Muv-Luv AlternativeGENERATION 作:吟遊詩人
だんだんストックがなくなってきました…でも頑張ります。
感想お待ちしています。
「ふぅ…」
アメリカのとある街に存在するジュニアハイスクール。その校門から涼牙の下宿する家の少年、ユウヤ・ブリッジスが出てきた。彼は現在十六歳、来年にはジュニアハイスクールを卒業することになっている。
「おい、ジャップ!」
「…ちっ…」
校門から出たばかりのユウヤに数名の男子生徒が声をかける。その数名は数日前、ユウヤに絡んで涼牙に痛めつけられたあの同級生達だ。
「こないだは余計な邪魔が入ったが、今日は逃がさねえぞ」
ニヤニヤと笑いながら同級生達はユウヤを囲み始める。明らかに問題がある行動だが、同じく下校中の生徒達は横目でチラリと見るもののそのまま帰路に就いていく。元々人種差別が激しい地域であるこの街では好き好んで面倒事に首を突っ込んでまで黄色人種や黒人を助ける人間はそうそういないのである。
「この腰抜けジャップが、イエローモンキーはさっさと田舎に帰んな!」
「っ…!俺はアメリカ人だって言ってんだろうが!!」
「へっ、そんな黄色い肌のアメリカ人がいるかよ!この薄汚いジャップ野郎!」
ユウヤの反論を意にも介さずに同級生達は囲んで彼を糾弾していく。
「おいおい、そんぐらいにしておけよ」
「あ゛ぁ?…げ…」
そんな集団に声をかけたのは例の如く涼牙であった。その片手にはしっかりと買い物袋が握られていた。突如現れた日本人に下校途中の生徒達も驚き、注目している。
「お前等も飽きないね。そんなんして楽しいか?」
「ぐ…テメエ…」
先日、涼牙に痛めつけられた一件を彼等はよく覚えていた。彼等は涼牙から距離を取るように後退りする。
「アンタ…」
「ほら、さっさと帰ろうぜ坊主」
「…あぁ…」
涼牙の言葉に頷くとユウヤはその横に並んで歩きはじめる。
「なんでこんなトコにいんだよ…?」
ある程度、同級生達と距離を取ったところでユウヤは涼牙に訊ねる。ちょうど下校時間に都合よく涼牙が来たことに疑問を持っていた。
「ん~、見て解らんか?買い物帰り」
そんな質問に答えるように涼牙は自身の持つ買い物袋を見せる。その中にはこの日の夕飯に使われるであろう食材が入っていた。
「(まぁ、まるっきり偶然って訳でもないんだけどな)」
そうして買い物袋を見せながらも涼牙は心の中で呟く。実際、涼牙がミラに買い物を頼まれたのは事実だがユウヤのジュニアハイスクールに来たのは偶然ではない。ミラからユウヤのジュニアハイスクールの場所を聞いていた涼牙は少しでもユウヤの日本人嫌いを治すために買い物帰りを装って足を運んできたのだ。
「ちっ、お節介な野郎だな…」
そんな涼牙の行動はユウヤにも見透かされていたのか、彼は無表情のままで悪態を吐く。
「ははっ、バレてたか」
自分の思惑を見透かされ、涼牙は苦笑いしながら頭を掻く。
「アンタが何と言おうと、俺はアイツを許すつもりはない」
「あぁ、それは構わん。ただ、俺は日本人を嫌いでいて貰いたくないだけだ」
涼牙にはユウヤの言う「アイツ」が彼の父親であることは解っている。そして人の感情がそう簡単に割り切れるものではないことも。
「…俺達を捨てた親父は…日本人だ」
「…俺はその辺の事情は知らんから何とも言えん。本当にお前の親父さんがお前達を捨てたのか…それとも、何か事情があったのか…けどな、たとえどんなひどい日本人が居たって…全部の日本人がそう言う奴等ばかりじゃないぜ?」
「…それは、解ってるけどよ…」
涼牙の言葉にユウヤは肯定の意を示す。
「(正直、
当初、ユウヤは日本人のことを堅物で伝統に五月蠅い人種だと思い込んでいた。しかし、涼牙と生活する中でそんなユウヤの日本人像は一気に変わったのである。
「坊主、差別なんかしたって碌なことにならないぜ?」
涼牙の脳裏には、かつての世界で経験した人種の違いによる戦いを思い出していた。アースノイドとスペースノイド、ナチュラルとコーディネイター、宇宙世紀やコズミック・イラの世界での差別を伴った戦いを涼牙自身幾度となく経験している。そして、その結果生まれた悲劇と憎しみも。
「お前が父親を嫌うのは構わん。けど、だからって関係ない日本人にまで偏見持って嫌うのは止めとけ。な?」
無表情のユウヤに対し、涼牙は笑顔を向ける。そんな彼に対し、ユウヤは目を逸らす。
「…努力はしてみる」
どうやら、ユウヤの日本人嫌いは改善の傾向にあるようだった。
ユーラシア大陸 国連軍基地
ユーラシア大陸で活動する国連軍の基地。此処にはかつて涼牙に救われたタリサの在籍するビーグル小隊も滞在していた。
「はぁ…」
タリサは基地の待機所で一人溜息を吐く。その手には「RyogaHimuro」と刻まれたドッグタグが握られていた。
「リョウガ…」
ポツリと、彼女は今現在に置いて自身の心を支配する男の名前を呟く。別れ際、彼がタリサに言った言葉はあれから数週間経っているにも拘らず彼女の脳裏に何度もリフレインしていた。
『次に生きて会えたら俺の女にならねぇか?』
「っ~~~~~~~!!」
思い出すたびにタリサは自身の顔が熱くなるのを感じる。あの時の言葉は誰がどう聞いても愛の告白で、その言葉を向けられたのは自分自身だった。恋愛事に免疫がまるでないタリサは思い出すたびに赤面してしまう。
「タ~リサ?何してるの?」
「うわぁ!」
顔を赤くして一人悶えるタリサに一人の女性が声をかける。その女性はタリサと同じ部隊に所属する彼女の友人、サーシャだった。彼女はタリサと同年代で肌や髪はタリサと同じ褐色黒髪だが、その女性的な部分はタリサとは大きく異なり出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ抜群のスタイルをしていた。
「ふぅ~ん…また愛しの彼のドッグタグを見てたの?」
「愛しのって、リョウガはそんなんじゃ…!」
「じゃあ好きじゃないの?」
「っ…!?」
サーシャの言葉にタリサは無言になる。実は此処数週間、涼牙と別れてからタリサが悩んでいることがそれだった。涼牙の告白、それに対してタリサ自身がどう思っているかだ。
「でもタリサ、ドッグタグを見てるときの顔は恋する乙女そのものよ?」
「なぁ!?」
タリサはその一言で顔を真っ赤にする。どうにか否定しようとするタリサだが、否定したくないと思っている自分に気が付いた。
「あ、アタシは…」
「リョウガを好きではない」――その一言を言うのは簡単なはずなのに、口に出すことができなかった。
「じゃあタリサ、ちょっと目を瞑って?」
「な、なんだよ?」
「良いから早く、ね?」
疑問符を浮かべながらもタリサはサーシャの言葉に従って目を瞑る。
「瞑ったぞ?」
「はい、じゃあ…彼に抱き締められる自分の姿を想像してごらんなさい?」
「ぶっ!?」
タリサの耳元で囁かれたサーシャの言葉に彼女の顔が真っ赤になり、目を開ける。
「な、なななななに言うんだよいきなり!?」
しっかりと想像してしまったのかタリサの顔は耳まで真っ赤だ。
「ふふ、予想通りの反応ね。じゃあ今度は、彼が自分以外の女性を抱き締めてるところを想像してみなさい?」
「っ…!?」
根が単純なタリサはサーシャの言われたことをすぐさま想像する。自分以外の、自分の知らない女が涼牙に抱き締められている。そう考えるだけで胸の奥がざわつくのを感じる。
「…凄く嫌みたいね?」
「……」
無言のまま、タリサは頷く。彼女の感情がそのまま表情に出ていたのだろう、サーシャはタリサの感情を理解したようだ。
「(そっか、アタシは…リョウガのこと…)」
いくら経験がなく、こういったことに鈍いところがあるタリサでも自身の感情を自覚する。
「…自覚できたみたいね?」
「…うん…よし!」
タリサは頷くとドッグタグを握りしめ、いきなり立ち上がる。
「サーシャ!これからシミュレーターするから付き合ってくれ!」
先程の悩んでいる表情はどこへやら、タリサはサーシャの手を引っ張って格納庫に向かう。
「(絶対にリョウガとまた会う!それまで死んでたまるかよ!)」
これから先を生き抜くためにタリサは改めて自身を鍛え抜くことを誓う。その裏で…
――ピキィン!!
「…?」
一瞬、脳裏に感じたイメージ…それを気のせいと感じて気にも留めないタリサ。彼女の中で、新たな力が目覚め始めていた。