極上の龍脈直上の霊地。
亜種聖杯戦争で当主も跡継ぎも死んで、拙い魔術師のみが残された人気のない工房でもない屋敷。
いままでの不運はこのための布石だったのか。
そう錯覚するほど、上手くいっている現状。
そこで慢心するような実力がないことは、相良自身よくわかっている。
ここまでやって、漸くサーヴァント召喚の不安が解消されたと言っていい。
サーヴァント召喚時には大量の魔力が必要だ。
この問題には既に解決策を考えている。
しかし、サーヴァントを維持する魔力。
これが問題だ。
平時、霊体化している状態ならば問題ない。
しかし、聖杯からのバックアップがあるとはいえ、サーヴァントが戦闘する魔力を相良が供給するのは多少所ではない無理がある。
具体的に言うと、何の対策もなくサーヴァントに宝具を使わせれば間違いなく魔力不足で昏倒するぐらいだ。
さらにサーヴァントを使役している間サーヴァントの維持に魔力を全て回すことになるので、自分自身で魔術を使うのは困難となる。
ユグドミレニアに合流さえすれば、ホムンクルスを利用した魔力供給ラインを確保出来る手筈になっている。
魔力不足を補えれば、格段に状況が良くなる筈だ。
なので召喚後は速やかにルーマニアを目指す。
無事にルーマニアに辿りつければ問題ないが、協会側に気付かれるかもしれない。
バレて合流前にサーヴァントに襲撃でもされたら......まず間違いなく脱落する。
出来るだけリスクを減らす。
その為に考えを巡らせていた時だ。
コンコンコン。
はっと意識を戻す。
思考に没頭し過ぎた、気を付けねば。
「相良さん、起きていますか?」
扉をノックした主、その予想通りの声にほっとする。
扉を開けて来訪者を迎える。
「おはよう、沙条さん」
自分より小さな少女に微笑みかけながら挨拶する。
すると彼女はきょとりと目を丸くした後、控えめに微笑んだ。
「はい、おはようございます」
ごはんが出来てますよ、と言う彼女に了承の旨を返せば特に話が続く事もなく少女は立ち去っていった。
後ろ姿が見えなくなったのを確認してから窓へ視線をやる。
虚ろな瞳の使い魔が見返してきた。
***
黒魔術、外法に近いその一種は相良にとっては親しみを持てるもの。
しかし、目の前の少女にはとても合っているようには見えない。
包帯で覆われた指でお椀を支えてごはんを口へ運ぶ少女を眺めながらつくつくと思う。
少女の一族がその方面で秀でていて、さらに亡くなった後継であった姉がその天才であったとしても、彼女もその適正があるとは限らない。
むしろ真逆の正道の、例えば
そんなこと、自分には全く関係ない事だが。
「指、どうしたんだ?」
理由を知っていながら、我ながら白々しい。
心配そうに装って聞けば見るからに少女は狼狽える。
「ちょっと、うっかり包丁で......」
視線を彷徨わせながら、態とらしく苦笑する。
嘘を吐いていると丸分かりの態度だ。
ーーー実際は、生贄を殺せなくて自分の血で代用した結果だ。
全く合理的でない......魔術師らしくない。
まっすぐで、無垢。
「そうなんだ。傷の具合は?」
知れば知るほど惹かれる。
まるで恋しているみたいだ。
「大丈夫です。そこまで深くないので」
満月まであと2日。
その時が狂おしい程に待ち遠しい。
三日月の形に歪んだ口を紅茶のカップでそっと隠した。
漸く大仕事の決着がついたので更新......早くなると、いいな。
どうか見捨てず生暖かく見守って下さると幸いです。