Minecraft ~ある冒険家の旅路~ 作:セッキー.Jr
月が明るく草原を照らす夜。
「グォオオオオ!!」
バァアン!!
巨大なゾンビが地面を叩きつける。
衝撃波がチェリーとステーラに襲いかかる。
チェリーとステーラは左右に分かれる。
地面の揺れが治まらぬまま、巨大なゾンビはチェリーに向かって地面を叩きつける。
バァァアン!!
チェリーは飛び上がった。
そしてそのまま、ゾンビに向かって剣を振り下ろす。
ズシャッ!
ゾンビがひるむ。
ゾンビは大きく息を吸って、口を大きく開けた。
『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
チェリーとステーラはたまらず耳をおさえる。
「なんて大きな声…!」
チェリーの右前の地面がうごめきはじめる。
ステーラの左から…いや、巨大ゾンビの目の前にもだ。
やがて地中からゾンビがのっそりと姿を現した。
「死者を…蘇らせたの!?」
「ガルルルル…」
チェリーとステーラはゾンビを素早く倒す。
そして衝撃波。
衝撃波はステーラに命中する。
「クゥン!!」
「ステーラ!」
ステーラは立ち上がろうとする…
が、体が崩れた。
「どうしたの?ステーラ!」
「クゥン…」
尻尾が垂れ下がっている。
体力が消耗しているのだ。
巨大なゾンビはチェリーに向かって衝撃波を放った。
「!!!」
チェリーとステーラは衝撃波に飲み込まれた。
大丈夫…まだ私は…戦え…
…!?
立ち上がれない。
空腹状態だ。
なんで!?…ついさっきまで…全然大丈夫だったじゃない!
巨大ゾンビがチェリーに近づいた。
ドゴン!!
チェリーの体が宙へ浮かぶ。
巨大ゾンビがチェリーを放り投げたのだ。
巨大ゾンビが後から続く。
ボォン…!!
チェリーの体は超速球で地面へと向かう。
ボォオオオオン!!
チェリーは目を開けなかった。
巨大ゾンビは何かに気がついた素振りをして、
震えながら南の森へ逃げて行った。
「…ん…なんだ今の音は…」
「すごい音だったよね…」
ジャックとルーフスがやっと目を覚ます。
扉を開ける。
「「!!」」
「チェリー!」「ステーラ!!」
・・・
・・
・
「ん…」
「ワン!!」
ベッドの横でステーラが嬉しそうに尻尾を振っていた。
「ステーラ…無事だったのね…」
「お、チェリー、起きたか。…良かった~…」
「…ルーフス…さん。」
チェリーは起き上がろうとする。
「…うぐっ!」
ルーフスはゆっくりチェリーを寝かした。
「おっと、無理するな。
…昨夜は何があったんだ?」
チェリーはベッドに寝たまま昨夜のことを話す。
「巨大なゾンビ?」
「そうです。今までに見たことのない強さでした。」
「そいつがメットを食ったのか…」
「…いや…違うよ。」
ジャックが寂しげに辞書を見ている。
「…ジャック。どうした?」
「さっきバンダさんの辞書で調べてたんだけどさ…」
辞書の一面が差し出される。
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○○年、モンスターを凶暴化させる薬が一人の科
学者により開発された。その薬はあまりにも強力
であり、製造方法は封印されてきた。
しかし都市の裏ではこの製造方法を解析した者達
が高額でその情報を売っている。その後、世界の
各地でいたずらに凶暴化させたモンスターに衝撃
波、爆発、氷や石などを浴びせられ、重傷を負う
事例が発生。世界中の都市でその薬を所持する事
を禁止している。
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「・・・・・・」
「衝撃波…私、衝撃波に襲われました!」
ジャックは頷いた。
そしてジャックはステーラに問う。
「ステーラ、君は確かに、巨大ゾンビからメットの匂いがしたんだよね?」
「ワン!」
ステーラが頷くように吠える。
「…やっぱりだ。
あの巨大ゾンビが……メットなんだよ。」
チェリーは顔を覆い、驚愕する。
ルーフスも驚いた。
ジャックは悔しそうに叫ぶ。
「…ジャックは…誰かにその薬を浴びせられたんだよ!
ただのいたずらか何かのために!」
「ジャック…。」
「…チェリーさん。…巨大ゾンビは…メットは…
その後どこに行ったか分かる?」
「…えっと…確か…南の森へ…!
ジャックくん…まさか…」
「僕はメットのお兄さんなんだ。
…あんちゃん、ここは僕一人でやらせてくれないか?」
「………分かった。」
ルーフスは考えてから頷いた。
「ただし。」
「俺もつれてけ。」
「あんちゃん…さっきの言葉聞いてたの?」
ジャックは苦笑いしながら質問する。
ルーフスはチェストに近づき、チェストを開いた。
「聞いてたさ。俺はお前についていく。ただそれだけだ。」
ルーフスはチェストにソードを放り込んだ。
そしてチェストを閉める。
「お前はメットの兄さんだ…
ってことは、俺とチェリー、ステーラも、メットの兄さん、姉さんだろ?」
「ワン!」
「…分かったよ。あんちゃんには、敵わないや。」
「ジャックくん。」
チェリーがジャックを手招きする。
ジャックはベッドの横に近づいた。
ぎゅっ…
チェリーが優しく抱きしめる。
「大丈夫。もしメットくんを殺してしまっても、
メットくんはあなたを絶対恨まないわ。
あなたは…メットくんのお兄さんだもの。
…だから。メットくんには正しいことをしてあげてね。」
「…ありがとう。チェリーさん。」
ジャックはチェリーの温もりを感じながら応えた。
天気は曇り。
ジャックとルーフス、ステーラは南の森を無言で歩いていた。
ジャックの手には火打石と打ち金があった。
木は前に進むに従い後ろへ流れていく。
ジャック達が今見ている世界はスローモーションのように流れていく。
風に揺らぐ木々、草、花。
池に浮かぶ波紋。
いつもとは違う、寂しげな新鮮さがあった。
ドォン…
ドォン…
ドォン…
ドォン…
ドォン…!
ドォン!!
目の前には巨大ゾンビ…メットが。
「…メット。」
ルーフスは耳で聞いた時よりすごい衝撃を受けた。
薬が…ここまで変えてしまうものだろうか。
ステーラは何も吠えなかった。
ジャックが話し始める。
「メット…君はチェリーさんとステーラを傷つけたみたいじゃないか。
…チェリーさんは僕のお姉さんだぞ。…つまり君のお姉さんだ。」
「ガァ!」
地面を殴る。
ジャックはよけなかった。
服に切れ筋が入る。
体の力がガクッと抜ける。
「…君は間違ったことをしたんだ。…おしおきだ。」
「ガァアア!」
巨大ゾンビが腕を振り上げる。
ボォ…!
ジャックは火打石でメットの下の地面を燃やした。
「ウガァアアアアアア!!ガァアア!!」
巨大ゾンビはもだえる。
ゾンビが燃える炎の中に映像が浮かび始めた。
一人のゾンビの子供が倒れている。
一人のゾンビの子供がおいしそうに料理を食べている。
一人のゾンビの子供が楽しそうに走っている。
一人のゾンビの子供が…
…一人の…ゾンビの…子供が…
…僕の…弟が。
「わぁああああ!!」
ジャックは手に持っていたバケツに近くの池で水を汲む。
そしてゾンビに浴びせた。
炎は消えた。
だがゾンビの返事はない。
「僕の…弟は…殺せるわけないよ!」
ジャックの目から涙がこぼれ落ちる。
ルーフスは黙ってジャックを見ていた。
「うっ…うっ…」
その時。
焦げたメットは、目の前のジャックを抱くように…
いや、ジャックに抱きつくように倒れた。
最初にジャックに抱きついた時のように。
「…メット…?」
メットは返事をしない。
メットが光り始める。
「メット…!メット…!」
メットの姿が一つの武器に変わっていった。
武器はジャックの手の上にずっしりと乗っかる。
ジャックは座って震える。
確かに聞こえたよ…メット…
『ありがとう』って…!!
「うわあああああああああ!!」
ジャックは武器を抱えながら号泣する。
ルーフスも涙を流す。
ステーラは悲しみの遠吠えをした。
「メット…こっちこそ…ありがとよ…」
ウォォォォォオオオン…
曇り空の下。
一人の少年がずっと、泣き叫んでいた―――――――――
草原に朝が来た。
ルーフスはまだ眠たそうに起きる。
「お、あんちゃん、おはよう!」
ルーフスは驚きながら応える。
「お、おう、おはよう…」
「何がいいかな、朝ごはん。」
「えっと、パンかな。」
「分かった。小麦を三本、と。」
「ジャック、メットのことは大丈夫なのか?」
ジャックは言う。
「…確かに。今でも寂しいよ。
でも、メットはまだいるってことに気づいたんだ。」
ジャックはチェストの中からハンマーを取り出した。
「ね?」
ルーフスは笑顔になった。
…俺の考えすぎだったな。
ジャックは今も、ずっと、成長しているんだな。
ルーフスはいつもの元気で言った。
「よし、ジャック、チェリーの為に今日はジャングル行ってカカオとって来るぜ!」
「お、いいねぇ!あんちゃん、たまにはケーキにも挑戦してみないかな?」
「それもいいな!…おっと、まずは腹ごしらえだ。ジャック、とことん食うぜ!」
「おう!」
ルーフスとジャックは早食いを始める。
チェリーとステーラが起きた。
ルーフスとジャックが椅子の上で腹を膨らませていた。
「「げぽっ」」
くすっ…
良かった、いつもどおりのジャックくんだわ。
「お、起きたか、チェリー、今日はな…」
「本当ですか!?やったぁ!」
「ワン!ワン!」
「ははは!!」
いつもどおりの楽しい風景。
その風景を窓の外から小さなゾンビが見ている。
その幻影は、にぱっと笑ってから、一つのハンマーに吸い込まれていった…
ここは南の森の小屋の中。
一人の男がカメラの映像を観ている。
「…ちっ。まだ人間一人に勝てないほどの力か…」
男は×印のポーションを見て笑う。
「だが、火力は十分だ…
戦力としてリストに入れておこう…」
男が手にするリストのタイトルは―――――――
「世界壊滅計画」の文字。