さて、今回は予告通りミオン砦の終了まで来ました。
ここから徐々にオリジナル要素に混ぜていけたらいいなと思っています。
それでは本編第9話、どうぞご覧ください。
レオ閣下がゴドウィン将軍を引き連れて砦の奥へと進んでいくのを見届け、俺とサラはダルキアン卿の元へと駆け寄る。
外傷は皆無だが、何故か昼の戦場でダメージを受けたレオ閣下やサラのように上着が破れ、下に着ていたインナーのみの姿となっていた。
「大丈夫ですか、ダルキアン卿」
「気遣いは無用にござる。拙者、体は少々頑丈なので問題はないでござるよ」
「……頑丈だからいい……のか?」
サラの言葉にしれっと返すダルキアン卿だが、弾き飛ばされた際にぶつかったそれを目にして俺は疑問符を挙げずにはいられない。
大きな石の柱へ背中からモロに突っ込んだことで柱の一部が大きく砕け、普通なら小さくはない怪我をしていたであろうにもかかわらずダルキアン卿は平然と立ち上がりどこからともなく取り出した荷物から替えの服に着替え始めていた。
「さて。レオ様が来られた以上、この戦も間もなく終わりでござろう。拙者は「けものだま」となった者たちの救護に向かうでござるが、お二人はいかがされるか?」
確かにレオ閣下がガウル殿下を止めに来たのなら戦はもう終わったも同然。ならば俺たちは当初の目的通り、姫様をコンサートホールに連れていけばもう万事解決だ。
シンクたちがどうなったかも気になるし、行ってみるか。
「俺たちは先へ進もうと思う。シンク――勇者や姫様の安否も確認しないといけないし、コンサートまで時間もない。無事を確認したら、あらゆる手段を用いてコンサート会場へ向かうつもりだ」
「承知したでござる。 お二人とも、姫様をお願いするでござるよ」
ダルキアン卿の言葉に頷いて返すと、それとほぼ同時に砦の奥からレオ閣下の怒声がビリビリと響くのだった。
◇
奥へ向かう途中でガレットのメイドに遭遇した二人はミルヒがいる部屋までの案内を頼み、不自然に空いた壁の穴に首をかしげながら目的地へと導かれる。
扉に手をかけた瞬間、先に到着していたレオが出てくるなり尊たちを一瞥すると何も言わずに立ち去った。
声をかけるべきかと思った二人だが、彼女から感じられる妙な空気とミルヒの事が気になったこともありそのまま入室。そこには件のミルヒに先行したシンクとエクレール、ガレットの王子ガウル・ガレット・デ・ロワに同国メイド長のルージュ、そして<よりにもよってこのタイミングで>ミルヒを誘拐した親衛隊ジェノワーズが三人そろって頭にたんこぶを生やして気絶していた。
「姫様、遅ればせながらお迎えにまいりました」
「ありがとうございます。尊さん、サラさん」
まずミルヒが無事だったことに二人は安堵し、尊は続いてシンクの方に目をやる。あちこちで擦り傷が目立つが、それ以外は特に問題が見当たらなさそうであった。
「シンク、お疲れ様だ。あとは姫様をコンサートに送り届ければ、全部解決だ」
「そのことなのですが、尊殿。今からではとても……」
二の句を告げぬエクレールの表情はすぐれない。セルクルをもってしても、ここからコンサート会場まではどう考えても一時間はかかる。圧倒的なまでに、時間が足りない状況であった。
しかしそんなエクレールの心配を余所に、シンクが思いついたように声を上げる。
「あの、姫様。僕が送りましょうか? 王子……えっと、名前なんだっけ?」
「ガウルだよ! 一発で覚えろよ!」
「そうそう! ガウルと戦ってたときに、輝力の使い方をだいぶ覚えたから大丈夫! 勇者超特急で一気に送れるよ!」
自信満々に宣言するシンクにほとんどの人間が言葉を失っている中、尊も何かを思い着いたのかニヤッと笑みを浮かべる。
「要するにだ、どんな手段を使ってもいいから時間内に会場へ間に合わせればいいわけだろ? ――シンク、これを使え」
ポケットから取り出すようなそぶりで亜空間倉庫から『疾風の鉢巻』を取り出し、シンクに手渡す。
見覚えのある鉢巻を見て、シンクとミルヒの顔が驚きに変わる。
「尊さん、これって」
「お前が知ってる通り、それをつければ通常の倍の速さで移動ができる。急ぎの今にはもってこいのものだから遠慮なく使え。ただし、最後に返してくれよ」
手渡されたそれをしばし見つめ、何かを決心したかのように鉢巻を付け替えるとシンクは気合を入れるように顔を叩く。
「よし! 行こう、姫様!」
「は、はい!」
ミルヒを背中に乗せたシンクは覚えたばかりの輝力操作で脚力を大幅に強化させる。
紋章と共にオレンジの炎が両足に宿ると今度は尊とサラが驚き、ルージュは部屋の窓を開けて進路を確保。
「それじゃあ尊さん、サラさん、エクレール。いってきます!」
「お、おう」
「気を付けてくださいね」
返事を受けたシンクはたった数歩の助走で大きく跳躍し、オレンジの弾丸となってあっという間に飛んでいった。
初めて見る輝力の使い方に度肝を抜かれたが、これで自分たちの出番はないと判断した二人は新しい顔ぶれに対して自己紹介をすることにした。
「とりあえずはじめましてだな、ガウル殿下。ビスコッティの助っ人として戦わせてもらっている月崎尊だ。こっちはサラ、俺の嫁だ」
「よろしくお願いしますね」
「ガウル・ガレット・デ・ロワだ。ガウルでいいぜ。 こっちがメイドのルージュで、あそこでノビてんのが親衛隊のジェノワーズだ」
そばに控えていたメイド――ルージュがお辞儀をし、ガウルの指の先の三人を一瞥すると尊は早速事の顛末を尋ねることにした。
「それじゃあガウル。今回のことについて、話を聞かせてもらえるか?」
改めて話を聞き要約したところ、今回の戦はどうにかしてシンクと戦いたくなったガウルがジェノワーズにセッティングを頼んだものの、彼女たちはガウルの命令を第一にしてビスコッティ側の事情などお構いなしにこの砦まで連れてきたとのことだ。
コンサートがあるというのならばガウルも今回は見送るつもりだったが、それを知ったのがシンクと戦っている真っ最中で事態は既に手遅れの状態にあった。
つまり、ミルヒのコンサートがあるという情報がちゃんと彼に伝わっていれば、本来ならば回避できたはずの戦だったということだ。
「今回はどうにか間に合いそうだから良かったですが、最悪の場合、ガレットに対してビスコッティ側が強い反感を覚えるきっかけになりかねませんでしたね」
「そういわれちゃ耳がイテェが、アンタの言う通りだ。それに状況を考えなかったジェノワーズもそうだが、元をたどれば同じように軽い気持ちで命令した俺の責任だ」
「自覚しているならそれでいい。次からはもう少し考えて行動してみることだ」
「ああ。 エクレールもすまねぇな、迷惑かけちまって」
「いえ。それよりも尊殿、先ほど勇者に渡した物で、本当に動きが早くなるのですか?」
その問いにそういえばここに来て初めて『疾風の鉢巻』を使用した時にエクレールはあの場にいなかったなと尊はふと気付く。
到着したのが戦開始間際だったこともあり、負けられない戦いであったビスコッティに実力のある彼女を戦線から外す余裕はなかったのだろう。
「それについては全部まとめて明日説明する。 それとガウル、君の姉さんについて話を聞きたいんだが、いいか?」
「おう。俺が答えられる範囲ならな」
「ありがとう。――レオ閣下は、ビスコッティに対してなにがしたいんだ?」
尊はこの砦に来てから浮き彫りになったレオに関する疑問を尋ねる。
何故他国のイベントを取り消す事態にしてまで戦興行の開催を推し進めるのか。そしてダルキアンと戦っていた時や先ほどすれ違いざまに感じられた妙な空気が引っ掛かり、どうにも腑に落ちなかった。
「さあな、俺もそこまでは分からねえ。確かに最近ではかなりのペースでビスコッティと戦が開催されてはいるが、本人はいつもの戦興行だと言い張ってる。一応筋は通ってるし、一般兵も楽しんでるから俺としてはそれ以上追及できねえ」
「……なるほど。 ルージュさんは?」
「申し訳ありません。私の方もわかりかねます」
「真意はレオ閣下にしかわからない、ということか」
有力な情報が得られず少し残念そうにつぶやいた尊だが、側で聞いていたサラは暫し思案に耽っていた。
――言い方を変えれば、家臣や弟にも話せない事情があるという可能性もありますが……さすがに考え過ぎでしょうか?
「――おっ!」
唐突にガウルが声を上げると、部屋に置かれていた映像盤が光を発しフィリアンノ音楽ホールの映像が中継で映し出された。
ステージの上には衣装を纏ったミルヒがマイクを握っており、一同は無事に事が終わったことに大きく安堵した。
「間に合ったようですね」
「いやー、よかったぜ。 で、いつまで狸寝入り決め込んでんだ? おまえら」
ガウルの呼びかけに気絶しているはずのジェノワーズの体がビクッと震え、ダラダラと不自然な汗を流し始めた。
「……ばれてた?」
「ばれてましたねー」
「ガウ様、いつから気づいてたん?」
「姉上が帰ったあたりからだな。 今回のことのケジメは帰ってからつけるとして、おまえらも見ろよ」
頭頂部に大きなコブをこさえたまま、ジェノワーズはガウルに促されて視線を映像盤に移す。
映像盤の先ではミルヒが挨拶を終え、持ち歌の「きっと恋をしている」を歌い始めていた。
彼女の歌唱力と元の世界のライブと遜色ない――輝力が存在する分こちらの方が上かもしれない――演出に尊は感嘆した。
「世界的に有名な歌い手と聞いていたけど、まさかこれほどとはな」
「そうでしょう。姫様ほどの歌い手は、このフロニャルドにおいてそうは――サラ殿?」
エクレールが目を見開いたまま動かないサラを不審に思い声をかけるが、彼女の視線はライブに釘付けとなっていた。
「……すごいですね」
彼女がいたジールにも歌はあったが、慎ましやかなものがほとんどでこれほど派手に、そして心を揺さぶることはなかった。
その反動があったためか、それ以外の言葉が見当たらなかったのだろう。その一言に、彼女が感じたことの全てが集約されていた。
そんなサラが初々しく、尊は元の世界に帰ったらいろんなものを見せてやろうと改めて誓うのだった。
◇
「――ふぅ、疲れた」
「大変な一日でしたね」
ジールでも使ったことのない天蓋付きの大きなベッド――ベッドが一つしかなかったりサイズがやたら大きいことには、特に突っ込まないことにした――へ大の字で倒れ込みながら、吐き出すように漏れた言葉にサラが同意しつつ俺の隣に腰掛ける。
ミオン砦で姫様のライブを楽しんだ俺たちはコンサートが終ってからフィリアンノ城へと帰還すると、シンクから『疾風の鉢巻』を回収しサラと共にアメリタさんから割り当てられた部屋に移動して今に至る。
しかしサラの言う通り、黒の夢に乗り込んで以来の濃密な一日だったと言えるだろう。
クロノ世界から元の世界へ帰ろうとしたら別の世界へ移動し、そこで戦に参加してさらに夜にまた戦をする。
あの時に比べたら命の危険性は比べるべくもないが、疲労の蓄積は決して無視できないものだろう。
明日には姫様たちに俺たちのことを話す必要もあるし、今夜はじっくり休むとしよう。
そう思い立つなりひとまず風呂に行くべきか考えると、不意に扉の方からノックが響いた。
「どうぞ」
「失礼します」
入室してきたのは赤い髪と細目が特徴的なメイドさんが一礼と共に入室してきた。彼女は……確かリゼルさんだったな。
「リゼルさん、どうかしましたか?」
「はい。お二人にこのお部屋についてのご説明がまだと言うことでしたので、それをお伝えしに参りました」
「この部屋の説明?」
「はい」
全く意図が読めない微笑みを浮かべたまま、リゼルさんは説明に入る。
「このお部屋は元々、今は亡き姫様の御父上にして前領主でもあるクライド様の御部屋の一つとなっていまして、当時クライド様が施したある仕様がそのままとなっております」
それを聞いてこの部屋を俺たちが使っていいのかと思ったが、リゼルさんから何でもないように説明が続いた。
「その仕様により、この部屋は奥様との情事のために完全防音となっております。ですから、夜の営みに関してはご心配には及びません」
…………what?
「え、えっと、夜の営みって、つまり――」
「はい。そういうことでございます、サラ様」
「っっ!?」
「さ、サラ!?」
満面の笑みで答えるリゼルさんにサラはカーッと顔を赤くし、のぼせたようにベッドへ倒れ込んだ。というかそんなことをこの状況で説明するのか!? ベッドがでかくて一つしかないのはそういうことだったのか!?
「あら、ご夫婦と伺ったのでもう初夜で済まされているかと思ったのですが……まだなのですか?」
「真っ向からたずねんで下さい!? それにヤルことはもう恋人になった時に――って何暴露してんだよ俺ぇぇぇぇぇぇ!」
「あらあら、では大丈夫ですね」
思わず漏れた言葉に自己嫌悪しているとリゼルさんは非常に楽しそうに笑い、最後に「ごゆるりとお楽しみください」と言い残して何事もないように去っていった。
気まずい沈黙が部屋を支配し、何気なく倒れたままのサラに目をやる。
いったいどういう倒れ方をしたらブラウスのボタンが外れたりスカートがずれたりするのか、今の彼女はどことなく煽情的な状態となっていた。
……完全防音、なんだよな?
正直、あの時以来サラと肌を重ねたことはない。
状況や場所がそうだったことが大きいのだが、式を挙げた日の晩も何故かそんなことをやる気にもなれなかった。
それが今、気兼ねなく
俺とて男だ。当然好きな人とそういったことをしたいという欲求がないわけではない。むしろウェルカムバッチこいと思っている節もある。
「いや、だがここは他所様の家であって、たとえその目的のために作られた部屋だとしてもだな……」
などとひとり頭を抱えながら訳の分からない言い訳をしていると、突然服の裾が引っ張られる。
目を向けると、未だ上気したサラがこちらを見ていた。
「――私は……してほしい、です」
その瞬間、俺のタガが外れた。
――ちなみに尊の知らぬことだが、式を挙げた夜にいつか来る日のための予習という名目でマールとルッカが部屋の外に潜んでいたそうな。
本編第9話、いかがでしたでしょうか?
最後のシーンは思いついたもののどうしようか悩んだ末、直感に従ってぶっこんでみました。
しかし文章的に見てもこれはひどい(確信
次回は尊とサラのこれまでのことを姫様たちにお話しする予定となっています。
前作のあらすじになりそうな気がしないでもないですが、できるだけ先に進めるよう努力します。
それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。