Minecraft ~ある冒険家の旅路~   作:セッキー.Jr

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24:ジャックの弟(後編)

 

 

 

月が明るく草原を照らす夜。

 

 

 

 

 

「グォオオオオ!!」

 

 

バァアン!!

 

 

 

 

巨大なゾンビが地面を叩きつける。

 

 

 

 

衝撃波がチェリーとステーラに襲いかかる。

 

 

 

 

チェリーとステーラは左右に分かれる。

 

 

 

 

地面の揺れが治まらぬまま、巨大なゾンビはチェリーに向かって地面を叩きつける。

 

 

バァァアン!!

 

 

 

チェリーは飛び上がった。

 

 

 

そしてそのまま、ゾンビに向かって剣を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

ズシャッ!

 

 

 

 

ゾンビがひるむ。

 

 

 

 

 

 

 

ゾンビは大きく息を吸って、口を大きく開けた。

 

 

 

 

 

『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 

 

 

チェリーとステーラはたまらず耳をおさえる。

 

「なんて大きな声…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェリーの右前の地面がうごめきはじめる。

 

 

 

ステーラの左から…いや、巨大ゾンビの目の前にもだ。

 

 

 

やがて地中からゾンビがのっそりと姿を現した。

 

 

 

「死者を…蘇らせたの!?」

 

「ガルルルル…」

 

 

 

 

チェリーとステーラはゾンビを素早く倒す。

 

 

 

そして衝撃波。

 

 

 

 

 

 

 

衝撃波はステーラに命中する。

 

 

 

「クゥン!!」

 

「ステーラ!」

 

 

 

 

 

ステーラは立ち上がろうとする…

 

 

 

が、体が崩れた。

 

 

 

 

 

「どうしたの?ステーラ!」

 

「クゥン…」

 

 

尻尾が垂れ下がっている。

 

 

 

体力が消耗しているのだ。

 

 

 

 

 

 

巨大なゾンビはチェリーに向かって衝撃波を放った。

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

 

 

チェリーとステーラは衝撃波に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

大丈夫…まだ私は…戦え…

 

 

 

 

…!?

 

 

 

 

 

 

立ち上がれない。

 

 

 

 

 

空腹状態だ。

 

 

 

 

 

なんで!?…ついさっきまで…全然大丈夫だったじゃない!

 

 

 

 

 

 

 

巨大ゾンビがチェリーに近づいた。

 

 

 

 

 

 

ドゴン!!

 

 

 

 

 

 

チェリーの体が宙へ浮かぶ。

 

 

 

 

 

巨大ゾンビがチェリーを放り投げたのだ。

 

 

 

 

 

巨大ゾンビが後から続く。

 

 

 

 

 

 

ボォン…!!

 

 

 

チェリーの体は超速球で地面へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォオオオオン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェリーは目を開けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

巨大ゾンビは何かに気がついた素振りをして、

 

震えながら南の森へ逃げて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん…なんだ今の音は…」

 

「すごい音だったよね…」

 

ジャックとルーフスがやっと目を覚ます。

 

 

 

 

 

 

扉を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!」」

 

「チェリー!」「ステーラ!!」

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…」

 

「ワン!!」

 

ベッドの横でステーラが嬉しそうに尻尾を振っていた。

 

 

「ステーラ…無事だったのね…」

 

 

「お、チェリー、起きたか。…良かった~…」

 

「…ルーフス…さん。」

 

チェリーは起き上がろうとする。

 

「…うぐっ!」

 

ルーフスはゆっくりチェリーを寝かした。

 

「おっと、無理するな。

 

…昨夜は何があったんだ?」

 

 

 

 

 

チェリーはベッドに寝たまま昨夜のことを話す。

 

 

 

「巨大なゾンビ?」

 

 

 

「そうです。今までに見たことのない強さでした。」

 

「そいつがメットを食ったのか…」

 

「…いや…違うよ。」

 

 

 

 

ジャックが寂しげに辞書を見ている。

 

 

 

 

 

「…ジャック。どうした?」

 

「さっきバンダさんの辞書で調べてたんだけどさ…」

 

辞書の一面が差し出される。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

○○年、モンスターを凶暴化させる薬が一人の科

学者により開発された。その薬はあまりにも強力

であり、製造方法は封印されてきた。

しかし都市の裏ではこの製造方法を解析した者達

が高額でその情報を売っている。その後、世界の

各地でいたずらに凶暴化させたモンスターに衝撃

波、爆発、氷や石などを浴びせられ、重傷を負う

事例が発生。世界中の都市でその薬を所持する事

を禁止している。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「・・・・・・」

 

「衝撃波…私、衝撃波に襲われました!」

 

ジャックは頷いた。

 

そしてジャックはステーラに問う。

 

「ステーラ、君は確かに、巨大ゾンビからメットの匂いがしたんだよね?」

 

「ワン!」

 

ステーラが頷くように吠える。

 

「…やっぱりだ。

 

あの巨大ゾンビが……メットなんだよ。」

 

チェリーは顔を覆い、驚愕する。

 

ルーフスも驚いた。

 

 

ジャックは悔しそうに叫ぶ。

 

「…ジャックは…誰かにその薬を浴びせられたんだよ!

 

ただのいたずらか何かのために!」

 

「ジャック…。」

 

 

 

 

 

「…チェリーさん。…巨大ゾンビは…メットは…

 

その後どこに行ったか分かる?」

 

「…えっと…確か…南の森へ…!

ジャックくん…まさか…」

 

 

 

 

「僕はメットのお兄さんなんだ。

 

…あんちゃん、ここは僕一人でやらせてくれないか?」

 

「………分かった。」

 

ルーフスは考えてから頷いた。

 

 

 

 

 

「ただし。」

 

 

 

「俺もつれてけ。」

 

「あんちゃん…さっきの言葉聞いてたの?」

 

ジャックは苦笑いしながら質問する。

 

ルーフスはチェストに近づき、チェストを開いた。

 

「聞いてたさ。俺はお前についていく。ただそれだけだ。」

 

ルーフスはチェストにソードを放り込んだ。

 

そしてチェストを閉める。

 

 

 

 

「お前はメットの兄さんだ…

 

ってことは、俺とチェリー、ステーラも、メットの兄さん、姉さんだろ?」

 

「ワン!」

 

 

「…分かったよ。あんちゃんには、敵わないや。」

 

「ジャックくん。」

 

チェリーがジャックを手招きする。

 

 

 

 

ジャックはベッドの横に近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぎゅっ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェリーが優しく抱きしめる。

 

 

 

 

 

「大丈夫。もしメットくんを殺してしまっても、

 

メットくんはあなたを絶対恨まないわ。

 

あなたは…メットくんのお兄さんだもの。

 

…だから。メットくんには正しいことをしてあげてね。」

 

 

 

 

 

 

 

「…ありがとう。チェリーさん。」

 

ジャックはチェリーの温もりを感じながら応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天気は曇り。

 

 

 

 

 

 

ジャックとルーフス、ステーラは南の森を無言で歩いていた。

 

ジャックの手には火打石と打ち金があった。

 

 

 

 

木は前に進むに従い後ろへ流れていく。

 

 

ジャック達が今見ている世界はスローモーションのように流れていく。

 

 

 

 

風に揺らぐ木々、草、花。

 

池に浮かぶ波紋。

 

いつもとは違う、寂しげな新鮮さがあった。

 

 

 

 

 

 

 

ドォン…

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォン…

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォン…

 

 

 

 

 

 

 

ドォン…

 

 

 

 

 

 

 

ドォン…!

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前には巨大ゾンビ…メットが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…メット。」

 

ルーフスは耳で聞いた時よりすごい衝撃を受けた。

 

 

 

 

薬が…ここまで変えてしまうものだろうか。

 

 

 

 

 

 

ステーラは何も吠えなかった。

 

 

 

 

 

ジャックが話し始める。

 

 

 

「メット…君はチェリーさんとステーラを傷つけたみたいじゃないか。

 

…チェリーさんは僕のお姉さんだぞ。…つまり君のお姉さんだ。」

 

 

 

 

「ガァ!」

 

 

 

 

地面を殴る。

 

 

 

 

 

ジャックはよけなかった。

 

服に切れ筋が入る。

 

体の力がガクッと抜ける。

 

 

 

 

「…君は間違ったことをしたんだ。…おしおきだ。」

 

 

「ガァアア!」

 

 

巨大ゾンビが腕を振り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ボォ…!

 

ジャックは火打石でメットの下の地面を燃やした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウガァアアアアアア!!ガァアア!!」

 

巨大ゾンビはもだえる。

 

 

 

 

 

 

ゾンビが燃える炎の中に映像が浮かび始めた。

 

 

 

 

 

一人のゾンビの子供が倒れている。

 

一人のゾンビの子供がおいしそうに料理を食べている。

 

一人のゾンビの子供が楽しそうに走っている。

 

一人のゾンビの子供が…

 

…一人の…ゾンビの…子供が…

 

 

 

…僕の…弟が。

 

 

 

 

 

 

「わぁああああ!!」

 

ジャックは手に持っていたバケツに近くの池で水を汲む。

 

そしてゾンビに浴びせた。

 

 

 

 

 

炎は消えた。

 

 

 

 

 

だがゾンビの返事はない。

 

 

 

 

 

 

 

「僕の…弟は…殺せるわけないよ!」

 

ジャックの目から涙がこぼれ落ちる。

 

 

ルーフスは黙ってジャックを見ていた。

 

「うっ…うっ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焦げたメットは、目の前のジャックを抱くように…

 

いや、ジャックに抱きつくように倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

最初にジャックに抱きついた時のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…メット…?」

 

 

メットは返事をしない。

 

 

 

 

 

メットが光り始める。

 

 

 

 

 

 

「メット…!メット…!」

 

 

 

メットの姿が一つの武器に変わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

武器はジャックの手の上にずっしりと乗っかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャックは座って震える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確かに聞こえたよ…メット…

 

『ありがとう』って…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああ!!」

 

ジャックは武器を抱えながら号泣する。

 

 

 

 

 

ルーフスも涙を流す。

 

ステーラは悲しみの遠吠えをした。

 

 

 

「メット…こっちこそ…ありがとよ…」

 

ウォォォォォオオオン…

 

 

曇り空の下。

 

 

 

 

 

 

一人の少年がずっと、泣き叫んでいた―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草原に朝が来た。

 

ルーフスはまだ眠たそうに起きる。

 

 

 

「お、あんちゃん、おはよう!」

 

 

ルーフスは驚きながら応える。

 

「お、おう、おはよう…」

 

「何がいいかな、朝ごはん。」

 

「えっと、パンかな。」

 

「分かった。小麦を三本、と。」

 

「ジャック、メットのことは大丈夫なのか?」

 

 

 

 

 

ジャックは言う。

 

「…確かに。今でも寂しいよ。

 

でも、メットはまだいるってことに気づいたんだ。」

 

 

 

ジャックはチェストの中からハンマーを取り出した。

 

 

「ね?」

 

 

 

ルーフスは笑顔になった。

 

 

 

 

 

 

…俺の考えすぎだったな。

 

 

ジャックは今も、ずっと、成長しているんだな。

 

 

 

 

 

 

 

ルーフスはいつもの元気で言った。

 

「よし、ジャック、チェリーの為に今日はジャングル行ってカカオとって来るぜ!」

 

「お、いいねぇ!あんちゃん、たまにはケーキにも挑戦してみないかな?」

 

「それもいいな!…おっと、まずは腹ごしらえだ。ジャック、とことん食うぜ!」

 

「おう!」

 

 

 

 

ルーフスとジャックは早食いを始める。

 

 

 

 

 

 

チェリーとステーラが起きた。

 

 

ルーフスとジャックが椅子の上で腹を膨らませていた。

 

 

「「げぽっ」」

 

 

 

くすっ…

 

 

 

 

 

良かった、いつもどおりのジャックくんだわ。

 

 

 

 

 

 

「お、起きたか、チェリー、今日はな…」

 

「本当ですか!?やったぁ!」

 

「ワン!ワン!」

 

「ははは!!」

 

 

 

 

 

 

いつもどおりの楽しい風景。

 

 

その風景を窓の外から小さなゾンビが見ている。

 

その幻影は、にぱっと笑ってから、一つのハンマーに吸い込まれていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは南の森の小屋の中。

 

一人の男がカメラの映像を観ている。

 

「…ちっ。まだ人間一人に勝てないほどの力か…」

 

 

 

 

男は×印のポーションを見て笑う。

 

 

 

 

「だが、火力は十分だ…

 

戦力としてリストに入れておこう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

男が手にするリストのタイトルは―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世界壊滅計画」の文字。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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