さて、今回はシンク、尊、サラのデビュー戦ということになります。
尊とサラの力はセーブさせるつもりですが、うまく書けるか正直不安です。
ともかく出来立ての本編第2話、どうぞご覧ください。
「あ! 姫様が勇者様を連れて帰ってくるであります!」
双眼鏡をのぞいて白衣の少女、リコッタ・エルマールが喜色の声を上げて知らせると周りにいた元老院たちから歓声が上がる。
敗戦続きであるビスコッティに勝利をもたらしてくれるであろう勇者に誰もが喜んでいると、リコッタがそれに気づく。
「――あれ、なんだか人数が多いのであります」
ミルヒの話によれば勇者は一人だけで、金色の髪をした男の子とのことだった。
だが今向かってくるのはその男の子だけでなく、黒髪の男性と青い髪の女性も一緒にいるのだ。
ハーランに乗っている以上ミルヒが同行を許可したのだろうが、予想外のことにその場の面々は首をかしげるのだった。
◇
ハーランが城に到着する少し前、ミルヒは尊から告げられたことに戸惑いを隠せないでいた。
「えっと、協力していただけるのなら大変うれしいのですが、その……本当によろしいんですか?」
「あら、やっぱり実力が未知数の者が手を貸すというのは、少し無理がありますか?」
「そんな、とんでもございません!」
言い淀んだのを実力面で不安があるからと解釈したサラが尋ねるが、彼女は両手を振って否定する。
「ただ、お二人から協力をお願いされるとは思ってもいなかったので、ちょっとびっくりしちゃったんです」
「そういうことか。なに、協力する理由は単純なものだ」
「ただこの国に住んでいる全ての人を大切に想っている小さな領主様の手助けがしたい……それだけですよ」
損得勘定があるわけではない。
偶然出会ったとはいえ、ここまで他人のことを思いやれる少女を見て純粋に手を貸したいと思ってのことだ。
特にサラは状況こそ異なるがかつて一国を収めていた女王の娘だったこともあり、国のために動く彼女を応援したいと思っていた。
「実力に関しては心配しないでくれ。こう見えて俺もサラも、それなりに死線を潜っているからな」
「……わかりました。お二方、どうか私たちに力を貸してください」
「ええ、よろしくお願いしますね」
その願いを聞き、二人が順番に握手をしたのを見届けたシンクは尊の方へと近づく。
「あの、今こんなの聞く場合じゃないのかもしれないんですけど、チョコボを知ってるってことは尊さんってやっぱり日本人なんですか?」
「おう。最近ちょっと厄介な事情があって異世界を移動することになったが、それのおかげでサラに会えたことを考えれば厄介な事情だろうと俺は幸運だと思っている」
苦笑いをする尊を見てシンクは心が少し軽くなったのを感じる。
いきなり異世界にやってきたものの――奇跡に近い確率で――同郷の、しかも頼れそうな年上の男に出会えたのはまさに僥倖だった。
「しかし、イズミ君もなかなか度胸があるな。若干迷いがあったとはいえ、あの中に混ざろうというのはその年の子じゃなかなかできないと思うけど」
「シンクでいいですよ。それに、あんな面白そうなものに参加しないでいられるわけないじゃないですか!」
「……なるほど、それなら納得だ」
「では、早速お城に向かいましょう! 装備や武器は、もう準備万端です!」
二人がそんな話をしているうちにハーランに紋章が付与されて飛行できるようになり、ミルヒは三人を連れてフィリアンノ城へと進路をとる。
そして4人が城に着いてから間もなく、戦の実況席に届いた情報を見てガレット国営放送の熱血実況者フランボワーズ・シャルレーが興奮しながらマイクに向かって叫ぶ。
『たった今、大変なニュースが舞い込んできました! なんとビスコッティのミルヒオーレ姫が、この戦に勇者を召喚したとのことです! そしてさらに! 勇者とともにやってきたという強力な助っ人も現れたとの情報もあります!』
熱が籠った放送に戦場から歓声が上がり、同じように聞いていたガレット軍の総大将、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワも耳をピクンと反応させた。
戦場に勇者が召喚されるケースは非常に稀なケースであり、その場に立ち会えるのは本当に運がいいほどのことだ。
そんな勇者を召喚したミルヒはシンクたちに戦についての説明を終え、戦場が見渡せる物見台へ着くと同時にそこにいたリコッタから質問とともにマイクを受け取る。
「姫様! 勇者様以外に助っ人が得られたということですが、どういうことでありますか!?」
「説明は後ほど。少し待ってくださいね、リコ」
穏やかな口調でリコッタを落ち着け、空中ディスプレイに自分の姿が映されたのを確認してミルヒはマイクに向けて口を開く。
『ビスコッティの皆さん、ガレット獅子団領の皆さん、おまたせしました! 敗戦続きの我が国でしたが、そんな残念な展開も今日でおしまいです! ビスコッティに希望と勝利をもたらしてくれる、素敵な勇者様たちが来てくださいましたから!』
宣言と同時にディスプレイの映像が切り替わり、一人の少年が映し出される。
櫓の淵の上で微動だにせず身の丈ほどの棒を持ち白いマントと鉢巻をなびかせるその姿は、只者ではない空気を存分に醸し出していた。
『華麗に鮮烈に、戦場にご登場いただきましょう!』
花火が上がると同時に少年は手にした棒を放り上げ、勢いよくゲートの前に飛び降りると落下してくる棒を難なくキャッチ。
そのまま淀みなく、見惚れるような動きで手にした棒を振り回し、堂々と宣言する。
「姫様の召喚に応じ、勇者シンク、ただいま見参!」
シンクの名乗りが終わると同時にさらにゲートの向こうで爆発が起き、二つの影が舞い上がる爆炎を突き破ってその隣に降り立つ。
一つはこの戦場の戦士たちも普通に使っているハルバードを担ぎ黒いマントの下に白金のベストを装備した黒髪の男で、もうひとつは一般的なセルクルに跨り気品のあるローブに身を包んだ青い髪の女性だ。
「異世界の戦士、尊! ビスコッティの助っ人としてここに参上!」
「同じくサラ、助っ人として参上です!」
◇
『ゆ、ゆ、勇者と助っ人こうりぃ――――――ん!!』
『フロニャルドにおいて、宝剣を持つ国や領主にのみ認められる勇者召喚ですが、私も見るのは初めてですね』
『そう! バナード将軍がおっしゃったようにレア中のレアな存在である勇者が、我々の目の前に現れましたぁ――――ッ!』
『勇者の存在も珍しいですが、両脇のお二人もかなりの実力を秘めているみたいです』
『おっとぉ! ビオレさん、その根拠は一体どこから湧いてくるのですか!?』
『ふふ、女の感です』
戦場に響く実況をBGMに俺たちは姫様の指示通り、騎士団長のロラン・マルティノッジさんにルールの確認をするべく移動をしていた。
しかしシンクの登場に合わせてノリのまま名乗りを上げたが、この年になって今のはちょっと恥ずかしいな。けどサラはサラでこういう経験がなかったためか楽しそうに名乗ったし、気にしない方がいいだろう。
さて、目的のロラン騎士団長に合流した俺たちは教えてもらったルールの確認を始める。しかしロランさんの声、何故か戦場に立つと「絶好調である!」と叫んでいそうな気がするのは気のせいだろうか?
ともかく、今は大まかなルールと注意点の確認だ。
1.迫る敵は片っ端から蹴散らす。
2.武器で強打すれば『けものだま』というものになってノックアウト扱いになり、一定時間無力化となる。
3.頭部か背中にタッチしてもノックアウト扱いとなる。またこの場合、危険が伴う分タッチボーナスが加算される。
4.敵総大将を倒せば特別ボーナスとして大量得点が加えられる。
5.戦場での安全性には細心の注意を払っているので、吊り橋などから落ちても大丈夫だから思いっきり戦っても問題はない。
聞いたものはざっとこんなもので他にも紋章術という特殊技について教えてもらったが、これの発展技である紋章砲についてサラはロランさんから、俺とシンクは戦場で戦っているロランさんの妹のエクレールさんからレクチャーを受けてくれとのことだ。
そして今シンクが持っている棒はビスコッティの宝剣である神剣パラディオンというもので、彼が望めばあらゆる武器に変化するそうだ。
しかし、即決で棒を選択したのはちょっと驚いた。俺がシンクぐらいの歳だったら剣か銃を選択していただろう。
その辺について聞いてみたところ、なんでも従姉が棒術の師匠で使い慣れているからだそうだ。なお、身体能力はその子の方が上らしい。
ちなみに俺が身に着けているのはプリズムベストを手に入れたことでお蔵入りとなったプラチナベストと、ジール王国にいた頃に使って黒いマントだ。ただ使う武器は激戦を共にした召喚型多段変形武装のサテライトエッジではなくこの世界で一般兵が使っているハルバードだ。
サラも服装はジールにいた頃着ていたローブで、武器はいつもの杖ではなく一般兵が使う弓だ。扱いについて大丈夫なのか尋ねてみたところ、クロノトリガーの世界にいた頃にマールの武器を借りて練習していたそうだ。
ところで何故サテライトエッジではないのかといえば、別の世界の武器を受けても相手が『けものだま』になるかわかっていないからだ。
万が一サテライトエッジの攻撃を受けて相手が『けものだま』にならなければ、間違いなく凄惨な事態が発生してしまう。それだけは絶対に避けないといけない。
同様の理由で魔法も攻撃魔法は完全封印、精々プロテクトやヘイスト、ケアルといった回復補助のみに絞る。俺は更に精神コマンドの『熱血』、『勇気』、『覚醒』を使わないことを決定した。
これにサラも了承し、魔法などについては戦が終わった後に姫様に説明しようということになった。
「――うん。ルールもルートも、しっかり覚えてくれているみたいだね」
「はい。姫様が教えてくれました」
シンクの言葉に頷くと、優しそうな表情から一転してロランさんはまじめな表情をする。
「勇者殿と助っ人のお二人は、姫様と会ってどう思った?」
「僕はかわいくて優しそうな、素敵な姫様だなって思いました」
「はい。あの子には人徳があって、人を笑顔にできる力があります」
「だな、俺の姉に見習わせたいくらいだ」
その答えに満足したのか、ロランさんはシンクの肩を叩きながら「素晴らしいっ!」の言葉とともに笑顔になる。
つられて俺たちも笑みをこぼすと、戦場の方から突如雄叫びが上がった。見ると武器をもった一般兵たちが障害物を突破しようとしているところだった。
「では私はサラ殿に紋章砲の教授をするので、勇者殿と尊殿は前に進んで先陣のエクレールと合流を!」
「「はい!」」「了解!」
さっそくとばかりに俺とシンクは頷きあって目の前の一団に突っ込む。敵は初めて見る勇者に感動すると同時に、打ち取れば名を挙げられると意気込んでいた。
「尊さん!」
「おうよ!」
シンクの合図で同時に跳躍し、やる気だけは滾っているガレット兵に得物を叩き込む!
穂先が直撃すると相手はポゥン!と弾けて『けものだま』――ガレット兵の場合は『ねこだま』というらしい――に変化した。傍から見ていても刃の部分で攻撃しても大丈夫なのか心配だったが、杞憂だったようだ。
俺たちは着地すると同時にさらに迫る敵の一団に向かい、真っ向からどんどんねじ伏せていく。無論、隙あらばタッチボーナスを狙ってポイントを稼ぐことも忘れない。
それにしても、シンクの身体能力はかなり高いな。これで中学生っていうんだから余計に驚きだし、師匠の女の子はさらに上を行くらしい。実はこの子たち体力チートの転生者じゃないかと勘繰った俺はきっと悪くない。
そんなことを考えているといつの間にか迫ってきてた敵はみんな『けものだま』になってノビており、スコアボードと思しきものの片方が凄まじい勢いで更新されていくのが見えた。
『は!? うぇ!? な、なんだこの速さはぁ!? いつの間にか防衛線にたどり着いていたガレット兵が、一人残らず撃破されております! 撃破ボーナスも次々と加算され、このままいけば大差をひっくり返しそうだぞぉ!!』
ふむ、まだ何点差かわからないが、あの程度で大量得点ならおそらく逆転は容易だろう。
伊達にクロノトリガーの世界で物量戦はこなしてないからな。巨人のツメや黒の夢の時とかと比べるのは可哀想だが、あの時と違って全体魔法や精神コマンドを封印しているんだ。制限をかけてこれならあえてテンションに身を委ねて言わせてもらおう!
「ハッハァ! 貧弱貧弱ゥ! このまま一気に行かせてもらうか、シンク!」
「はい! 行きましょう!」
ハルバードを構え直し、シンクとともに更に先のアスレチック満載のエリアを目指して爆走する。
さあこいよ一般兵! 恐れなんか投げ捨ててかかってこい!
◇
「ほぅ! これはまたやるもんですなぁ!」
自軍の兵士を次々と撃破して突き進む二人を見て、ガレットの将軍ゴドウィン・ドリュールは独特な声で感心する。
ビスコッティを押していたはずの兵たちが、たった二人の力で一気に巻き返されようとしているのだ。武人として誇り高い彼からすれば、強者の登場は喜ばしいことだった。
そしてそれは、彼の隣にいる主も同様だった。
「フン、面白い」
ガレット獅子団領の領主にしてガレット軍の総大将、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワは唇の端を釣り上げると地面に突き刺していた得物を担ぎ上げて愛騎たるセルクルのドーマに跨る。
「どれ、少し試してやるか」
映像に移る二人――シンクと尊を一瞥し、『百獣王の騎士』にして『天下無双』の異名を持つ武人が戦場へと出陣した。
第2話、いかがでしたでしょうか?
尊たちは一部の力を制限させました。
最初から全体魔法が解禁されては一方的な展開しかないので……。
あと原作を1期から見直してもやっぱり姫様かわいいです。
とりあえず、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。