Minecraft ~ある冒険家の旅路~ 作:セッキー.Jr
セコイアの森を出発してから。
寒い寒いツンドラ地帯を超えて、
ルーフス達は草原にたどり着いた。
寒いツンドラを超えても、ルーフス達は走り続ける。
最近では珍しい雨が降っているのだ。
3人と1匹の雨水を蹴る音が聞こえる。
「くそ…なんてこった!」
「災難ですね…」
「どこかで雨宿りできないかな?」
「……」
ステーラはテンションがだだ下がりのようだ。
「…!」
遠くで人型の何かが倒れている。
ルーフス達は足を速める。
そこに倒れていたのは子供のゾンビだった。
とても小さい。
ルーフス達、全員の膝下までくらいの背丈だろう。
「ゾンビか。」
「人間にやられたのかな…」
「とりあえず、まずは手当てです。」
「えっと…あんちゃん達、離れてて。
ゾンビには治癒のポーションじゃなくて、負傷のポーションが効くんだ。」
チェリーはステーラを持ち上げて、子供ゾンビから離れる。
ルーフスも離れる。
ジャックは少し遠い所から子供ゾンビに向かってポーションを投げた。
パリン!!
……
少し経ってから。
子供ゾンビがゆっくりと起きた。
「良かった…!」
ジャックとルーフス、チェリーが安堵の表情を見せる。
「じゃあ、俺らはもっと東へ向かうからよ。」
「元気でね!」
チェリーが笑顔で話しかける。
「よし!行こう!」
ザッ ザッ ザッ ザッ…
トトトトトトトト。
ルーフス達が後ろを向く。
ゾンビとの位置関係が全く変わっていない。
気にせず走り出す。
ザッ ザッ ザッ ザッ…
トトトトトトトト。
…やっぱり変わらない。
ダダダダダダダダダダダダダダダダ!!
トトトトトトトトトトトトトトトト。
ルーフスは顔を引きつらせる。
「……あのさぁ。」
子供ゾンビはジャックを見ると、ジャックの右脚に抱きついた。
「キャーーーーーーーー!!かわいい!!」
かわいいもの好きのチェリーは眼がハート型になっている。
ジャックは戸惑っているような様子だった。
「えっと…え?…どうすればいいの…」
ルーフスはため息をついて、子供ゾンビに話しかけた。
「しょうがねぇ、お前も、一緒に来るか?」
子供ゾンビは小さく頷く。
「…お!丁度いい、あの村で…あ゛!!」
「そうだ。…この子が村に入ったら、村人の皆さんがパニックになっちゃうよね。」
「ここら辺に、小さい小屋でも建てましょうか!」
「…そうだな!」
ルーフス達は小屋を作り始める。
子供ゾンビはその光景をじっと見ていた。
ジャックは子供ゾンビを確認すると、
「君も、やってみる?」
子供ゾンビは嬉しそうにコクリと頷いた。
「お!手伝ってくれるのか。はい、木材だ。
ジャックと一緒にやってくれ。重いから気をつけろよ!」
子供ゾンビは体からはみ出すほどの木材を一生懸命持ち上げている。
ジャックが慌てて端を持つ。
「せーの!」
ポン!
しばらく経って。
雨はまだ止んでいない。
「ふぅ…完成だ。お前がいてくれたから、いつもより早く終わったぜ。
ありがとな!」
子供ゾンビは照れたような仕草を見せる。
「もう…かわいい!!」
チェリーが小さな体を抱きしめて頬ずりした。
かわいいものを見続けると、我を忘れるのがチェリーだ。
ジャックとルーフスはチェリーを見て笑っていた。
小屋の中。
「ワン!」
「やっとテンションが戻ったか!ステーラ!」
「ワン!ワン!」
たまっていた何かを発散させているのか、部屋を走り回る。
子供ゾンビが小さなステーキを飲み込む。
「おいしい?」
チェリーが聞く。
子供ゾンビはにぱっと、幸せそうに笑った。
「そう!良かった!」
ジャックは問う。
「君、お母さん、お父さんはどうしたの?」
子供ゾンビは真顔に戻って、首を横に振る。
「…もう、いないのね。」
ゾンビがコクッと頷く。
「決めた!」
ジャックが席を立つ。
「僕が、君のお兄さんになってあげるよ!」
子供ゾンビは言葉をしっかりと理解した後、
笑顔に戻って、ジャックに飛びついた。
「ははは!」
「………」
チェリーはそのほほえましい二人の姿を見て、ついほころんでしまった。
ジャックは子供ゾンビにゆるゆるな金のヘルメットをかぶせた。
「ありゃ、サイズが合わないなぁ…」
ジャックは説明する。
「いいかい、外に出る時は、絶対に、このヘルメットを外しちゃいけないよ。」
子供ゾンビは頷く。
「あとは名前だなー…うーん…」
ジャックは少し考える。
ひらめいた。
「ヘルメットを被っているから、メットでいいかな?」
子供ゾンビは嬉しそうに頷いた。
ベッドの上で話している2人を、ルーフスとチェリーは見ていた。
「ジャック君、嬉しそうですね!」
「ああ…」
ルーフスは少し複雑な表情だ。
「?…ルーフスさん?」
「ジャックは弟としてみてるけど、あいつは、モンスターなんだよな。」
「………」
「本当は敵として対峙しなきゃいけないんだ。…
だから、あいつがこの旅で大きくなったら、自分の存在を考えるようになるだろう。」
「…敵対している以上、別れは必ず来る、と言うことですね。」
(ジャック。…もし別れが来た時、お前は悲しみに耐えられるか…?)
翌朝。
雨はすっかり晴れ上がっている。
ジャックとメット、ルーフス、ステーラが外へ飛び出す。
「鬼ごっこだ!!」
「じゃんけん、ぽん!」
「お、ジャックが鬼だな!はてさて何時間かかるか…」
「あんちゃん、僕の速さをなめないで欲しいな。1分以内に終わらせてやんよ!」
「ワン!ワン!」
家の前でチェリーが見守っている。
「逃げろー!!」
2人と1匹は散らばる。
ルーフスこける。
「あ、草…!」
どしゃ!
タッチ!
「…あんちゃんあんなに挑発しておいて…」
「う、うるせぇ!!」
メットが逃げ回っている。
「よし!狙うぞ!」
ルーフスはダッシュする。
しかしメットはとても早い。
ルーフスは何分も追いかけて、息が上がる。
「ぜぇ…ぜぇ……あいつあんな大きい金のヘルメット被って
よくあそこまで走れるよなあ…」
ササササササササ…
見ると狼が骨を埋めている。
タッチ!
「ステーラ~?なんで鬼ごっこ中に骨を埋めているのかなぁ~?」
ステーラは汗だくだくになる。
ステーラがメットを追いかける。
あと10cm…!
メットが足を速める。
距離が長くなる。
互角の速さだ。
「あ、あいつ…ステーラと互角の速さなのか…!?」
「すごいなぁ~メットは…」
タッチ!
メットがついにつかまった。
「ワン!ワン!」
ステーラとメットは笑い合う。
ビチャ!
メットのヘルメットに何かが当たる。
卵だ。
遠くに村人の子供が見える。
「ばけものー!」
「むらにちかづくなー!」
「あっちいけー!」
ジャックは怒る。
「こらぁ!クソガキー!!」
その時、村人の子供達に影がかかった。
子供達が後ろを見ると…
「あらら~?ボクちゃん達、お姉さんに遊んでもらいたいのかなぁ~?」
チェリーがいつもと違う、すごい濃いオーラを放っている。
村人の子供達はたまらず、後ずさりする。
「そぉれ♪」
「うわぁ!」「ぎゃ!」
「おわ!」
チェリーが3人一気に抱きかかえる。
その後の映像はお察しください。
「…チェリーってあんなに変態気質だったっけ?」
「…どうみても演技じゃないよね…
この頃、チェリーさんのキャラが全く分からなくなってきたよ…」
「…ワン…」
「大丈夫かい?メット。」
ジャックが卵を払いのけて言う。
子供ゾンビはただいつものように笑って、ジャックに飛びついた。
「…よしよし、僕が守ってやるからな。」
ジャックも優しくメットを包み込んだ。
まるで、本当の兄弟のように。
「コルク?マット?バルサ?」
村人の母親が呼んでいる。
そこに3人の子供達が来た。
「どこ行ってたんだい!お手伝いをサボって!
…?…なにか嬉しいことでもあったのかい?」
3人は何も考えられないような、幸せそうな顔をしている。
「はぁ…」「姉ちゃんサイコー。」「ふへへ…」
「き…気持ち悪い子達だねぇ…全く…」
ゴチン!!
「さあ、約束してた洗濯を終わらせるよ!」
「痛いって母ちゃん!」「自分で歩くから~!」
「ふひひ…」
一人、目が覚めてないまま母親は3人を引っ張って行った。
それから、何日か、この広い草原でルーフス達は泊まっていた。
ジャックはメットと一緒に、釣りをしたり、木を伐採してきたり。
他にも言い切れないくらい、兄として体験させてやった。
そんなある日の夜。
メットはむくっとおきだし、外へと行った。
ゾンビの体質か、月夜の風がとても心地よいのだ。
シュゥ…
クリーパーの倒された音がする。
メットは慌てて後ろを見る。
「…探したぞ。」
真っ黒な容姿にぼさぼさの髪。
見るからに怪しい男だ。
目にかかるほど伸ばした前髪から鋭い目が覗いていた。
メットは急いで中に入ろうとする。
が、男に前をふさがられ、軽々と持ち上げられる。
メットはじたばたと暴れる。
「…なんで逃げ出した。」
メットは首を横に振る。
「…まあ、お前には答えられないか。」
メットは首を大きく横に振る。
「帰りたくない」と行っているのだろう。
「…友達でもできたのか。
だが、私がお前に飲み食いさせてやっているのだぞ?
本当なら恩を返してもらってもいいはずだ。」
メットは男の肩に噛み付く。
ガッ!!
男はメットの顔を思いっきりぶん殴った。
金のヘルメットが草の上に落ちる。
メットは気を失ったようだ。
「…困るな。逃げ出されては…
お前にゃ俺の野望を…叶えてくれなきゃあな。」
男はメットを乱暴に担ぎ上げながら、夜の草原を歩いていった。
翌朝。
ルーフス達は小屋を飛び出した。
メットがいない。
夜の間に抜け出しているのだ。
「メットー!!」
「メットくーん!」
「メットー!!」
ステーラは鼻で匂いを嗅ぐ。
「ワン!!」
「ステーラ、方角が分かったか?」
ステーラは南の森へ走り出す。
ルーフス達はステーラについていった。
「メットー!!」
「メットくーん!!」
「返事してくれー!!」
ステーラの足が止まる。
「どうした?ステーラ。」
ステーラはしょんぼりとしている。
「朝方の雨で掻き消されちまったか…!」
「メット…どこ行っちゃったんだよ…!」
「ジャックくん…」
ジャックは拳を握り締める。
「…明日、ここを出発しよう。」
「…分かりました。」
「…うん。」
「…クゥン…」
ルーフスは思う。
ここにいても、ただジャックの悲しみが増えるだけだ。
出来るだけ早く、この土地を後にしたい…
ジャックはチェストの中に入っていたメット用の釣竿を手に取る。
…メット…君は、僕と自分が、違う世界に生きている事を知って、
黙って行ってしまったのかい?…
そんなこと…僕と君は、もう兄弟じゃないか…
森の中に、石レンガと木で作られた、一つの小屋がある。
男が鉄の扉の横にあるコンピュータにパスワードを入力する。
ガチャッ
男は中に入る。
ガチャッ
自動的にドアが閉まった。
メットがベッドに横になっている。
「…ずっとそうしているが。腹でも痛いのか?」
メットは頷きもしないし、横に振ろうともしない。
「…昼食だ。お前の大好きなキノコシチューだぞ。」
依然として何も返事をしない。
男はため息をついて、
「そこまでの友達ができたとはなぁ…行って来い。」
メットは嬉しそうに起き上がった。
「まあ夜だ。まだ朝はお前には危険すぎる。
あと、私の条件を飲んでくれたら、だ。」
メットはジャック達への会いたさから、すぐに頷いた。
男は狐のように口をあけて笑った。
男の手の中には、一つの×印の描かれたポーションがあった…
その日の夜。
「こらこら、家の中で暴れるんじゃない。」
メットは嬉しさのあまり、部屋の中を走り回っていた。
「俺の条件ってのはな…この薬をかぶってもらうことさ。」
男は瓶をかざす。
メットは怪しげな薬に背筋がゾクッとし、首を横に振った。
「友達と会えなくて良いのか?」
メットは気持ちを少しの間落ち着かせた。
そして、うん、と頷いた…
…パリン…
月がもうすぐ真上に昇る頃。
ドーン…
ドーン…
ドーン…
ベッドが小刻みに横に揺れる。
チェリーは物音と地響きに眼が覚める。
…何?この音…?
チェリーはベッドから出る。
保険としてソードを持って。
そして、ルーフス達を起こさないように静かに扉を開け、閉める。
恐る恐る一歩ずつ出る。
「キャオン!!」
「キャッ!?」
見れば外で寝ていたステーラの尻尾を踏んでいた。
ステーラがもがいて走り回っている。
「ご、ごめんなさい…ステーラ。」
ドーン…!!
ステーラが地響きと音で止まる。
チェリーはソードを構えた。
南の森からだ…!!
その時。
木を高く飛び越えて、一体の巨大なゾンビが現われた。
ドォォォォオン!!
先ほどとは比べ物にならない地響きだ。
「!!…何て大きいの…!?」
「ワン!!ワン!!」
ステーラが匂いを嗅ぎながらしきりに巨大ゾンビに吠える。
「まさか…メットくんの匂いがするの!?」
ステーラはそうだと言わんばかりに吠え続ける。
「メットくん…まさか…この怪物に…!!」
「ウガァアアアアアア!!」
巨大なゾンビは勢いをつけて地面を叩きつけた。
ステーラが素早くチェリーを突き飛ばす。
ボォォオオオオン…
ステーラは衝撃波によって後方に吹き飛ばされた。
「ステーラ!!」
ステーラは致命傷ではなかったみたいだ。
すぐに駆けて戻ってきた。
「…今までの敵とは大違いだわ…
気を引き締めなきゃ…!」
月が今、真上に昇り―――
巨大なゾンビと娘、狼を照らす。