さて、今回は第3話のラストまでとなっています。
ジェノワーズ初登場に加えてミオン砦の攻防に至る経緯を書いてみましたが、正直かなり苦戦しました。
ともあれ書き上げました本編第6話、どうぞご覧ください。
電話をかけてから様子がおかしい尊を4人が不審に思っていると、当の本人はバツの悪そうな顔で溜息を一つ。シンクに電話を返しながら言いにくそうに打ち明ける。
「シンク、どうやら俺とおまえは同じ地球でも違う世界の地球出身らしい」
「同じ地球でも違う世界……ですか?」
話を聞いていたエクレールが尋ねると、そうだと返して尊は続ける。
「フィリアンノ城で期限について聞いていた時点でまさかとは思っていたんだ。春休み云々と言っていたことからシンクの中では今日の日付が3月半ばだろうと思うが、俺の感覚では9月から10月……秋に差し掛かろうって時期だ。時系列の問題だけかとも思ったがさっき電話をしたのは俺の実家の番号だったのに、結果は全く知らない家につながった。これらを統合すると出てくる答えはさっき答えた通り、同じ地球でも違う世界の出身にたどり着いたという訳だ」
「じゃ、じゃあ自力で帰れる方法っていうのは……」
「俺の世界はともかく、シンクの世界に行くのは確実と言えなくなる。如何せん俺も、世界や時間を移動する手段をそう何度も使っているわけではないからな……すまない、期待させておいてこんな結果になってしまって」
「あ、頭を上げてくださいよ! それにこんなことになるなんて、誰もわからなかったんですし」
「そうであります! それにまだ帰還方法の捜査は始まったばかりであります! 諦めたらそこで終わりなのでありますよ!」
頭を下げる尊にシンクは慌て、リコッタは自分が何とかしてシンクを元の世界に戻る方法を見つけなければと強く決意した。
その様子を見ていたエクレールも装置に備えられた通信機を手に取り、フィリアンノ城にいる兄へ向けて経過報告の連絡を取る。
『――そうか、尊殿の手段は望み薄ということか』
「ですが、勇者が元の世界と連絡を取ることに成功しているので、まだ希望はあるかと」
『うむ。では引き続き、エクレールは勇者殿たちと行動を共にしてくれ――ああそれと、先ほど連絡があって、ダルキアン卿と隠密筆頭がもう間もなく戻られるそうだ』
「本当ですか!? それは心強い!」
『そのあたりの説明をしながら城へ戻ってきてくれ。今からなら、姫様のコンサートにも余裕で間に合うだろう。それともう一つ、尊殿とサラ殿を私のところへ連れてきてくれ。少し話したいことがある』
「わかりました。 では」
受話器を戻すと四つの視線がエクレールに集中していた。その中で一番彼女と親交があるリコッタが代表して問いかける。
「エクレ、何か朗報でありますか?」
「ああ、ダルキアン卿がユキカゼと共に戻ってこられるそうだ」
「本当でありますか!?」
心底嬉しそうな声を上げるリコッタに対し、その二人を知らない尊たちは頭にハテナを浮かべ尋ねる。
「えっと、どなたですか?」
「ダルキアン卿はビスコッティが誇る最強の騎士で、ユキカゼは私やリコの大切な友人です」
「お二人とも、ものすっごく強いのであります」
「へぇ、どれくらい?」
シンクの質問に二人は顎に手を当てて思案し、それぞれが特徴を上げる。
「ダルキアン卿の本気は見たことがないが、レオ閣下と同等かそれ以上というのを聞いたことがある」
「ユッキー……っとと、ユキカゼもビスコッティ騎士団の中でも上から数えた方が早いのであります」
自分を含めた尊たち4人を相手にしてまったく引けを取らなかったレオと同等かそれ以上と聞いてシンクは純粋に驚き、それなりに修羅場をくぐってきたと自負する尊は少し自信を無くしそうになった。
無論、尊も精神コマンドや魔法をフル活用すれば話は変わってくるのだが、それを差し引いても自分はまだまだだと思っていた。
――もう命を懸けてまで戦うことなんてないはずだが、強さにこだわるあたり俺もまだ子供だな。
軽く自嘲する尊を余所に、エクレールは話を進める。
「二人の話は移動しながらまた教えるとして、今は姫様のコンサートに備えて一度城に戻るぞ」
その提案に異を唱える者はおらず、一行は機材を撤収して再びフィリアンノ城へと足を向けた。
◇
シンクたちが城へ戻ろうとしている頃、見晴らしのいい場所からフィリアンノ城を眺める四つの影があった。
「姉上を倒したってことは、やっぱその勇者っヤツはつええのか?」
「そのようです。戦闘スタイルは軽装戦士型、ガウ様と同じタイプのようです」
「助っ人の男の人も似たようなもので、女の人は私と同じ弓を使った遠距離射撃型ですね」
「せやけど、どっちもなんか隠してるっぽいんよな。それがなんなのかまではわからへんけど」
マントをなびかせる銀髪の少年に答える三人の少女。
黒、緑、黄色と何ともカラフルな三人の答えに満足したのか、少年はニッと笑う。
「面白れぇ。姉上の敵ってわけじゃねえが、いっちょ遊んでやるとすっか」
楽しそうに準備を始めようとする少年――ガレット現領主の弟、ガウル・ガレット・デ・ロワは親衛隊ジェノワーズであるノワール・ヴィノカカオ、ジョーヌ・クラフティ、ベール・ファーブルトンの三人を引き連れてその場を後にした。
◇
日が沈み街頭が明かりを灯しだした頃、城下町ではそこかしこで姫様のコンサートを知らせる広告が大々的に宣伝されており、人々の間でもその話題で持ち切りとなっていた。
確かシンク経由で聞いたエクレールの話では姫様は世界的な歌い手で、ここしばらく戦興業が相次いだおかげでいくつもの公演が見送られることとになっていたそうだ。
そんな姫様の久し振りのコンサートということもあり、楽しみにしていた住民たちは絶対に見ようと息巻いていた。
「すごい人気だね」
「ここしばらく、ちゃんと公演されなかったこともあるからな。我々としても、このコンサートは無事に終わらせたいところだ」
リコッタの装置に腰掛けたシンクのつぶやきに、この後に警備としての仕事に参加すると思われるエクレールが真面目な表情で答える。
しかし冷静に考えればなかなかにハードスケジュールだよな。戦が終わってすぐに戦後処理にリハーサル、おそらく時間がないから少しの休憩後にすぐさま本番になるはずだ。そう思えば今日中に俺たちの話を聞いてくれというのは確かに酷だろう。
明日にして正解だったなどと考えながら城内に入ると、エクレールが「さて」と切り出す。
「姫様のコンサートに汗臭い姿で来られても困る。勇者、お前はまず風呂に浸かってこい」
「お風呂って、どこで?」
「案内図もありますし、中の人間に聞けばわかるでありますよ」
「尊殿とサラ殿は兄上が話をしたいそうなので、このまま私が案内します」
「わかりました」
「よろしく頼む」
途中でシンクと別れ、俺とサラはそのままエクレールに案内されてコンサートホールの舞台裏へと訪れる。
甲冑を外して赤い髪の女性と話していたロランは俺たちの訪問に気付くと小さく笑みを浮かべ体ごと向き直る。
「兄上、お二人をお連れしました」
「ご苦労。エクレールはこのまま、騎士団と警備の打ち合わせをしてきてくれ」
そう言ってエクレールをさがらせると、スタッフの邪魔にならない場所へ俺たちを促す。
「それで、話って何だ?」
「そこまで難しい話ではないよ。エクレールから話を聞いたと思うが、お二人はこの国において賓客としてもてなすようになってる。そこで当然部屋を当てさせてもらうことになるのだが……尊殿、戦場の最後で言っていたことは本当かい?」
「最後に言っていたこと?」
「……もしかして、私がミコトさんの伴侶だと言っていたことでしょうか?」
……ああ、確か服が破れた時に俺の嫁発言をしていたな。
「ええ。お二人がご夫婦であるならば、部屋割りもそれに見合ったものを用意しようかと思いまして――申し遅れました、私はミルヒオーレ姫様の選任秘書を務めさせていただいておりますアメリタ・トランペと申します」
女性――アメリタさんの答えに俺はなるほどと納得する。
確かにそれはありがたい申し出だ。クロノ世界でも一緒の部屋で過ごしてきただけに、急に別々の部屋となってはもう落着けないだろうと俺は断言できる。
依存性が強い気もするが、そんなになるほど好きなんだから仕方ないね。
「それで頼む。サラもそれでいいよな?」
「はい。ロランさん、お願いします」
「承った。 では詳しい話はもう少し落ち着いてからで――」
ロランがそこまで言うと、突然辺りから陽気なトランペットの音が鳴り響く。
それに連動するように近くにあった映像盤が起動し、四つの影が映し出された。
見たことのない三人が誰かを見下ろしており、真ん中にいる黒い少女の腕には――
「――姫様?」
誰からか呆けたような呟きが漏れると、複数のライトが三人を照らし出す。
『我ら! ガレット獅子団領!』
『ガウ様直属! 秘密諜報部隊!』
『ジェノワーズ!!』
\デデーン!/
コミカルなBGMとライトアップに合わせて両側のふたりがポーズをとり、三人が同時に名乗ると戦隊物の登場シーンの如く背後で爆発とともにイメージカラーに合わせた煙が噴出する。
…………他国の人間が一国の姫の口を封じていたり秘密諜報部隊なのに堂々と名乗ったり派手な登場をしていたりとツッコミどころが多すぎてどこから突っ込んでいいのかわからんが、そんな俺たちを置いてけぼりにして三人は画面外に隠れていたもう一人――ビスコッティの勇者シンクに向けて告げる。
『ビスコッティの勇者、あなたの姫様は私たちが攫わせていただきます』
『うちらはミオン砦で待っとるからな。助けるんやったら、そこまっで追ってきや』
『姫様のコンサートまで約一刻半。それまでに間に合うかしら?』
一刻半って確か現代時間で換算すると45分くらいだよな?
え、それを承知でこんなことしてるのか?
『つまり、大陸協定に基づき、要人誘拐奪還戦を開催させていただきたいと思います。ちなみにこちらの兵力は、ガウ様直轄の精鋭部隊200人』
『ガウル様は勇者様との一騎打ちをご所望されているわ』
『この申し出を断ったら、姫様があーんなことやこーんなことされてまうかも知れんで?』
あんなこと云々をやけに強調しているが、君らの主はそれを了承しているのか? 個人的には絶対ないと思うが……。
『さあ、返答はいかに?』
「……はっ、不味い! 勇者殿を止めるんだ!」
どんどん進む話に呆然としていたロランが何かに気付いて叫ぶが、映像の先にいるシンクは力強く答える。
『――受けて立つにきまってる! 僕は姫様に呼んでもらった、ビスコッティの勇者シンクだ! どこの誰とだって、戦ってやる!』
町の方からはただのイベントだと思っているのか大きな歓声が上がり、酷く静かな舞台裏にまでその盛り上がりが響いていた。
『了解。これで戦成立とさせていただきます』
『では予告通り、私たちはミオン砦でお待ちしてますね』
『好きなだけ戦力連れてきたらええで。んじゃ、楽しみにしとるで!』
それだけ言い残し、ジェノワーズと名乗った三人は姫様を抱えてあっという間に去って行った。
「……あの、これは大変なことになってしまったのでは?」
ぽつりとサラの口から漏れた言葉で辺りが蜂の巣をつついたように慌ただしくなるまで、そう長い時間はかからなかった。
◇
「御館様ー、ホムラを遣いに出しましたー」
「おお、ご苦労でござる、ユキカゼ」
キツネの耳と尻尾をしたビスコッティ騎士団オンミツ部隊筆頭、ユキカゼ・パネトーネの報告に御館様と呼ばれた女性――ブリオッシュ・ダルキアンは満足そうに頷く。
旅の目的が区切り付いたので一度国へ戻ることになり、彼女たちは久しぶりに会う小さな領主や友人たちの再開に胸を躍らせていた。
「フィリアンノ城までもう間もなくでございますね」
「うむ、皆元気でやっているでござろう」
「ですが、戦興業は敗北が続いているみたいでございますよ」
ここに戻るまで聞いた話では、隣国のガレット獅子団領との戦で連戦連敗を重ねてしまっているとのことだ。
ビスコッティに籍を置くものとしては、その知らせは快く思えるものではなかった。
しかし、彼女の主は顔色一つ変えない。
「確かにそれは由々しきことではあるが、きっと大丈夫でござるよ」
「……はぁ、その自信は、いったいどこから?」
自国が連敗しているにもかかわらずのんびりとした返答に、ユキカゼは小首を傾げて尋ねる。
ブリオッシュは一度顎に手を当てると、フフッと笑い答える。
「勘、でござるよ」
それだけ告げると、ブリオッシュは再びフィリアンノ城へ足を向ける。
彼女の刀の鞘に括り付けられた金色のイヤリングが、月明かりを受けて小さく煌めいた。
本編第6話、いかがでしたでしょうか?
途中で伝説の野菜人が惑星を破壊したような音が流れましたが、ただの効果音なので問題はありません。
最後の最後に伏線めいたものを残してみましたが、果たしてこれをちゃんと生かせるだろうか……。
次回は戦闘シーンが中心となると思います。相も変わらず投稿がいつになるかわかりませんが、どうか気長にお待ちください。
それでは、今回はこのあたりで。また次回の投稿でお会いしましょう。