もだよ」

 

 お互いに電話の向こうで笑い合う。うん、こういうのも悪くない気がする。

 

【明日香】

「それじゃあ今日はありがとうね。それと長電話してごめんね」

 

【小鳩】

「いえいえこちらこそお付き合いしてもらってありがとうございました」

 

【明日香】

「それじゃあおやすみなさい」

 

【小鳩】

「おやすみなさい明日香お姉ちゃん」

 

【明日香】

「明日香お姉ちゃんだって。なんだよ、可愛すぎだぜちくしょう」

 

 私は小鳩ちゃんとの電話の内容を思い出すと自然と頬が緩んだ。やっぱりいいなあ、こういうのって。

 

 柳木原には羽田君の知り合いがたくさんいる。私はあまりひとりでここに来ることはないんだけど彼の知り合いに出会った時は向こうが色々と声をかけてくれる。

 

 人嫌いな私も最近では積極的に行動できるようになれた。これも羽田君のおかげじゃないのかな? 

 

 いつも私に大事なものをくれる羽田君にお礼をしないとね。誕生会をやろうと思ったのもそんな彼に喜んでほしいと思ったから。

 

 パルクレープの春日さんがお店を出すまで時間があるからどこかで少しだけ休んでいこう。

 

 私はこの間羽田君が勧めてくれたおしゃれなコーヒーショップに向かうことに。

 

【明日香】

「こんなところかな」

 

 予定帳に誕生日会の予定を書き込む。皆プレゼントは何を用意するんだろうなあ。

 

 夜の柳木原は未だになれない。ギラギラと光るネオンが眩しい……

 

【明日香】

「羽田君喜んでくれるといいな」

 

 ほっと一息ついてからお店を出てパルクレープを探しに行く。ピンクのミニバンは見つけやすいと思う。

 

【春恵】

「お、渡来さんじゃないかい! 今日はどうしたんだい?」

 

【明日香】

「こんばんはー今日は春日さんに用があって来たんです」

 

【春恵】

「パルでいいってさ。春日さんなんて他人行儀な呼び方しなくていいんだよ。ドラの彼女なんだからあんたはあたしらの仲間さ」

 

【春恵】

「ここには変な連中しかいないけど皆いい奴らばっかりだよ」

 

【春恵】

「それで私になんの用だい?」

 

【明日香】

「実は今度アレキサンダーで羽田君の誕生日会をやるので羽田君の知り合いのひとたちに声をかけてるんです。だから春日さんも予定がなかったら参加してもらえないかなって思いまして」

 

【春恵】

「ドラの誕生日会かい。それはいいね、だけど遠慮しておくよ。私みたいな大人がいても場違いな気がするからね」

 

【明日香】

「そんなことはないと思いますけど……」

 

【春恵】

「誘ってくれるだけありがたいよ。そういうのは子どもたちで楽しみな! 鳴坊には声はかけたのかい?」

 

【明日香】

「鳴ちゃんにはさっきあった時に声をかけました」

 

【春恵】

「そうかい。あの子は仲のいい友達とかが少ないからそういうことには無縁なんだろうけど渡来さんが誘ってくれただけでもありがたいよ」

 

【春恵】

「これからも仲良くしてやってくれな」

 

【明日香】

「はい」

 

【春恵】

「せっかく来てくれたんだから今日はサービスするよ。好きなクレープを注文してくれさね」

 

【明日香】

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね」

 

 私は一番好きな味のクレープを注文する。クレープが焼きあがるまで待つことに。

 

【春恵】

「けど、私はドラに渡来さんみたいな素敵な彼女がいるなんていまだにまだ信じられないよ」

 

【明日香】

「そうなんですか?」

 

 羽田君はパルさんや鳴ちゃんにも病気のことを説明していた。ここでの彼は『成田隼人』だった。

 

『成田隼人』のストイックなイメージと羽田君は全く別人で最初は皆は戸惑っていたみたい。

 

【春恵】

「アイツの病気のこと色々と調べてみたんだけどね」

 

【春恵】

「今思えばドラがあたしらと人間関係を深くしなかったのは自分が消えるって分かってたからなんだろうねー」

 

【春恵】

「仕事を探していたのだって将来の為に必要だったからって聞いたよ」

 

【春恵】

「普通のひとには到底受け入れられることじゃないかとは思うけどあたしは今のドラの生き方を支持するよ」

 

【春恵】

「アイツも今まで苦労してきたんだね」

 

【明日香】

「ここでの羽田君がどういうふうに時間を過ごしていたのかは分かりません……だけどその時間も今の羽田君には大切な思い出になっているんです」

 

【春恵】

「そうかい。ここでは『羽田鷹志』じゃなくて今までとは違うけれど『成田隼人』のままでいるよ」

 

【明日香】

「今度ここでの羽田君の話を聞かせてらえませんか?」

 

【春恵】

「はいよ、お安い御用さね」

 

【明日香】

「長居しちゃってごめんなさい。クレープごちそうさまでした」

 

【春恵】

「また来てくれるのを楽しみにしてるよ」

 

 

【明日香】

「あと誘ってないのは山科と先輩かな」

 

 携帯を出して山科に電話をかける。

 

【京】

「もしもし?」

 

【明日香】

「もしもし。私、渡来」

 

【京】

「渡来さん……? どうしたの私に何か用かな」

 

【明日香】

「実はね今度羽田君の誕生日会をやろうかなって考えてるんだけど山科は参加できそう?」

 

【京】

「私も参加していいの」

 

【明日香】

「もちろんだよ。ていうか羽田班のメンバーなんだから気にしなくていいよ」

 

【京】

「日にちとかってもう決まってるのかな」

 

【明日香】

「3月3日が羽田君の誕生日。だから3日にやるから」

 

【京】

「そうなんだ。うん、いいよ。私も参加する」

 

【明日香】

「ありがとう急にこんなこと言ってごめんね」

 

【京】

「気にしなくて大丈夫だよ私も誘ってもらえて嬉しかったから」

 

【明日香】

「そう? やっぱり山科は話の理解早くて助かるよ」

 

【明日香】

「それと羽田君へのプレゼントは準備しておいてね」

 

【京】

「うん、わかった」

 

【明日香】

「じゃあ、もう切るねおやすみ」

 

【京】

「おやすみ」

 

 山科との電話を切ってお風呂に入る。先輩への連絡は明日しておこう。

 

 おやすみなさいまた明日。

 

 

【蔵人】

「こんな朝早くから電話とか一体なんの用だ? 俺、今野球にハマってて今からメジャーリーグのトライアウトを受けに行くんだが」

 

【明日香】

「うへえー先輩って思いたったらそく行動するよね」

 

【蔵人】

「人生は限られてるからな。存分に楽しまないと損でしょ」

 

【蔵人】

「それで俺に何の用だ。用がないなら切るぞ」

 

【明日香】

「ちょっと待った! 要件言うから切らないでよ」

 

【蔵人】

「早く言え」

 

【明日香】

「はいはい、先輩は本当にせっかちだなあ。あのね今度羽田君の誕生日会をやるんだけど先輩は参加できそう?」

 

【蔵人】

「羽田の誕生日会だと?」

 

【明日香】

「そうそう」

 

【蔵人】

「羽田の誕生日ってことは3月3日か」

 

【明日香】

「なんで先輩が羽田君の誕生日知ってるの?」

 

【蔵人】

「なんでって直接聞いたからに決まってるでしょ」

 

【明日香】

「私は最近教えてもらったんだけど……」

 

【蔵人】

「俺はお前が教えて貰う前よりも前から知ってたけどなァ」

 

 ていうか先輩と羽田君仲良すぎない? 普通誕生日は彼女の方が先に知ってるはずなのに。

 

【蔵人】

「つまんねェ用事だったら速攻で電話を切るつもりだったが羽田の誕生日会をやるって話なら別だな」

 

【蔵人】

「俺も参加するよ」

 

【明日香】

「先輩が自主的に参加するんて珍しい」

 

【蔵人】

「俺と羽田の仲だからな。俺たちはすでにお前が入ってくることにできない領域にいるのさ」

 

【明日香】

「あーはいはい、そういう話はいいから。参加するならプレゼントは準備しておいてね」

 

【蔵人】

「……ファック」

 

【明日香】

「なんだと」

 

【蔵人】

「それで要件は終わりかい?」

 

【明日香】

「終わりーそれじゃあ先輩野球頑張ってきてね」

 

 電話切って携帯を置く。もう慣れたけど先輩との会話は意外と疲れるなあ。

 

 ほっとひと息ついて勉強の続きをしようかな。

 

 えっ……なんの勉強かって? それが秘密だけど特別に教えてあげよう。

 

 私自身も羽田君の病気に関して知識を蓄えておきたいと思ってるの。これから彼は柳木原を離れて療養所で治療することになるから私も支えていきたいなって。

 

 遠距離恋愛になっちゃうけど彼が帰って来るまで待っていよう。そしてそのあとは二人で同じ人生を歩んで行くんだ。

 

 本屋さんで買った本を広げながらペンを進める。

 

【明日香】

「やっぱり難しいなー」

 

 羽田君はこの病気の事を理解してしっかりと勉強を続けているから本当にすごいなと感じる。

 

 でも、羽田君は元々成績優秀だったからね。

 

 大学に入学する私よりもテストの点が良かったことがあったし何より彼を尊敬したのはあることを聞いてからだ。

 

 

【明日香】

「羽田君って私よりも成績がいいよね。いつ勉強してるの?」

 

【鷹志】

「勉強は夜にやっていることが多いよ」

 

【明日香】

「そうなんだ? だからいつも授業中に居眠りして先生に注意されてたんだね」

 

【鷹志】

「それもあるんだけど本当の理由は違うよ」

 

【明日香】

「?」

 

【鷹志】

「僕がいつも眠そうにしていたのは成田くんが夜遅くまで働いていたからなんだ」

 

【鷹志】

「渡来さんには初めて話すけど僕たちはお互いに朝、夕方、夜、でそれぞれの人格が役割を担当していたんだ」

 

【鷹志】

「朝から夕方までが僕で夕方から夜までが千歳くん、夜から早朝までが成田くん」

 

【鷹志】

「学校から帰る途中で僕が電車の中で居眠りしたりすると千歳くんが≪コクピット≫に入るんだ。そしてその後千歳くんと成田くんが<取り決め>した時間まで千歳くんが操縦桿を握る」

 

【鷹志】

「お互いに色々と<取り決め>はしていたみたい。例えば交代先では人に会っても話さないこと。誰かと話しちゃうと僕たちの事情が知られてしまうからね」

 

【鷹志】

「統合したあとに知ったんだけど学校でのスクランブルはほとんど千歳くんが対処してくれてたみたいなんだ」

 

【明日香】

「私は一度だけわしのすけと話したことがあるよ」

 

【鷹志】

「あの時は僕の“意識”がとても不安定だったから渡来さんの前でスクランブルが起こったんだ」

 

【鷹志】

「今ままで僕がグレタガルドに行く機会は少なくて千歳くんや成田くんが≪コクピット≫に無理やり座らされることはなかった」

 

【鷹志】

「グレタガルドに行くことが増えたのは精神的に限界が近かったからなんだろうし実際僕も自分がもうじき消えることはなんとなくだけどわかっていたよ」

 

【鷹志】

「話を戻すけれど千歳くんと成田くんが働いていて家に帰り着く時間が遅くて睡眠不足になっていたんだ。僕はそんなことも知らずにいつもと変わらない生活を送っていた」

 

【明日香】

「でもある意味すごいよね。そんな生活をしていて今まで誰にもバレずにいたんだから」

 

【鷹志】

「うん、そこは千歳くんたちがうまくやっていたからだと思う」

 

【鷹志】

「体はひとつだからね、どこかで無理をしていたのかもしれない」

 

【鷹志】

「成田くんの仕事の関係で早朝に帰ることもあったみたい。仮に朝の3時頃に帰宅してそれから寝て起きる時間は7時頃。僕の部屋の時計の目覚ましはいつも決まった時間にセットされているからその時間には起きなくちゃいけないんだ」

 

【鷹志】

「でも、僕は二人には感謝しているんだ。だって二人がいなかったら僕は多分もっと早く消えていたのかもしれないからね」

 

【鷹志】

「僕らの病気を治療するために一生懸命に働いてくれていてお金を残していってくれたから」

 

【明日香】

「そんな状況にあったのに学校の勉強はちゃんとしないといけないのが辛いよね」

 

【鷹志】

「そうだね、でも僕たちの事情を知っているひとなんて家族以外にいなかったし、仮に知っているひとが身近にいてくれたとしても状況は変わらなかったと思うよ」

 

【鷹志】

「僕は僕に与えられた役割を果たすだけだし、他のひともそうだろうし」

 

【鷹志】

「千歳くんと成田くんの役割は僕に後のことを託すことだったから」

 

【鷹志】

「二人が道を譲ってくれたからこそ僕は今こうやって渡来さんとの日常を過ごせているんだ」

 

【明日香】

「これからはずっと一緒だね」

 

【鷹志】

「そうだね」

 

 色々と大変だったのに羽田君は自分の役割を理解して前に進んできた。確かに前の羽田君は遠くから皆の様子を笑いながら眺めているだけだったけど、今の彼は積極的に輪の中に入ってたくさんの人たちから好かれている。

 

 羽田君が話題を振ると皆が彼に注目する。最近では女子からの人気も高いみたい。

 

 クラスの中心になって笑う彼を見ているとなんだか嬉しくなってくる。

 

 クラスメートとも前以上に仲良くなってゲームやスポーツの話題で盛り上がっていた。

 

 誰でも公平で「僕はいつだって誰かの力になりたいんだ」という羽田君の言葉に彼の優しさと強さを知ることができる。

 

 私もああいうふうな人間になりたい。誰にだって優しくて皆の幸せを願っていれるような人に。

 

 だから私はこれから先彼の傍にいてずっと一緒に同じ世界を見ていこうと思う。

 

 羽田君の見せてくれる世界はきっと希望に満ち溢れているだろうから。

 

 病気の治療がいつまでかかるのかはわからないけど羽田君が笑顔で戻って来るその日まで私は待っていよう。自分からも会いに行こう。

 

 仮面恋人だった偽りの関係から本当の恋人関係になれたんだから。

 

【明日香】

「っとその前に」

 

 カレンダーの3月3日のところを確認する。もうじきやってる来る羽田君の誕生日、世の中のどんなできごとよりも私にとっては一番大事な日。

 

【明日香】

「早く来ないかなあ」

 

 一日一日があっという間に過ぎていく。だから毎日を大事にしていかないとね。な(略)

 

 将来や未来への希望を持ちながらこれからも頑張っていこうかな。

 

 こんなつまんない話に最後まで付き合ってくれてありがとうね。

 

 私もアナタのこと忘れたりなんてしないから。

 

 

【明日香】

「さあ、勉強頑張ろう」

 

 少しずつ変わっていくのを感じながら私の穏やかな日常はゆっくりと進んでいく。




お待たせしました。今回は明日香視点の話です。ラストスパートに向かって頑張っていきたいと思っています
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