少女は全て見ていた。
そう、
青く透きとおった眼は大きく開き、呼吸も忘れて見ている。
「……おぃ」
少女に声が掛けられた。
しかし少女はそれに気付かない。虚空を睨み、何かを見ることに没頭している。
声の主は溜息をつき、どこからかハリセンを取り出すと
思い切り少女の頭を叩いた。
「ひゃわっ……!? 」
威力としては全く大したものではないが、作業から少女の意識を解放するには十分な衝撃だった。
少女はむぅと頬を膨らませて、自分を叩いた相手を見た。
「何をするんですか、慎二さん」
対する慎二はジト目で少女を見ている。
不機嫌そうに腕を組むその姿に、少女は自分の失態に気付いた。
シンプルな黒のエプロン。
時計は7時を超えている。
そして今日の料理当番は、自分である。
「お爺様が呼んでいる。サッサと行ってこい。……朝食は僕が作っておいてやったぞ」
慌てる少女にそれだけ告げて慎二は部屋を出ていった。
隙間風が冷たく吹き抜け、少女は膝をついて項垂れる。
やっちゃった、と呟かれた言葉が虚しく部屋に響いた。***
着物の男がいる。
青みがかった髪の色、白い肌、堀の深い顔立ちと日本人とは異なる容貌に加え、オーソドックスな書斎のソファに座っている様は激しく何か間違っているというのに相応しいだろう。男が着物を着こなしているのも、この歯に何か挟まったような気分にさせる要因の一つかもしれない。
既に冷めてしまった茶を飲み干して、湯のみをテーブルに置きながら男は溜息をついた。
「……」
テーブルの上に置いた書類を手に取って、更に溜息。
自ら作った資料である為、当然内容は熟知している。その内容があまりにも
控えめに扉を叩く音を聞いて、男は一転無表情になって訪問客に告げる。
「入りなさい」
失礼します、と部屋に入る少女。先程ハリセンで頭を叩かれた件の少女である。
彼女の悄気た様子をさほど気にせず、席を勧める。
席につく際わざとらしく溜息を吐いてチラリとこちらを見る様は、事情を聞いて欲しそうだが……男は無視する。知っているのだ、どうせ碌でもない話だろうと。
「それで、「聞いてください、お爺様! 」
話を切り出そうとした言葉は素早く被せられた。
どうやら男は少女の話を聞く事から逃れられないらしい。
ああ、頭痛いという男の嘆きを知っているのか、いないのか。少女は悄気ている
「私、今日食事当番だったんですよねでもちょっと作業に夢中になり過ぎちゃってうっかり
マシンガントークを聞きながら、やっぱり碌でもなかったと男は遠い目をした。ちゃんと話を聞かないと拗ねて悪化するので表面上は聞いている。孫だけでなく馬鹿息子共の話も始まるのだろう。
『平行世界の自分を
男の事も今となっては愛しいと少女が思いつつあることには、幸いにも彼は気付いていない。
***
本題にたどり着くのに一時間経った。
色々語りきった少女は心なしかつやつやとして晴れやかな笑みを浮かべている。
逆に語られた男は若干淀んだ虚ろな目で諦めを宿した苦笑を漏らしていた。
「……ああ、これが現在沙条のお嬢さんが拾った男の素性、及び付随している厄介事について纏めたものだ 」
少女は机に置かれた資料を手に取って、パラパラと見た。
これで読めていることが恐ろしい。最高の自分を持ってくる宝石爺のネタ礼装は正しく魔法使いの礼装たる力がある。……性質があまりにアレだが。
「……聖杯、大戦」
ポツリと呟かれた言葉に男は冷や汗が出てくるのを感じた。
亜種聖杯戦争が多発し、今回の聖杯大戦が起きるようになったある原因。
沙条のお嬢さんが家族を失くし、今現在進行形で危険な目に遭いかける要因の基幹条件。
「これ、お爺様達が不甲斐なく大聖杯取られた所為ですよね? 」
容赦無く傷を抉るような言葉が男に突き刺さる。
声もなく男は項垂れる。
「お爺様と同じく衰退していく家系だったようですが、同じような家系を迎えいれて一族を増やす。まぁ将来の聖杯戦争を見越してのことでしょうが、お陰で一族として彼の傍に優秀な魔術師が多いですね」
「件のような男が多くいるなら、情報戦にも長けています。科学を使うことに躊躇いがないでしょうし」
「今回の離反が上手くいけば、一族は安泰。大聖杯が手元にあるなら何れ魔法使いも輩出するでしょう。頭良いですね」
しかし追撃は続く。
あえて男について一切触れない所がサドだ。
「で、対する時計塔は 」
話が切り替わった事にほっとする男。
だが少女はサドだった。
「第三次聖杯戦争のルーラー、天草ですか」
「絶対此奴腹黒聖人ですね。全力で勝ちを取りにいくタイプですね分かります。そんでもって願いは人類救済。英雄様が好みそうなささやかーな願いデス」
「自分基準の幸せの押し付け。反吐がでます。それを理解してやっている所が更にタチ悪いですね 」
「盗人黒陣営が勝つのは腹が立ちますが、赤陣営に勝たれるのは不味い。四面楚歌ですね! 」
心が折れる、音がした。
***
相良という男は何処までも不運だった。
サーヴァント召喚に関してのそれは殊更酷いものだ。
形を変えても彼の行く先には死が横たわっている。
まるで世界が彼を殺しに来ているかのように。
彼は決して善良ではなく、優れてもいない小者。
舞台は整っている。
彼の選択を待つだけだ
すまない、風呂敷を広げてすまない。
設定に準拠してこじ付ける事が難しくてこんなことに。
圧倒的練り込み不足ですまない。
整合性とやりたいことで設定がネズミ算式に増えそうに見えますが、チートアイテム持った桜ちゃんがなんとかしてくれるでしょう。
歪みを押し付ける形になってしまい、桜ちゃんと全国の桜ファンに申し訳ないです。うちの桜はあんなんになっちゃいました。
でもあくまで主人公は相良さんです。
桜ちゃんはデウスエクスマキナなだけです。
ご安心ください。