さて、今回は完全に前作のダイジェストとなっています。
キンクリを発生させて終わらせてもよかったのですが、前作を読まずこの作品を読んでいる人向けにいいかもしれないという自己判断で書き上げました。
それでは本編第10話、どうぞご覧ください。
姫様奪還戦から一夜が明けた朝。久しぶりに濃密な夜を過ごした俺とサラは目が覚めるなり部屋に備え付けてあったシャワーで汗や昨夜の行為の跡を流した。
初めての時もそうだったが、一度落ち着いてしまうとどうにも前日のことを思い出して互いに赤面してしまう。それでも一緒に入って流し合うのだが、お互いにどうにも落ち着かない。
これは慣れるしかない……のか?
経験が浅いからなのだろうかと考察しながら部屋に戻り着替えを済ませると、絶妙なタイミングでメイドさんが朝食を運んできた。
パンやスープにウインナー、ベーコンエッグにサラダや紅茶とまるでホテルの朝食のようなメニューが並んでいた。
並べられるそれらを眺めていると、昨夜のようにノックと共にリゼルさんが現れ俺たちの前までやってくる。
「おはようございます。良くお休みになられましたでしょうか?」
「ええ、ありがとうございます」
「正直今まで寝てきた寝具の中では最高の寝心地でしたよ」
いろんな意味でな。
心の中でそう付け加えると、リゼルさんは満足そうに頷くと今日の予定の説明を始めた。
「朝食がお済になられましたらそちらのベルでお知らせください。扉の上にある結晶がベルの音を拾うと廊下側の結晶を光らせ、そこに待機しているメイドたちに伝わります。また、ベルを鳴らされて間もなくお二人のお世話係としてご用意させていただいたメイドが参りますので、その者たちが参りましたら姫様がお待ちになるテラスへお向かい下さい」
「わかりました」
さて、飯の後に姫様への説明か。実際に魔法を出したり亜空間倉庫の武器を召喚して見せた方が理解してもらいやすいだろう。
話についても本当に全部を話す必要はない。大体の流れさえ伝わればそれでいい。
出来れは魔法やサテライトエッジの攻撃を喰らった兵たちが「けものだま」になるかの検証もしたいところだが、人を実験台にするような真似を許してもらえるか?
僅かに逡巡していると話を終えたリゼルさんが一礼と共に踵を返し退室しようとする――が、扉の前で立ち止まると再びこちらに向き直った。
「それと――昨晩はお楽しみでしたね」
…………。
「なっ!?」「えぇ!?」
突然の爆弾発言に二人そろって驚愕すると、リゼルさんは満足そうに今度こそ退室した。
というかどこかで見ていたのか? それとも監視カメラ的な物でも仕掛けていたのか? まさか防音というのはダミー情報で、実は声が筒抜けだったなんてことはないよな!? これが一番あり得そうで怖いんだが!?
「ハッ!? まさか結晶って伝声管みたいに中の音とかを伝えるものじゃないだろうな!?」
思わず部屋を見渡したり扉の周りを叩きに行ったりしたが、これと言って不審な点は見当たらなかった。結晶というものについても調べてみた感じ予想とは違うもののようで、本当にベルを鳴らさないと反応したいようだ。
カマをかけられたのか? だとしてもなんてことを言ってくるんだあの人は……。
「……とりあえず、いただきましょうか」
「……そうだな。姫様を待たせるわけにもいかないし」
少々気まずい雰囲気ではあったがそれも料理を食べているうちに霧散し、紅茶で締めの一服を堪能している頃にはもういつもの調子に戻っていた。
その時に食事をしながら昨夜、残った最後の理性で月明かりに晒しておいたサテライトエッジのチャージを確認していると、驚くことにたった一晩で5割近くチャージが完了していた。
なぜこうなったのかは明確にはわかっていないが、クロノ世界と違って月が二つあったりフロニャ力の存在することが絡んでいるのではないかと俺は思っている。
だとしたらこの先、月が二つあったりその世界特有の力がある世界に流れついたら似たようなことが起こり得る可能性が非常に高い。まあ、これについては要検証だな。
そんなことを考えている内に朝食が終了し、サラも食べ終えたのを見計らいリゼルさんに教えてもらった通り備え付けのベルを鳴らす。鳴らした瞬間、某怪盗三世の映画に出てきたロリコン伯爵が衛士を呼ぶシーンが脳裏をよぎったが、昔アホほど見たせいだろうか?
鳴らして数秒もたたないうちに部屋の扉が開き、数人のメイドさんが入室してくる。
食事がどうだったかなど軽く会話をし、一人のメイドの案内で城内を移動する。数分の移動の末、案内されたのは城の裏側の景色が一望できる眺めのいい屋外テラスだった。
そこには既にロランやエクレール、リコッタが待機しており姫様とシンクはまだ来ていないようだ。
ちなみに、ダルキアン卿やユキカゼは風月庵という場所で旅の後始末をしているらしくこちらには来ていない。
「やあ、よく眠れたかな?」
ロランの問いに「まあな」と返しながら手近な席へ腰をおろすと、それからやや遅れてシンクと彼にエスコートされる形で姫様がアメリタさんを連れて現れた。
「おはようございます。お待たせしてしまいましたか?」
「いえ、私たちも先ほどついたばかりです」
サラのやんわりとした言葉に姫様は嬉しそうに顔を綻ばせ、そのまま上座の椅子へと移動した。
あるまるべき面子が集まったことを確認し、俺は「さて」と一同に声をかける。
「では約束通り、俺たちが
◇
まず尊は自分がシンクがいた世界と同じような世界の地球から、神の戯れでクロノトリガーという時代を移動するRPGの世界に移動したこと明かした。
いきなり突拍子もない内容から入ったことに一同は戸惑いを覚えたが、尊だけでなくともに行動をしてきたというサラまで表情は真剣そのもの。ならばそれは真実なのではと判断し、まずは話を最後まで聞こうという流れとなった。
なお、シンクはそのタイトルのゲームを知らないと答えたが、尊が最初に発売されたのが20年近く前の古いゲームだと教えたら知らなくて当然かもしれないと一人納得した。
「そのクロノトリガーってゲームは所謂名作にカウントされるほどの作品でな、俺は学生の頃に文字通り完全クリアさせるほどやりこんでいた。回収できるアイテムをすべて回収し、見れるイベントを全部見て、そして自力でどれほど早くラスボスまで倒せるかを測ったこともあった。そんな世界にいるって自覚した時、俺はまず混乱した。どうして自分はここにいる? ゲームの世界に入ったなんて夢じゃないのかってな」
「さっき、神の戯れだと言っていたが、それはどこでわかったんだい?」
「それは話の最中に判るから、今は置いといてくれ」
ロランの問いにそう答え、尊は話を続ける。
「――俺がいた場所は時の最果てという、主人公たちがさまざまな時代を移動するための中継ステーションみたいな役割を持っている場所だった。そこには物語のカギとなる老人と、スペッキオという主人公たちに新しい力をくれる自称戦いの神がいるんだ。老人にその場所の話を聞いてゲームをやりこんだ経験から、自分をここに飛ばしたのはゲームでラスボスだった奴じゃないかと仮定し、そいつを倒す力を手に入れるためにスペッキオの元を訪ね、そこで俺は本来ならば得ることのない力をもらった。それが、魔法というものだ」
「魔法って、雷落としたり味方を回復させたりする、あれ?」
「そうだ。見てろ」
一度席を立った尊はテラスの柵の向こうへ右手を伸ばし、全員が注目していることを確認してそれを唱える。
「『サンダー』!」
突如、何もなかった虚空で電撃が走った。
さらに左手も伸ばし、もう一つの魔法を放つ。
「『アイス』!」
今度は大人ほどの大きさを持った氷塊が出現し、裏手の森へと落ちていった。
クロノ世界で扱っていた時よりも強かったそれを見て、尊はまじまじと両手を見る。
――ガ系の魔法を覚えてから使ってなかったが、やっぱり魔力が上がれば下級の魔法も威力が上がるのか。
一人そんなことを思いながら振り返ると、魔法を知るサラを除いて全員が呆然としていた。
「とまあ、今みたいなことがスペッキオのおかげでできるようになった。他にも神が俺に施した力がいくつかあって、その中には俺が念じれば現れる変幻自在の武器に身体能力を強化するもの、魔力を消費して特殊な効果を得る力なんかがあった」
「そ、そうですか」
「それで、それから尊さんはどうしたのでありますか?」
淡々と説明していく尊にエクレールが動揺しながら答え、リコッタが話の続きを催促する。
席に戻った尊は出された紅茶を一口含み、それに応じる。
「さっきも言ったように、俺は自分をその世界に飛ばしたのがラスボスだと仮定したが、正直全く勝てる気がしなかった」
「ええっ!? 特別な力をもらってたのにですか!?」
「当然だ。シンク、ゲーム開始直後に特殊能力を持っていようとレベル1のプレイヤーが、いきなりラスボスと戦って勝てると思うか? TASやバグ、改造や強くてニューゲームができるならまだしも俺は生身だ。しかも当時、俺の力は原作主人公より下だったんだぞ」
懐かしそうに当時あの世界を生き延びるために最低限の力をスペッキオに師事することでつけ、別の時代に渡って修業をしたことを思い返す。
途中から馬鹿みたいな勢いでレベルが上がっていったなぁと内心でクツクツと笑い、最果てである程度修業したところで別の時代へ渡ったことを話す。
「まず時代を繋ぐゲートを最果てにつなげるために俺はあっちの世界で言う現代へ向かった。そこで魔族や魔物と交戦してレベルを上げて、予定通り現代のゲートの一つをつなげることが出来た」
「なんと、その世界にも魔物がいたのか」
「フロニャルドの魔物がどんなものか知らないが、まあそういうのがいる世界なわけだ。 それで、無事に最果てに戻ってこれたんだが、そこに原作で主人公のヒロインとなる女の子がいたんだ」
その時はちょうど入れ違いでその世界の主人公であるクロノたちが現代へ戻っていたので全員と鉢合わせというわけではなかったが、それでもこの時点では原作パーティーと行動を共にしようとは思っていなかった。
まず元の世界へ戻ろうとするのは自分の問題であり、星を救おうとするクロノたちは自分とは無関係だったからだ。
それに自分が加わらずとも、原作通りなら最終的には問題ないだろうと考えていたのもあった。
「軽く会話をしてまた一人で別の時代に向かった俺は、中世と呼称される時代で力をつけることにした。この時代は魔王と呼ばれる男が魔族を使ってガルディア王国という国と戦争をしていた」
「おお! 魔王ということは、それがすべての黒幕だったでありますか!?」
「いや、違うけど?」
魔王というフレーズに興奮して問いただすリコッタだが、尊は一言でバッサリと否定する。
事情を知るサラを除いて誰もがその魔王こそが元凶だと思っていたらしく、尊の返しを意外そうに受け止める。
「それでだ。俺が森で自分の力を確認していると、別の大陸を繋ぐ大きな橋から黒煙が上がっているのが見えたんだ」
「――まさか!」
「そう、そのまさかだ、エクレール。魔王軍の侵攻が本格的になり、ガルディア王国はついにのど元まで攻められていた。俺も最初は我が身大事さに静観を決め込もうとしていたんだが、展開を知っている上に力を持ていると自覚したら居てもたってもいられなくなってな。武器を片手に、そのまま戦場へ乱入した。だが運が良かったことに、俺が橋に着いたころには原作の主人公――クロノとその仲間たちが戦況をひっくり返していた」
戦況が逆転したと分かるとシンクやミルヒたちから安堵が漏れ、ロランは面白そうに感心した。
少数精鋭による大逆転。それはまるで、先の戦でのシンクたちのようだったからだ。
「橋の終点で魔王軍の将軍と対峙していたクロノたちを見つけて、俺はそのまま加勢。敵将は巨大な魔物を召喚したが、俺が弱点から対策まですべてを網羅していたことが幸いしてこちらはほぼ無傷で完勝。ちなみに、敵将は俺たちが戦ってる隙に逃げた」
「に、逃げちゃったんですか? 将軍なんてすごい役職なのに」
「本当なら姫様の言う通り簡単に逃げちゃいけないはずなんだが、本編でもあいつはギャグ要員だったからなぁ……。俺としてはそれが基本だから、全く気にも留めなかった」
将軍なのにギャグ要員。そのギャップに辺りからクスクスと笑いが漏れ、サラも初めて対峙した時のことを思い出したのか笑いをこらえずにいた。
ある程度笑いが落ち着いたのを見計らい、尊は再び切り出す。
「橋での攻防を終えた俺は新しい修行場所と、魔力消費を抑える装備を手に入れるためデナドロ山という場所に向かったんだが、ここでまたおかしな連中に出くわしてな」
「おかしな連中? 尊さんは全部知っているんじゃなかったんですか?」
「ゲームと現実は違うってことを思い知らされた出来事の一つだな。 山の奥へ進んでいたら、フリーランサーという忍者の格好をした三人の魔物に遭遇した。そいつらは奇声を上げながら互いに剣を打ち合って鍛錬をしていたんだが、いろんな意味で初めてみるタイプの魔物だったからできるだけ相手にしないようにまとめて倒そうとしたんだ。だが今まで多くの敵をだいたい一撃で沈めてきた攻撃を喰らっても立ち上がってきて、こっちの最大火力をお見舞いしてもなお立ち上がった」
「た、タフですね……」
「ああ、タフだった。そこまでやっても倒せなかったからこれはマズいか? と思ったんだが、あいつらは俺の強さに感銘を受けたから仕えると言い出したんだ」
あまりの急展開にシンクたちの表情が信じられないといった風になる。
あの三人と行動を共にしたことのあるサラもそんなことがあったのかと頷き、そんな一同を見ながら尊は続ける。
「それからなんだかんだでその三人と行動するようになって、本当ならいけないはずの場所にまで修行をしに行けるようになったんだ。おかげで予定より早く力をつけることができ、俺はまた別の時代へ行ってみようかと思った。 そんな時だ、クロノたちが聖剣を持った勇者と共に魔王城へ攻め込むタイミングに出くわしたのは」
聖剣を持った勇者が魔王城の攻略に臨む。その言葉にミルヒやシンク、リコッタといった面々から「おお!」と歓声が上がる。
しかし尊はあえて一つ教えなかった。その勇者が魔王の呪いによってカエルの姿にされているということを。
――勇者と聞いてかっこいい男の姿を想像してるんだろうが、話の最後に本当の姿を教えたらどんな反応をするか楽しみだ。
悪戯小僧のような笑みを浮かべ、脱線した思考を元に戻す。
「それを見た俺は魔王が何をしようとしているのかを思い出し、それを利用すれば元の世界に帰れるんじゃないかと考えクロノたちの後を追った」
「おや? ついてきていた魔物の三人もかい?」
「そうだ。俺も魔王に刃向うことになるがいいのかと聞いたら、主たる俺に全てを捧げたのだから最後まで共に行動すると言ったんだ」
真に自分たちの主として相応しいと見定めたのが尊なのだろうと騎士であるロランやエクレールは三人の行動に感心し、尊はまた一口紅茶を口にして喉を潤す。
「魔王城に侵入した俺たちは襲ってくる魔物を蹴散らしていったが、途中からその相手を三人に任せて一人で魔王の元へ向かった。魔王の元へたどり着いた頃には、当然ながら先に侵入していたクロノたちもいた」
「それで、どうなったのでありますか?」
「無論、クロノたちと共闘して魔王の撃破に臨んだ。ただ魔王の名は伊達ではなく、俺たちは多大なダメージを受けながらもどうにか勝利した」
その話にまたもミルヒたちから「おおおお!!」と歓声が上がり、尊敬のまなざしが尊へと向けられた。
しかしそんな空気も次に尊が発した言葉で急転した。
「だが、ここで新たな問題が発生した」
「え?」
「俺たちが攻め入った時、魔王はちょうど地中深くに眠るあるモノを呼び覚まそうとしている最中で、そいつが目を覚ますと同時に俺たちはそれぞれタイムゲートへと吸い込まれた」
あるものと説明した瞬間、サラの表情が一瞬陰りを帯びた。
そのことに気付いたのは尊のみで、それに気づいていないミルヒが質問をする。
「あの、そのあるモノというのはなんでしょうか?」
「まあ話を聞いてくれ。 ――そこで俺は偶然にも世界と世界の境界線とも呼ぶべき空間で元の世界の女神様と会合することが出来た。ただそのまま元の世界へ戻ることは叶わず、それを成すためにはやはり最初に仮定した通りゲームにおけるラスボス――ラヴォスという存在を倒す必要があると判断した。そしてその空間を抜けた先で、俺はサラと出会った」
本編第10話、いかがでしたでしょうか?
次回投稿は翌日の6:00を予定しております。
日を跨ぐことになりますが、どうか明日までお待ちください。
それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。