雁字搦めの蓑虫の論理
9月18日 午後10:00時 曇り
外の雨は小雨、月の頃は三日月
今日は今日とて授業の準備を行っていた。
外の雨はさほど気にならない。
辺りは暗く一つだけおかれた蝋燭のせいで如何にも部屋がおどろおどろしい。
ポケットから包み紙を取り出す。
この雨は―
コンコン
思考は夜の突然の来客により遮られた。
「どうぞ」
「失礼します」
その声と共に入ってきたのは―
「あぁ、鎬女氏か」
この前挨拶に来た稗田家の女中である。
「こんな夜分に申し訳ありません」
礼儀正しい彼女は好きである。
「構わないよ、何せ君は昼に出歩けないのだから」
それは女中としてではなく、彼女の持った能力故である。
“夜道を歩く程度の能力”
常人には持ち得ない能力であるそれを彼女は外来人だからか獲得していた。
夜道を歩くとき、誰も彼女に危害を加えることができない。
また、たどり着きたいと思った場所には夜に限ってなら彼女は辿り着くことができるのである。
その反動として彼女は昼、建物の中から出ることができないらしかった。
「それでは」
そういって彼女は部屋に入り座った。
きちんと脱いだ靴を揃えてからくる辺りが好ましい。
「何の用かな?」
私も一先ず筆を置き、相手に向き直る。
「特に理由はないんです」
拍子抜けである。
「そうなのかい、まぁ、とりあえず茶でも入れよう」
席を立つ。
確か、お茶請けの煎餅がここに……
「いえ、お構いなく」
手をフルフル震わせる鎬女氏。
「遠慮するな」
茶と煎餅をお盆にのせ持っていく。
「主人から聞きました。慧音先生はハクタクなのですね」
「そうだが」
おどろおどろしい照明の中、揺れる影二つ。
「満月の夜には歴史を編纂されるそうで」
「うむ、君は博識なのだね」
質問の意図は見えない。
「それでは、満月はあと何日後に来るのでしょうか?」
「それは……」
沈黙、ありえない、この私が満月の日を忘れるなんて・・・
この違和感は何なのか、いいようもない焦燥感にあてられる。
「……今度調べておくとしよう」
こんな言い逃れの言葉しかでてこない。
「そうですか、それでは失礼します」
席を立ってでていこうとする鎬女氏。
「もう帰るのかね」
来てからまだ時間もたっていないというのに、まだほとんど会話も交わしていないのに。
「はい、そろそろ時間ですので」
そんなに時間がたったのだろうか。
「分かった、道中気をつけて」
見送っていこうと入口まで起こる。
「教えてくださいね、次の満月」
そう言って意味ありげに笑った彼女は闇夜に消えていった。
「―ううん、これも違う」