幻想郷フハフハン録   作:加具

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冬にはやっぱり・・・

奇跡の価値に貴賤なし

 

 

9月17日 晴れ 午後0:00

 

サッサッサッ

紅葉も少なからず散った。

季節の変わり目というのは何とも不思議な物である。

憂鬱というか何と言うか、まぁ、季節の変わり目より私が憂鬱なのは

 

「いくら掃いてもなくならない……」

 

むかつく、チョウむかつく。

参道を落ち葉で埋もれさせる訳にはいかない。

今はあちらこちらに見える程度だが、放っておくと絨毯のように降り積もるのだ。

それも風情に見えなくもないが参拝の方が困ってしまう。

 

それ即ち客が減る。

つまりはお金がエフンエフン。

 

まぁ、醜いかもしれないが、仕方ない、毎日3人分の食費がかかるのだ。

単純に博霊神社の3倍かかっている、わりと切実な問題である。

 

こちとら趣味で掃除やってるような巫女とは違うのである。

 

一人だったら適当にできるのになぁ、元は女子高生である。

コンビニだってあったし、親もいた。

まぁ、メンドくさかったら1日くらいお風呂に入らない日もあった。

けど今はそうはいかない。

家族がいるのである。

いや、前もいたけど、立場がちがうというか・・・

 

「早苗、これつかまえた!!」

 

後ろから声がかかる、この神社におわします2柱の1柱守矢諏訪子様

 

「どうしたんですか―」

 

!?

振り返った瞬間、私の目に飛び込んできたのは大きな瓶の中に封じ込められた氷精。

やべぇ、動いてないよ。

何をされたのか知らないが瓶の中で身動ぎもしない。

 

や、殺っちまったのか?

 

「何やってんですか!?」

「こいつ、私の友達のガマいじめたんだ、だからお仕置き!!」

 

なんてこった!?

いやいや諏訪子様?

確かにあんたガマだよ、偉いよ?

超偉い、だって神様だもん。

でもね、あんた、それを友達のガマいじめられたくらいで使っちゃ駄目でしょうが。

あんた祟り神なんですよ?

 

「ハァ」

 

思わず溜め息がでる。

もういい、とりあえず瓶詰め少女をなんとかしなければ。

 

「すぐ元の場所に返して来てください」

「え~」

 

渋る神様、パッと見駄々っ子にしか見えない。

ここで私は必殺のカードを切ることにした。

 

「ご飯抜きますよ」

「わかったよ~」

 

ブスッとしているが諏訪子様がやっても恐くはない。

 

大きな瓶を抱えて神社から出て行く諏訪子様、さすが、あんなでっかいフラフープ廻すだけあって足腰がしっかりしている。

 

サッサッサッ

また元の掃除に戻った。

いつの間にやらまた落ち葉が増えている。

えいくそ、これを掃き終わったらお守りを作らなければ。

 

「早苗さん、こんにちは」

「ハイ、こんにちは」

 

通り過ぎて行く参拝者の方に挨拶。

諏訪子様がいる時に来なくて本当によかった。

 

いや、お互いに、ね?

 

「早苗ぇ~」

 

今度はなんだ?

振り返ると、そこには神社に祭られているもう1柱、八坂神奈子様がいた。

 

「一杯付き合ってよ」

 

そう言って杯を突き出してくる神様。

あんたは真っ昼間から酒かよ!!

両柱ともにもっとしっかりしてほしい。

まぁ、神様としての自覚はあるから文句は言わないけど。

 

「無理です」

「え~」

 

反応が諏訪子様と同じである。

 

「私にも仕事があります」

「護符はもうつくっておいたよ」

 

・・・マジで?

そんなことをしてくれるとは、なんとも気が利いている。

 

「なにか―「何も企んでないよ」」

 

ピシャリと言われてしまった。

 

「暇だったからさ」

 

カラカラと笑う神様。

それならまぁ仕事もなくなった訳だけど・・・

 

「でもやっぱり止めときます」

「なんでさ?」

「真っ昼間だからです」

「じゃあ夜にしようか?」

「軽々しく力を使わないでください」

「むぅ」

 

こちらも拗ねてしまったような神奈子様。

容姿なんかも全て違うのに、何でこんなにとるそぶりが似ているんだろう。

 

「拗ねても駄目ですよ?」

「拗ねてなんかいない」

 

それを拗ねているというのです。

私は苦笑を洩らす。

 

「今は無理です」

「なんでさ?」

 

また同じ問答か。

 

「参拝の方が来られますから」

 

人が祈るその場所に巫女がいないのは職務怠慢でしょう?

 

「気にしなくてもいいのに」

 

心にもそんなこと思っていないでしょう?

私はこの神様が人を愛している事を知っている。

もちろん、もう一人の小さな神様も。

 

「一応、この神社の巫女ですので」

 

その気持ちを知ってるから、私も巫女として頑張れる。

 

「……分かったよ」

 

神奈子様はクシャッと笑うと背中を向け立ち去って行った。

 

「一応、じゃないよ」

 

振り返って一度だけ呟いたその声は私には聞こえなかったけど、心なしかその足取りは嬉しそうだった。

 

サッサッサッ

振り返るとまた少しだけ増えている落ち葉。

 

「こんにちは、早苗さん」

「はい、こんにちは」

 

参拝に来られた方に挨拶を交わす。

おそらくだがあの2柱は人がいない時を選んで声をかけてきている。

 

 

いつの間にか真上だった太陽が傾き気が付いたら夕暮れになっていた。

まだ少し残っている紅葉と夕焼けが重なってとても美しい。

 

「それで、あなたは?」

 

私は近くの太い木の枝の上に腰掛けている少女に目を向けた。

何かその木だけ、他の木よりも妙に紅葉が多かったから気にはなっていた。

 

「あ、あたしに言ってるの?」

 

急に矛先を向けられたからか、慌てている少女。

 

「ここには他に誰もいませんよ」

 

きょろきょろと周りを見渡し確認する少女。

 

「直に陽もくれますが?」

「いいのよ、私別に何処に住んでるとかないから」

 

少し寂しそうな目をする少女。

まぁ、人間じゃないことは分かっていましたが。

 

「そうですか、ではこの紅葉もあなたが?」

「そうよ、私の名前は秋静葉、能力は「紅葉を司る程度の能力」」

 

それはなんとも風情がある。

しかし枯れない花はないのだ、青々しかった緑は紅に変わり、最終的に朽ちる。

 

「もしかして、迷惑だった?」

 

状況を察したのか少し申し訳なさそうにする少女。

 

「いえいえ、そんなことはありません」

 

メンドくさかったけど、いつもメンドくさがりながら掃除を行っているけど

 

「嘘をつかないで、だってあなたずっと掃除していたじゃない」

「嘘なんかついていませんよ」

 

そう、嘘じゃない、面倒くさい気持ちもホント、でも、止めたいと思ったことはない。

 

「おかげで参拝の方と挨拶ができました」

「……貴方の手、豆だらけじゃない」

「そりゃ人の子ですもの」

 

元々竹箒なんて持ったこともない、それが1日何時間も掃いているのだ、豆もできるさ。

 

「慣れてないのか知らないけど、鼻緒が食い込んで血がでてるよ」

「そうなんですよね、痛くて痛くて」

 

永遠亭のお薬には大変お世話になっております。

確かに面倒くさいが……

 

「でもやっぱり迷惑ではないのですよ」

「なんでよ!!」

 

目に涙を溜めている。

私はこの人の何かに触れてしまったらしい。

 

「そんなの愚問ですよ」

 

落ちていた一葉を拾い上げる。

真っ紅な一葉。

 

「こんなに綺麗なんですもの」

 

参道の真っ紅な絨毯を一番見てみたいと思ったのは他ならぬ私であるという自負がある。

 

「季節に腹をたててどうしますか」

 

春には桜が参道を飾り

夏には蝉時雨を聞いて

秋には紅葉を楽しみ

冬には雪を掻き分けるのである。

 

季節は流れいくもので、私たちはそれに身を任せるのである。

 

「この手間は当然のものなのです、春には桜を、秋には紅葉を、私の手は掃くのです」

 

変わり行く景色を待ち受けるために、過去の季節にサヨナラを告げて、新しい季節を迎えるために。

だから季節の変わり目は憂鬱なのだ、別れを告げる季節が愛おしいがゆえに、新しい季節への微かな不安をのせて。

 

「その別れを告げたはずの季節に貴方は会わせてくれた」

 

だから

 

「その奇跡に感謝しています」

「…………訳分かんないわよ」

 

秋さんは木から飛び降り、私に近寄ってきた。

 

「紅葉は、何も実らせない、何も助けない、唯散って土の肥やしになるだけよ」

「そうですね」

「私はなにも与えられない、ただそこにあるだけ」

 

俯き、自嘲するように呟く秋さん。

 

「それが何か悪いとでも?」

 

そう、この討議それ事態には意味はない、重要なのは捉え方である。

 

「貴方は、全てのものが何かを与えなければならないとお思いですか?」

「いや、そうは言わないけど……」

「貴方は、全てのものが何かを与えられなければならないとお思いですか?」

「いや、そうは……」

「生命を嘗めてはいけません、恐らく神である貴方に私がこんなことをいうのは畏れ多いですが、誰にみられなくても勝手に生命は芽吹きます」

 

咲き誇る花は其処に意味など求めません。

ならば、いいんじゃなかろうか。

第一、

 

「貴方は、意味はないと言いましたが、意味ならあります。」

「……なにさ?」

「こんなにも綺麗ではないですか」

 

単純なそれは理由として絶対なものである。

 

「私はこれだけ惹かれました、それを貴方はくだらないと笑いますか?」

「そんなことはない!」

「なら、そこに意味はあるのです」

「…………そっか」

 

この人が何を抱えているのか私は知らない。

おそらくこの人にとっては大切なもので、譲れないものだったはずである。

 

「なんかすっきりしたよ、あんがと」

 

紅葉のざわめきが少し凪いで見えた。

 

「はい、しっかりと受け取っておきます」

 

折角相手が感謝の気持ちを抱いてくれているのだ、貰わないと罰が当たる。

 

「早苗ぇ~、途中で猪狩って来たよ~」

 

ちょうどいいタイミングで声がかかる。

これで、今日の献立は決まった。

 

「早苗ぇ~夜になったぞ~」

 

待たせてしまった神様に催促もされた。

 

「ハイハイ!」

 

返事をして秋の神様に向き直る。

 

「偶然にも今夜は大物の猪がとれ、奇遇にも大酒のみを相手どる者が1人でも多く欲しいのです」

 

視線を向けると期待に目がかがやいている様子。

俯いていたその顔はもう上を向いていた。

 

「今夜は鍋ですが、ご一緒にいかがです?」

 

紅葉がまた散る。

幻想郷にももうすぐ冬が来る。

来年までさよなら。

手向けの花は暖かい4人での食卓。

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