Minecraft ~ある冒険家の旅路~   作:セッキー.Jr

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45:アートの街(前編)

 

日が沈み、月がルーフス達を明るく照らす。

 

その周囲では星がきらきらと瞬いていた。

 

ココアは横から襲い来るモンスターに怯えながら、チェリーに背負われていた。

 

チェリーとルーフス、ステーラにジャックがモンスターを払いのけていく。

 

 

背中には大量のモンスターが地面に這いつくばっていた。

 

ルーフス達はとある街の前に立つ。

 

「Welcome to music and painting town!」

 

木でできた看板にこう書かれてあった。

 

後ろには埋まるほどの住宅の中にビルが点々とそびえたっている。

 

中には大きな学校らしきものも見えた。

 

「ここがミラーボの生まれた街か…」

 

「賑やかそうな街ですね!」

 

「「ふわ~ぁ…」」

 

 

時間はもう深夜。

 

ジャックとココアは同時にあくびをする。

 

「眠いなぁ…」

 

「まずは宿を探しましょう。」

 

「そうだな。」

 

 

ルーフス達は街へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

宿のチェックインを済ませて、ロビーから部屋へと向かう。

 

「あれ?」

 

 

ルーフス達はココアが傍にいないことに気づく。

 

「どこ行ったのかな…?」

 

「あ、いましたよ!」

 

 

ロビーの大きな壁の前。

 

ココアは目を輝かせて前を見ていた。

 

壁画だ。

 

筆とパレットを持った一人の男性が脚立の上で絵を描いている。

 

 

神聖な純白のベールに包まれた女神だ。

 

背中には光の羽が生えていて、胸には赤ちゃんを抱えている。

 

女神は優しく赤ちゃんに微笑んでいる。

 

その姿が母と重なって。

 

 

ココアはとっても幸せな気持ちになっていた。

 

 

「わぁ!きれいな絵…!!」

 

「すっげぇ…」

 

「おっきいな~…」

 

「ワン!ワン!」

 

 

ルーフス達も絵を鑑賞する。

 

男性がこちらに気づいた。

 

「おお、旅人さんかい?」

 

 

白と水色の水玉模様に、赤いタンクトップ。

 

茶色の髪に焼けた肌。

 

服にはカラフルに跳ねた絵の具がついていた。

 

 

「「「「こんにちは!」」」」「ワオン!」

 

「こんにちは。」

 

男性は元気に笑う。

 

 

 

 

「僕はアミディオっていうんだ。まだ駆け出しだけど、デザイナーをやっているんだ。」

 

「へえ、そうなのですか。」

 

「この絵はなんで女神様にしたのですか?」

 

 

「この絵はね。母の温もりをイメージしたんだ。

だから僕は女神様にしてみたのさ…

まあ、ただ単に女神様を描いてみたかったっていうこともあるんだけどね。」

 

ココアは感動していた。

 

 

『絵』って…こんなに伝わってくるものなんだ…!

 

 

「あ、そうだ。今日はもう寝たいだろう。

明日、僕が入っている会社の主催する絵の展覧会があるんだ。

場所はこのホテルの西にあるブロス・デセクラーズ美術大学で行うよ。

絵も描いてみることも出来るから、是非、来てほしいな。」

 

「はい!分かりました。では、おやすみなさい。」

 

「おやすみ!」

 

 

 

ルーフス達は部屋へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

 

ルーフス達はホテルを出て、ブロス・デセクラーズ大学へと向かった。

 

開催してから間もないのに、もうたくさんの人が集まっている。

 

横にはおじいさんが油絵を売っていたり、若い人たちがストリートダンスを見せている。

 

他にも食べ物の屋台が大きな大学の楓の並木道に詰まっていた。

 

 

男性陣は早速食べ物を頼む。

 

「おばちゃん!チョコレートドーナツ一つ!」

 

「僕はシュガードーナツで!!」

 

「ワオンワオン!!」

 

「はいよ、エメラルド1個ずつね!」

 

 

「じゃがバター!」

          「ソルトピーナッツ!」

    「ワワオン!!」 

   「焼き芋!」「プレッツェル!」

    「ワッフル!」「チリビーンズ!」

 

 

チェリーは屋台を右へ左へ飛び交う3人に呆れて笑う。

 

「…ココアちゃん、先行ってみる?」

 

「うん!」

 

 

チェリーとココアは並木道を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

大学の中には様々な絵が。

 

 

歪んだ顔の絵や、天使達が楽しそうに歌っている絵。

 

直線と円だけで描かれたような象徴的なものや、

1コマずつ描かれたアニメーションまで。

 

始めてみる絵画の世界を、ココアは歩いていたのだ。

 

チェリーはココアの今まで見たことの無い楽しそうな顔に安心していた。

 

チェリーはココアと絵を見ているうちに、美術室を見つけた。

 

中には子供達が真剣に筆で好きな絵を描いている。

 

「ココアちゃん、ここで絵が描けるそうよ。

描いてみる?」

 

「え!いいの!?」

 

「もちろん!」

 

チェリーは笑顔でココアに言う。

 

 

ココアとチェリーは美術室に入っていく。

 

 

「お!やあ。来てくれたんだね!」

 

「あ…アミディオさん!」

 

「こんにちは!」

 

 

「さあさあ!どうぞ座って!」

 

 

アミディオはチェリーとココアに丸椅子を用意する。

 

「今日はココアちゃんだけが描くのかな?」

 

「はい、そうです。」

 

「じゃあこれが絵を描く道具だよ。」

 

アミディオはココアにパレットと2本の筆、水のバケツを渡す。

 

そしてアミディオがココアの前に紙を持ってきた。

 

 

ココアは早速紙に向かって赤い絵の具で筆を付ける。

 

 

 

しかし…

 

 

 

何かちがうんだよなー…?

 

もっと太い方がいいかな?

 

 

もう一方の太い筆を持って筆を付けてみた。

 

 

ちがうなぁ…?

 

 

わたしが描きたいのはもっと擦れてて…

 

 

 

 

 

 

 

ココアは閃いた。

 

 

 

「チェリーさん、筆持っててくれる?」

 

「え?…うん…」

 

 

 

「え!?」

 

チェリーは驚いた。

 

ココアは指にべたっと絵の具をつけて

 

紙に塗り始めていた。

 

 

 

これだ…!

 

 

 

「ココアちゃん…筆、使わないの?」

 

ココアはうなずく。

 

「だって、筆じゃこの線は描けないんだもん!」

 

隣にいた少年はココアを馬鹿にしたように笑う。

 

ココアはしれっとしたまま絵の具を水で洗っては描いている。

 

アミディオがココアの方へ廻ってくる。

 

アミディオも驚いた。

 

少女が筆じゃなくて指を使って紙に絵の具を塗っているじゃないか。

 

少女の描いているのは赤と緑…カーネーションの枠のようだ。

 

 

 

アミディオは後ろからじっくり見始める。

 

そして一通り描き終わり、更に絵の具を筆で自分の右手に塗りたくり、

 

絵の中心より少し右にぺたっと押す。

 

かわいい小さな手形が絵に咲いた。

 

 

 

「チェリーさん、左手、いいかな?」

 

チェリーは察したようだ。

 

「ええ!」

 

チェリーの左手に同じように絵の具を塗りたくる。

 

そしてココアの手の左に、親指が重なるように押した。

 

 

 

 

 

ココアの絵は完成した。

 

 

 

 

 

アミディオはつい訊いてしまった。

 

「…題名はあるのかい?」

 

 

 

 

ココアは楽しそうに笑って答える。

 

「『おかあさん』です!」

 

 

チェリーは涙目になる。

 

自分の境遇と重なったのだろう。

 

「…とっても、いい絵だよ…」

 

アミディオはただただ感心する。

 

それと同時に、こんなことも思い始めていた。

 

 

この子は常識を持っていない。

 

けど、常識を持たないということは、自由に生きることができるということなのか…!

 

私も含めて、みんな常識にとらわれているということか…

 

この子の才能を、このまま見捨ててしまっていいのだろうか…?

 

 

 

 

「ココアちゃん、…この展覧会が終わった後、ホテルのロビーに来てくれないか…?」

 

「?…はい…。」

 

ココアはアミディオの態度に不思議そうに答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーっす、チェリー。」

 

「ごっつぁんです。チェリーさん。」

 

「モオモオ。」

 

 

 

 

 

そこにはぶっくりと太った男性陣。

 

 

 

 

「…あなた達、誰…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3人が元に戻った所で。

 

ホテルの部屋でチェリーは今日のことを話していた。

 

「へえ!これをココアが描いたのか!…すげえな!」

 

「筆を使わないなんて、斬新だね…」

 

「ワオン!」

 

「でしょう?…でも、今ココアちゃん、アミディオさんに呼ばれて話をしてるんです。

もしかしたら…絵の才能が認められて、スカウトされているんじゃ…」

 

「え!?」

 

ジャックが驚く。

 

「…そうか。…でも俺達は何も言うことはできないよ。

これはあいつの問題だからな…」

 

 

 

ステーラが悲しい声をだす。

 

「…クゥン…」

 

「もしも行ってしまったら…寂しいです。」

 

「……」

 

「俺もだよ…」

 

4人は静かにココアが帰ってくるのを待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アミディオさん、話ってなんですか?」

 

「君の『おかあさん』という絵…僕はそれに惚れこんだんだ。

わざと筆を使わないことで生まれる柔らかさと温かさ。

君にはとても良い才能があると思うんだ。」

 

 

アミディオはココアの目線に合わせて真剣に問う。

 

「僕の助手として、その才能を磨いて見ないか?」

 

「え……」

 

ココアはいきなりの問いかけに戸惑う。

 

「勿論、断ってくれてもかまわない!

…君の素直な意見を僕は聞きたい!!」

 

アミディオはつい声を張り上げてしまった。

 

ロビー中の人が注目する。

 

 

 

アミディオは慌てて言った。

 

「ご…ごめん、つい気合が入っちゃって…」

 

 

 

ココアは冷静に口を開き始めた。

 

「アミディオさん…わたし…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギィ…

 

ココアが部屋に入ってきた。

 

「お、こ、ココア、お帰り…」

 

「お帰りなさい…」

 

「お帰り…」

 

「ワン!」

 

みんなはいつもの雰囲気を作ろうと頑張った。

 

 

 

 

ココアは律儀に頭を下げる。

 

 

 

ルーフスが唾を飲む。

 

ジャックはうつむく。

 

チェリーは口を押さえる。

 

ステーラは無言で待っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん、今後とも…

 

よろしくお願いします!」

 

 

ジャックとチェリーはほっと息をついた。

 

「おぉどかしやがってぇ~!!!!」

 

ルーフスは涙ながらにココアに駆け寄った。

 

そしてココアの手をとった。

 

「良かった!またみんなで旅が出来るんだな!!」

 

「はは!結局あんちゃんが一番あせってたんじゃないか!」

 

「ルーフスさんらしいですね!」

 

「ワオン!ワオン!!」

 

 

「でもよ…なんで断ったんだ?」

 

「わたし、この旅で世界をまだぜんぜんしらないことが分かったの…

だから、あと3年だけ、世界を見る時間をくださいって言ったんだ!」

 

 

「なるほどなー…

こちらこそ、よろしくな!」

 

「よろしくね!」「よろしく!」

 

「ワオン!」

 

部屋の一室から、愉快な笑い声が聞こえていた。

 


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