走る。走る。走る。
何処へ向かえばいいか、なんてわからない。
ただ、この場所に留まっていてはいけない事だけがはっきりとしていた。だから今は兎に角この
ーードンッ
「……!!」
咄嗟に身を屈めば、先程自分の頭があった場所を何かが通り過ぎた。
頭上すれすれを通り過ぎていったそれは先の壁に当たり、盛大な破壊音と共に瓦礫を作りだす。
もしあれが当たっていれば、まるで柘榴のように頭は弾け飛んでいたに違いない。
自分が体験しかけた惨状を想像して肝が冷える。
しかし、このまま何もせずに逃げるだけではそう遠くない未来にそれと近しい惨状を身に受ける羽目になる事は想像に難くない。
勘の赴くまま、振り向き際に右手の指輪の魔術を発動する。
緊急時の為の簡易な物とはいえ護身用と言うには過剰すぎる呪詛を込められたそれは、想像通り『敵』に当たってくれたようだ。
そのまま倒れてくれたら助かるのだが、そう甘くはないだろう。
確認することなく再び逃走を始めれば、後ろから怒声が浴びせられた。
振り向くことなく、足に活を入れて走り続ける。
暗い廊下はいつもより長く感じた。
***
その場所に着いたのは、丁度月が綺麗な真夜中のことだ。
母が作った『ガーデン』に辿り着いたのは決して意図したことではなかった。
自分なりに安心する場所として無意識に求めた所がここだったのだろう。
篭城するにしても逃走するにしても、ここに来ることで一気に選択肢が増えるので合理的に考えても正解である、と思う。
一時とはいえ安全を確保出来た。
だからこれからの事を考える為に一息つこうとした自分の判断は決して間違いではない。
その安全が簡単に破られてしまうものでなければ。
ガラスが割れるような甲高い音が響いた。
それは自分が得たと思い込んだ安全、ガーデンの入り口の結界が破られた音に他ならない。
何故、どうして。
混乱した頭は疑問符を浮かべるばかりで全く働かない。
おそらく結界破りの礼装などを持っていたのだろう、などとぼんやりと片隅で思い浮かべた。
原因に今更気付いても後の祭り。
時間稼ぎになると思っていた守りをあっさりと越えられた自分は、丁度緊張を解いた状態で。
そんな隙だらけの自分を狩人が見逃さない。
振り向いた私の目に写ったのは、予想外にも能面のような無表情を貼り付けた男と彼の構える銀の光を放つ得物。
冷酷な眼光に何の色も乗せず私を見据えながら彼はそれを勢いよく構えた得物、ナイフをつきだした。
血のこびりついた年代物の禍々しいナイフは鈍い光の軌跡を描いて直進する。
逃げなくては、なんて考える暇はない。
呆然と成り行きを見守るしか出来なかった。
そして……気付いた時には胸は刺し貫かれていた。
こんな所で死ぬのか。
呆気なく死んでしまうものなのか。
……嫌だ。
それは嫌だ。
だが、どれだけ自分が否定しようと結果は変わらない。
あんなに完璧だった姉ですら死んでしまった。
非才の自分がこの状況で生き残る術などない。
だから、仕方ないのだと目を閉じた。
相良のさの字も出ていないどころかprototypeチックな始まりですが、apocryphaベースです。
今回は謎の少女(一体何やかなんだ……)の一人称視点ですが、今後は相良さん主眼の三人称……予定。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
次話は……たぶん明日投稿します。