さて、今回はヴァンネット城での出来事を中心に書いております。
この第1期で書きたかったシーンまであと少しなのでちょっとテンションが上がっております。
それでは本編第14話、どうぞご覧ください。
ヴァンネット城の書庫は流石というべきか、学院と同等ほどの書籍がずらりと並べられており、何とも壮観な光景だった。
手始めにビスコッティで調査済みの本以外を片っ端からピックアップし、広い机の上に積み上げる。無論、この中の本も俺が知らないうちに学院の誰かが調査済みなのかもしれないが、それは一度フォリアンノ城に戻った時に確認するとしよう。
ちなみに当初の予定ではガウルやジェノワーズにも協力を仰ごうと思ったのだが、ガウルやジェノワーズはそろって町へ遊びに出かけているそうだ。
幸いルージュさんをはじめとするガレットのメイドたちが協力してくれているおかげで、書物に関しては割りとあっさり選定できた。
「尊様。とりあえずではありますが、勇者召喚に関するものはこれだけ選ばせていただきました」
「助かります。後は俺がやるんで、ルージュさんたちは元の仕事に戻ってください」
「えっ、ですが……」
「今日はこっちが突然お願いしに来ましたからね。他の人にも自分の作業があるでしょうし、それを俺の都合で妨げるのはどうにも後味が悪いんで」
それに本の数もあらかじめリストを作って内容を絞ることができたので、手元にあるのはほんの数冊しかない。
ざっと探しただけなのでじっくり探せば他にもあるかもしれないが、この程度なら一人で事足りる量だ。ビスコッティに戻るのは夜になるが、ヘイストや加速を使えば来た時より早く帰れるだろう。
「かしこまりました。ですが、人手が必要な時はご遠慮なくお申し付けください」
「そうさせてもらいます」
ルージュさんがメイドたちを引き連れて退室したのを見届け、俺は早速一番上の本の調査から取り掛かった。
たかが数冊、フロニャ文字に慣れた俺からすればちょちょいのちょいと――――
「――などと思っていた時期が俺にもありました……」
椅子にもたれかかりながら頭をガシガシと掻く。最初の自信はロボのロケットパンチの如く彼方へとぶっ飛んでいき、今となってはクロノたちに囲まれたビネガーのような状態になっていた。
いや、本当に最初は楽勝だと思っていたんだ。だが専門用語が出てしまってはお手上げなことに気づき作業が一気に難航。独自に解読を試みようにもこれはプログラミングを全く知らない人がアルゴリズムを解読しようとしているに等しく、あっけなく轟沈。
専門的な話となればルージュさんたちでもわからない可能性が非常に高い。そう考えれば残る手は……。
「……ビスコッティに持ち出して、リコたちに丸投げするのが一番手っ取り早いか。となれば、今日はもう引き上げるとするか」
一番無難であろう手段を選択し、ひとまず書きなぐったメモや不要となった本を書架に戻して本の持ち出し許可を得るべくレオ閣下を探すことにした。
窓の外はすでにとっぷりと暮れており、時計の針は8時を過ぎたあたりだった。
まずいな。ヘイストと加速を使うのは確定として、せめて9時前にはフィリアンノ城へ――――
ガシャァァンッ!
「うおっ!? なんだ!?」
突如、花瓶を落としたような破砕音が廊下に響き背中がビクッと震える。
音がしたのは同じフロアのようだが、いったいどこだ?
◇
花が活けてあった陶器を床に叩き付けたレオは悔しそうに天井を仰いだ。
「何故じゃ……何故それほど強くないワシの星詠みで、このような未来がはっきり見える……」
星詠み。このフロニャルドにおける紋章術の一種であり、遠く離れた場所の様子や探し物がどこにあるかなどを見ることができ、人によっては未来視まで行うことができるものである。最も、未来視に関しては少し先のわずかな瞬間しか見れないのだが。
そしてミルヒがシンクを勇者として選んだのはこの星詠みで彼が出場したアイアンアスレチックの様子を眺め、その時のシンクの姿に心を打たれたのがきっかけとなっている。ただしシンク本人はその試合で負けているため複雑な心境に陥ったが、それはまた別の話。
閑話休題。
レオの前には複数の映像盤が設置されており、その映像すべてに彼女にとって最も受け入れがたい未来が映し出されていた
『エクセリード』の主 ミルヒオーレ姫、『パラディオン』の主 勇者シンク、30日以内に確実に死亡。
この映像の未来はいかなることがあっても揺るがない。
「ミルヒだけでなく勇者まで死ぬ……。星の定めた未来かは知らぬが、かような出来事なにがなんでも起こしてたまるもの――「その話、もう少し聞かせてもらえるか?」――っ!」
突然投げかけられた声に振り向くと、尊の鋭い目つきがレオを射抜いていた。
「……見られてしもうたか。じゃが、何故ここに来た?」
「それだよ」
尊が指差したのは先ほどレオが叩き割った花瓶だ。その音を聞きつけたのだとレオは納得し、腹を括った。
「お主、星詠みというものを聞いたことは?」
「ない。だがそれを見る限りじゃ、占いの一種のようだな」
レオの隣までやってきた尊はその映像盤の文字を読み、すべてを理解した。
「これが原因か? 姫様のコンサートをつぶしてまでビスコッティにゴリ押しで戦を仕掛け続けたのは」
「ああ。それが未来を変えるきっかけになればと思ったのじゃが、結果はこのありさまじゃ」
自嘲気味に話すレオを見て、尊は少し意外そうな顔をする。
彼女の性格からして、この手の情報は関係ないと切り捨てると思っていたからだ。
「じゃが、以前と違ってはっきりとわかったことがある。この星詠みによれば、死ぬのはビスコッティの宝剣の持ち主であるということじゃ。ならばその宝剣を確保すれば、この未来も変わるはずじゃ」
「そこまでわかったのなら、姫様に全てを話して宝剣を預かろうとは思わないのか? 事情が分かれば、きっと姫様もわかって――」
「最初に見えた時からミルヒの身を案じてアメリタや騎士団長に助言や提案をしたが、すればするほど悪い未来がはっきりと映ったのじゃ! 今更そのようなことをすれば、どうなるかわかったものではないわ!」
今まで溜め込んでいたものを吐き出すようにレオは叫ぶ。その言葉にレオがどれだけミルヒを大切に思い、そして救おうと必死になっているのか尊には十分すぎるほど伝わった。
「――だったらせめて、もう少し情報を集められないか?」
「どういうことじゃ」
「……この未来、何によって二人が死ぬかという直接的な原因が記されていない。この星詠みとやらでは結果しか出ていないが、原因を突き止めてそれを元からつぶすことができれば……」
尊の言わんとすることをレオも理解したが、それでも彼女は首を振った。
「それがわかれば苦労はせん。何度やっても、肝心の原因は浮かんでこんのじゃ」
「となると、四六時中二人を監視するかカギとなる宝剣をどうにかするしかないということか」
「監視で済めばよいのじゃが、それが裏目に出てさらに悪い方へと動いては本末転倒。だからこそ、ワシは宝剣を抑えるべきだと判断した」
「チッ、現状ではそれしか策がないということか」
「そういうことじゃ。そしてワシは次の戦に確実に勝利すべく、ガレットの切り札を使用する」
忌々しそうに舌打ちをする尊にそう返しながら、レオは隣の部屋へと移動する。
尊もつられて移動をすると、そこには一目で普通のものではないとわかるバトルアックスが鎮座していた。
「このガレットの宝剣。魔戦斧グランヴェールとワシがおれば、覆せぬものなどなにもない!」
レオの言葉に応えるかのように、グランヴェールがオーラを発する。
そのオーラだけで確かにこれが宝剣たる力の一端であり、ここへ戦場で無類の強さを見せつけたレオの力があれば確かに強力だろうと尊は分析した。
――条件を飲むといった手前、俺がレオ閣下を止めることはできない。だからと言って何もしなければ、姫様やシンクの身に危険が及ぶ。そしてその余波は、おそらくサラにも。
「……閣下、一つ話があるんだが」
僅かに逡巡し、尊は星詠みの未来を回避すべくある決断をレオに打ち明けることにした。
◇
ヘイストと加速の併用で来た時間の半分以下でビスコッティに戻ってきた俺は、持ち出せた資料を学院に預けるとすぐさま姫様へ報告をするべく無礼を承知で私室へと向かった。
しかしその途中、ちょうどシンクとのお茶から戻ってきた姫様と会うことができその場で簡単にガレットでの進捗状況の説明をした。
「――そうですか、勇者様の件はまだかかりそうですか」
「それと事後報告になって申し訳ないんだが、レオ閣下から資料の閲覧にあたって条件を出された」
「条件ですか?」
「ああ。資料を閲覧する代わりに、次の戦でビスコッティの兵として参戦するなとのことだ」
その条件を聞いて姫様だけでなく、周りにいたメイドたちまでどよめきを上げた。
先の戦で勇者とともに勝利をもたらした助っ人の片割れが参加できないのだ。そりゃ動揺もするか。
ちなみにレオ閣下に理由を聞いたところ、ダルキアン卿とユキカゼが戻った今、シンクや俺たちの戦力を加味するとビスコッティの戦力が非常に強すぎるレベルとなってしまったからだそうだ。
というのも、ダルキアン卿がその気になればジェノワーズ4組分の戦力になってしまうとのことらしい。あの三人の力がどれほどのものかはわからないが。ガウルの親衛隊を名乗っている以上、決して弱くはないはずだ。それが四つ分でかつチート戦力といっても差し支えない俺が加われば、確かにそれは過剰戦力だろう。
「これは正直すまないと思っているが、俺はシンクの帰還を最優先としてこの条件を呑んだ。いつでも移動できる俺たちと、時間制限があるシンク、どっちを優先すべきなのかは一目瞭然だった。そこは理解してほしい」
「……そういうことでしたか。でしたら、仕方ありませんね」
戦に勝利することを固執してシンクが元の世界に戻れなくなっては本末転倒になってしまうことを姫様も理解してくれたのか、少し残念そうに頷いた。
「向こうで見つけた資料は持ち出してもいいことになったから、手がかりになりそうなものは随時学院に持ち込んでリコに解析を依頼することにした。専門的なことは、俺もさっぱりだからな」
「わかりました。ご苦労様です」
礼をしてくれた姫様と別れ、今度はサラと話をするべくあてがわれた寝室へと移動する。
部屋に戻ると、窓際の席で本を読んでいたサラが俺に気づき立ち上がった。
「悪い、サラ。遅くなった」
「おかえりなさい。 どうでしたか?」
出迎えてくれたサラと軽く抱擁をし、さっき姫様に説明したのことと同じ話をする。
「――そういうわけで、俺は次の戦に参加することができなくなった」
「そうですか。ですが、仕方ありませんね」
「それと、これはオフレコで頼みたいんだが……」
少し残念そうに了承するサラに申し訳なく思いながら、俺は防音体制が整っているか十分に確認してから姫様にも話さなかったレオ閣下の真意を打ち明けた。
無論、姫様とシンクが死ぬかも知れないと聞いてサラは動揺したが、同時に安心したように頷く。
「ではレオ様は姫様のことを大切に思っているからこそ、今の状況を作ったということですか」
「ああ。その星詠みの未来さえ回避できれば、おそらく元の関係に戻ろうとするだろう。そのためにもサラ、戦に参加する際は姫様のそばにいててくれないか? たとえ大きな怪我であっても致命傷でなければケアルガで直せるはずだし、そうでなくともプロテクトで物理的なダメージを防ぐことも可能なはずだ」
「わかりました。シンク君の方はどうしますか?」
「あいつに関しては俺が何とかしてみよう。一応、合法的に戦に参加する手は打ってあるしな」
大切な弟分には悪いが最悪の未来を回避するためにも、今回ばかりは俺も心を鬼にさせてもらおう。
そしてこのやり取りからおよそ12時間後、レオ閣下よりビスコッティへの宣戦布告が発令された。
本編第14話、いかがでしたでしょうか?
次回は戦の序盤か、もしくは中盤くらいまで書けたらいいなと思っております。この辺りからは一度書き出せばそれなりのペースで筆が進むかと思いますが、投稿に関してはやはり不定期としか言えません(オイ
なるべく早く投稿できるよう努力しますので、どうか広い心でお待ちください。
それでは、今回はこの辺りで。
また次回の投稿でお会いしましょう。