幻想郷フハフハン録   作:加具

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東方忘却録 覚

問はいつも投げかけられていた。

 

9月18日 午後10時

 

空は晴れ、月の頃は上弦。

私は外にでた。

空は澄み月が浮き彫りになっている。

もの音一つしない夜の空を眺める。

 

「何か用ですか?」

 

まるで私が外に出てくるのを分かっていたかのように寺子屋の前の丘に座っていた彼女に声をかけた。

それと同時に私も彼女の隣に腰掛ける。

 

「やぁ、元気かい?」

 

そう話す彼女は冥界の船頭である。

いつもの軽薄さそのままに彼女は私に世間話をするように問いかけた。

 

「それなりには……元気かな」

「よかった、参っちまってないかと心配したよ」

 

彼女の呟きがなぜだか理解できる。

そしてだからこそその言葉には答えない。

 

「今日は上弦だ」

「そうだね、弓張月。引っ張った弓がもうすぐ満ちる」

 

だからなんなのか、とかそれがどうした、とかそんな言葉はもう疲れた。

彼女とポツンと空に昇った月をぼーっと眺めているだけ。

 

「今日は君が来たのか」

「誰ならよかった?」

 

頭に浮かぶのは寺子屋の生徒たち。

村の人々、そして不老不死の彼女。

そんな思考を頭から消し去る。

 

「誰でもいい、話さえしてくれるなら」

 

この音のない夜を誰かが相手してくれるなら。

 

「そうか」

「君は前から思っていたが存外お人好しだな」

 

少し心配そうな、でも少し安心したような死神の彼女が少し可愛いと感じた。

 

「別に、ただ少し距離を誤魔化しただけさ、大した手間でもないからね」

 

でもそれに動じず、飄々とそれを受け流す彼女。

何時の間にか強ばっていた体から力が抜けているのを感じる。

なんだか随分と久しぶりに緊張を解いた気がした。

そうやって誰にでも気安くさせられるからこそ、彼女は死者を安楽に運べるのかもしれない。

 

「なぁ、あんたここで何してると思う?」

 

彼女の質問には頭をひねらせる。

 

「それは存在論的な意味か?」

「いやいや、違うに決まってんだろ」

 

めんどくさそうに突っ込んでくる死神。

場の空気は少しはぐらかせたと思う。

 

「……わからない。けど随分長いこと空を見上げてきた気がする」

「もう疲れた?」

 

彼女は何処か私に確認するかのような口調だった。

だからと私は答えを取り繕うつもりはなかった。

 

「正直疲れたよ。もう何がなんだかわからない、時々変になりそうな自分がいる」

「……そうか」

 

彼女は無表情で、呟くように言葉を零した。

其処にどんな思いがあったのかは分からないし、分かるつもりもなかった。

 

 

私の答えはまだ途中だからだ

 

 

「でも、でも、もう少し続けてもいいかなと思ってるよ、もう少し続けてみようと思ってる」

 

自分でも何のことだか分からない。

私は今日寺子屋の子供たちに授業を教えた。

そして授業の準備をして明日に備えて眠るのである。

私にはなんのことだか分からない。

 

「……そっか」

 

 

でも、その死神の一言はさっきと同じ一言でも何処か突き抜ける楽しさがあった。

私がお人好しだと称した彼女は明らかに馬鹿を見る目で私を見た。

 

「一つの知性を持つ存在として、あんたを尊敬する」

「褒めてないだろうそれは」

 

私はそれに突っ込む。

でもどうしてだろう、明らかに馬鹿を見るその目の方が、無表情に頷いた彼女よりも私を認めてくれているような気がしていた。

それが私には嬉しい

 

「もう少し頑張ってみるよ、もう少し、もう少しだけ」

 

月が満ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――「違う、結果を出さなきゃ意味がない」

 

 

 

 

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