Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

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お待たせしました、更新です。

ストックはもうないので少し時間はかかるかもですが頑張って更新するのでよろしくお願いします。

感想お待ちしています。


第十二話 病人

「はぁ…」

 

 平日の昼間、ユウヤの通うジュニアハイスクール。その昼休み時間、ユウヤは机に頬杖をついて溜息を吐いた。此処数日、涼牙から話を聞いてからユウヤはしょっちゅうこの調子だった。

 

「(リョウガ、戦場に行くのか…)」

 

 その内容は勿論涼牙のこと。彼がそう遠くない未来に戦場に出る――いくら異世界で戦っていた兵士だとしても、死ぬ可能性がないわけではない。そのことがユウヤを悩ませる。

 

「(俺に、出来ること)」

 

 ユウヤは、戦場に行く涼牙に対して出来ることはないかと考えている。彼にとって、涼牙は長い間の日本人への偏見を取り払ってくれた恩人だった。彼のおかげでユウヤは心に余裕を持つことができるようになったし、同級生のいじめも受け流せるようになった。言ってしまえば、涼牙はユウヤにとって頼れる兄貴分のような存在になっていた。

 

「(アイツなら…どうするかな…)」

 

 ふと、その脳裏に一人の少年の姿が浮かぶ。それは、ユウヤにとって初めて友達になった人物だった。二年前に、一ヶ月と言う短い期間だけこの町に引っ越してきた少年。銀色の長い髪に黄色い瞳の、一言で行ってしまえば美形と呼べる外見の少年。頭も良くて、運動もできてクラスどころか学校中の女子に人気があって多くの男子生徒からの妬みを買っていたのをユウヤは覚えている。

 

 当初は、ユウヤは彼に何の興味もなかった。どうせその少年も自分を日系人だと差別する。そう考えていたユウヤだが、その考えはすぐに変わった。

 

 

――くだらない真似はやめろ

 

 

「(あぁ、そう言えば…アイツと友達になったのも、リョウガと同じような状況だったな)」

 

 少年とユウヤが仲良くなったのは、少年がユウヤに対する同級生達のいじめを止めたことが切っ掛けだった。それから、彼と話して…少年が差別をしない――寧ろ、嫌う側の人間であると知ってユウヤは少年に心を開いた。

 

 それから一ヶ月、少年が家の都合でワシントンに戻るまで二人は親友と呼べる間柄になっていた。互いの家に遊びに行ったことも何度もあり、少年の母親とも仲良くなった。

 

「(アイツ…兄貴や父親とは上手くやれてんのかな?)」

 

 ユウヤと少年が仲良くなった要員の一つには、共に家庭環境に問題を抱えていると言う共通点があった。少年には兄が一人居り、父と兄は揃って差別主義者であった。対して、少年とその母親は差別をしない人間であった。少年がこの町に引っ越してきたのも、そう言った環境からの家族内の不和が原因であるとユウヤは聞いていた。

 

 だからこそ、少年が兄や父の元に戻ると聞いた時は非常に心配だった。だが、心配するユウヤを尻目に少年は逆にユウヤの心配をしていた。

 

 

――ユウヤ、何時までも日本人を憎むなよ?疲れるだけだぞ

 

 あの時、ユウヤは複雑そうな顔をするだけだった。結局、あの時はまだ日本人への偏見が消えていなかった。だが、最終的に日本人である涼牙と関わることでようやく偏見をなくすことができた。だから、少年にその報告をしたいとユウヤは最近思い始めていた。

 

「(…と、今はリョウガのことだな…)」

 

 自身の思考が少年との思い出だけになっていたのを自重し、思考を戻す。しかし、その前に一人の教師が教室に入ってきた。

 

「おい、ブリッジス!すぐに家に帰れ!」

 

「…は?」

 

 教師の突然の発言にユウヤは疑問符を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間を遡ってブリッジス宅、涼牙は再び自室でノートPCに向き合っていた。

 

「…まさか、協力者がアズラエルとはな…」

 

 ノートPCに向かい合いながらもその思考はジャミトフから告げられた協力者のことで占められていた。涼牙は知っている、嘗ての世界でアズラエルが行った凶行を。

 

 ブルーコスモスの盟主としてコーディネーターを弾圧し、核を使って彼等を抹殺しようとした人物。ビジネスマンとしては非常に優秀だが、人物としては決して褒められた人間ではない。

 

「けど、此の世界のアズラエルは違うのかもな」

 

 だが、涼牙は考える。そもそも、アズラエルの凶行の原因はコーディネーターを嫌う家に生まれ幼少期にコーディネーターによってトラウマを植え付けられたことに起因する。だが、此の世界にはコーディネーターは居らずブルーコスモスも自然保護団体のまま。トラウマを植え付けられずに、歪んだ教育もされていない彼はもはや嘗ての世界のアズラエルとは完全に別人なのではと考えた。

 

「閣下も、問題ないって言ってるしな」

 

 ジャミトフの話では、個人的にG弾に否定的な上にG弾を使わせるよりもMS開発の方が最終的に遥かに利益が上がると考えている――とのことだった。

 

 だが、良く考えてみればかつての世界でもブルーコスモスの盟主であるロード・ジブリールは地球上で核は使わなかった。地球上にもザフトの重要拠点は多数点在していたにもかかわらず――だ。

 

 其処で涼牙は考える。彼等はあくまでも環境に影響の出ない宇宙だからこそ核を躊躇いなく使ったが、地球上で使って環境に影響が出ることを嫌ったのではないかと。元々、ブルーコスモス自体が自然保護団体であったことを考えるとあながち無くもない想像だった。だからこそ、地球環境に多大な影響の出るG弾の地球上での使用にもいい感情は持っていないのではないかと。

 

「まぁ、此れは俺の勝手な想像か…少なくとも、コーディネーターと言う差別対象が存在しない以上アズラエルを信用する価値はあるか」

 

 そう呟くと涼牙はノートPCを閉じて部屋を出る。彼はこうしてデータを纏める時間をあらかじめ決めておき、残りをミラの手伝いをすることで過ごしていた。部隊が設立するまではこの家で世話になる以上、手伝いをするのは当然だと考えていた。

 

「ミラさん、何か手伝うことありますか?」

 

 階段を下り、一階にいるであろうミラに声をかける。だが、返事がない。

 

「…ミラさん?」

 

 もう一度声を掛けるが、返事は帰ってこない。買い物にでも行ったのかと考えながらリビングに近付いていく。

 

「はぁ…はぁ…!」

 

 リビングの扉に手を掛けようとしたその時、其の向こうから苦しむような声が聞こえてくる。

 

「ミラさん!」

 

 異変を察し、急いでリビングに入る涼牙。其処には床に倒れ、息を荒くしているミラの姿があった。涼牙は急いで彼女を抱き起す。

 

「はぁ…はぁ…大丈夫…よ…少し…休めば…」

 

 そう語るミラだが、その顔色は明らかに大丈夫と言えるものではない。その姿に涼牙はすぐに電話の受話器を手に取る。

 

「とにかくすぐに救急車呼びますから、病院行きましょう!俺が付き添います!」

 

 すぐに救急車に連絡しようとする涼牙。だが、それをミラが制止した。

 

「無理よ…この町には…一軒しか病院がないわ…結構大きな病院だけど…そ、そこの院長はこの町でも特に…有色人種が嫌いなの…ユウヤを生んだ私は…受け入れ拒否されるだけよ…」

 

 苦しそうに語るミラ。一方、涼牙はそんな病院側の思考に憤りを覚える。

 

「(ふざけるな!人の命をなんだと思ってるんだ…!)」

 

 余りにも度が過ぎた差別意識。それはコーディネーターとナチュラルの確執を髣髴とさせるものだった。

 

「…ユウヤが…病気になった時は…隣町まで…診て貰いに行ってたけど…」

 

 ミラの病状が詳しく解らない以上、のんびりしている暇はない。隣町に行くにしても病人のミラに道案内をさせるわけにはいかない。そう考えた涼牙の行動は早かった。涼牙は携帯端末を取り出すとあるところに連絡を取る。数回のコールの後、相手が通話に出た。

 

「…もしもし、氷室です」

 

≪おぉ、貴公か。どうした?≫

 

「実は、折り入って頼みがありまして」

 

≪…ふむ…ただ事ではなさそうだな≫

 

 通話相手は涼牙の声音から何か緊急の事情があると察する。

 

「この町で俺を世話してくれてた人が病気で…町の病院は差別で受け入れてくれないようです。何とかなりませんか?」

 

 ミラを助けることに必死な涼牙。そんな彼の言葉に、通話相手はしばし思案した後に返事を返した。

 

≪成程な…よし、儂の主治医に見せてみよう。すぐに屋敷まで連れて来ると良い≫

 

「…ありがとうございます」

 

 涼牙は心からの感謝の言葉を告げると、すぐにミラを抱えて車に乗り込み家を後にする。

 

「リョウガ君…何処に…」

 

 一方、涼牙に連れ出されて背もたれを倒した助手席で横になるミラには彼が何処に向かっているのか見当もつかなかった。

 

「助けてくれるところを見つけました、すぐにそっちに向かいます。坊主には後で連絡しますので、今はゆっくり寝ててください」

 

 そう語りながら車を走らせる涼牙。しばらくして、目的地であるジャミトフの邸宅が見えてきていた。

 




以上、最新話でした。

病院に関してはやりすぎだったかなと思いましたが…差別が激しいとこういうこともあるのかなと思いました

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