「やめようよ、山にはこわいのがでるんだって」
「こわいのってなにさ」
「たしか、ぬ―「おーい、お前ら授業中に何しゃべってるんだ!!」」
妖精が惑うのは誰の仕業?
9月15日 晴れ 午後3時
「……ル……ん…………!!」
私を呼ぶ声がする。
大きく響いたその声は他の何かの耳にも入っているかもしれない。
急がなくては、余計なものがきてしまうかもしれない。
大体、毎回毎回大声で呼ぶなと言っているのに・・・
「……ルノ……ちゃ…………!!」
まったく、おちおち、ガマとにらめっこもしていられない。
まぁ私が負けるわけないけどね。
「チルノちゃ~ん!!!」
分かってるって、もう、真枇
まび
は本当に話しを聞かない。
もう目と鼻の先だ。
何もなさそうなのでよかった。
「もう、マビ、うるさいわ―「チルノちゃ~ん」」
「わかってるわよ!!」
目の前にいるっての。
私の姿を見た時から満面の笑顔になる真枇。
「あそぼ!!」
「わかったわよ」
どうせ何をしようなんてないのだ。
「今日はなにすんのさ?」
「……わかんない」
だろうさ。
どうすんのさ、私知らないよ。
「大体、朱莉とかはどうしたのさ」
真枇が仲のいい連中を連れていない、どうしたんだろうか。
「うん、今日はあいつら連れてきちゃ駄目なんだって」
でた、真枇はそういう所がある。
それが何かは知らないが、こいつがこんな事を言い出した時は奇妙なほどにあたる。
「ふぅん、マビがそういうんならそうなんだろうね」
それにしても、そんな状況でここに来ていいんだろうか。
というか、元々、用がある時じゃないとここには来んなってのに。
「じゃあ何処に行くのさ?」
「うーん、じゃあもりなんてどう?」
指差したのは妖怪の森。
「なんでさ?」
「なんとなく」
親にもきつく言われているはずである。
山には入るなと、妖怪の山は恐いのだ。
それでも行くと言っているのだろうか。
「あそこは危ないわよ」
「チルノちゃんがいるから大丈夫でしょ?」
うわ、そんなキラキラした目で顔であたいを見るな。
…………まぁ山も下の方なら大丈夫だろう。
「わかったわよ、なんせあたいってばサイキョーなんだから」
―――――
9日15日 曇り 午後5時
言わなきゃよかったあんなこと……
妖怪の山に入ったはいいものの特にすることもないのか適当に散策していた。
「森に来てなにをするつもりだったのさ」
「ちょっと天狗にあいたかったの」
「帰るわよ!!」
バカ野郎、この野郎、天狗は山の頂上に居座る連中じゃないか。
あんな、他の奴らと関わりを持たないような奴ら相手に出来る訳がない。
一羽と戦おうとすると天狗全体で襲いかかってくるような奴らだ。
無理だ、私ならまだしも真枇は人間である。
死んだら取り返しがつかない。
「大丈夫だって」
何が大丈夫かわからない、ただでさえいまは最近気性の荒い妖怪がいるらしいのだ。
誰かに目をつけられる前に帰っておこう。
「話は聞きました、それで?」
一陣の風が吹いた後、振り返ると鴉がいた。
あいつ幻想郷最速とか言ってる奴だ。
おそらく逃げられない、本当に来るんじゃなかった。
「答えなさい」
「別に、ただ見たかっただけだよ」
こいつ、本当に喧嘩売ってんじゃなかろうか。
笑顔で何言ってんだよ。
「マビ、黙りなさい!!」
殺されちまったらどうすんのさ。
とりあえずいつ何があってもいいように戦闘態勢をとる。
まぁ何をしようと逃げられない事はわかってるんだけど・・・
「その理由を聞きたかったんだけど?」
まだ話してくれる様である。
ひとまず安心。
「本当に天狗に会いたかったんだ。 文々丸新聞いつも読ませてもらってます」
「あやや、購読者の方でしたか」
急に態度が変わったなこいつ。
「文々丸なんちゃらってなにさ?」
「私が発行している新聞です」
ニコニコ笑っているようには見えるが目が笑っていない。
あたいに難しいことがわかるかっての。
「それならなおさらですね、人里に帰ってください。 いまこの山は人が入っていい場所ではありません」
「なんで?」
「あなたに教える必要はありません」
そりゃそうだ、まず話しがこんなに成り立っている時点でおかしい。
相手はこの山の頂点の一羽、どこまでも高圧的な天狗なのである。
話は終わった。
「マビ、行くよ」
とりあえず引き下がらねば、もうタイムアウトである。
「折角のお客様をお送りしたい所なのですが、私にも用事がありまして」
少しシュンとしたようではあるがどうせ演技なのだろう。
「妖精なんかに任せるのは気が進まないですけど、頼みましたよ?」
だから目が笑ってないって、ニッコリ笑ってはいるんだけどなぁ。
「まかせなさい、なんたってあたいはサイキョーなんだから!!」
見下してくるのは気に食わないけど、戦って勝てる訳もない。
私に出来るのは精々強がっておく事だけ。
「なにが最強なんだか……」
天狗は何か呟いて消えた。
飛んでいく姿すら、私には見えなかった。
「さっさと山を降りるわよ、マビ」
「うん」
さっきが嘘だったかのように素直についてくる。
なにがしたかったのか本当に分からない。
とりあえず急ごう、日はまだ高いけど、天狗が降りろと言ったのだ、急ぐに越したことはない。
「■■■■■■■■■!!!」
すぐ近くで、重い体を引きずるような音が聞こえた。
何なんだ、天狗がいなくなった途端に来るなんて。
おそらく、いなくなるのをまっていたのだろう、枯れ葉も目立つ木々の中、赤い慟猛な目がこっちを見ていた。
「……逃げるわよ、マビ」
「うん!!」
ダッシュでそこから逃げ出すあたい達、
空に逃げる事が出来ないのが悔やまれる。
飛べない真枇を抱えた私ではすぐに撃ち落とされてしまう。
救いなのは相手の移動速度がそこまで速くない事だが、その差は少しづつではあるが詰まってきている。
そこまで登ってもいなかったから森を抜けるのは不可能じゃない、でもその先がない。
おそらくこの差は森を出る頃にはなくなるだろう。
覚悟を決めなければならない。
気付けば。
もう出口は目と鼻の先である。
「マビ、あんたまだ走れる?」
「う、うん大丈夫」
限界だ、虚勢を張っているが息も絶え絶え、足取りも重い。
無理もない、この寒い中、荒れた道なき道を全力で降ってきたのだ、五歳のこどもの限界だろう。
「もう少しがんばりな、出口はすぐそこだから、真っ直ぐ走るんだよ!!」
私は走るのを止めて怪物を見据える。
「チルノちゃん!!」
真枇は殺させない、あたいは死んだって替えが利くけど、真枇の体は一つしかない。
なら、玉砕覚悟で私が―――
「いいから、行きな!!」
「やだ!!!」
真枇は離れなかった。
くそ、いいから行けよ、あたいじゃあ、あんなの倒せないよ。
真枇が死んじゃうよ。
「お願いだから行って!!!」
「やだ!!!」
怪物はもうすぐそこである。
もう視界には霧の湖も見えている。
自分の憩いの場所は目の前にある。
それでも、腹を括った。
「真枇、後ろの木にでも隠れてな」
「でも・・・」
「いいから」
促すと、少し離れた所に立ってこちらを見る真枇。
ホントは遠くに逃げて欲しかったけどまぁ仕方がない。
「守るって、言ったもんね」
あいつを、ここで殺す。
方法はそれしかない、力もない、頭もない、勝てる要素なんて一つもない、それでも、勝たなくちゃいけない。
「大丈夫よ真枇」
不安そうにしている真枇に声をかける。
「なんたってあたいは、最強なんだから」
考えてもみなかった、私が本気で自分の事を最強と呼ぶなんて。
そんな実力もないのに、誰も認めてくれたことはないのに、それでも私は最強だと言った。
そんなの違うって分かってたけど、それでも言い続けた。
なら貫こうじゃないか。
手の平に冷気を集める、季節や気候的にはまだ能力に向いていた事は幸いだった。
牽制がてらに氷の弾丸を放つが固い外殻に阻まれ弾かれる。
「■■■■■■■■!!!」
歯向かったことへの怒りなのか、怒りの咆哮を挙げながら襲いかかってくる。
私は飛びあがってその攻撃をかわした、木々が生え並ぶ森の中、大きい向こうより小さい私の方が小回りが利く分動きは速い。
向かってくる化物をいなしながら弾幕をお見舞いするけれど、全て固い外殻に防がれる。
なら
「氷符「アイシクルフォール!!」」
スペルカードを使う。
私のスペルカードの中で一番貫通力のあるスペル。
「■■■■■■■■■!!!」
しかしその弾丸は外殻を少し傷つけるだけで終わった。
ダメージを受け怒り狂った化物はさらに暴れまわり始めた
「くそ!!」
思わず悪態が出る、既にもう、結果は出たと言っても過言ではないだろう。
それが私達に不利なものであるというのはとても不本意だけど。
避ける、避ける、少しづつ避けるのが難しくなっていく。
「グッ!?」
肩に掠った、少しづつ傷が増えていく。
暴れる化物は見境なく攻撃を始め―――
「マビ!!!」
化物の攻撃は私の後ろにいる真枇にも伸びてしまった。
私は真枇を逃がすために飛び出し、真枇を突き飛ばした体で化物の重い一撃を受けることになった。
ドンッ!!
吹き飛ばされた私は太い木の幹にぶつかって止まる。
「カハッ……」
肺の中に溜まっていた空気は全て出て行く、今のは致命傷だ、まともな声が出せない。
呼吸もまともに出来ない。
化物へと視線を向けるとターゲットを真枇に絞ったようである。
私はもう戦えないと判断したのだろう。
実際その通りである。
体は傷だらけ、呼吸もまともにできない、意識を保っていた自分を褒めてやりたいくらいだ。
でも、だからといって私が真枇の前に立たない理由にはならない。
どこかで甘えがあったんだろう。
自分は死んでもいい、真枇が無事ならそれでいい。
なんせ私は妖精、何度でも生き返ることができるのだから。
でも真枇はここにいる、私が死ねば真枇も死ぬ。
死ねわけにはいかなくなった。。
「あん……た…………の、あい……ては、あたい……でしょうが!!!」
精一杯大声を張り上げた。
化物はこちらに視線を向ける。
目が合った途端、照準は再びこちらに向いた。
「■■■■■■■■■■!!!」
再び向かってくる化物。
どうしよう、なんの当てもない。
意地もまぁここまでだ、次の瞬間にはまた私の体は吹き飛んでいることだろう。
最後の足掻きだ、目を逸らさない、相手の動きに集中し、手に冷気を集める。
強い攻撃じゃなくていい、最も効率的で、最も早く、最も効果のあるものを選ぶ。
視線の先にあるのはさっきのスペルで傷つけた部分の外殻。
冷気は固めずそこに置く。明確な形にはせずに極寒を目指す。
イメージ通りの想像、こんな緊急時じゃないのなら自分を褒めてやりたいのだが、残念ながらそんな時間はないようである。
私も前傾姿勢となって化物へ駆けだした。
勝負は一回限り、それ以降はもう体が動かない。
これに失敗すれば、真枇と私は仲良く死ぬのである。
そして私だけが生き返るのである。
まぁ、失敗なんてしないけど。
避けることを考えるのを止めた。
接敵の瞬間、私は傷ついた外殻に向かって飛び込んだ。
これがラストスペル
「凍符「マイナスK」!!」
後の事なんて考えていなかった。
手に凝縮し、コンパクトにした冷気を外殻についた傷を通して体の中に打ち込んだ。
瞬間、再び恐ろしい衝撃が私を襲った。
体格が異次元程違うのだ、それは仕方のないことだと分かっているが、それでも次に来る衝撃は受け入れがたいものだ。
というか最早とばされているいま既に意識が飛びそうである。
「おめでとう、あなたの勝ちです」
薄れゆく意識の中その声を聞いた。
――――――
「良い新聞の記事が出来ました」
そういったのはホクホク顔の天狗。
「みていたんだったら助けたっていいじゃないのさ!」
もはや天狗だからとかしらない。
目を覚ましたのは妖怪の森、場所は変わっていないが、気付いた時には全てが終わっていた。
最初死んでいる百足を見て絶句した。
百足の後ろにはナイフが深々と刺さっており、これが致命傷だったと考えられる。
それ以外殆ど傷がない辺り私の攻撃はやはり無意味だったようだ。
私の考えでは、用事なんて嘘だったんだろう、天狗はずっと後ろについて私達のことを観察していたんじゃないだろうか。
「だって最強な妖精がいましたから」
今度はニヤニヤと笑う、つくづく嫌な性格していると思う。
「ついでに言わせてもらうなら、あの妖怪相手にはスペルカードを叫ぶ必要もありませんでしたけどね」
「どういうことよ?」
なんか、会話が成立していなかっただの、相手がスペルカードを使っていなかっただの、そもそも弾幕を張っていなかっただの、いろいろと理由は話していたが、結局よく分からなかった。
なんせ私はバカだから。
自分で言うのはいいのに他人に言われたらカチンと来るこの矛盾はなんなんだろう。
別に弾幕ルールで戦わなくてよかったなんてどうゆうことさ?
まぁ、そんなこともすぐに忘れてしまうだろうけど・・・
それよりも、とりあえず言っておくべきことがある。
「助けてくれてありがとう」
真枇によると吹き飛ばされた私を受け止め助けてくれたらしい。
真枇は言わなかったけど多分化物を倒したのもこいつなんだろう。
「あやや、お礼を言われるとは思ってませんでした」
意外そうな顔の天狗。
「あたいを助けてくれて、あの化物も倒してくれたんだろう?」
その言葉を聞いて苦笑する天狗。
「あなたを助けはしましたが、助けた時言ったでしょう、聞いていませんでしたか?」
「なにをさ?」
少し呆れたように吐息をはいて、その後もう一度私に向き直った。
「あの百足を倒したのはあなたです」
「……嘘だ」
「嘘だったら、あの時私は助けていません」
……本当に私が倒したのだろうか。
そんな訳ない、なんせ致命傷は―
「あたいはナイフなんか持ってないよ」
致命傷はあのナイフであったはずである。
「ま、信じるか信じないかはあなたしだいですよ」
そう言って目を持っていた本に落とした。
筆を走らせているので何かかいているのだろう。
「時期に日も暮れます、もう帰りなさい、恐い妖怪が出てきますよ」
それだけ告げて化物の死体の方に向かって行った。
「言われなくても」
私はその背中を見送った後、私を心配そうに見つめていた真枇に目を向ける。
「帰りましょう」
「うん」
体が痛むが意識を失っている間にも少しは回復していたのだろう、動けない程ではない。
こういう所は妖精万歳。
「チルノちゃん……」
「なにさ」
なにか気まずい沈黙。
森の出口を抜け霧の湖に辿り着いた。
人里まで送らなければいけないのでここは素通り。
「ごめんね」
「いいよ」
許す許す、今回は自業自得な面も多かったし。
少し赤みがかかってきた空の下、二人で歩いて行く。
「チルノちゃん」
「なにさ?」
まだなにかあるのか、申し訳なさそうに声は続く。
「かっこよかったよ」
「……なにいってんのさ」
少し返答が遅れたのは困ったからじゃない、嬉しかったからだ、本当の意味でその言葉を言われたことがなかったから。
「そんなの当たり前じゃない」
でも、返す言葉は最初から決まっているのである。
「なんたってあたいは最強なんだから」
カッコつけてみたくなる時もあるのだ。
感想、ご指摘等いただけたら作者が泣いて喜びます。