Winter Trivial  Story   作:南雲悠介

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 優に原稿を見てもらうことに小説を書く事に新しい希望を見つけた鷹志はその先にある未来に思いを馳せるのだった。


素晴らしい世界新しい希望

 Episode:Takashi

 

 羽田鷹志 編

 

 Chapter:Takashi Haneda

 

 Wing of Hawk

 

 

 

【車内アナウンス】

「終点ー、柳木原です。お忘れ物のないようご注意ください」

 

 今日は小説のネタ探しにひとりで柳木原までやってきた。

 

 家で途中まで書き進めていたのだけど、なんとなくやる気が出なくて気分転換するために外に出た。

 

 電車を降りてすぐに近くのお店に入る。暖かいコーヒーでも飲みながら小説のネタを考えるのも悪くない。だけど、ブラックコーヒーは苦いから苦手かな……

 

 祥玄社の近くにあるこのカフェテラスは最近オープンしたばかりでこの間テレビなんかで特集番組が組まれていた。おしゃれな雰囲気の漂う大人な店だ。

 

 米田さんと待ち合わせた時間までだいぶある。どこかで時間を潰さないといけないなあ。

 

 プロの編集さんである米田さんの意見を聞けるのは非常にありがたいことだ、千歳くんと違う僕の文字を評価してくれた。

 

 

【鷹志】

「電話……?」

 

 僕はポケットから携帯を取り出して画面を見ると“米田さん”とディスプレイに表示されている。慌てて通話ボタンを押した。

 

【優】

「もしもし。えっと羽田君の携帯でいいかな?」

 

【鷹志】

「はい、おれに何か用ですか?」

 

【優】

「そうだねー時間がないから手短に言うけど、今日の待ち合わせ一時間遅くしてもらえないかな?」

 

【鷹志】

「なにかあったんですか?」

 

【優】

「いやいや羽田君には関係ないことなんだけどねー私も今日の分の仕事を終わらせて今から待ち合わせ場所に向かおうと思ってたんだけどね、デスクが急に社内会議やるから残れって言うんだ」

 

【優】

「なんでもうちの部署のこれからに関わる大事な会議なんだって。そういうのは前もって通達しておいてほしいよねー」

 

【鷹志】

「それは大変ですね……」

 

【優】

「そうなの! だからゴメンね。待ち合わせ時間の変更をよろしく」

 

【鷹志】

「分かりました。お仕事頑張ってください」

 

【優】

「はいはーい」

 

【鷹志】

「それじゃあ失礼します」

 

 通話終了ボタンを押してケータイを閉じた。

 

 米田さんは急に仕事が入ったみたいだ。

 

 ちょうどいいタイミングで頼んでおいたコーヒーと料理が届く、僕はコーヒーを飲みながら考える。

 

【京子】

「あれ? 羽田君」

 

【鷹志】

「えっ……?」

 

 聞き覚えの声がしたから後ろを振り返る──

 

【鷹志】

「──山科さんどうしてここに?」

 

【京子】

「今日は買い物に来てるの。寒いからここでちょっと暖かいコーヒーでも飲もうかなって思ってたんだ」

 

【鷹志】

「そうなんだ。おれもちょっと知り合いのひとと待ち合わせをしてるんだけどまだ時間があるんだ」

 

【京子】

「羽田君がひとりでいるなんて珍しいね」

 

【鷹志】

「確かにそうかもね。最近では渡来さんと一緒にいることが多かったから」

 

 とは言ったものの僕は今までひとりでいることの方が多かったからひとりには慣れてるんだ。

 

【鷹志】

「山科さんが大丈夫なら少し話でもしない?」

 

【京子】

「えっ……? いいの」

 

【鷹志】

「うん、おれも山科さんと話がしたいからね」

 

【京子】

「それじゃあ少しだけ」

 

 そういうと彼女は隣の席に座ってメニューを広げた。

 

【鷹志】

「山科さんはこれから学校には来るの?」

 

【京子】

「えっ……?」

 

【鷹志】

「ほら、おれたちは自宅学習期間に入ってるでしょ。もう学校に行かなくても別に問題ないと思うんだ。それに山科さんは病気の事とかもあったりするんでしょ」

 

【京子】

「そうだね、でも来週から病院に行かないといけないから卒業式まで学校には来ないかも」

 

【鷹志】

「そうなんだ? 山科さんが来ないと寂しくなるなあ」

 

【京子】

「ふふふ、羽田君は優しいね」

 

【鷹志】

「でも体の事なら仕方ないよね。卒業式に元気で会えるといいよね」

 

【京子】

「それじゃあ羽田君。私はもう行くから」

 

【鷹志】

「うん寒いから気をつけて」

 

 山科さんと会話を終えて時間を確認する。うん、ちょうどいい時間だ。

 

【優】

「ごめんごめんお待たせー」

 

【鷹志】

「いえ、米田さんもお仕事お疲れ様でした」

 

 米田さんは椅子を引いて隣に座る、やっぱり働いている女性は魅力的だなあ。

 

【優】

「もしかしてずっとここで待ってたの?」

 

【鷹志】

「はい、だけど友達と話をしていたのでそんなに時間は気になりませんでしたよ」

 

【優】

「そう? ごめんね。ホント急に仕事が入るんだもん」

 

【鷹志】

「社会人は大変ですね……」

 

【優】

「そうなの、君ももうじき分かるようになるよ」

 

【鷹志】

「あはは」

 

【優】

「ああ、そうだ原稿の話だったっけ?」

 

【鷹志】

「はい」

 

 僕は背筋を伸ばして米田さんの方に向き直る。ちょっと緊張するなあ。

 

【優】

「君の書いた原稿だけどね割と評判いいみたいだよー」

 

【鷹志】

「そうなんですか?」

 

【優】

「それでこれが修正点をまとめた原稿ね」

 

 米田さんは仕事用のカバンから僕が書いた小説の原稿を取り出す。

 

【優】

「色々修正するところはあるみたいだけど文章の使い方とかは問題ないみたい」

 

 僕は米田さんの原稿に目を通しながら指摘された部分をまとめていく。

 

【優】

「確か羽田君はパソコン持ってたよね? 改善点とかのデータもらってるから送っておこうか」

 

【鷹志】

「お願いします」

 

 米田さんに捨てアドではないちゃんとしたメールアドレスを教える。

 

 まさか誰かにパソコンのアドレスを教える機会があるなんてね。

 

【優】

「千歳君はパソコンを使えなかったみたいだけど羽田君はちゃんと使えるんだね」

 

【鷹志】

「はい、おれはパソコンを使って記事や小説を書きたいと思ってるんです」

 

【優】

「1台でも自分用のパソコンを持ってると違うからねーそうしてくれるとこっちも助かるよ」

 

【優】

「正直言うとね、君の病気の話を聞いた時は驚いたよ。こういう仕事しててもそういう人に会う機会は少ないんだ。でも、その後に軽部先輩や翔から話を聞いたからちゃんと受け入れることができたんだよね」

 

【鷹志】

「無理も無いと思います。おれもみんなに事情を説明する時に苦労しましたから」

 

【優】

「じゃあメール送っておくから帰ってちゃんと確認しておいてね」

 

【鷹志】

「分かりました」

 

 米田さんに小説に関する意見をもらい、僕は柳木原のビルを後にした。帰りに小説書きに使えそうな本を買って帰ろうかな。

 

 本屋でイラストレーターのイラスト集と文学小説を何冊か買ってから家に帰る。

 

 たまには風見ヶ丘の店に寄るのもいいだろう。どうしても最近は柳木原に足を進めがちになっていて自分の住んでいる地域の店に通うことも少なくなっていた。

 

 最新の建物が所狭しと並んでいるこの街に少しだけ窮屈に思える。そういえば鳳さんの住んでいるスカイピア風見ヶ丘っていう超高層マンションもこの近くじゃなかったかな? 今度お邪魔させてもらおう。

 

 高級住宅街と呼ばれているのだけれど夜は比較的に静かで柳木原の喧騒と比べると対照的だ。だけどこういう静かなもの悪くない。

 

 そして周囲の景観に馴染めずにポツリと立っている築三十年の羽田家を見るとなんだかホッとする。僕は玄関のドアに手をかけた──

 

【鷹志】

「──ただいま」

 

【小鳩】

「あ、タカシお兄ちゃんお帰りなさい」

 

【鷹志】

「ただいま、小鳩外は寒いから風邪を引かないようにね」

 

【小鳩】

「うん」

 

【鷹志】

「あとで暖かいココアを作ってあげるよ」

 

【小鳩】

「ありがとう!」

 

【小鳩】

「お父さんたちがもう少しで帰ってくるから夕飯の準備するね」

 

 小鳩はエプロンを付けて台所に立つ。なんだか様になってるなあ。僕は見慣れているはず妹のエプロン姿を数秒見つめていた。

 

 部屋に戻ってパソコンの電源を入れて買ってきた本を読む、イラスト集は『SHUFFLE!』でお馴染みの西又葵さんのイラスト集だ。

 

 西又さんの書く絵は女の子がすごく可愛いから気に入っている。

 

 僕がこの本を買った理由は表紙に楓が載っていたからだ。向日葵を持って微笑む楓はすごくキュートだなあ。

 

【小鳩】

「タカシお兄ちゃんご飯できたよ」

 

【鷹志】

「今行くよ」

 

 本を閉じて机に起き下に降りる。今日の夕飯は何だろうか? 楽しみだなあ。

 

【叔父さん】

「鷹志君、鍋を運んでくれるかい?」

 

【鷹志】

「はい」

 

 僕はカセットコンロと土鍋を居間まで運ぶ。どうやら今日の夕飯は鍋みたいだ。冬と言ったら鍋料理なんじゃないかな? 本当に日本人で良かったと思う。

 

【鷹志】

「準備できましたよ」

 

 家族分の食器を運びコンロに火を入れる。グツグツと具材が煮えたぎり、美味しそうな臭いを広がってきた。

 

【叔母さん】

「じゃあ、皆の分をよそうわね」

 

 叔母さんがそれぞれの更に鍋をよそっていく、僕は帰る途中に買っておいた飲みものを冷蔵庫に取りに行く。

 

【小鳩】

「私も飲んでいい?」

 

【鷹志】

「うん、いいよ。皆で飲もうね」

 

 羽田家の食卓は以前よりも会話と笑顔が増えた。僕はそれを嬉しく感じてるんだ。そして何より一番嬉しいのは小鳩が笑顔でいてくれること。

 

(ありがとう僕たちのプリンセス)

 

 風呂に入りながら色々と考える。

 

 以前グレタガルドから戻って来た時に風呂の中で目が覚めたことがあった。

 

 たしかあの時はの操縦桿は伊丹くんが握っていたんだっけ。

 

 統合してから彼らの記憶が僕の中に流れ込んできた。

 

 日中、僕が学校に通う時間は≪コックピット≫は羽田鷹志の人格が操縦桿を握る。

 

 僕がグレタガルドへの召喚されている時は千歳鷲介か成田隼人のどちらかがコクピットに座り事態を収拾する。

 

 千歳くんや成田くんはその際のできごとを記憶しているが僕の場合はグレタガルドに行くことで記憶をリセットさせているから現実世界で起こったことを覚えていなかった。

 

 成田君がフレイムバーズとR-ウィングの抗争に巻き込まれて体に怪我を負った場合は僕はドラゴンやモンスターと闘ってることにして記憶を処理していた。

 

 毎日寝不足だったのは成田くんが夜遅くまで工事現場で働いていたからだ。

 

 それぞれの人格は役目が来るまで待機室と呼ばれる場所で待っている。僕の場合はそれが仮想のグレタガルドに行くことだ。

 

 たくさんの人格が生まれては消え、していく中で残った僕たちはある意味で幸せなのかもしれない

 

 生まれてすぐに奈落の底に落ちるものだっている。自分の存在理由すら分からないまま、救いなど訪れない闇の底で、恐怖と失意に塗りこめられた永劫の時を過ごさねばならないのだから。

 

 伊丹くんは『世界の目』で現世の様子を覗いていたから彼らの物語も知っていた。

 

 ふたりはおじいさんとの約束で僕が学校を卒業したら病院で治療を受けさせるために治療費を貯めるために働いていた。

 

 千歳くんたちが僕の為にがんばっていてくれたからこそ今こうやって前に進むことができるんだ。

 

 おじいさんは僕に強さを教えてくれた。千歳くんには人生の楽しみ方を話し、成田くんには守る力を与えてくれた。そして渡来さんが世界が金色に輝いていることを教えてくれた。

 

 消えるわけじゃない、みんなひとつになるんだ、って。

 

【鷹志】

「そろそろ上がろう」

 

 のぼせると悪いから僕はしっかりと温まり風呂を出て、台所で冷えたジュースを飲む。

 

 湯冷めしないうちに部屋に戻ろう。ズボンを履いたけど上は半袖のシャツのままだ。

 

 小鳩の部屋の前を通り過ぎると流行りの曲が聞こえた。この間買ってあげたCDも聞いてくれているみたい。

 

【鷹志】

「続きを読もうかな」

 

 机の上に出しっぱなしにしておいた小説を手に取る。この作者の作品は初めて読んだけどすごく面白い。

 

 僕は寝るまでの時間を読書に費やした、そういえばこうやって本を読むようになったのも最近のことだ。前は夜はいつもすぐに寝ていたから。

 

 米田さんからもらった小説の修正点に目を通す。やっぱりプロの編集さんの意見を聞いたのは正解だったみたいだ。

 

 僕は修正点を改善するためにパソコンを立ち上げた。立ち上がる前に暖かいココアでも淹れてこよう。今日の作業は遅くなりそうだ。

 

【鷹志】

「卒業文集の時みたいだ」

 

 卒業文集を制作することになった時もこうやって遅くまで作業してたなあ。山科さんや針生さんの協力で完成させることができた。

 

 皆が喜んでくれた。文集の寄せ書きを集める僕に声をかけてくれた優しいひとたち。

 

 僕の方から積極的にクラスの輪に入っていった。話してみると皆とても素敵で面白い人たちばかりだった。

 

 今は以前感じていた窮屈感など無く残り少ないけど学校に行くのが楽しみなんだ。

 

 ゲームのことを話せるクラスメートもできて毎日が充実している。

 

 もうじき卒業を迎えるなんて思えないや。

 

 キーを叩いて小説を書いていく。僕たちの物語、最初は僕の自慢の弟たちの物語にしよう。

 

 成田隼人の物語のプロローグを書き上げてゆく。

 

【隼人】

「俺は成田隼人。無職。男。歳はハタチぐらい。星座ひみつ。血液型ナイショ。性格ハードボイルド。いや、マジで。ハードボイルド」

 

 ニヒルでクールなハードボイルド、頼もしいエース、傷付く間合いに入らない真夜中の隼。怒りを忘れた無気力ガイ。

 

【鷹志】

「成田くんの紹介はこのくらいでいいんだろうか?」

 

 僕は成田くんにはあったことが無いから僕の中にある「千歳鷲介」の記憶を元にイメージを固めていく。まずは彼の物語を書いてから千歳君の話を書くつもりだ。

 

 僕の話は最後でもいいような気がする。まずは色んなひとに読んでもらいたい。

 

【鷹志】

「こんなところかな」

 

 長い間パソコンで作業していたから疲れを感じるのが早い。時計を見ると23時過ぎていた。

 

 うん、そろそろ寝ようかな。

 

 おやすみなさい。また明日。

 

【明日香】

「おはよう。今日は遅かったね」

 

【鷹志】

「昨日遅くまでパソコンで作業をしていたからね」

 

【明日香】

「無理しないでね。もう残りも少ないんだし」

 

【鷹志】

「そうだね。でも、僕は最後まで渡来さんと登校したいと思ってるんだ」

 

【明日香】

「ねえ? 卒業式前にやりたいことがあるんだけど付き合ってくれないかな?」

 

【鷹志】

「もちろんいいよ。やりたいことってなにかな?」

 

【明日香】

「また今度教えるよ。楽しみにしておいて」

 

【鷹志】

「うん」

 

 ひと通りの少ない通学路を渡来さんと歩く。もう三年生の姿はあまりなく殆どが後輩ばかりだ。

 

 僕の最後まで学生生活をおくりたいという頼みに付き合ってくれている彼女は本当に優しい人だと思う。

 

【鷹志】

「もうじき卒業かあ」

 

【明日香】

「どうしたの急に」

 

【鷹志】

「いやね、もう卒業かと思うとなんだか寂しいなあって」

 

【鷹志】

「今は学生生活が楽しいから終わりが来ると思うと残念かな」

 

【明日香】

「そうなんだ」

 

 学生生活が楽しいと思えるようになれたのは彼女のおかげでもある。

 

 渡来さんがいなかったら僕はこの世界には留まれなかった。新しい世界に羽ばたいて行くことさえもできずにいただろう。

 

【鷹志】

「楽しいと思えるようになったのは渡来さんのおかげでもあるんだ」

 

【明日香】

「それは良かったよ」

 

 いつだって眩しい笑顔を向けてくれる彼女に感謝したい。

 

【鷹志】

「これからもよろしくね渡来さん」

 

【明日香】

「こちらこそ」

 

 照れた表情で視線を下に下げる。渡来さんはすごく女の子らしい

 

 彼女のこんな表情を見ることができるのは僕だけだと思うと自然と頬が緩む。

 

【明日香】

「羽田君顔がニヤけてるよ」

 

【鷹志】

「ご、ゴメン……」

 

 僕は手で顔をゴシゴシ擦り表情を引き締めた。

 

【明日香】

「おい、いったい何を考えていた?」

 

【鷹志】

「いてて」

 

 渡来さんは僕の制服のネクタイを引っ張り首を絞める。

 

【鷹志】

「苦しいよ……渡来さん」

 

【明日香】

「少し苦しんでるくらいがちょうどいいと思うんだけどなー」

 

 Sだ! 彼女は渡来S香に間違いない! 

 

【鷹志】

「離してよ……苦しい」

 

【明日香】

「ふふん」

 

【明日香】

「苦しそうだしこの辺で話してあげるよ」

 

【鷹志】

「助かった」

 

【鷹志】

「冗談でもこういうことはやめてよね」

 

【明日香】

「はいはい」

 

 顔を見ればわかるこれはまた同じことがありそうだ。僕は冷や汗をかきながら空を見上げる。今日も白い空が広がっている。

 

【鷹志】

「そうかあ」

 

 学園内は今度開催される“学園プリンスコンテスト”の準備で慌ただしい。

 

【鷹志】

「そういえば、もうすぐなんだっけ」

 

 コンテストに出ることが決まっている生徒のポスターが張り出されている。

 

 僕も遠くから自分の顔が映ったポスターを見る。他の男子生徒は髪型とかを決めてカッコイイ感じで撮影しているみたいだ。

 

 僕は自然な笑顔で写真を取った。やっぱり他の人と比べたら地味なんじゃないかと思う。

 

 一応参加はしてみたけどあくまでも針生さんの変わりだからね。ロックでかっこいい針生さんに僕が適うわけない。

 

【美咲】

「タマちゃん聞いてー」

 

【日和子】

「どしたのリンダ」

 

【美咲】

「この“学園プリンスコンテスト”で誰に投票しようか考えたところなんだー」

 

【日和子】

「そうなんだ。リンダはやっぱり羽田先輩に投票するの?」

 

【美咲】

「もちろんだよ!」

 

【美咲】

「タマちゃんは誰に投票するの?」

 

【日和子】

「私は別に……」

 

【美咲】

「またそんなことばかり言って! 先輩が優勝できなくてもいいの!?」

 

【日和子】

「や、別にいいけど」

 

【美咲】

「何でそんなことを言うのー」

 

【美咲】

「私なんて羽田先輩に2億票くらい入れたいくらいだよ!」

 

【日和子】

「そんなにはいらないと思うけど……」

 

【鷹志】

「おはよう」

 

 教室にいる人数は数人といったところかな。今日は山科さんも休みみたいだ。この前あった時に卒業までしばらく休むって言ってたなあ。

 

【女生徒D】

「おはよう! 委員長」

 

【鷹志】

「やあ、おはよう」

 

【女生徒D】

「そういえば掲示板見たよー委員長プリンスコンテストに出るんでしょ?」

 

【鷹志】

「うん、と言っても元々は針生さんがお願いされたことなんだけどね」

 

【女生徒D】

「へえーそうなんだ」

 

【鷹志】

「まあ、出る限りには頑張るよ」

 

 クラスメートとの些細な会話を楽しんで僕は病気の勉強を始めた。学校に来ているクラスメートが少ないから教室の中はいつもと比べて静かだ。

 

【鷹志】

「こんなところかな」

 

 本に付箋を挟んで小休止、最近はこの本に書かれている内容を理解できてきた。難しい病気だということは僕もわかっている。長い時間をかけて直していかなくちゃいけない。

 

 勉強のために買ったノートも3冊になった。受験勉強用に何冊か買っておいたからそれを使った。

 

 そろそろ新しいパソコンを買いたいなあ。叔父さんが会社の若い人から貰ってきたこのパソコンは最近の型と比較すると起動速度も遅い。

 

 パソコンは一台購入するのに結構な額が必要になる。新しいのを買いたいと思う反面お金は計画的に使わないとダメだとも感じている。

 

 無駄なソフトやアプリケーションはダウンロードしていないからハードディスクの容量も余裕はある。

 

 

【鷹志】

「礼」

 

 終礼の挨拶を終えるとクラスメートたちはすぐに教室を飛び出していった。今日も午前中で授業は終わりだから後は帰るだけだ。 

 

 僕は週番のひとに戸締りを任せて下校の準備をする。渡来さんは僕のペースに合わせて帰り支度をしている。

 

【鷹志】

「お待たせ。それじゃあ行こうか?」

 

【明日香】

「うん」

 

 ふたりで教室を出る。学園内は“学園プリンスコンテスト”の準備中で後輩たちが忙しそうに走り回っていた。

 

【鷹志】

「今日はどこに行く?」

 

【明日香】

「ごめん。私今日は無理。帰ってからやらないといけないことがあるんだ」

 

【鷹志】

「そうなんだ。実は僕も今日は早めに帰って家でやりたいことがあったんだよね」

 

【鷹志】

「でも、家まで送らせてもらうよ」

 

 僕は渡来さんと手を繋いで歩く。ひとめが気になるけれど、そんなことでこの幸せな時間を終わらせてしまうのはもったいない。

 

【明日香】

「羽田君今日は大胆だね」

 

【鷹志】

「たまにはいいじゃない」

 

 耳元で囁く彼女に僕も同じように答えてからさらに強く手を握る。

 

 

【明日香】

「じゃあ、ここでいいよ」

 

【鷹志】

「うん」

 

 渡来さんを家に送ってから家に帰る。寒空の下僕は早足で羽田家に向かった。

 

 空を見上げると群青色が広がっている。夜の空を見上げることなんてあまりなかったけどこの群青色の空も好きになっていた。

 

 家に帰り付いてから部屋に暖房を入れて、パソコンを立ち上げる。原稿を保存するためのフォルダを作ってデスクトップに貼り付けた。

 

 僕のパソコンはデスクトップのアイコンも少ないからすぐに見つけられそうだ。

 

 CDプレイヤーを開いてお気に入りのサウンドトラックを流す。渡来さんの影響で彼女の好きな音楽も聞くようになった。

 

 視野も広がって様々なことにも興味を持てるようにもなった。針生さんに勧めれたロックバンドのCDを手に取る。

 

 激しい感じの曲はまだ聞きなれないがロックバンドの奏でる音色と独創的な歌詞に徐々に引き込まれていった。

 

 作業用のBGMとして使うには騒がしすぎる。棚にCDをしまい、本を何冊か引っ張り出す。

 

 病気に関する本が数冊と小説の資料として使えそうな本が二三冊。読み終えた本は付箋を取ってから本棚に戻す。

 

【鷹志】

「栞買ったほうがいいかなあ」

 

 読書をするのに栞は必要だろう。確かおじさんがいい奴を持っていた気がするから今度譲ってもらおう。

 

 僕はデスクに座って深呼吸する。よし、今日も頑張ろう。

 

 文章制作ソフトを立ち上げて前回まで書き進めた文章が保存されているページを開く。マウスで操作してカーソルを次の行まで持っていき文字のフォントや大きさを設定した。

 

【鷹志】

「こんなところかな?」

 

 書き上がった文章を何度も見直す。誤字脱字がないかを確認しないと。パソコンで書いているから修正するのは難しくない。

 

 手書きで文章を書くひとは本当に尊敬できる。僕にはそんなことはできそうにない。

 

【鷹志】

「疲れたなあ」

 

 時計で時間を確認するすると二十一時を過ぎていた。帰ってからずっと作業していたからこんなに遅い時間になってたなんて。

 

 小鳩はもうお風呂に入ったのかな? 僕は部屋を出て隣の小鳩の部屋の扉を叩いた。

 

【小鳩】

「どうしたの?」

 

【鷹志】

「もうお風呂には入った?」

 

【小鳩】

「うん……」

 

【鷹志】

「入ったのなら教えてくれてもよかったのに」

 

【小鳩】

「ごめんなさい……タカシお兄ちゃんなにかやってたから声をかけなかったんだ」

 

【鷹志】

「そっか、ごめん。ちょっとパソコンを使って作業をしてたんだ。せっかく教えに来てくれたのに」

 

【鷹志】

「じゃあ、僕はお風呂に入ってくるから小鳩も夜更しせずに早く寝るんだよ」

 

【小鳩】

「うん、おやすみなさい」

 

【鷹志】

「おやすみ」

 

 部屋に戻った僕はすぐに着替えを準備して下に降りる。今日は寒いから厚着をしないと。

 

 今日のお風呂はいつもよりも少しだけ暖かかった。

 

【鷹志】

「さあ続きをやろう」

 

 お風呂から上がり小休止を終えて音楽を流しながらキーを叩く。

 

 文章制作ソフトの枠の中に文字が打ち込まれていく。

 

 玉泉さんや米田さんから小説を書くのにちょうどいいソフトを教えてもらった。

 

 千歳くんみたいに文字で人を惹きつけるようなことはできないだろうけど、僕は僕の文字で誰かに伝えたいんだ。

 

 最近ではキーを見ずに文字を打てるようになった。前まででは考えられなかっただろう。毎日原稿を書き進める中で物語を書く事に楽しみを覚えた。

 

 趣味や特技がほとんどない僕にとってなにかを最後までやり遂げるという目標ができたことはいいことじゃないかな。

 

 少しだけ作業を中断して考える。

 

(ふと残務処理のことを思い出した)

 

 この世界から消える前にやっておきたいこと、昔の僕は自分の未来に希望を持てずに後ろ向きな思考で世界から消えてなくなってしまうことしか考えていなかった。

 

 自分がグレタガルドの先代国王が集めた次期王候補“万色の四枚羽根”のひとり、聖騎士ホークの≪転生≫した姿だと疑いもしなかった。

 

 仮りそめの世界に逃避し、都合のいい記憶で補っていた。

 

 これから消えてゆく自分を誰も助けてくれないと思っていた。

 

 ──だけど渡来さんが僕に教えてくれたんだ、世界は金色に輝いているということを。

 

 針生さん、山科さん、高内さん。皆が僕に世界のなんたるかを教えてくれた。

 

 そして楽しいことばかりがあるわけじゃない。辛くて苦しいことの方が多いかもしれない、こんな世界でも生きていけることを知ることができた。

 

【鷹志】

「ありがとう」

 

 おじいさん。僕は、いや、僕たちはこの素晴らしい世界でも生きていけそうです。

 

 翼が無くても羽ばたいていける強さとなんでも許せる優しい心。

 

 おじいさんはその大切さを僕に教えてくれた。

 

 だから安心してください。僕たちは大丈夫です。

 

 群青色の空に未来を願い僕は中断していた作業に取り掛かる。

 

 僕たちの物語を早く完成させたい。一番最初に読んで欲しいひとは小鳩。

 

 今まで僕たちのために苦労をかけてきた大事な妹に感謝の気持ちを伝えたい。

 

 僕がこの世界に留まるきっかけをくれた僕の一番大切なひと──

 

 ──彼女にも読んでもらいたい。僕たちの物語を。

 

 いつもとは違いやる気が起こり作業を進めるペースも早まっていく。

 

【鷹志】

「これは僕だけの物語じゃない」

 

 千歳くん、成田くん、伊丹くん、そしてヨージくん。皆の世界が合わさって一つになってるんだ。

 

 彼らのことを忘れないためにもいつかヨージくんが魂の牢獄から解放されて世界に羽ばたいて行けるように。

 

 この日は珍しく夜遅くまで小説書きを進めて寝るのは0時を過ぎていた。

 

 おやすみなさい。また明日




長らくお待たせしました。残り話数も少なくなりもうじきクライマックスに向かっていきます。

おれつばの魅力を皆さんに伝えたくてこの小説を書いていますのでこの作品をきっかけに『俺たちに翼はない』を知ってもらえたら嬉しいです
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