Muv-Luv AlternativeGENERATION 作:吟遊詩人
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「どうぞ、ゆっくりして行ってくださいね?」
「あ、お構いなく」
「………」
アメリカのとある街の一軒家、そこに涼牙はお邪魔していた。こうなった経緯は単純で、涼牙が助けた日系人――ユウヤ・ブリッジスの母親である女性、ミラ・ブリッジスの好意であった。息子を助けてくれた恩人にお礼をしたいと言うことだ。助けられた当の本人――ユウヤは不満気であったが、助けられた手前文句は言わなかった。
「ふん…」
「あ、ユウヤ!?」
しかしやはり不満であるのかユウヤはすぐに二回の自分の部屋へと向かってしまう。ミラが声をかけるもユウヤはそれを無視して自室に篭もってしまった。
「…これ、旦那さんですか?」
軽く家の中を見回したユウヤが見た物、それは写真立てに飾られた若い頃のミラと恐らく旦那であろう若い男性の写真だった。その隣には恐らく日本のものであろう日本人形も飾ってあった。
「えぇ、日本の由緒ある武家の人なんですよ」
成程――と、涼牙は納得する。つまりユウヤは日本人とアメリカ人のハーフだったのだろう。この世界での情報を収集したとき、この世界の日本では未だに武士が存在しているのは解っていることだった。
「けど、障害は多かったんじゃないですか?」
「…解りますか?」
ミラの問いに涼牙は頷く。調べた結果、この世界の日本の武家は昔からの伝統を重視しているし、アメリカでも日本人に対する差別が多いのは先程のユウヤとその同級生達の姿を見れば理解できる。
「ホントに、色々ありました」
どうやら、色々込み入った事情があるらしい。ミラは特別詳しくは語らず涼牙も必要以上に聞こうとはしなかった。ただ唯一聞けた話では元々、大の日本嫌いだったミラの父は彼女を責め、日本人の血を引くユウヤにも辛く当たっていたらしい。
「…すみません、少し無神経でした」
「いえ、いいんです。日本人の方と話したのは久しぶりでしたから少し楽しいです」
少しだけ、ホンの少しだけだが明るい表情になったミラに涼牙は安心する。恐らく、ミラには今日までこうして何かを話せる相手が居なかったのだろう。愛する人と同じ日本人と言うことで涼牙には抵抗なく話せたようだ。
「…じゃあ、息子さんが
「あの子は父親が自分を捨てたと思っていますから…」
「成程な…」
実際のところはどうだかわからないが…幼い頃から日系人と言うことで差別を受けてきたユウヤには父親が自分達を捨てたと思っているらしい。
「つまり、息子さんは父親を恨む気持ちがそのまま日本人にも向いていると…」
「えぇ…」
深くは聞いていないため、涼牙には何も言えない。だが、ミラの様子を見るにユウヤの父親が単に彼等を捨てたようには思えなかった。
「…ところで、ミラさん。この辺でホテルとかってありますかね?」
自分が考えても仕方がないと思ったのか、涼牙はとりあえず別の話題を切り出す。涼牙はジャミトフとの会談までこの街に滞在する予定なのである。
「あるにはありますが…恐らく日本人は…」
「…やっぱり…」
ミラが言うには、アメリカでは前大戦の影響もあって日本人への差別意識が強い。しかもこの街は元々差別意識が根強い地方であったらしく、日本人の涼牙ではホテルを取るのは難しいと言う。実際、何軒もの飲食店に入店拒否された涼牙は予想していた。
「しかし、参ったな…」
最悪、野宿か…そうでなければ一旦キャリー・ベースに戻ることになる。ちなみにキャリー・ベースは付近の無人島に隠蔽されている。
「もし良かったらうちに泊まりませんか?ユウヤを助けて貰ったお礼もしたいですし、幸い開いてる部屋も多いので」
にこやかな表情を崩さず、ミラは涼牙に自宅への滞在を提案する。この提案は涼牙にとっても渡りに船だった。一度キャリー・ベースに戻るのは流石に手間がかかる、なので数日でもこの街に滞在できるのは有り難かった。
「ん~、じゃあよろしくお願いします。でもタダで泊めてもらうのもあれなんで色々お手伝いしますよ。あ、それと敬語も使わなくていいですよ。年下なんだし」
「そう?じゃあお願いね」
こうしてトントン拍子に、ユウヤの知らないうちに涼牙のブリッジス宅への滞在が決定したのだった。
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「…何でまだアンタがうちに居るんだよ…」
涼牙の滞在が決定してから数時間後、ブリッジス家夕食の席。夕食のために一階に降りてきたユウヤは不機嫌そうな顔で頭を抱えていた。その原因は今現在目の前に居る青年だった。
「ん、ミラさんの御好意で数日間泊めて貰うことになってな。よろしくな坊主」
ユウヤに対し、すでにフランクな態度をとるようになった涼牙は笑顔で答える。彼はミラから予備のエプロンを借りて夕食の支度を手伝っていた。
「…けど、これはなんなんだ?」
疑問符を浮かべるユウヤ。ブリッジス家の食卓にはコンロとその上に置かれた鍋の中に入った、茶色い液体の中に浮かぶ肉や野菜。日本の伝統料理である「すき焼き」が準備されていた。
「日本の料理ですき焼きってんだ。幾つか足りない食材もあったが、まぁ味は問題ない」
「ふふ、話には聞いてたけど実際食べるのは私も初めてなのよ♪」
アメリカ生まれのユウヤはすき焼きを知らなかったらしく、目の前の料理に目を白黒させている。ミラはすき焼きの存在は知っていたが食べたことはないらしく、楽しみにしている。
「…日本の…料理…」
すき焼きが日本の料理だと聞き、ユウヤは顔を顰める。どうやら彼は日本人だけでなく日本にまつわるモノにも拒否感が出ているらしい。
「…坊主、お前が日本嫌いなのは知ってるがとにかく食えよ。せっかく作ったんだからな」
「…解ったよ…」
「んじゃあまずは食い方だ。まずな…」
涼牙は手早くすき焼きの汁を取り皿に居れ、さらに卵を割ってかき混ぜる。
「ほれ、後は肉なんかをそこに付けて食ってみろ」
「……」
ユウヤは箸で鍋の中の肉を掴み、取り皿に居れると口に運んだ。
「!!…美味い」
すき焼きの汁の程よい甘さと、そこに上手く混ざった卵。そしてそれらに漬けた肉の味の美味さにユウヤは眼を見開く。
「あら、本当に美味しいわね。あとで作り方教えてくれないかしら?」
「いいですよ、と言ってもそんなに難しいもんじゃないんですけどね。汁さえ作っちまえばあとは切った野菜や肉をぶち込むだけなんで」
正直、涼牙本人としては鍋料理は入れるものさえ間違わなければ不味くはならないと考えている。勿論、闇鍋なんぞは論外だが。
「嬉しいわ、私が作れる日本料理って肉じゃがだけだから」
「けど、鍋料理は分量間違えると食べきれませんよ?肉じゃがはある程度保存できるけどすき焼きはそうもいかないし」
ちなみにミラが肉じゃがを作れる理由は別れた旦那が好きで必死になって作り方を覚えたからであるらしい。こうして涼牙とブリッジス一家の食卓の時間は過ぎて行った。