Minecraft ~ある冒険家の旅路~   作:セッキー.Jr

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42:グルメの街

 

ルーフス達は西の都会に向かって草原を進む。

 

ココアはチェリーの背中で小さな口にお肉を運んでいる。

 

「ココアちゃん、おいしい?」

 

ココアは幸せそうにコクンとうなずく。

 

「お料理上手いんだね、チェリーさん!」

 

「ありがとう!」

 

チェリーとココアは笑いあう。

 

ステーラはチェリーにお肉をおねだりする。

 

「はいはい、ステーラの分もちゃんとあるから。」

 

「ステーラったらかわいい!」

 

ココアはステーラの頭を撫でる。

 

ジャックとルーフスが考える。

 

「…あの穴は、隕石とかじゃないと思うんだ…」

 

「確か…さっきの村人は『白衣の男』とか言ってたな。」

 

「その白衣の男が、村を壊したんだと思う。」

 

「…そいつ見つけて、一発殴ってやりたいぜ…」

 

ルーフスは真剣な顔で言った。

 

 

「あ!見えたよ!」

 

「おー!!あれが都会か…どんな場所なんだ?」

 

「あの都会は…『イリーガシティ』。グルメの街だって!」

 

「グルメか…!おいしそうな街だな!」

 

チェリーが横を走って先頭にくる。

 

慌てて振り向いて言う。

 

「早く行きましょう!」

 

チェリーはココアをしょいながら走っていく。

 

「慌てるなって…」

 

「ワン!ワン!」

 

ステーラもルーフスとジャックを追い抜いて走っていく。

 

ルーフスとジャックも走って行った。

 

 

 

 

「やあ、ようこそ!イリーガシティへ!」

 

「ようごぞ~イリーガシディへ~」

 

見るとやせ細っていてダサいマスクをつけた、小さい男が話しかけてきた。

 

横には太っていて同じくダサいマスクの小さい男だ。

 

細いほうが甲高い声で言う。

 

「旅人さんですよね~?

私達、『ネズミのお助け屋』と申します!お荷物をお持ちしますよ!」

 

太いほうが低い声で言う。

 

「おもぢじま~ず」

 

「お、いいサービスじゃんか…じゃあ、3人分、頼むわ!」

 

ルーフス達は笑って荷物を預ける。

 

「はいはい!」

 

太いほうが2人分、細いほうが1人分のバッグを持つ。

 

 

「あんさ~ん、じっでまずが~?」

 

太ったほうが尋ねる。

 

「ねずみがどんな生き物かってね!」

 

「ん?…ん~…」

 

ルーフスは考える。

 

 

 

そしてピンときた。

 

 

「食べ物が大好き!」

 

「「そのとーり!!」」

 

二人組はいきなり走る。

 

 

「ば~か!まんまと騙されやがった!」

 

「ぷぷぷぷぷ!!だべものいだだきや~!!」

 

「「「「ああああああああ!!!」」」」

 

「バウワウ!!」

 

ステーラが怒って追いかける。

 

「俺達も追うぞ!」「はい!」「うん!」

 

ココアもうなずいた。

 

 

 

ここは市場。

 

 

二人組と旅人が人の波を掻き分けて逃走劇を続けていた。

 

「待てぇえええ!!」

 

「やなこった!」

 

二人組は二手に分かれる。

 

太いほうが直進し、

 

細いほうは路地裏に入っていった。

 

 

「チェリーとココアは路地裏頼む!」

 

「はい!」「うん!」

 

 

「ジャック、ステーラ!デブのほう行くぞ!」

 

「うん!」「バウ!」

 

 

ルーフス達も二手に分かれた。

 

 

 

 

「ひぃ!助けてくれ!」

 

細いほうが路地裏で追いつかれたチェリーに剣を向けられている。

 

「あなたを傷つけることはしないわ。さあ、荷物を返しなさい!」

 

細いほうは何も持っていない。

 

 

細いほうはにやりと笑った。

 

「ひっかかったな!」

 

「やーい!やーい!」

 

 

上からの声。

 

 

上を見ると、隣の店の屋上に細い男がいた。

 

「「俺たちは双子なんだよーん!」」

 

 

「「えぇえぇえええええ!?」」

 

チェリーとココアは驚愕する。

 

「バイビ~!!」

 

 

双子はそれぞれ駆け出していった。

 

チェリーとココアは顔を真っ赤にして怒る。

 

「「くやしい!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太いほうの尻にステーラが噛み付く。

 

「いっで!」

 

太いほうが肉を後ろに投げる。

 

 

ステーラはつい本能で飛びついてしまった。

 

「クゥン♪」

 

「「おい!ステーラぁ!」」

 

「バイビ~!!」

 

太ったネズミは去っていく。

 

 

ルーフスとジャック、ステーラも顔を真っ赤にして怒る。

 

「くそ~!姑息な手使いやがって!!」

 

「ワオン!」

 

「バンダさんの辞書返せ!!」

 

怒声は都会に響いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

月はもうすぐ真上に昇る。

 

ルーフス達は宿に止まるエメラルドも奪われ、店の前の路上に座っていた。

 

明るい店内からはおいしい匂いが漂ってくる。

 

チリーン…

 

カップルが今店の中から出てきて、道路を歩いていった。

 

 

 

ギュルルルルルル…

 

4人と1匹のお腹が同時に鳴る。

 

 

「腹減った~…」「クゥン…」

 

「ココアちゃん…ごめんね。お腹いっぱいご飯食べさせてあげたかったのに…」

 

「ううん、いいよ、そんなことより、みんなのバッグを盗んだ、

あの人達が許せないよ!」

 

ココアは口を結ぶ。

 

 

「でも…」

 

 

「やっぱりお腹すいた~…」

 

「「「「はぁ…」」」」

 

「クゥン…」

 

 

 

 

陽気な鼻唄が大きくなる。

 

チリーン…

 

中からはでっぷりと太った、口ひげを生やした料理人が。

 

鼻唄を歌いながら扉の看板を裏返している。

 

「ん?」

 

料理人は4人と1匹に気づく。

 

 

「君達、どうしたんだ。宿に泊まらないと風邪を引いてしまうよ。」

 

「いえ…お金が無いものですから…」

 

料理人は黒い肌の女の子を見て驚愕する。

 

 

「君!食事はきちんと食べているのか!

骨がくっきりと見えているじゃないか!」

 

「あ…」

 

女の子は緊張で声が出ないようだ。

 

 

料理人は急いで扉を開ける。

 

 

「さあ、君達、入りたまえ。」

 

 

 

 

 

 

4人の目の前には魚、卵、チーズに鶏肉のサンドイッチセットにサラダとチョコミルクが。

 

ステーラの前にはステーキが2枚も乗せられた皿があった。

 

ステーラは早速かぶりつく。

 

 

「俺たちまでいいんですか!?」

 

「ああ、たんと召し上がれ。」

 

料理人は笑顔で言う。

 

 

黒い肌の女の子はサンドイッチをぼーっと見ていた。

 

料理人は女の子に話しかける。

 

「どうしたのだい?…サンドイッチは嫌いだったかな?」

 

 

ココアは確認する。

 

「これ…食べてもいいの?」

 

「むしろ、君は食べなければいけないな。

 

…これはね、こう…手で持ってかぶりつくのが一番うまいんだ!」

 

料理人はココアの小さな手を持って教える。

 

 

ココアはかぶりついた。

 

 

「…おいしい…!」

 

「ホホホホ!!そりゃそうさ!なにせ、この私が作ったのだから!」

 

 

 

ルーフス達もかぶりつく。

 

「うめぇ…!」

 

「うん!うん!」

 

「感動しました…!」

 

「ワオン!!」

 

 

料理人はうなずく。

 

 

 

 

 

 

 

「私は『グラッソ・ガビアーノ・レストラン』の店長、アルミロ・ボンピアーニだ。」

 

「俺はルーフスといいます。」

 

「ジャックです!」

 

「チェリーと申します!」

 

「ココアです。」

 

「こいつはステーラ。」

 

「ワオン!!」

 

 

 

「ありがとうございました、食べさせてもらって。」

 

「いいんだよ。食べ物は食べるためにあるのだからな!

でも君達、どうして旅人なのにバッグも何も持っていないのかい?」

 

「それが…『ネズミ』と名乗る奴らに奪われてしまったのです。」

 

 

アルミロはあっと気づく。

 

「なるほど…あいつらは本当に卑怯だからな。

…よし、今夜、私が手を打ってみよう!…君達も協力してくれ。」

 

「「「「はい!」」」」

 

「ワオン!」

 

 

 

 

 

 

レストランの明かりも、もう点いてはいない。

 

ただ月の幽かな光だけが道路を照らす。

 

家の屋上に3人の影が映った。

 

 

「おい、見てみろよ!…あそこ!」

 

細い男はレストラン前のダンボールを双眼鏡で覗いている。

 

もう一人の細い男が双眼鏡を覗く。

 

「おほ!…あれはもしや、牛肉じゃねぇか!?」

 

「うへへへへ…あれがあればじょくりょうにはごまらねぇぜ!」

 

「早速行くぞ!お前ら!」

 

3人はスタッと屋上から飛び降りて牛肉に近づく。

 

 

「うっへっへ…いますぐ食っちまおうぜ。」

 

「どうせ誰もいねぇしな!」

 

「いだだぎまーず!」

 

 

がぶっ…

 

 

 

 

 

 

 

「「「おぇええええええええ!!」」」

 

3人は舌をまずそうに出す。

 

 

「なんだこれ…」

 

「あれ…なんか…すごく腹が減ってきた…」

 

「うごげねぇ…」

 

 

「ホホホホ!また引っかかりおって!

それはもう既に腐った肉さ!」

 

3人はへとへとになって言う。

 

「お前はー…」

 

「アルミロー…」

 

「ぐぞー…だまざれだー…」

 

 

アルミロは真剣な顔で言う。

 

「食べ物の恨みは恐ろしいのだぞ!

…さあ、たらふくおいしいもん食わしてやるから、

旅人たちの荷物を返すんだ!」

 

 

 

 

 

 

ガツガツガツガツ

 

 

ムシャムシャムシャムシャ

 

 

夜中のレストランの中で。

 

3人組は一心不乱にご馳走を食べる。

 

 

 

アルミロは欠伸を掻きながら流し台でお皿を洗っていた。

 

 

キッチンにココアが入ってくる。

 

 

「おお、君、どうしたんだい?」

 

「寝れなくて。私は…ずっと独りで夜も過ごしてたから…

 

皆と寝るのが…不安で…」

 

少女は悲しそうに言う。

 

 

店長は笑って言う。

 

「じゃあ、私と少しお喋りでもしようか。」

 

 

 

 

 

店長は食べている3人の横から椅子を2脚かついでキッチンに置く。

 

そしてココアを座らせて、自分もどっしりと椅子に座る。

 

ココアは泥棒をよそ目に言う。

 

「何でおじさんは、泥棒にも食べさせてるの?」

 

「ん?…それはね…

 

『食べる』ことこそ幸せなものはないからさ。

どんなに機嫌の悪い人でも、食べ物を口に運ぶと幸せな気分になれる。

そんな相手の感情を思って料理をしていると、悪い奴でもついつい食べさせてやりたくなるのさ。

ホッホッホ…全く、お人よしにも程があるとは思わないかい?」

 

ココアは慌てて首を振る。

 

「私…嬉しかったよ。

いつもはお魚を一匹だけで…

今日ほどたっぷり食べたことは無かったから…」

 

ひっく…ひっく…

 

ココアは泣き始める。

 

「幸せだったから…本当に…こんなに食べさせてくれるのかな…って…

疑っちゃって…疑うことしか出来なくて…」

 

 

アルミロは驚いた顔でココアを見つめていた。

 

 

 

アルミロはそっと冷蔵庫を探って、

二つのアイスクリームをココアの前に差し出した。

 

「さあ、召し上がれ。

君は、よほど辛いことがあったんだね。」

 

ココアは涙まみれの顔でアイスクリームを舐める。

 

 

ココアは笑顔になる。

 

 

「おいしい…!」

 

 

アルミロも笑顔でアイスクリームを食べはじめる。

 

「君は泣くより、笑ったほうが可愛いよ。

 

あの子達…ステーラも加えて、皆、君を大切に思っているはずさ。

 

だから、もっとあの子達と楽しく話してみてはどうかな?」

 

ココアは頷いた。

 

「うん!」

 

 

 

泥棒達は空き皿を机の上に積んで、既にいなくなっていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!」「ワン!ワン!」

 

ルーフス達は玄関の扉の前に荷物が置いてあるのを発見する。

 

ステーラは荷物の前で嬉しそうに尻尾を振っていた。

 

「良かった~…!返してくれたんだ!」

 

「アルミロさん、ありがとうございます!」

 

「なぁに、返したのは、泥棒たち自身の判断さ。」

 

アルミロは白い歯を見せて笑った。

 

 

ビルの屋上から泥棒たちは旅人たちを望む。

 

 

「…なぁ…俺らは本当にこのままでいいのか…」

 

「これが俺達の求めているものなのか…?」

 

「…ごのままじゃ…もうぬけだせないど…」

 

泥棒たちは静かに座って考えていた…

 

 

 

 

 

ルーフス達は手を振る。

 

 

「レシピありがとうございました!」

 

「さようなら~!」

 

 

 

アルミロも手を振った。

 

「しっかりと食べるんだぞ~!!」

 

 

 

ルーフス達は地平線の向こうへと見えなくなった。

 

アルミロは体操をして店の準備に取り掛かる。

 

 

店のテレビにはニュースが流れる。

 

 

 

『速報です。昨夜何者かの手によってロックベースシティ全域に渡り、

謎の破壊跡が発見されました。この事件による死傷者は2000人に及び、

警察は原因解明のため調査を進めています。…』

 

 


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