過程を抜いた事実の暴露
9月10日 晴れ 午前10:00時
「随分と死んだねぇ」
まさに惨状である。
無縁塚には夥(おびただ)しい数の死体が流れ着いていた。
沢山の死体、既に腐っているものもある。
「今日は大仕事になりそうだ」
腕捲りをして私は死の冒涜にのりだした。
男・女・老人から子供に至るまで、沢山の人が流れ着いている。
「外で何か大きな災害でもあったかな」
死因も様々、溺死、焼死、出血死、なんでもござれだ。
人の衣服を剥ぎ取り,使えるものは全てを奪い、用が済んだものはより分けて放置。
腐ったものの衣服は臭うのでものだけ剥ぎ取る。
小さな子供はほとんど価値のあるものは持っていないので衣服を剥ぎ取って終わり。
推測は正しいだろう。
災厄が起こったのだ。
時折、玉などを入った包みを抱えて死んでいるものがちらほら。
全てを奪う
その人が精一杯努力して手に入れた結晶はいともたやすく私の手に渡った。
今の僕はとんだ恥晒しであり、生命の面汚しであろう。
関係ない、全てを奪わせてもらう。
冷え切った体達は自分から生命としての体温を奪い取っていく様であった。
「精がでるねぇ」
その声は唐突に聞こえた。
「死神のお姉さんかい」
見ると其処には着物を着崩した女性がいた。
だらしなさとしては幻想郷で1位の名を欲しいままにするであろうこのお嬢さんなら、突然現れたことも頷ける。
ちなみに2位は家に強盗を仕掛けに来る白黒である。
「そうです、私が死神のお姉さんです」
嬉しそうにウィンクをするが流す。
「だっふんだ」
全て流す
「なんだい、つれないねぇ」
お姉さんは少し残念そうにした後で剥ぎ取られた死体達の並ぶその場所を眺めて行った。
「相変わらず、丁寧なもんだね」
褒め言葉でないことだけは確かである。
この娘はいつも僕を見ると、難癖をつけてくる。
しかし、それにしては手を出してきた事はない。
「これだけの死体だ、そんなに丁寧にやってたら終わらないよ」
死神はニヤニヤと笑っている。
僕が諦めるのを待っているのだ。
「終わるまでやるさ、何日でも通ってね」
得になると分かっているのだ、通わない方がどうかしている。
「そうかい」
死神はたちまちいやらしい笑みをやめ、気怠そうに肩に鎌を担いだ。
「暇だから見物させてもらうよ」
そういって近場にあった手頃な石に腰かける。
仕事は大丈夫なんだろうか。
「好きにするといい、死体には手を触れないでくれよ」
「死神(わたし)にそれを言うのかい?」
鼻で笑って流されてしまった。
「これは僕の仕事(もの)だ」
まだ沢山いる。
低かった日は頭上にまで来ようとしていた。
――――――――――――――――
「あんた、如何してこんな事できるんだい?」
投げ掛けられた質問はもう何度も繰り返し聞かれて来たものだった。
既に日は暮れ、辺りは薄暮の巷である。
「決まっているじゃないか、売るんだよ」
死者が着ていた服だから、忌避されるとお思いだろうか。
大丈夫、そんなヘマは犯さない。
僕が売るのは個ではなく問屋である。
問屋と口裏を合わせているのでばれる事はない。
「少しだけ、話をしてやるよ」
夕方になってもまだいるこの死神、仕事は本当に大丈夫なんだろうか。
「片手間でよければ」
僕は腐りかけている男性を運びながら声を掛けた。
うわっ、目玉が落ちた。
「私達が着ているこの世のありとあらゆる服は、全てが死に装束だって話しだ」
「それは興味深いね」
スッ
死体を置き、手を合わせた。
話半分にしか聞かない。
「もちろん生者に限った話だけれど、人の一生を長い目で見た時、それはその人の一日になるんだと」
死神は手を弄りながら話していく。
両者片手間である。
「長いか、短いか、感じ方は人それぞれで、いつ眠ることになるか分からない」
終わりがあるという事は基本的に生者に許された特権だから。
「その時、いつか終わりを迎え、永い眠りが訪れた時、その時着ていた服がその人の本当の死に装束となる」
まぁ、この人達もそんなこと考えてなかっただろうけどね、とカラカラ笑う死神。
「なら僕はその装束で旅立とうとする人々を裸に引ん剥いて放りだしている訳だ」
今度は、老人の死体から衣服を剥いだ。
骨ばっていて脱がすのが難しい。
「その通りだね」
澄ました顔の死神。
視線は俯かせたまま、こちらを見ようともしない。
「なんと言われようが僕はやめないよ」
女性の薬指に嵌まっている指輪を盗る。
首に掛かっている飾り物を、お爺さんの歯から金属を。
全て
完璧に
必要なものは全部奪う。
「売れるんだからね」
僕は商人なのだから、売れるものは売る。
死人が着ていようが、新品だろうが関係ない。
ぼろいモノは安く売れ、いいものは高く売れる。
そこにあるのはそれだけである。
「本当にご苦労なことだ」
呟くような声でその声が聞こえた。
「率直に言おう」
遂に死神は重い腰をあげる。
しかし、彼女は僕の事は一つも見ようとはしなかった。
「あんたは死人から大切なものを奪う鴉だ」
よく僕の事をわかっていらっしゃるようである。
「あんたが奪った結婚指輪、その人が恋人からもらった首飾り、食べる喜びをくれたその歯、全てをあんたは根こそぎ奪う」
何も否定の余地はない。
「ものは記憶を持つんだ、一度積み重ねられ、蓄積されていったその記憶達は時には生命をまねる事だってある」
「僕の知りあいにも一人いるよ」
知りあいと言ってしまっては彼女は嫌がるかもしれないが。
「そんな記憶をあんたは否定する」
この死神は僕が死を冒涜していることが許せないのだ。
「あんたはこの世界に存在する数ある恥晒しの行動の中で、最もクソみたいな事をしている」
分かっている、彼女はああ見えて死者への礼節を弁えている。
だからこそ、死者の話を聞き、苦悩、願望、無念、後悔、それら全てを受け止めて、穏やかに川を渡す事ができるのだろう。
「自覚している」
自分の行う事が死者をどんなに辱めていることか。
存在としての価値が低いのだ。
自分は商人ですらないのかもしれない。
ただ死体から服を剥ぎ、それを売っているだけだから。
「じゃあ逆に質問させてくれ」
今度は僕が話す番だろう。
相変わらず目線があうことはないが。
「その証拠はどこにあるんだい?その記憶達が積もる所は僕のこのつまらない目でもみえるのかな?」
くだらないことを言っていると自分でも自覚している。
「思い出なんて形のないモノが、その思いをもった本人が死んでしまったあとでも有効だとでも?」
思いとはその人が抱くものであって、何かに降り積もったり蓄積されていくものではない。
帯びていくものだ。
その時抱いたものは、其処に溜まることなく、その残滓だけ残して消えていく。
そして其処に残るのは、ただそんな記憶があったという事実を帯びた商品だ。
「あんなものは例え話だ、私は過程の話をしている」
もの達にも今に至るまでの記憶があり、そしてその過程がある事を自覚せよと。
「そのもしもを失くしてしまった時、人は人ではなくなるから」
随分と中身のない話しをするものだ、どうやら今までの話しは僕に向けての話しではなかったらしい。
正確には半分ほど。
「そうかい、それは大変だ。しかし、その話しはどうやら話し相手を間違えているようだね。僕には半分しか関係ない」
一気に白けてしまった。
もうどうでも良くなったといってもいい。
「分かってる」
しかし、それを遮るように声は続いた。
「でも、だからこそあんたにしておかないといけない話だと思う」
その真意は分からない、そして分かりたくもない。
もちろん、手を休めることもない。
作業は順調に進み、死体も残り少なくなっていた。
「そうかい」
同じ返答しか返さない。
この死神と話しているとこれがお前だと自分を見せつけられている気分になる。
それがとても嫌なのに、この死神は何時だって僕に会いに来るのだ。
本人だって嫌だろうに。
そして、手を下せば簡単に解決するようなものをただ見ているだけなのだ。
「最近、死人の数が減ってね」
そこで突然話題は変わった。
「この時期だと風邪を抉(こじ)らせる子供が多かったんだが……」
死神は夕日に向かって佇んでいる。
それから突然クルリと向き直ってこちらを向いた。
「如何してだと思う?」
この時、今日初めて、死神と目が合った。
「知らないね」
そんなこと知るわけがない。
「亡霊に聞けば、食べ物が食べられなくなった人がまたおいしく食べられるようになったとか」
話題がとびとびである。
「何でだろうねぇ?」
なぜこうも追い詰めるようなものいいなのだろう。
「だから、知らないよ」
僕には関係のない話しである。
「他にも、色々あるんだけど、あんた―」
彼女の目は完璧に猛禽が獲物に向ける目であった。
「あんた、死人の服だからと二束三文で問屋に売ってるようじゃないか」
舌舐めずりをして待ち構えるような空気。
「ご丁寧に売る時にも格安にするなんて約束まで取り付けて」
思わず竦みそうになってしまうが取り敢えず耐えた。
「そんなことしたらこんな危険な所にきて一日費やしたあんたの利益はどこにいくんだい?」
怒りの矛先がどうやら違った様である。
その言葉を対し目を背けようとするが、なんとも凄まじい雰囲気を死神は放っており、僕が目を逸らす事を許さなかった。
「私は努力が報われないのが大嫌いだ」
死者の無念を聞くからか、死者の後悔を聞くからか。
この死神は如何にも生に対して生真面目だった。
世間とはそんなものであるのに、世は正直者が馬鹿を見て狡賢いものが生き残る時代である。
「苦労にはそれなりの対価が必要だと思うし、そうじゃなければ嘘だ」
そんな中この死神は言うのだ。
努力には対価を、傲慢には破滅をと。
「だからあんたが気に入らない」
何とも自分勝手だ。
そして、自分勝手だからこそ、その考えは尊い。
順序立てて説明してもらったが結局の所。
「君、僕のことが嫌いだろう」
まぁ元から分かっていた事である。
いまさら確認する必要もないのだが……
「あら、ばれちゃった」
なんともそしらじらしい。
死神はわぁと両手を広げ驚いている素振りをとった。
あくまで素振りだけである。
「少ないながらも利をとる、それが商売だよ」
其処に商品があればどんな所でも。
「だから、その利が釣り合わないと言っているんだよ」
その利はとても少なく、残るのは僅か。
「あんたはいつ自分が誰か分からなくなるようなこんな危険な場所で死者の服をあさり宝石を奪う」
利は正直何もしないのと何も変わらない。
「でも何もボロイ商売じゃない、あんたのそれは命がけだ」
そんな事に命を懸ける価値があるのか、そう死神は問うている。
「だから、それでも行くのが商人なんだって」
例えそんなものでも、そんなものの積み重ねが今の自分である。
それは誰にも否定させないし、話題にもしない。
「あんたはもっと高い代価をもらわなければならない」
なんだ?
僕に死者の冒涜をやめろと言った女が、もっと高い代価をもらえと言っている。
「じゃあ、僕がもっと高い代価を貰えば、君は消えてくれるのかい?」
値をあげるつもりなど毛頭ない。
商才など関係なくこれは意地の問題であるのだ。
「まさか、そうなったら私は迷い無くあんたを殺すよ」
じゃあどうしろというのだ。
死神の目は本気の目だった。
「あんたは里の人に疎まれ、避けられ、忌避されている。こんなに里の為に行動しているのにだ、私にはそれが悔しい」
里の者で僕にふつうに話してくれるのは霧雨のおやっさんか慧音位の者だろうか
「言っただろう、そんなものただの結果だ、自分のやっている事に変わりはないよ」
もちろん、僕の事を気にしているわけではない。
この死神はそういう不義理がただ許せないだけなのだ。
「だからそれを止めろと言ってるんだ」
死神はどうあっても僕にこの行為を止めさせたいらしかった。
「なぁ、もう一度聞くよ、本気の問いだ」
一呼吸後、その問いは放たれた。
「あんたは里人の為に、自分が犠牲になろうと思ったのかい?」
死神の声が響いた。
その瞬間―
気付けば、涙が溢れて来た。
今までどんなに苦しかっただろう。
何度やめようと思ったか。
「やっと……」
本当はこんな仕事したくはなかった。
それでも、子供たちが、里の人が苦しんでいた。
「やっと、理解してくれる人が来てくれたんだね」
それを遂に理解してくれる人があらわれた。
僕の苦労は報われた。
「辛かったよ」
里の皆に全てを話そう。
「その通りだ」
皆の足りないと言った服は自分が揃えていた。
皆の為にどれだけ苦労したか。
皆の為にどれだけ危険な目にあったか。
「これで終われる」
「なんて言うと思ったかい?」
冗談ではない。
今の質問は僕に対する罵倒に他ならない。
「何度でも言おう、僕は誰も救おうなんて思っていない」
どんな事を言われても受け流してきた僕が其処だけは譲れなかった。
そんな尊い事を僕が出来る筈がない。
「身を投げ出して人を救うなんて馬鹿のする事さ」
自分がいなくなっても、皆が無事ならそれでいい。
そんな事を言う者などこの世界の何処にいてもいけない。
そんなの死神じゃなくても、気持ち悪くてたまらない。
「わかってるならそれでいい」
少し嬉しそうにして死神は肩に架けていた鎌を先程まで座っていたその場所に置いた。
「あ~ぁ、殺し損ねちゃった」
……なんかすごい物騒なこと言ったぞこの死神。
「今、僕の事殺そうとしてただろう」
言葉をかけると死神は悪戯を仕掛ける時の様なニマニマとした笑みを浮かべていた。
「あ、ばれちゃった?」
何処か嬉しそうに頭をボリボリと掻く死神。
「もし、あんたがそれで自分に悦に浸っているようだったら殺しているつもりだったさ」
なんとも正直に申してくれるが、今の問答が命の遣り取りに直結していたと思うと気が気ではない。
「でもあんたは違ったから……それでいいんだ」
しかし、峠は越したのか夕日を浴びて見える死神の顔は何処か安心して見えた。
「他人の犠牲になって悦に浸っている人間なんて見ていてホントに虫酸が走るんだよ」
それは自分だって同じである。
「僕だって悲劇のヒロインは嫌いさ」
皆を残していくから。
真っ先に自分が犠牲になって。
無責任に皆を残していくから。
後に残されたものの事なんか考えもしないで。
その自分勝手さが大嫌いだ。
だからこそ、本で読んだそんな話を見る度に、そんな存在がこの世に存在しない事を願った。
そして、今までの生で本の中にしか存在しないような存在であると確信して、安心した。
だからそんな存在に自分が思われていた事に憤慨した。
まぁ、自分には省みてくれる人がいないのだけど。
「そっか」
嘆息。
「最後に一つだけいいかい?」
長いよお姉さん。
もう何度問答をやったと思ってるんだい?
「なんだい?」
そう言いながらも律儀に僕は問いを促していた。
「もし……もし映姫様があんたに白黒つけるなら、あんたはどっちだと思う?」
少しオドオドと、申し訳なさそうに問いかけられる質問。
「なんだ、そんなことが聞きたかったのかい」
答えなど聞くまでもない。
此処まで話して置いてこの死神に推測出来ていない訳がない。
これは確認なのだ。
意見を交わし、本当に意志を疎通させる事が出来たかの確認。
「クロだ、クロに決まっているじゃないか」
死体の服を剥ぎ、死人の思いを踏みにじる悪漢が、クロじゃないわけがない。
「でも子供たちにひつようだったんだろう?」
「だからって死者を冒涜していいわけがない」
どんな建前を吐こうが行った事実は変わらない。
「僕は悲劇の主人公なんか気取るつもりはない」
そんな気持ちの悪いこと僕には出来ないし。
やるつもりもない。
「ただ、そこに必要があって、やっただけだ、それで罪が許されるはずがない」
其処には純然たる需要だけがあり、その強固な叫びが供給を引き出しただけ。
「もしも、死んでしまう日が来たら、謹んでその罪をうけるよ」
それが僕の覚悟である。
僕の安っぽい、薄っぺらい、小汚い僕自身の意地である。
そのとき―
カラン
音が聞こえた。
何処だろう、辺りを見渡す。
カラン
音は近くから聞こえた。
カラン
ゆっくりと、確実に音は無縁塚に鳴り響いていた。
カラン
ここだ。
建物の瓦礫の下、奥まった所から音が聞こえてくる。
カラン
日の届かない奥である。
これは見逃していた。
カラ……ン
少しづつ音が弱くなる。
「今行く!」
声を掛けて瓦礫をどける。
「小町、手伝ってくれ」
「……わかった」
死神が加わると一気に作業は進んだ。
大きな瓦礫をどけ、奥に進む。
……ヵラ…………ン
最後のよわよわしい音の直後、その場に辿り着いた。
「一応……分かっていたつもりなんだ」
其処にいたのはうつ伏せになっていた少女。
「こんな状況で、生きている者なんていないって」
足がちぎれ、動けなくなった少女。
既にその命はここになかった。
「でも、万が一可能性があったなら」
辺りには大量の血が散乱し、必死に助けを求めたのだろう、近くの瓦礫には引っ掻いたような後がそこら中にあった。
「救いたいを思うことは、間違いじゃないだろう?」
それは死神に対する言い訳であり、同時に今までここにいる人達に行ってきた行為への言い訳。
そんな事を思うべきではないことは分かっている。
苦しかったろう
悲しかったろう
しかし、思わずにはいられない。
こんなに血まみれになって。
段々と死んでいく自分を自覚することが、どれだけ恐ろしい事だったか。
何か理由があったとしても、こんな小さな子を一人にした事に怒りを感じずにはいられない。
既に温もりがは去り、体はずっと前から動かなかったはずだった。
鳴っていた音の正体は女の子の小さな手に握られていた缶。
「見つけて欲しかったんだろうね」
後ろから声がかかる。
最初から分かっていたのか死神は驚くことなく少女の体を見ていた。
「たとえ死んでしまっても……」
「……そうかい」
ならば、この奇跡に感謝しよう。
このまま一つの商品を取り損なわなかったことに。
「よっと」
僕は少女の体から服を脱がせ、必要なものを奪っていく。
血まみれの服はもう使い物にならないが、布としてはまだ使える。
裸に引ん剥いて少女を地面に横たわらせた。
「救いを求めてきた少女にも、容赦はしないんだね」
その声は残酷だった。
目の前で、苦しんで死んだ少女の惨状を見て、それでもお前はまだ少女を苦しめるのかと。
「当たり前だろう」
何度も言うが僕の意地なのである。
「他の死んだ人達だって、苦しんで死んだんだ」
原因は同じで死は何も変わらない。
「他と違うのは、この女の子が僕に知らせてくれた事だけだ」
ただ少し見つけにくい場所にいて、見つけられない様だったから救いを求めてきただけである。
「僕がこの少女に何もしなかったら、他の人達に申し訳が立たない」
自分の情だけで変えていいものではない。
それこそ死んでいった人達への冒涜であり、最低のことだから。
少女が握っていた缶を盗った。
“〇クマドロップス”
そう書かれた缶詰めはカランカランと音をたてながら、少し名残惜しそうに少女の手を離れた。
瞬間、能力が発動し名前と用途が分かる。
全てを選り分け皆がいる場所へ体を置く。
少女の顔は冷たくて、腐り初めていたけれど、何処か嬉しそうな顔をしていた。
「それは何だい?」
死神は少女の持っていた缶が気にかかる様である。
「とてもいいものさ」
見た限り、手付かづの死体はなくなっていた。
これ以上探すのは今からでは無理があると判断し、今日の仕事を終わらせる。
懐から取り出したそれをカラカラと揺らし、夕日に向かって掲げる。
「ふぅん」
死神はつまらなさそうに声をあげた。
答えをはっきりと教えてもらえないことが不満であるらしい。
しかし、教えない。
僕のちょっとした嫌がらせである。
「それじゃあ僕は帰るよ」
荷物を纏め、帰り仕度を始める。
「私は、別にあんたのことが嫌いじゃない」
「なんだって?」
信じられない言葉を聞いた気がした。
「私は死神だから、死を大切に扱う奴は好きさ」
今までの事はなんだったんだ。
嘘だとしか思えない。
まず、自分は死神が評した様な存在と最も縁遠い存在であるはずなのに。
「周りを見てごらん」
いつの間にか、そこら中に今まで身ぐるみを剥いできた人達が立っていた。
「…………」
沈黙
何を言われるのか。
自分は殺されてしまうのかもしれない。
覚悟は既に決まっていた。
全員が動いたと思った瞬間―
皆が一斉に頭を下げた。
「クソみたいな奴に、皆が頭を下げるかねぇ?」
笑っていた。
たくさんの人がいて、酷い事をしたはずなのに。
視線を足元に降ろすと、先程の少女がいた。
「あんたがいなければ、その体は腐り、魂が彷徨っていただろう連中さ」
皆は笑った後、直ぐに消えていった。
一人一人、少しづつ数を減らしていく。
「あんたが丁寧に、心から、死体を扱い、救いがあるようにと祈ってくれたから、こうして自覚を持って旅立てる」
最後に、女の子がニッコリと、花が咲いたように笑った後、其処はまた何事もなかったようにひっそりと静かな無縁塚に戻っていた。
元々、言葉は話せない亡霊達だったけれど、あそこには明確な言葉が存在した。
「“ありがとう”だってさ」
自覚をもって里で嫌われた。
自覚があるからこそ、嫌われ続けていられた。
それでも―
「そうかい」
嬉しくはあったと思う。
これ以上ない位に、今までの事を謝りたくなる位に。
……これからのそれをやめたくなる位に。
「なんだい、泣いてるのかい?」
ニヤニヤと笑っている死神。
水を差してくれたものである。
せっかく人が神妙な気持ちになっていたのに。
だからこそ、一欠片だけ感謝した事など絶対に言わない。
ただ一つだけ、お礼をしよう。
「これの用途だったね」
それは少し誇らしそうに夕日に照らされていた。
「人を笑顔にするのさ」
少女の口の中にも、小さくなったそれが入っていた。
最後のあの緩んだ表情は、それのおかげであったと信じて疑わない。
「それも売るんだね」
何を当然の事を聞いているのか。
「勿論だ」
僕は何度でも此処に来て
商品を盗り、里の人に売っていくだろう。
「また来るんだね」
だから、何を当然の事を聞いているのだ。
「当たり前だ、僕は商人なんだからね」
何度でも、此処に流れ着いた人々の身ぐるみを剥ぎ
何度でも、此処に流れ着いた人々の冥福を祈ろう