さて、今回はレオっぱいでおなじみのレオ閣下登場です。
原作でも間違いなくトップクラスの実力を持つ閣下が尊たちの前に立ちはだかるお話となっています。
それでは、本編第3話どうぞご覧ください。
荒野のフィールドで、100人近いガレット兵に一人で立ち向かっている少女がいた。
「――裂空、十文字!」
騎士団長である兄と同じたれ耳が特徴のビスコッティ騎士団親衛隊長、エクレール・マルティノッジは僅かな苛立ちを紋章に乗せガレット軍に向け開放する。
双剣に込められた紋章は斬撃となって放たれ、ガレットの兵士たちを一瞬にして『ねこだま』に変化させた。
「姫様の決定で勇者が呼ばれたとはいえ、この程度の連中なら私一人で十分だ!」
再び紋章を発動させ、新たに迫るガレット兵に向けて斬撃を飛ばす。直撃した端から『ねこだま』が宙を舞い、ビスコッティに大量の得点を加算させていく。
大量の煙が漂う中、エクレールは連続で紋章を使用した反動の疲労を感じながらゆっくりを息を吐く。その隙に、撃ち漏らした二人の敵兵が煙を抜けて気合とともに手にした剣の切っ先をエクレールに向ける。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
「覚悟ぉぉぉぉぉっ!」
「っ! しまっ――!」
油断したことを悔やみながらも迎え撃とうと剣を構え直すと、そこへ二つの影が飛来した。
「勇者キ――――ック!」「アーンドイナズマキィィィィック!」
白いマントと黒いマントによる蹴りがガレット兵たちに直撃し、『ねこだま』を踏みしめて二人は立ち上がる。
「オッス! 勇者として召喚された、シンク・イズミです!」
「押しかけ助っ人の月崎 尊だ。君が親衛隊長の、エクレール・マルティノッジさんかな?」
「……あ、ああ、そうだ」
突然現れた二人に若干呆然としながらも表情を引き締め――シンクには僅かばかりの嫉妬を込めて――肯定する。
「ねえねえ、エクレール! さっきのビームみたいなのって、やっぱりアレ!?」
「び、ビーム? 紋章砲のことか?」
「そう、それ!」
「ミルヒオーレ姫に扱いのうまい君から、紋章術について教えてもらてくれって言われてな。本当なら俺もロラン騎士団長に教えてもらおうと思ったんだが、戦況的にそんな悠長に出来ないから先行してきた。頼めるか?」
「む、そ、そうか」
ミルヒが自分を信頼しているとわかるとエクレールは嬉しそうな声を上げ、君主の期待に応えるべく気合を入れて説明を始める。
「まず自分の紋章を発動させる。やり方はわかるな?」
「大丈夫! 姫様に教えてもらった!」
「理屈はわからなかったけど、気合で覚えたけどな」
紋章術とはこのフロニャルドの大地に眠るフロニャ力というものを集め、自分の命の力と混ぜ合わせることで『輝力』というエネルギーに変換する技術を差す。
ミルヒがハーランを飛翔できるようにしたものこの紋章術の恩恵によるもので、使い方次第で様々な応用が可能となる。
そしてシンクや尊が習うのは戦場で騎士たちが多用する紋章砲という紋章術だ。
「ならいい。では紋章を発動させろ!」
「わかった――紋章発動! レベル1!」
シンクが手のひらを突きだしそう叫ぶと、手の甲にオレンジの紋章が浮かび上がる。
同じように手のひらを突き出していた尊とエクレールの手にもそれぞれ黄緑の紋章と水色の紋章が浮かび上がる。
「フロニャ力をかき集め、自分の紋章に流し込む!」
「これで、レベル2だな!」
背後に手のひらと同じ紋章が大きく展開され、三人はさらにチャージを高める。
「「「――レベル3!」」」
限界まで力を高めた紋章がその姿を鮮やかに現し、力の奔流を放つ。
「フロニャ力を輝力に変えて、自分の武器に乗せて撃ちだす!」
「それが――紋章砲!」
「さあガレットの諸君! とっておきの一撃、受け取ってくれよ!」
非常にいい笑顔で言い放つ尊と煌々と輝く三つの紋章に気圧されたのか、攻めようとしていたガレット兵たちは冷や汗を流しながら一目散に背を向け走り出す。
そこへ容赦なく三つの光線が解放され、轟音とともにガレット兵を飲み込んでいく。
同一方向に放たれた紋章砲は空中で混ざり合いそのまま空の彼方で爆裂して消滅し、後に残ったのは一人残らず『ねこだま』となったガレットの兵士たちと、だま化する際に発生した大量の煙だけだった。
「紋章砲は確かに強力だが、甲冑を許された騎士たちには通用しないことも多い。そして何より――」
「撃つと結構疲れるね、これ」
「そういうことだ」
一通りのレクチャーが終了し、エクレールにシンクが礼を言っている隣で尊は目の前の惨状について口を開く。
「しかし自分でやっといてなんだが、これはえげつないな」
「確かに威力は強いが、その分隙も大きい。それも踏まえた上で――!」
言いかけたところでエクレールが何かに気付き、尊もやや遅れてそれに気づく。
煙の向こうで何かが煌めき、凄まじい勢いでシンクに向かって飛来する。
「ちぃ!」
寸でのところでエクレールが割って入り、双剣を交差させてそれを防ぐ。
尊は咄嗟に輝力をため、攻撃が来た方向に向かってハルバードを振るって斬撃を飛ばす。
しかし力の練りが甘かったのか、同じように飛んできた斬撃に力負けしてかき消されてしまった。
「ぐあっ!」「うわぁ!」
「シンク! エクレール!」
攻撃の威力を殺しきれなかったエクレールが後ろにいたシンクを巻き込んで弾き飛ばされ、二人を襲った攻撃は弾道をそらされて宙に浮く島の底に着弾した。
「あれは……矢?」
「――なんだ、勇者も助っ人も大したことなさそうじゃの」
攻撃された方向とは少し違うところから女性の声が上がり尊が構え直すと、近くの崖の上に一際大きなセルクルに跨り片手で大きな弓を担いだ長髪の女性がいた。
「なっ! レオンミシェリ姫!?」
エクレールが驚きの声を上げ、尊はその名前を記憶の中から掘り返して該当する人物を見つけた。
「へえ、彼女がガレットの総大将か」
「そうじゃ。姫などと軽々しく呼んでもらっては困るので、改めて名乗らせてもらおうか」
手にした弓を投げ捨て、悪戯っぽい笑みを浮かべてレオは続ける。
「我が名はレオンミシェリ・ガレット・デ・ロワ。ガレット獅子団領の領主にして、『百獣王の騎士』である。故に、ワシのことは閣下と呼べ!」
背後に鮮やかな紋章を顕現させると同時に堂々の宣言をすると、待ちわびていたかのように実況席でフランボワーズが叫ぶ。
「来たあああぁぁぁぁぁぁ! レオンミシェリ閣下! 戦場とうちゃ――――――く! 愛騎ドーマも相変わらず凛々しいぞぉ――――――!」
ドーマと呼ばれたセルクルも嬉しそうに声を上げ、レオは満足そうに頷く。
「歯ごたえがありそうなら一騎打ちでもと思ったが、勇者はさっきの一撃に対応できておらんし、助っ人は輝力の練りが甘すぎる」
「悪いな、こちとら輝力使用歴30分未満なんだ。期待に添えるくらいになるまではもう少し待ってもらいたい……と言いたいところだが、戦場でそんなこと言っても相手にとっては知ったことではないだろうがな」
「ほう、わかっておるではないか。 ふむ、その面構え……よく見ればかなりの修羅場を経験してきたとみる」
「まあな。ちなみに、その修羅場を潜ってきたのは俺だけじゃないぜ」
「何? ――っ!」
突然背筋に冷たいものが走り、レオは直感に従ってドーマにバックステップを取らせる。
すると先ほどまで自分がいた場所を青い閃光が走り、その先にあった岩を粉々に破壊した。
「ミコトさん! 大丈夫ですか!?」
「ああ、そっちこそ大丈夫か? サラ」
水色の毛並みをしたセルクルに跨ったサラが尊の側に立ち、レオの動きに対応するためにいつでも射れるよう矢筒に手をかけていた。
「もう一人の助っ人か。……なるほど、こちらも顔に似合わず強い目をしておる」
「そういうことだ。 さあ、そちらからすればこれでようやく互角かな?」
「ふむ、さすがに4対1ではこちらが不利じゃな。普段の戦いならばそれでもかまわんが、今は先に進ませてもらおうか」
「確かこの戦は得点差か、どちらかが相手の拠点を攻略すれば勝敗が決まる……。先に本陣を落とそうって魂胆か」
「卑怯とは言わせんぞ? 勝利条件を満たすことが、戦場の基本じゃからな。 ハイヨーッ!」
掛け声とともにドーマを走らせ、レオはフィリアンノ城へ針路をとった。
無論これを放置する尊でもなく、すぐに仲間たちに声をかける。
「三人とも、追うぞ!」
「ミコトさん、乗ってください!」
その呼びかけに答えセルクルの後ろに乗ると、サラはすぐにレオの後を追わせた。
一方、シンクたちはというと――――
「勇者! 邪魔だどけ!」
「いや、そっちこそ!」
――最初に倒された時のままもみくちゃになっており、シンクがエクレールをどかそうと手を伸ばす。
むにっ。
「へぅっっ!?」
「え? あ、ごめ……ん?」
胸に手を当てるとエクレールから妙な声が上がり反射的に謝るシンクだが、触れた感触に違和感を感じ数回ほど手を動かす。
小さいながらも張りのある弾力が伝わり、それだけである事実がシンクに判明した。
「……女の子、だったの?」
今まで同性だと思っていたが実は違うと分かり、同時に男の子と思われていたエクレールはその言葉に絶句して羞恥で顔を上気させながらあらん限りの力を拳に溜める。
「このぉ……」
「えっ?」
「スットコ勇者がぁ――――――っ!!」
ズゴォ!!
「ぅあぼぉー!?」
世界を狙えそうな右アッパーがシンクの腹部に炸裂する!
体が仰向けの状態から一気に宙を舞い、長い滞空時間を経て地面に落下した。
『おぉーっと、仲間割れかぁー!? そしてこの勇者、意外とアホなのかぁー!?』
その光景を見ていたフランボワーズの実況が響き、先行していた尊とサラはそれを聞いてしばし呆然としたものの思わず口元を緩めるのだった。
◇
サラと一緒にレオンミシェリの追撃に入ったものの、その距離はなかなか縮まろうとしなかった。
というのも、彼女とそのセルクルのドーマが最短距離である水上ポールルートを特に苦労した様子もなく飄々と突き進んでいるからだ。
セルクルに乗って日が浅いサラにそんな芸当はできず、仕方なく陸路を使って迂回しているのだがこれが余計にタイムロスを起こしている。
シンクとエクレールが今どのあたりかはわからないが、このままでは最終防衛ラインに達するまでそう長くはない。
「ミコトさん、あれを見てください」
サラの指さす方向では何やらポールの上で立ち止まっているレオンミシェリとドーマの姿。その視線の先には櫓の上から矢の雨を降らすビスコッティ弓兵隊がいた。
流石にあそこでは攻撃をさばき切るのは無理だろうと思っていると、その予想はあっさりと覆された。
輝力の応用だろうか、何もないところから槍を取り出すとそれを片手で高速回転させ矢の雨を弾き飛ばす盾にすると、攻撃が止むと同時に動揺しているビスコッティ軍に向けて輝力で強化した槍を投げ飛ばし、櫓ごと全員『いぬだま』に変えて無力化して再び進軍を開始した。
「おいおい、マジかよ」
「すごいですね。『百獣王の騎士』と呼ばれるのも分かる気がします」
サラが感心するもの分かるが、正直このままじゃまずいことに変わりはない。
「急ごう。幸い、シンクたちが同じルートをすごい勢いで突き進んでいる。あれなら防衛線手前のすり鉢エリアで追いつくだろう」
「では、私たちもそちらへ」
「頼む」
それから少ししてすり鉢エリアに到着したものの、目の前では一思いにすり鉢エリアを飛び越えようとしたドーマを空中で狙い討ちしようとしたシンクたちがレオンミシェリに体よくあしらわれ、彼女の即席でありながらも一目で強いとわかる紋章砲に撃ち落とされていた。
幸いにもすり鉢フィールドを突破したのはドーマだけで、レオンミシェリは新たに取り出した斧とドーマの体に吊るしていた盾を手にすり鉢の中央に立っていた。
「サラ、援護を頼む!」
「はい! ミコトさん、気を付けてくださいね」
「おう! その言葉だけで俺はあと100年は戦える!」
すり鉢の縁でセルクルから飛び降り道端に落ちていた剣を拾うと、そのままレオンミシェリに向かって投擲する。
こちらに気付いていた彼女はそれを難なく叩き落とすと、視線をシンクたちからこちらに向けて相対する。
「なるほど。勇者よりはまだやれそうじゃな」
「そりゃどうも。 シンク、エクレール、生きてるか?」
「――勇者! おまえは戦いの邪魔をしに来たのか!?」
「いや、そっちこそ! 僕のエリアルの邪魔をして!」
少し離れた位置で倒れている二人に声をかけるが、あちらはあちらでさっきの攻撃がうまくいかなかった責任のなすりつけあいをしていてこちらの話を聞いてそうになかった。
「おい、お前ら。今戦いの真っ最中だってこと「ミコトさん! 前!」忘れてない……か…………」
サラの言葉に従って前を見てみると、そこには短時間でレベル3まで紋章をチャージしたレオンミシェリが覚醒した戦闘民族のようなオーラを纏って斧を足元に叩きつけているところだった。
「『獅子王炎陣――』!!」
彼女を中心に火柱がいくつも上がり、打ち上げられた岩が隕石の如く火柱とともに周りの一般兵を敵味方問わず飲み込んでいく。
「待て待て待てぇーい!! 自分の味方も巻き込んでるぞオイ!?」
「後で謝罪を入れれば問題ない! それよりも覚悟はできておるか!?」
「くっ!」
サラが風の荒れ狂う中どうにか紋章を込めた矢を射るが、それ以上の力を持つ火柱に遮られて本命に届かず消滅した。
「そんな!?」
「攻防一体の攻撃かよ! 面倒な!」
流石に不味いと冷や汗を流すと、レオンミシェリが不敵な笑みを浮かべて斧を掲げるのが見えた。
「『――大爆破ぁ』!!」
それでこの技の完成なのか、さらに巨大な火柱がレオンミシェリを包み、一気に収束を始める。技の名前と目の前の動作から次に何が来るのかは、容易に想像できた。
「サラ! ガードしろぉ!!」
声を張り上げて自身も咄嗟に使わないと決めていたサテライトエッジをシールドで召喚して衝撃に備える。
瞬間、辺り一面で巨大な爆発が轟音とともに炸裂した。
第3話、いかがでしたでしょうか?
次回でようやくこの戦に決着がつくと思います。
長すぎた気がしないでもありませんが、これが終われば少しのんびりした話が書けそうです。
それでは、今回はこのあたりで。
また次の投稿でお会いしましょう。