その無聊を穿つ
9月18日 薄雨 午後10:00
何とも今日は不思議な客が来た。
永遠亭の御姫様である。
外は雨が降っており、月が少しだけ顔を見せていた。
授業の準備は既に終えているため、何の気兼ねもない。
お茶請けの煎餅を出して煎茶を淹れる。
湿り気を帯びた風が入り、まだ秋も始めだというのに少し肌寒かった。
湯気が立ち上り二人揃ってお茶をすすっていた。
そういえばとポケットに入れたままでは溶けてしまうので、包みに入ったドロップを机に置いた。
このドロップは―「あなたに少し小言を言いに来たの。」
思考が逸らされる。
彼女はいつものすましたような顔で飲んでいた煎茶を置いた。
蓬莱の姫が私にお小言?
「なんでしょうか?」
ほぼ蝋燭だけの明かりの室内は何やらおどろおどろしい。
月光は控えめに照らしてはいたが、彼女の顔を一層青白く映えさせるだけだった。
「あなたに会いたがってる人がいるわ。」
「・・・それは誰の事でしょう?」
私にはあまり心当りがない。
「憎い筈の私に頭まで下げてきたわ。」
思い当たるのが一人いる。
「残念ながら今日は来ていませんね。」
しかし、今日姫の喧嘩相手は不在である。
「だから私が来たのよ。」
意味がよく分からない。
何故本人が来ないのだろう・・・
「あいつはなぜ来ないのですか?」
私はそのまま口に出していた。
「それは教えられないわ。」
姫は楽しそうに笑う。
本当に掴めない人である。
「どういう事なのです?」
「私にもよく分からない。」
なんだそれは?
その返答は私にとって不満に過ぎる。
クスクスと笑う姫様。
彼女は本当になにがしたいのだろう。
一体、意味もなく突然訪れて、何が楽しいのか分からない。
「何が楽しいのですか?」
その様が何故か苛立つ私。
「いいじゃない別に、楽しいから笑うのよ」
そのコロコロとした笑顔は純粋で綺麗ではあったが、嫌悪感しか抱かなかった。
「では私が楽しくないので笑わないでください。」
「どうしたの先生、やけに横暴じゃないか?」
それでも楽しそうに笑うこの女。
狂いだしそうなほどの激情が私の胸の中に宿る。
それが何故かはわからない。
しかし、どうしようもなく胸の中で言いようのない感情が渦巻いていた。
確かに私らしくない、なにせ今の私はこの女を殺すイメージまで明確にイメージしていたのだから。
「それじゃあね。」
そう言ってまたわらうと蓬来の姫は帰って行った。
帰る時にちゃっかりお茶請けの煎餅を食べきっていたことにまた腹がたった。
「―――あぁ、また間違えた」