Muv-Luv AlternativeGENERATION 作:吟遊詩人
ではでは、感想お待ちしています。
「ふぅ…」
ユウヤ達が住む町にある小さな公園、そのベンチに涼牙は一人で座っていた。彼は今回、この町に来ることになった本来の目的を果たしに来ていた。
「さて、どうくるかね…」
涼牙の懐にはGジェネ世界から所持していた拳銃がホルスターに入っていた。万が一、自身の身に危険が及んだ際はこれを抜くことになるだろう。
「はむ、もぐもぐ」
その場所で待ち人を待ちながらホットドッグを頬張る。ちなみに、このホットドッグは何軒か周ってようやく購入できたものである。日本人への差別にいい加減辟易としてきた涼牙だった。
「ふむ…」
ホットドッグを食べ終わり、涼牙は自分に近付いてくる気配に気付く。日本人と言うことで周りからの視線は感じていたが、近付いてくる人間は初めてだった。
この差別意識の強い町で自身に近付いてくるのは日本人を見下し、絡もうとするアメリカ人か或いは…
「Mr.ヒムロで、よろしいですか?」
涼牙の目的の人物のどちらかだった。
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「(ふむ、危険はねーかな)」
公園に現れた男性――アジス・アジバの案内で涼牙は町の郊外にある屋敷に来ていた。
「此処がジャミトフ閣下のお屋敷です。どうぞ」
アジスは屋敷の扉を開けると涼牙を中に招き入れる。この日は涼牙が接触しようとしていたジャミトフ・ハイマンとの会談の日なのである。
数分間、無言のまま屋敷の中を進んでいくとしばらくして一つの部屋の前でアジスは足を止めた。
「閣下、Mr.ヒムロをお連れしました」
「入れ」
アジスの言葉に部屋の中からすぐに返事が返ってくる。その声は涼牙自身が聞いたことのある声だった。当然だ、ガンダムの世界では会ったことはなかったがそれ以前は何度も画面の向こうから聞いた声なのだから。
「よく来てくれた、儂がアメリカ陸軍中将のジャミトフ・ハイマンだ。貴公があのデータを送ってきたリョウガ=ヒムロかな?」
「はい、私が氷室涼牙です。今日は時間を作っていただきありがとうございます」
ジャミトフの挨拶に涼牙も敬語で返す。それはミラのような通常の目上の人間に話すのとは別の、上官に話すような口調だった。
「ふふ、しばらくこの街に滞在していたのだろう?街の印象はどうだったかね?」
「正直、差別が酷過ぎて嫌になりますね。外に出れば白い眼で見られますし、俺が今世話になってる人達も辛い思いしてますし」
ジャミトフの問いに涼牙は溜息を吐きながら答える。そんな彼に対し、ジャミトフは口に笑みを浮かべていた。
「はっはっは、随分と正直に言うな」
「食いもん買うのにも何軒も門前払いされましたからね。たかだか肌の色が違うってだけでこんな対応されたら嫌にもなりますよ」
「ふむ、確かにそれには同感だな」
涼牙の言葉にジャミトフは首を縦に振って同意の意を示す。その姿は少なくともジャミトフが人種差別をするような人物ではないことを現していた。
「閣下は何故この町に住んでるんですか?」
涼牙はジャミトフが何故この町に住んでいるのか…その疑問を素直にぶつける。
「ふふ、儂はこの町の生まれでな。確かに差別は煩わしいが、引っ越すよりも先に優先するものがあるのでな」
実際、ジャミトフも何度か引っ越しを考えたことがあるのだろう。だが、彼にとってはそれよりも優先するものに自身の資産を使っているのである。
「閣下が優先するものってのはなんなんです?」
「ふむ、昔は地球環境保護運動に参加していてな、稼いだ金に大半はそちらに使っていた。今はBETAを殲滅するための研究や兵器開発に投資しとるよ。もっとも、これと言った成果が出ていないのが現状だがな」
「…確か、アメリカ軍は高威力の爆弾「G弾」を開発しているって聞きましたけど…閣下は関与していないんですか?」
涼牙の言葉にジャミトフと、彼の後ろに控えるアジスの表情が変わる。本来、「G弾」の情報はアメリカ軍内でも最高機密である。その情報を有している目の前の涼牙に二人とも警戒の色を強めたようだった。
「貴公…何処でG弾のことを知った?」
警戒心丸出しで涼牙を見つめるジャミトフ。そんな視線に当の涼牙は何処吹く風だった。
「あの程度のプロテクトなら、突破するのは造作もないですよ。俺の世界にはアレよりももっと強固なプロテクトがありますからね」
「俺の世界…?何のことだ?」
ジャミトフの問いに、涼牙は以前タリサにしたのと同じ説明をする。自分が此の世界とは別の世界から来た人間であること。そして、手土産としてジャミトフに送ったストライクダガーもその世界の産物であると言うこと。
「馬鹿な…そんなことを信じられるはずが…」
秘書のアジスが本音を口にする。それは常人からすれば当然の反応だった。
「だが、本当のこと…なのだろう?」
しかし、一方でジャミトフは涼牙の言葉を完全に信じていない訳ではないらしい。
「閣下は、Mr.ヒムロの話を信じるのですか?」
「寧ろ、嘘を吐くならもう少しマシな嘘を吐く。普通なら到底信じられないことをこのような場で言う…其れだけで可能性はゼロではないと考えられる」
あまり信じていないアジスに対し、ジャミトフの方はある程度信じていた。
「無論、本当の事です。その証拠の一つとして、かつての世界での戦闘データを持参しました」
涼牙は一枚の記録ディスクを渡す。そのディスクにはかつての世界でのMSによる戦闘、その一部が映像として記録されていた。
「…此れは…」
「なんと…」
映像の中の戦闘に二人は驚愕する。宇宙で、地上で、大空で、無数の巨人達が戦う。此の世界の戦術機を超える機動で動き回り、放ったビームが敵を貫く。此の世界とはまた違う、人間同士の戦争…その姿が其処にはあった。
「…成程、貴公の居た世界ではBETAが居ない代わりに人間同士の戦争が続いていたと言う訳か…」
此の世界でも、人間同士の争いはある。だが、それでもガンダムの世界の様に大規模なものは現状存在しない。そんなことをしていれば、BETAに対応できないからだ。
「はい、俺の居た世界では様々な理由で人類は争っていました。人種、宗教、利益…そして戦争の中でMSが生まれ、技術は進化し続けました」
「成程な…」
皮肉なものである。戦争、それ自体は忌むべきものであると言うのは誰でも解る。だが、その忌むべき戦争が様々な技術を向上させることもある。
「俺が何故此の世界に来たのかは定かではありません。ですが、此の世界に来た以上…人類が、そしてこの地球が荒廃していくのを見ていたくはありません」
ジャミトフの協力を得たい…その一心で自分の本心を明かす涼牙。そんな彼のことをジャミトフは真っ直ぐに見つめていた。
「一つ言っておこう。儂は別段、人類の為に戦っているわけではない。BETAが現れる以前は、地球を汚し続ける人類に憤ったことも決して少なくはない」
それは、ジャミトフ以外にはアジスしか知らない彼の真意。あくまでも地球環境を第一に考えるジャミトフの思想。その思想故に彼はG弾の存在を容認できない。
「だが、現状この地球を護れるのが人類だけだと言うのも理解しているつもりだ。そして、環境を壊さずにBETAを駆逐できる兵器が手にできるのならば…悪魔の手でも借りよう」
「では…!」
「うむ、契約成立だ。儂は貴公に協力する。貴公も儂に力を貸してくれ」
ジャミトフの差し出した手を、涼牙が握り返す。此処に、ジャミトフと涼牙の協力関係が成立した。
「しかし、どうなさいますか?MSを運用するにしてもそれを開発できる施設が必要ですが」
アジスの疑問に対し、ジャミトフは余裕の笑みを浮かべていた。
「なに、開発に関しては問題ない。儂と同じような思想を持ち、経済的に問題のない男を儂は知っておる。彼奴に持ちかければ問題はあるまい。そして開発したMSはまず儂の設立する独立部隊で運用する。他の者の干渉を一切許さぬ独立部隊をな」
「態々部隊を設立するのですか?」
「新兵器の登場には演出も必要だ。G弾等不要だと思わせるには、独立部隊と言う特異な状況と実績を持って世界に衝撃を与える。そしてMSの開発は登場まで極秘裏に行う。万が一、G弾推進派に知れればG弾運用の先兵にされかねんからな。少なくとも独立部隊の初実戦まで極秘にせねばならん」
淡々と語るジャミトフ。その内容は涼牙にしてみても問題など一切ないものだった。
「しかし、閣下を疎んでいる者達が部隊の設立を許すでしょうか?ましてや他の干渉を許さぬ独立部隊など…」
それは当然の懸念。元々、ジャミトフを警戒している連中は彼に無用に権力を持たせたくないと考えている。
「無論、考えはある。独立部隊を組織するに当たって、儂は正規の部隊の指揮権を放棄する。つまり、儂は正規軍の兵士は一兵たりとも動かせんと言うわけだ。奴等からすれば儂はただ階級があるだけで命令も下せぬ人間になる。傍から見れば軍内での権力の大半を失うわけだ。奴等には願ってもないことだろう」
確かに、ジャミトフを疎む者達にとっては彼が権力を失うのは願ってもないことだ。MSの存在を知られさえしなければジャミトフの失策ととるだろう。
「そしてヒムロ、貴公には階級と軍籍を用意する。儂は後方で部隊の動きを支援する故、貴公には実働部隊の指揮官として動いてほしい」
「了解です、期待に応えて見せますよ」
涼牙の立ち位置はMSに搭乗することを覗けばガンダム世界でのバスクと同じ。だが、最大の違いは涼牙がバスクと違ってジャミトフの思想を理解していると言うことだった。こうして、ガンダム世界とは違い信頼できる部下を得たジャミトフ。この日のうちに部隊名も決定した。
――それは、ガンダム世界で数多の悲劇を起こした部隊――
――されど、此の世界では地球の守護者となる者達の名前…その名を――
――ティターンズ――