Jumper -IN DOG DAYS-   作:明石明

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どうもお久しぶりです、仕事が忙しく執筆の機会に恵まれなかった作者です。

さて、今回は原作3話の中盤辺りまでの内容となります。
ジェノワーズ出現まで書こうか悩みましたが、切りが良かったので投稿の運びとなりました。


それでは本編第5話、どうぞご覧ください。


第5話「希望と暗雲」

「ど、どういうことですか!? 自力で地球に戻れるって!?」

 

「まあ落ち着け、シンク」

 

 

 狼狽するシンクをどうどうと抑え、尊はまずロランに尋ねる。

 

 

「ロラン団長、姫様を交えて俺たちのことを説明したいんだが、これからあの子に時間はあるか?」

 

「……残念だが、今日中は無理だろう。この後は参加者への労いの言葉にレオ閣下への挨拶、コンサートのリハーサルなど多忙の身となられる。無難な時間帯を挙げるなら、明日の朝食後がいい具合だろう」

 

「明日か……。こっちとしてはまとめて説明したいんだが、シンクはすぐ知りたいんだよな?」

 

「出来ればそうしてもらいたいですけど……姫様がいた方がいいなら、それに合わせます」

 

「そうか――じゃあ悪いが、明日まで待ってくれ。こっちとしても、その手段がちゃんと使えるのかの確認も必要だからな」

 

 

 尊たちが異世界を渡るにあたって必要なものが月の光なのだが、この世界でもそれが適用されるか否かでやり方が変わってくる。

 手段を確立するためにも、一晩という時間は必要なものだ。

 

 

「ではこれから勇者殿と尊殿、サラ殿には戦での活躍のインタビューを迫られると思うのだが、どうされるかな?」

 

「そうだな……」

 

 

 ロランの問いにまず尊が口を開く。

 

 

「あのガレットの実況者……確かフランボワーズって言ったな。一発殴る必要があるから俺は顔を出すぞ」

 

「わ、私はもう少しここにいますね……」

 

 

 宣言した通りのことをするべく握り拳を作って表に出ることを表明する尊に対し、先ほどの衝撃がまたぶり返したのかサラは少し恥ずかしそうに辞退する。シンクも少し気持ちの整理がしたいということで辞退を進言し、代理としてロランがインタビューを受けるということで話がまとまった。

 それから間もなく、インタビューに来たガレット切っての視聴率男の叫びが戦場の空に響いたとか。

 

 

 

 

 

 

 フランボワーズをぶっ飛ばして気が晴れた俺はサラとシンク、エクレールと一匹のワンコとともにフィリアンノ城へ向かうべく城下町を訪れていた。

 なんでも戦が終わってから姫様の方でもシンクを元の世界に帰せないとわかり、学術研究院――通称『学院』の主席に帰還の方法を探し出すように指示を出したらしく顔合わせと簡単な確認をするためだ。

 その道中、通りに設置されたベンチにてシンクが難しい顔で手にした携帯電話とにらめっこしていた。

 

 

「――やっぱダメかぁ……異世界だもんなぁ」

 

「極端な言い方をすれば地球から別の星に飛ばされたようなものだからな。諦めるしかないだろ」

 

 

 画面左上に表示された圏外の文字を眺めながらそう漏らす。サラは初めて見るそれを興味深そうに眺めており、壁にもたれかかっていたエクレールがどこか呆れた風に切り出す。

 

 

「覚悟もないのに召喚に応じた貴様が悪い。自業自得だ」

 

「覚悟!? 覚悟も何もこのワンコが踊り場から降りようとしたところで落とし穴を仕掛けるから!」

 

「……落とし穴? タツマキがか?」

 

 

 シンクの足元でタツマキと呼ばれた犬は伏せの体勢から起き上がると、小さな魔法陣のようなものを展開した。何やら縁の方に文字らしきものが書かれているが、全く読めん。

 

 

「えっと、なになに? 『ようこそフロニャルド、おいでませビスコッティへ』」

 

 

 エクレールがそれを読み上げるとタツマキが前足で一部をチョイチョイと示し、視線が集中する。

 

 

「――『注意 これは勇者召喚です。召喚されると帰れません。拒否する場合はこの紋章を踏まないでください』」

 

「え゛!?」

 

 

 シンクの顔が絶望に染まり、タツマキは「そういうことだ」とでも言いたそうにうなずく。

 いや……これはないな、いろいろと。

 そして案の定、涙目でシンクが切れた。

 

 

「……こ、こんなんわかるかぁぁぁぁ!」

 

「知るか! 私に言うな!」

 

「エクレールさんの言うことも尤もですけど、これは流石に……」

 

「だな。まったく知らない世界の文字なんか読めるはずもないし、しかも身動きできない空中で落下点に召喚の陣を設置されたらまず回避できないからな」

 

 

 俺はクロノ世界で使われている文字が何故か日本語だったからどうにかなったが、この文字は暗号みたいで全然わからん。

 

 

「まあ、貴様を帰す方法は学院組が調査中だし、尊殿の言う手段もあるからどうにかなるだろ」

 

「そりゃあ……そうだけど……」

 

 

 意気消沈するシンクがどこか縋るようにこちらを見る。まあ、あんな身体能力の持ち主でもまだ中学生なんだ。こうなるのが普通だよな。

 

 

「心配するな。俺の力が必要になったらいくらでも協力してやるし、それ以外でも相談に乗ってやる」

 

「もちろん、私もですよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 

 多少は楽になったのか、先ほどよりはマシな顔での礼が返ってくる。

 そこへ区切りがついたと察したのか、エクレールが三つの袋を取り出して俺たちの前に差し出す。

 

 

「とりあえず、勇者並びに助っ人のお二人は戦の功績もあり姫様から賓客として扱うよう話が来ている。それだけでここでの暮らしに不自由はないが、これを受け取ってもらいたい」

 

「これお金? あの、お金はさすがに受け取れないよ」

 

「戦場での活躍報奨金だ。受け取りを拒否すれば、財務の担当者が青ざめる」

 

「もらっておけ、シンク。何をするにしても金は必要になるし、何より持っていて困ることはない。それに、大人の世界ではもらってもらわないと困る事情もあるんだからな」

 

 

 金がらみの問題はクロノ世界で嫌というほど味わったからな。トルース村でトマに酒を奢って予想以上の出費をしたり、サンドリノの村でトマと殴り合った時に発生した酒場と宿の修理代で金が消し飛んだり――あれ? トマと酒が絡んだ時しか問題になってないな……。

 というか、サラと一緒に訪れたチョラスで別れたのが最後でそれからはあいさつも何もしていなかったな。もし行ける機会があるのなら、また一緒に酒を飲むのもありだな。あの時と違って金銭に余裕があるし。

 それはさておき。

 俺の言葉もあってか流されるままエクレールから報奨金を受け取るが、シンクの表情はどこか納得していないようだ。まあ、この辺も大人になればわかるだろう。俺とサラも資金を受け取り、なんとなく中身を確認する。

 お金と聞いて丸い硬貨を想像していたが、ここでは四角であたり五角形などの硬貨で金、銀、青銅と思しき色の種類が存在しており、紙幣は存在しないらしい。俺とサラの袋には銀色の硬貨が多いが、シンクの方には金色の硬貨の方が多いようだ。

 

 

「兵たちは楽しいから戦に参加していうものもいるが、報奨金は自分がどれだけ戦で貢献できたかを測る目安となる。少なくとも、参加費分は取り戻したいというのがほとんどだろうな」

 

「えっ、参加費!?」

 

「妥当なところですね。こんな大掛かりな賞金付きイベントで、しかも一般人の方まで参加するなら動くお金も相当なものでしょう。どこかで緩和させないと、国の財政そのものが危うくなってしまいますし」

 

「参加者としても参加費分は回収しておきたいのは当然だろうし、あわよくば報奨金でさらに儲けたいってとこだろうな。少なくとも、俺ならそうする」

 

「そういうことです。 しかし、この二人に比べて勇者はあまり頭が回らないようだな」

 

「むぅ……」

 

 

 どこか棘のある言い方に大げさに頭を抱えて見せるエクレールにシンクが不満そうな表情をする。

 扱いが違うのはやっぱり戦場でのやり取りが原因なんだろが……ふむ、簡単なフォローくらいはしておくか。

 

 

「まあ、この辺は人生経験の差だな。特別な勉強とかしてない限りシンクぐらいの歳で政治と金について考えることはほぼないだろうし、それ以前にまったく知らない世界のルールなんて知らなくて当然なんだからな。エクレールだって、地球のイベントのルールなんてわからないだろ?」

 

「それは、そうですが……」

 

「もう少し相手の状況を理解した上で話してやるのも大切なことだ。元々違う世界の人間なんだから認識の相違が強いってのもあるんだし」

 

「……留めておきます」

 

 

 どこか釈然としないまま頷いたエクレールが大通りに足を向けたのをきっかけに、俺たちも雑多の中へ移動を開始する。

 道に広がる屋台を利用して硬貨の説明を受けたり、戦興業の仕組みや報奨金の使用例などを教えてもらってると、シンクが何か思い出したように尋ねる。

 

 

「そういえば姫様から戦が安全なものだって教えてもらったけど、大陸協定っていうのを守らなくて……人が死んじゃったりすることは、あるの?」

 

 

 少し言いにくそうな声にエクレールは一度目を伏せ、答える。

 

 

「歴史を紐解けば、そういった争いがなかったわけでもない。特に、魔物を相手にした時などはな」

 

「魔物、ですか?」

 

 

 予想だにしない言葉にサラが聞き返し、俺も耳を傾ける。

 

 

「我々が怪我をしないでいられるのも、戦場指定地に眠る戦災守護のフロニャ力のおかげです。元々守護力の強い場所に国や町などが作られ、それ以外の場所では怪我もしますし、運が悪ければ命を落とすこともあります」

 

「じゃあ魔物っていうのは……」

 

「守護力が弱い街道や山野では大型野生動物が出現する危険があり、それらが何らかの原因によって変異、凶暴化したものが魔物になると言われている。尤も、魔物の目撃情報自体が少ないためハッキリとはしていないがな。付け加えて言うなら、そういった危険な場所を通るときに戦興業の隊列に加われば、安全な移動が可能になる」

 

 

 ……なるほどな。安全なお気楽世界かと思えば、そういった裏事情もあるということか。

 案外、戦興業もそういった脅威から身を守るための訓練を兼ねているのかもしれないな。

 そうこうしているうちに城の入り口の一つにたどり着き、エクレールに案内されたのはかなり広い図書館のような場所だった。

 あちこちでトレンチャーキャップに白衣を纏った人が本を引っ張り出しては羽ペンを使ってノートらしきものをとっている。

 その中で一人、一際大きな机に座っていた女の子がこちらに気付くと同時にパタパタと駆け寄る。

 

 

「勇者様と助っ人の方でありますね? 自分はビスコッティ学術研究院の首席研究士、リコッタ・エルマールであります」

 

「……首席!? 君がか!?」

 

 

 思わず声を大にして驚いた俺は悪くないだろう。見た目小学生後半の女の子がこの学院におけるトップというのだ。

 サラもシンクも同じ心境なのか、二人とも驚いた表情で固まっている。

 

 

「まあ、尊殿の言いたいこともわかりますが……。それでリコ、成果の方はどうだ?」

 

「……申し訳ないであります。現在、学院の総力を挙げて勇者様の帰還方法を模索中でありますが、力及ばず、未だに、全く、どうにもこうにも……」

 

 

 言葉が続くにつれて言葉の中から申し訳なさが伝わり、後半に至っては一区切りごとに頭を下げだす始末。

 なんというか、こんな女の子に頭下げさせるのは大人として悪いイメージしか沸いてこないぞ。

 

 

「謝ることじゃない。私も勇者も、そう簡単に方法が見つかるとは思ってないんだからな」

 

「――あ、うん。そうだよ、だから頭上げて」

 

 

 エクレールの目配せを察してシンクが声をかける。確かにこんな短時間で見つかるなら、今リコッタちゃんはこんなに申し訳なさそうにしていないはずだ。

 

 

「本当でありますか?」

 

「うん、ただ春休み終了の三日前の前日には家にいないといけないから……最大で16日がタイムリミットかな」

 

 

 ――春休み?

 

 

「16日でありますか! それなら希望が見えてきたであります!」

 

「本当!?」

 

「おまかせください、であります!」

 

 

 先ほどの意気消沈とした空気から一転、リコッタちゃんが嬉しそうに頷いて見せる。

 ――しかし、俺はシンクの言葉に嫌な予感を感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 シンクが召喚され、自分たちが目を覚ました召喚台に尊たちは訪れていた。

 事の発端はフィリアンノ城でシンクが召喚台に行けば、圏外となっている携帯電話の電波が入らないかと尋ねたことからだ。

 エクレールが召喚に使用された剣に輝力を通すことで召喚の陣を展開するが、やはり一方通行なためかシンクが力任せに腕を押し込んでも逆に戻される力が働いて肘にも届かず失敗する。

 

 

「いい加減諦めたらどうだ? 無理なのはわかっただろ?」

 

「いや、人生何事もチャレンジ! ネバーギブアップだよ!」

 

「そのポジティブさ、まるで松○修○だな」

 

「まつ……どなたですか?」

 

 

 隣のサラから地球温暖化の原因とも噂されている有名人について質問されるが「気にするな」と打ち切り、尊も試しに腕を突っ込んでみる。結果は腕が入ったシンクにも劣り、手のひらが陣に触れただけで終わってしまう。

 正規手段でここに来たシンクとは違うから無理なのかと考察していると、不意に後ろからガチャガチャとやかましい音が近づいてくる。

 

 

「勇者様ー! おまたせしました!」

 

「えっと……リコッタ、それなに?」

 

 

 大掛かりな装置を牽引したセルクルと共に現れたリコッタをみて、シンクが質問する。

 

 

「放送で使うフロニャ周波を強化増幅する機械であります。自分が5歳の時に発明した品でありますが、今は大陸中で使用されているであります」

 

「……はぁ!?」「……えぇ!?」

 

 

 前半の話だけを聞けば尊もシンクもそこまで驚かなかったであろう。

 しかし、5歳の時の発明と聞いては目の前の少女が改めて普通ではないと実感させられたような気がした。

 

 

「……この子もルッカと同じか?」

 

 

 尊が思わず未来の技術もすぐさま自分のモノにしたメカチート転生疑惑の少女のことをぽつりとつぶやくと、どこかの世界でメガネの少女がくしゃみをしたそうな。

 それはさておき、手慣れた動きでリコッタが操作すると、装置が音を上げて作動した。

 

 

「さ、勇者様」

 

「あ、うん」

 

 

 促されて携帯電話を開くと、圏外の文字が消滅して代わりに三本のアンテナが出現した。

 

 

「おお! 立った! リコッタすごい!」

 

「……何でもありだな、フロニャ力」

 

 

 高すぎる汎用性に舌を巻き、尊も自分の携帯電話が使えるか試そうとする――が、そもそも今携帯電話を持っていないことに気付き軽く項垂れる。

 早速とばかりに連絡を取り始めたシンクが友達とつながって一安心したのを確認し、通話が終わると同時に声をかける。

 

 

「シンク、悪いが俺にも電話を貸してくれないか? 自分の携帯、今持ってないんだ」

 

「はい、どうぞ」

 

 

 電話を受け取り、早速自分が覚えている数少ない電話番号を入力して嫌な予感が的中しないことを祈りながら通話ボタンを押す。

 数回のコールが鳴り、電話の相手が出る。

 

 

『もしもし?』

 

「もしもし? 月崎さんのお宅でしょうか?」

 

『――いえ、違いますが』

 

 

 ――嫌な予感が、的中した。




本編第5話、いかがでしたでしょうか?

次回の投稿も遅くなってしまう可能性がありますが、どうか気長に待っていただけたら幸いです。

それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。
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