幻想郷フハフハン録   作:加具

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Being able to cry, an answer is there.

村紗水蜜は海で亡くなったモノの亡霊である

 

月の綺麗な夜のこと。

命蓮寺は静まりかえり月光が私を照らしていた。

いや、私が叫んでいるから静かではなかった!!

 

「ふはは、ふはははははは」

「……な、何をしているのですか村紗」

 

後ろに引き連れていた、星の驚きに満ちた声が聞こえる。

命蓮寺の小さな池には、はみださんばかりに巨大な船が雄雄しく突き立っていた。

池の鯉や鮒たちが弾かれたようにびちびちと陸の上ではねているのがシュールだった。

 

「池の蓮とかどうするつもりなんだあのバカは……」

 

ナズの奴が何か呟いていたが気にしない。

今日の私はテンションが高いから。

 

「実にいいものを私はもらったよね」

「その瓶はなんなのですか?」

 

真ん中から割れてしまった瓶をもって高笑いする私に向けて不思議そうに星が聞いてきた。

 

「これ?ふふん、実に高度な技術なんだけれども、……分かるかなぁ君たちにこれが!!」

「別にどうしても知りたい訳じゃないから黙っていてくれよ、こっちはこの船をどうするか考えるので一生懸命なんだ、どうせ人から教わったもの得意げに垂れるだけなんだから結構だよ」

「こ、こら、ナズ!」

「ご主人、そうは言うがこういう時はしっかりとだな―」

「そうかそうか、知りたいか!!」

 

他人の話なんて聞いちゃいないのである。

私は私がどうしてこんなにご機嫌なのかを伝えることで頭が一杯だった。

 

「この船、これに入ってた!!」

「「……それで?」」

「へ?以上だけど?」

 

その反応に呆れる二人。

そうか頭を抱えるほどに素晴らしいか、そうだろうそうだろう。

 

「村紗、それでは何が高度な技術なのかわかりませんよ?」

「へ?どうでも良くね?」

「じゃあ何で君は得意げにもったいぶったんだ……」

「いや、気分……かな」

「君がその時のテンションだけで生きていることがよく分かったよ」

「そんなに褒めるない」

「村紗、決してほめていません、そこは照れる所では決してないですよ」

 

てな感じで話は盛り上がっていく。

 

「香霖堂で見つけたこれは実際の船で、魔法で縮小をかけられてボトルシップになっていたんだよ」

 

今日の散歩で私は実にいいものを見つけてしまったのだ。

古びた古道具屋のさらに古びた棚の一角で、私はそれを見つけた。

店主に聞いた経緯に私はどうしてもと頼み込んでこれをもらい受けたのだった。

 

「その説明と命蓮寺の狭い池にすし詰め状態の大きな船が出現していることとは一体どんな関係があるんだ!!」

 

今なお元気に(?)そびえたっている船にナズ―リンはご立腹のようだった。

 

「おいおい、そんなに熱くなるなよ、早漏は嫌われるぜ?」

「ハハ、“視符「ナズ「お願い待ってナズ―リン!!ペンデュラムなんてだしたらもっと大変なことになっちゃうから!!」」

「アハハ、星さん、いいツッコミ~」

 

楽し気に笑う私になにかくるものがあったのか、星さんは少しだけ真顔になって

 

「あ~、捕食してやろっかな~」

 

と呟いていたけれど何のことだかはとんと検討がつきませんでした。

背中に流れる冷や汗を悟られないようにするので精いっぱいです。

 

「とりあえず船に乗り込んで、話はそれからだ!!」

「はぁ、頭痛が……」

「鯉やら鮒やら蓮やら、本当にどうなっても私は知らないよ」

 

頭を抱える二人を引き連れて私たちは船に乗り込んだ。

船は進む場所を思い出し方のように浮かび上がり空の海の航海の旅に出かける。

 

――――――――

 

9/17 23:30 晴天

 

夜空は月を讃え、雲をくゆらせ悠然としていた。

最後尾について不自然に揺れる無意味なロープ。

前ハッチや食糧庫は全開となり、数か月蓄えられた食糧が年月の重みをそのままに腐った匂いを垂れ流していた。

 

「When I was a little lad, so my mother told me,TIMMY 」

 

歌声が聞こえる。

夜に吸い込まれるように、頼りないランタンの灯りだけが照らしながら。

 

「Way haul away, we'll haul away Joe.」

 

船体は何をしたわけでもなくびしょ濡れで、階段には引っ掻き傷のような跡がついている。

船上を見渡すその座席には奇妙な切れ込み傷がついている。

 

「That if I did not kiss the girls my lips would all go moldy.TIMMY」

 

羅針盤は壊され、六分儀もここにはない。

掛時計も時間を刻まず、荷物だけがそこに置き忘れられていた。

 

「Way haul away, we'll haul away Joe.」

 

船長室のベッドの下には血まみれのカトラス。

救命ボートはなくなっていた。

 

「Now first I met an English girl and she was fat and easy.TIMMY」

 

機関室は止まったまま。

吹く風が一杯に膨らませるマストだけをみていた。

 

「Way haul away, we'll haul away Joe.」

 

船体を軋ませながら楽し気に歌う幽霊船の船長が甲板から眼下に見える幻想郷の夜景を楽しんでいた。

楽しそうに、楽しそうに。

 

「And then I met an Irish girl, she damn near drove me crazy.TIMMY」

 

一定のリズムを刻むようなその歌は船乗りたちの歌。

船長のいなくなった船内で、舟幽霊が遊んでいる。

 

「満足しましたか?」

「あぁ、星さん」

 

歌を歌い終わってひと段落つき、私は彼女をみる。

 

「どう?空飛ぶ幽霊船なんて乙なもんじゃない?」

「名前の違った船なら、昔寝物語に聞いたことがあります」

「あぁ、ダッチマンならとっくに海の底だよ」

「乗ったこともないだろうに何を言ってるんだ?」

「へへ、乗ったよ、船乗りの女も私の中にはいるんだ」

 

昔のことを思い出して思わず頬も緩む。

 

「知ったことじゃないよ、そんなの」

「うん、そうだね」

 

彼女達だ何を聞きたいのかは私もわかっていた。

 

「せかさないでよ、ちゃんと話すから」

「せかされている自覚があったんならもっと早く教えてほしかったもんだね」

「わかったってば」

 

そうせかさないで話を聞いて頂戴よ。

この船(こ)の一生の話なんだから。

 

「この船はね、昔あった事件で幽霊船にされちゃったんだよ」

 

そうやって話したのは夢のような話。

乗客がみんな忽然と姿を消し、まるでさっきまで人がいて普通に生活をしていたような状態のまま船は海を漂っていた。

 

「それからこの子は可哀想に幽霊船にされてドックに入れられて、最後は保険金目当ての沈没に使われちまった」

 

船の顛末は幽霊船にふさわしいものだった。

人々から忌み嫌われ、乗った人に碌な運命を運ばず、しまいには何処かの誰かの汚い金銭のために沈んだ。

 

「ものは意味があるからこそ作られるんだ」

 

眼下に所々見える人里の灯はなんとなく私を安心させた。

 

「人が用があって作ったそれは、気味悪がられてその用をほとんど果たせなかった」

 

自分の帰る場所すた転々と変えられ、みんなに気味悪がられながら息つく暇もなく引き摺り回された。

録に船員を乗せることもできず、ただ活気のない虚しい船室で有り続けた。

 

「船は私たちに新しい世界をくれたんだ」

 

初めて海の上に立ったあの日を今でも覚えている。

私の中にはたくさんの初めての航海の記憶があるけど、基本的にはどれも感動に溢れていて、夢や希望に彩られているものばかりだった。

絶望してその船に乗ったものも目指す先に何処か希望を抱いていた。

 

それはそうだろう。

 

永遠の蒼い海の果てになにがあるのか。

 

永遠の好奇心の探求。

世界は希望で満ちていた。

 

「凄いとは思わない?最初は板繋げて、ただ浮いているのが精一杯だった私たちは、海の流れを読み、風を味方につけ、大きな船を作れたんだ」

 

其処には人間の沢山の努力があって、一つ一つ積み重ねながら分析し、編纂し、作り上げてきた確かな力があった。

 

「凄いとは思わない?かつて夢想しか出来なかった海の向こうの黄金卿を、永遠に沈まない太陽の大陸を、本当にちっぽけな人間達が見つけることができた事実を」

 

私はその事実を考える度、自分という存在が誇らしくなる。

人間というものへの崇拝とも言えるような激しい愛情が私を襲う。

だからこそ生きていない自分が疎ましく、生者が憎くなる。

 

そして、そんな人間たちによって世界は編纂された。

分析されたこの世界でまだ足りないものは、知らないものはないのかと誰かが叫んだ。

 

世界地図が出来上がって、私たちの居場所はわかるようになったけれど、私たちの世界は窮屈になった。

まだ見ぬ世界への渇望、知りたいことを知りにいく好奇心。

 

何処かの誰かは自分の世界に嫌気がさして

何処かの誰かは自分の世界を救うすべを探して

 

「まだ見ぬ世界には不安もあったけれどそれに比して大きな希望があったから」

 

甲板に腰掛け外を見渡す。雲の海をかき分けて幽霊船は進んでいた。

 

「考えただけでワクワクするじゃないか、魔法を使う世界が、羽の生えた人類が、箒で空を飛ぶ人がいて、火を噴く蜥蜴がいる。そんな世界があるかもしれない」

 

世界を知って私たちの世界は窮屈になった。

自分が何処にいて、何処に進めば何処に行けるのかがわかるようになった。

 

「でもそんな世界で、私たちは気づいた。分かるしかなかった」

 

空の果てに境界線を見る。

夜明けはまだ遠く、境目はわからない。

 

 

 

「この世界には魔法なんてない」

 

 

 

「起こす奇跡は人の手で起こせる程度に留まって、人を救うのにもお腹を満たすのにも明確な答えなんてない」

 

頭を抱えたくなった。

どうしようもなかった。永遠にお前らは苦しんでいろとそういわれた気分だった。

 

「回った世界は等しくみんな同じような問題で苦しんでいて、何処にも明確な答えなんてなかった」

 

世界は何処も同じような条件で、先に住んでいたからとか、肌の色とか。

重要なのはそれだった。

 

「現実に直面するには現実的に海図を見て、現実的に海流を計り、風向き、鳥、航海の方法を示した本を読めば確実になった」

 

物事への対処は何時だって理論だった何かで行われ、そこに曖昧なものや不思議なものは一切介入してこなかった。

逆にそういった曖昧なものは誰しもが気味悪がって、みんなから段々と遠ざけられていった。

 

「知ってるよ、モノには全て意味がある」

 

そうやってできた海図がどれだけの人の命を救ったかは数えなくても明白で、航海術・世界地図、全てのものは一人一人が血を一滴一滴垂らすようにしながら作ってきたその人の人生とでも言うような代物で。

大変な労力をかけて、全てが一つ一つの形に変わっていった。

 

「私たちがどれだけ命を助けてもらったかも、そのありがたみも、十分に知ってる」

 

世間で大切にされているものは全部意味のあるものだった、その中でできたものの中には作られなかった方がよかったと言われたものもあったけれど。

 

「ナズさん、この世で作られなかったほうがいいと思うものは?」

「君との会話する機会」

 

こんな時でも淡々と訳もないことのように言うナズさん

 

「ハハ、違いない。星さんは?」

 

その答えを差し向けた相手はその質問に少し悩んでから答えた。

 

「人を……傷つけてしまうものでしょうか?」

 

“違う!!”私の中の激しい感情が否定した。

少なくとも私の中の誰かはそう反論したいようだった。

 

「じゃあ剣は人を守るためにあるの?」

「違う」

 

答えたのはナズさん。

彼女の表情は変わらず、ただ淡々と返事をしてくれる。

 

「剣は人を傷つけるためにあるの?」

「それも違うね」

 

本当に、彼女は淡々と私の言葉を否定してくれた。

それが嬉しい。

だから言う。

 

「何のために用いるのかを定義するのはその人個人だと思うんだ」

 

私の言葉に今度はナズさんは引き継いだように言葉をつないでくれた。

 

「道具にはこれと決められた性質だけがあってどれをどうするのかだけが人に委ねられている」

 

彼女の役割は探索。

探しものを探し当てる力を持った彼女はその主人を慈しむように見た。

まるで自分の意味をその人から探し出そうとするように。

 

「なら、そんな人が死ぬようなものは作らなければよかったと思うかい?」

 

ナズさんは私を試すように質問をしてきた。

そして彼女も答えはわかりきっているようであった。

 

「それこそ否だね、人を守ることができる、そんな用を持った存在を作ってはいけない訳が無い」

 

誰かを守ることができるのにそんなものを作ったことが間違いだと否定する方が馬鹿げている。

私たちの前に開かれている可能性に歯止めをかけるなんて許さない。

 

「誰かが道を切り開いたんだ、後ろ指を刺されながらでも、決して歩みを止めなかったんだ。私は、私達は少なくともそんな人たちを笑わない」

 

それが自分の、私の中の自分達が出せる精一杯の答えである気がした。

その答えにナズさんが少しだけ笑ってくれたように思える。

 

「私も、そんな人たちを笑いたくわありませんね」

 

そうやって話を聞いていた星さんが零す。

彼女もまた慈しむように自分の従者の姿を見た。

視線がかち合うことはなかったけど、彼女は彼女で自分の意味を、誰かの意味を案じていた。

私が出した答えは私一人の答えじゃない。

海の中で死んでいった私達一人一人が出した結論だ。

でもそんな頼りないけど、ちゃんと出せた結論だからこそ、胸を張って誇れる気がした。

 

「せっかくできた道の上から背中を向けて、人生から降りたくないだけさ。少なくともそう考える人間が私の中にはいたんだ」

 

そして、その私の中にこの子はいないんだ。

ドックに保管されて、人知れず、いつの間にか朽ちていった。

だから-

 

「私が一度だけでも、航海に出させてあげたかった」

 

最後が冷たい土の上じゃあこいつが浮かばれないと思った。

 

「ならその航海に船長一人じゃ締まらないでしょ?」

 

私は二人をみる。

 

 

「個性豊かな乗組員がいてこそ船旅は楽しいんだよ。付き合ってくれてありがとう」

 

最後の航海もこれで終わり。

船は役割を終えて私の中に帰そう。

 

「心配しなくてもこんな無茶はこれで最後にするよ」

 

それがこの幽霊船の物語の終わり。

子供に語る夜伽話の締めくくりである。

船は嬉しそうに、少し寂しそうに鐘の音を奏でた。

 

 

 

 

「ストップ!!」

「へ?」

 

突然響いた、物語が終わることを拒絶するような声。

空を見上げると其処には浮かぶ二つの影。

 

「その無茶、もう少し続けて頂きたいのだけど?」

 

私たちも見たことのある二人の姿。

 

「もう少しだけ、この幽霊船の航海を続けてみたくはないかしら?」

 

そこにいたのは優雅に笑う胡散臭げに笑う誰かと、紅い目をした二人の少女。

 

 

 

運命が―

 

 

 

運命が動く音がする。

運命という複雑な糸が悲鳴をあげ千切れる。

 

彼女たちの口から話された話、そうして広がった未知に私は如何にも焦がれてしまったようで。

 

「その話のった!!」

 

私は一も二もなく頷いた。

 

 

空の果て、海の底には何もない。

あるのはそこで死んでいった誰かとそこに託した願いだけ。

私の根底でみんなが突き動かしていた飽くなき航海への渇望。

 

「アマゾン号、出航ー!!」

 

風を受けて帆は膨らむ。

向かう場所があることを知って船は意気込む。

風を捲いてさぁ進もう。

 

目指すはハッピーエンドである。

 

 

 

 

 

 




この話の船は実に有名な事件がモデルになっておりまして、船内の状態は史実に基づいて描写させていただいております。

気になる方は船の名前で検索!!
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