ついていない。
相良豹馬の脳裏に浮かんだのはそんな言葉。
事実彼は全く
聖杯大戦に参加すべく、令呪を獲得することに成功した。
自分の力量を踏まえてアサシンのサーヴァントを召喚する事にし、昨今の聖杯戦争にて召喚されていない且つ強力で制御しやすいであろう近代の人物という条件を全て満たした英霊の触媒を手に入れる事が出来た。
ここまでは順調であった。
しかし、ユグドミレニアが魔術協会に宣戦布告。
それによって時計塔、召喚予定であったロンドンは敵地となってしまったのだ。
全く迷惑他ならない。
急遽祖国での召喚へと切り替えて日本へ渡航した。
久しぶりの故郷。その懐かしい空気を楽しみ間もなく。
着物にジャケットという奇天烈な格好の女に目を付けられるは、白い夢魔に殺されかけるは、喫茶店で死徒と相席するは......。
しまいにはたちの悪い詐欺師に騙されて財布の中身をスられる始末。他の荷物が無事であることだけが不幸中の幸いだった。
そして今、道に迷って山の中で倒れている。所謂行き倒れ状態である。
踏んだり蹴ったりここに極まれり。
実についていなかった。
しかし神は見捨てなかった。
「大丈夫ですか?」
美しい
月光の下、野草の詰まった手籠を抱えたその人は倒れている自分を見下ろしている。
黒くさらりと流れる髪、籠に添えられた白い指。
何より宝石のように透きとおった青い瞳が相良を魅了した。
汚れからかけ離れた無垢で神秘的な美しさ。
娼婦などとは程遠いけれど。
(切り裂きジャックの召喚の◼︎はーー
ーーこの女にしよう)
そう嗤って、意識を失った。
❇︎❇︎❇︎
気が付けばベッドに寝かせられていた。
起き上がって辺りを見渡すが、部屋には自分以外人は居らず自分の荷物がテーブルの上にある以外物も殆どない状態である。
荷物は過不足なく探られた形跡もない。
手荷物の確認を終わらせて、場所を確認しようと窓へむかう。
薄いカーテンを除ければ、眩しい日の光が目に刺さった。
涼やかな空気が風とともに部屋に流れ込む。
草花の匂いに釣られて眼をやれば大きなガラス張りの庭園が見えた。更にその奥に敷地を分ける塀が見え、自分がいる家がなかなか裕福であることが分かった。
ふと何処からか美味そうな匂いが漂ってきた。
同時に空きっ腹が音を鳴らして主張してくる。
周囲の調査を使い魔に任せて匂いの元へ行くことにした。
念の為に礼装を持って。
❇︎❇︎❇︎
その光景はある種予想通りであった。
直前の記憶と現状から答えは殆どひとつに収束する。
では、何が予想外だったのか。
鼻歌を歌いながら調理する少女に......ではない。
彼女に残った微かな魔術の痕跡に、である。
それを証明するかのような痕が家のあちこちに存在していたが、彼女が魔術師とはこれっぽっちも想像していなかった。
それはそうだろう、彼女の言動は仮に演技としてもあまりに魔術師らしくない。
認めるのは非常に癪ではあるが、回りくどい真似をするほど自分に価値があるとは欠片も思っていない。
令呪など意識を失っている間に剥ぎ取ってしまえばいいし、魔術刻印はお粗末なもの。あの時助けて寝場所を提供してやるような魔術師など見たことない。......少なくとも今まで。
呆然としている間に少女はフライパンを手に自分の方へーー正確には自分の目の前にある皿の置いてあるテーブルへ ーー 振り返った。
少女はあの日衝撃を受ける程美しいと思えた女と同じ人物である。その筈なのだが、どうにも目の前の彼女は昨晩と同一人物と思えない程平凡で野暮ったい。
おそらく掛けている眼鏡が原因だろう。
もっさりとした分厚い黒縁フレームの眼鏡が顔の半分を覆っていれば、顔の美醜より眼鏡というパーツが際立って平凡に見えるのだろう。
肩透かしを食らったというか、百年の恋が冷めるとまでは言わないが、少々がっかりしてしまう。
「あ、良かった。目が覚めたんですね」
自分の存在に気付いていなかったらしく、彼女はしばらく目を瞬かせた後笑顔でそう言ってきた。
先程野暮ったいなどと思ってしまったが、これはこれで。
大人しそうな雰囲気、無機質の中にある素朴な人間味などが眼鏡をかけることで醸し出されるとは。
眼鏡をスイッチに魔術師と表の顔を切り替える人間がいると聞いたことがあるが、なるほど眼鏡にはそういう性質があるのかもしれない。
やはり魔術師かと警戒して見る中、彼女は皿の近くまで移動してフライパンを傾けて箸を使いながら中身を皿へ移していった。
すいっとフライパンから皿に移されたのは目玉焼き。ベーコンなどが添えられたそれが「美味そうな匂い」の正体だろう。
二人分作られているが、今まで彼女以外この家で見ていない。自惚れでなければ、自分の分も作ってくれたのではなかろうか。
いや、魔術師どころか一般人でも見ず知らずの人間の為にそんなことをするはずがないだろう。
身内の誰かが外出中でその為に作った、とか。
それか実は大食漢で全部一人で食べる為に作った、とか。
だからこれはたぶん自分の分では
「お腹空いてますよね? 簡単な物ですが、いかがですか」
幻聴だろうか。
今いかがですかと聞こえた気がする。
いや、そんな訳ないだろう。
仮に、仮に本当に食事を用意してくれたのだとしよう。
ユグドミレニアのスパイとして活動していた経験から、それなりに人間観察に自信はある。
そして目の前の彼女は特に自分を陥れるつもりはないように思える。
しかし現実に何の下心なく善意だけでここまでしてくれる人がいるのだろうか。
ここはひとまず断るべきだろう。
「もしかして、目玉焼きは嫌いだったり、」
ぐーーっ
言葉より雄弁な音が腹から鳴った。
昨日から碌に食べていないから当然と言えばそうなのだがもう少し自重して欲しい。
腹ペコアピールしておきながら食事を断るとか怪しすぎるだろう。
「......いただきます」
お腹空いたと訴える本能と魔術の痕跡はあるが真っ当な魔術師ではないお人好し少女説を唱える一部の理性に負けて気付けばそう答えていた。
合理的に考えても正しい行動だと胸を張って言える。
言える筈なのだが何故負けたような気持ちになるのだろうか。
キャラ崩壊してる!
とかあれば教えて貰えれば死ぬ気で資料探して修正します。
本棚(魔窟)での宝探しをする準備は出来ているので、いつでも逝けます!
あ、でも出来ればこうした方がいいよーとか簡単にアドバイスしていただけたらとっても嬉しいです、はい。
相良さんは腹黒優男な三下魔術師という印象が......
開幕ネギトロ状態になってしまったので、友人にも「ホストな下衆だっけ?」と言われてしまうマンモス哀れな相良さんをリスペクトしながらこの話を書いています。
眼鏡アーヤカはプロトあーやかに士郎をほんのりフィードバックしたのでお人好し気味。眼鏡オフアーヤカは英雄王が求婚した美少女らしいので......。
次の更新はたぶん今週中です。