魔法少女は俺がやるっ!(TS・絶望魔法戦記)   作:あきラビット

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第百参石:なずな、

 やはりと言うべきか。どうやら俺の不安が的中したようだ。

 

「あのバカチビめ。どこに行きやがったんだ」

 

 カートを押す手を止めて惣菜コーナー、鮮魚コーナーへと足を運ぶもまったくもってチビチビの姿が見えない。

 カマボコを探して来いと命令したはいいが、あれから五分ほど経っても戻ってくる気配が無い。

 命令を出した際の、「カマ、ボコ……? 初めて聞く食べ物なんです。それ、どこらへんに売ってるです?」との問いに、惣菜か鮮魚売り場辺りにあるだろうよと言ったのだけれども……そのどちらにも居ないってのはどういうこった。

 

 こんなことだったらお姉さんが昨日チビチビの為に出してくれたゆりなのお古――ピヨピヨと音が鳴る靴を履かせれば良かったぜ。

 他の買い物客にとって耳障りになるだろう(俺自身もあまり好かねェ)からと、普通のサンダルを履かせたのがまずかったようで。マジで迷子になってしまった。 

 

「あ、そうだ」

 

 もしやと思い、お菓子及びおもちゃコーナーへと向かってみる。

 

「俺の命令を無視して遊んでやがったら……お尻ぺんぺんだけじゃ済まさねーぞ」

 

 ぷんすかとカートを力強く押し、高く積まれたカップラーメン売り場の角を曲がったとき、

 

「ぐっ!?」

 

 またもやあの鈍痛がこめかみに走った。

 これは――魔気か?

 鳥肌が立っている腕をさすり、俺は辺りを見回した。

 

 このピリッとした痛み。

 ファミレスでなずなと会ったときのような……。

 お菓子コーナーへ進むにつれ、その奇妙な感覚が強まっていく。

 

「誰だ……誰かいるのか?」

 

 やや警戒するように喉を湿らせてゆっくりと進んで行くと、

 

「ふゆゆぅ……決めらんないよぅ。どーしよう、早くしないとお兄ちゃんに怒られちゃう」

 

 お菓子コーナーの一角で一人の少女が座り込んでいた。

 やけに丈の短いオーバーオールを着て、うーんうーんと唸りながら茶髪のツインテールをぴょんこぴょんこと揺らしている。

 

「なずな、か?」

 

 足早に近づいて、そいつの両手に持つ二つのおもちゃを後ろから覗いてみる。

 えーと、なになに。『魔女っ娘モンスターガムエッグフィギュア』だァ?

 それはいわゆる食品玩具というヤツで、小さな卵型のガムの中に魔女モンの人気キャラの人形が入ってるものだった。

 

 そこで俺は思い出し、メモをもう一度広げて見てみた。

 ……やっぱりそうだ。買い物リストにガムエッグを四個って書いてあるぜ。

 おそらくお姉さんと、ゆりな、俺にコロ美の分で四個ってことだろうな。普通のガムの方が安くてたくさん入ってるのによォ……。まあ、買って頂けるなら文句なんて微塵も無いのだけれども。

 それよりもと、俺は未だに唸っているなずなの後ろに同じようにしゃがみ込んで、

 

「なーずにゃん。なーにしてんの」

 

 と。いささかにふざけた調子で、野球帽子から飛び出したなずなのツインテールを掴み、ぴょこぴょこ弄ってみることにした。

 すると、そいつはバッと振り返って、

 

「ふゆゅえっ!?」

 

 新種の深海生物のような鳴き声をあげたかと思うと、ペタンとその場に尻餅をついてしまった。

 

「いっひっひ。良い反応だねェ。チビ助がからかうのも解る気がするぜ」

 

 なんて笑いながら手を差し出すと、それをギュッと掴んで、

 

「ふゆぅ。知らない人かと思ってびっくりしちゃいましたよ……。も~っ」

 

 立ち上がり、ちょこっとだけぷく~っと頬を膨らませる。

 ボーイッシュな格好をしたサファイアブルーの瞳をした少女――名前は宝樹なずな。

 三年生になったゆりなの後輩で、おそらくは二年生で歳は八つくらいだろう。

 ……いや、ちょっと自信が無いな。

 

「ときになず代さんさァ、お歳はいくつだっけ」

 

 訊いてみると、そいつは「なずよ……?」と少しだけ困り顔で首を傾げたのち、

 

「えっと。わたしは八才です」

 

 左手をパーにして、右手の三本指を突き出す。

 そんな仕草に俺はホッと胸を撫で下ろした。

 どうやら二年生の八才で当たってたらしいな。

 うんうんと頷いている俺に、ますます疑問符をデカくしたなずなは、

 

「あのー。シャクヤク……さん。今日は何かお買い物ですか?」

 

 困り顔のまま頑張って微笑んで訊ねてきたそいつに、俺はすかさずチョップからのデコピンコンボをかました。

 もちろん生身相手だから氷付与はしていない為、残念ながらあまり点数は稼げない。

 

「ふゆうっ!? い、痛いですーっ!」

 

 ふゆふゆ言いながら頭を押さえてしゃがみ込んだなず代に、

 

「俺ァ、ダチ公にそうやって他人行儀な呼び方されるのが一番嫌いなんでぇい」

「だ、ダチ公ってなんですかぁ……」

「んなの決まってんだろォ、友達って意味だぜ」

 

 そう言うと、そいつは目を丸くして俺を見上げた。

 

「……え?」

「チビ助のダチは、俺のダチだ。不良っつうもんはそうやって人脈を広げていくモンなんでぇい」

 

 しかし。そいつはしゃがみ込んだままジッと俺の顔を見上げるばかりだ。

 なんだろう……俺、もしかしてすげーヘンテコなこと言っちまったのか?

 たちまちカーッと耳が熱くなったそのとき。

 

「あっ、あっ、あの。わたしなんかとお友達になってくれるんですか……?」

 

 ――わたしなんか?

 気が弱そうだとは思っていたが……。

 違和感を覚えた俺は、眉根を寄せつつ、

 

「友達っつうのは、なってくれるとかそういうのじゃねーだろ」

「だ、だって、わたしは……」

「あんれま。もしかして俺と友達になるのはイヤってか。いやはや、それはそれは出すぎた真似を――」

 

 いっひっひとテキトーに笑って誤魔化そうとしたのだが。

 

「い、いえっ! わ、わ、わたし、嬉しいですっ! お友達っ!」

「うおっ!?」

 

 ずいっと大声をあげるもんだから、周りの客の視線が俺たちに集まる。

 

「ちょ、ちょっと、あの。少し静かにだな……」

「で、でも、ゆりり先輩と同じ歳だから、シャクク先輩って呼ばせてくださいっ!」

 

 なんとも律儀っつーか。八才にしては出来すぎた娘さんっつうか。

 いや、まあ。この世界のチビどもはどいつもこいつも精神年齢が高めだからなぁ。

 

「お友らち……こ、これから、よりょひくお願いしますれすっ!」

 

 おい待て待てっ。なんで土下座をしてるんだこいつは!?

 しかも、なんかすげェ噛みまくってるしっ!

 

「わ、わかりましたんで。あの、本当にもういいからさ……」

「ははーっ! シャルル先ぴゃい!」

 

 いやいや。シャルルって誰だよ。フランス国王になんかなった覚えないぞ。

 ゆりなやももはと比べて結構まともなヤツかと思いきや、こいつもこいつでぶっ飛んでやがるぜ……。

 周りの客からの訝しげな視線に、いよいよ耐え切れなくなってきたところで、

 

「おーい。おっせーぞ。なにしてんだよ、なずぅ」

 

 気だるげにカートを押してきた金髪……いや、明るめの茶髪の少年は、俺たちを見るなり、

 

「うぇ!? お、お前……本当になにしてんの?」

 

 悪そうな見た目には似合わず、抜けた声で俺と土下座しているなずなを交互に見る少年。

 まったくもって――本当に何してんだろうな、俺たちは……。


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