Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

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更新です。少し遅れて申し訳ないです。

あと、お知らせとしてユウヤの年齢を変更しました。彼が入隊したのが中卒の時だというのを忘れていて高校生にしてしまったので

今回は突っ込みどころが多いかもしれませんが大目に見ていただけると嬉しいです

では、感想お待ちしています


第十三話 療養と決断

 

「ブリッジス少年をお連れしました」

 

 ミラがジャミトフ邸に運び込まれてから数時間、彼女が運び込まれた部屋に訪問者があった。一人はジャミトフの秘書官であるアジス・アジバ。そしてもう一人はそのアジスの案内でこの屋敷にやって来たユウヤであった。

 

「ママ!」

 

 部屋に入るや否や、ユウヤはすぐにミラの下に駆け寄った。教師からミラが倒れたことを聞かされたユウヤは大急ぎで自宅に戻り、其処で待っていたアジスに屋敷まで連れてきて貰ったのだ。

 

「大丈夫よ、ユウヤ」

 

 駆け寄ってきたユウヤをミラはベッドに座ったまま笑顔で迎える。その傍らには涼牙、ジャミトフ、そしてジャミトフの主治医の姿があった。

 

「あの、ママの容体は?」

 

 いったい何があったのか――ユウヤはすぐ近くにいた主治医に訊ねる。すると、主治医は笑顔で答えた。

 

「御心配なく、命に別状はありません。ですが、しばらくの間は安静が必要です。発見が速かったのが幸いでした。Mr.リョウガが御自宅に居なかったらどうなっていたことか」

 

 そうして主治医は語る。家に涼牙が居て、すぐに気が付いたから命に別状がなかったと。もしも発見が遅れ、ミラ自身がその病気を隠してたら命に関わる事態になっていたらしい。

 

「リョウガ、ありがとう…」

 

 それを聞いたユウヤは涙を流して涼牙の手を握り、頭を下げる。

 

「俺だけじゃないさ、閣下が快く受け入れてくれたから良かったんだ」

 

 そう語ると、今度はユウヤはジャミトフに必死に頭を下げる。そんなユウヤの姿にジャミトフは若干照れくさそうにしていた。

 

「では、私は此れで」

 

 少しして、主治医が部屋を出て行く。さらに、それに続くように涼牙とジャミトフも話があるとのことで部屋を出て行った。

 

「ママ、本当に良かった…」

 

 部屋に二人きりになると、ユウヤは嬉し涙を流してミラの手を握る。そんな彼にミラもまた嬉しそうに微笑んでいた。

 

「心配かけてごめんね…ユウヤ」

 

「ゆっくり治してくれよ?ママは、無理しすぎなんだから」

 

 それを聞いたミラはユウヤの頭を優しく撫でる。この上なく穏やかな時間が、二人の間に流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回はありがとうございました」

 

 部屋を出た後、涼牙はジャミトフに頭を下げる。ジャミトフが受け入れてくれなければミラの命が危なかったかも知れない――そう考えると感謝の念が堪えなかった。

 

「構わんよ、貴公が儂らにもたらせてくれた利を考えればこの程度はな。しかし、もしやとは思っていたが貴公が世話になっていたのはやはりブリッジス家だったか…」

 

 ジャミトフの口ぶり、それは明らかにブリッジス家のことを知っている感じだった。それを疑問に思った涼牙は疑問を投げかける。

 

「閣下は、ブリッジス家のことを御存知で?」

 

「ん…?あぁ、異世界から来た貴公は知らんか。ブリッジス家はアメリカでは有数の名家の家だ。国の上の方にも知っているものは多い」

 

「成程…そうだったんですか」

 

 ブリッジス家――アメリカ有数の名家で政治的にも有力な家である。自分が世話になっていた家がそんな名家だと言うのに驚くが…同時に疑問が沸いた。

 

「そんな名家なのに、病院の受け入れ拒否されるものなのですか?」

 

 それは、有力な家でありながら病院側の受け入れ拒否がまかり通っていること。有力なれば、ブリッジス家を敵に回すのは不利益が大きすぎると感じていた。

 

「貴公の言いたいことは解る。実際、ブリッジス家は先代――つまり彼女の父親が生きていた頃はそのような事はありえなかった」

 

 ジャミトフは語る――先代の当主であったミラの父親…即ち、ユウヤの祖父は政治家や軍部に繋がりを持つ人物だった。日本人に偏見を持ってはいたが、有能な人物だった。

 

「彼女は技術者としては傑物だが…政治的な繋がりを持っていない。何より、日本人の子を産んだ女として政治家や軍部にも彼女を嫌うものは多い」

 

 アメリカに蔓延する白人至上主義。その思想はアメリカ上層部の政治家達も持っていた。勿論、全てと言うわけではないが日本人を嫌う彼等はミラを疎ましく思っていた。だが、一方でミラとユウヤの親子に利用価値を見出してもいた。

 

「儂も先代から聞いた話だがな、あの少年の父親は日本でも有力な武家の出身だ。故に、政治的な利用価値は高い。だが、先代はそうならないように手を回していた」

 

「…ミラさんの父親は坊主――ユウヤを嫌っていたと聞きましたが」

 

 涼牙の返答に、ジャミトフは笑みを浮かべる。

 

「先代も人の子だ。大してあったことのない日本人は憎めても、愛娘の産んだ孫を心の底から嫌いになれなかったのだろう。手を回すことには成功したが、一方で政治的利用を考えていた者達は面白くなかろう」

 

 ジャミトフは其処まで語って溜息を吐く。

 

「この町の病院を経営する院長は名家の出身であり、黒い噂の多い人物だ。恐らく、彼奴も政府と強い繋がりがあるだろう。だからこそ、彼奴は何も気にせず受け入れ拒否などできるのだ」

 

 ジャミトフ曰く――院長も相応の名のある医者一家の出であり、政府にパイプを持っているとのこと。背後に政府の要人がいる――故に、ブリッジス家の受け入れ拒否をしても不利益を被らないらしい。

 

其処まで語ってジャミトフはその瞳に怒りを宿す。地球を何よりも優先するジャミトフだが、だからと言って人道的な考えを持たない訳ではない。病気の人間を見捨てる医者に激しい嫌悪感を持っていた。

 

「如何にかできないのですか?」

 

「難しいな…奴は中々尻尾を見せん。摘発するには時間がかかるだろう」

 

 元々、用心深い性格な上に政府とも繋がりがある。そんな人物を摘発するのには相応の時間と人手がいる。それは政治に疎い涼牙でも理解できた。

 

「…そう言えば、ミラさんは技術者なんですか?」

 

「む、聞いていなかったのか?」

 

 ジャミトフは涼牙の問いに驚いたような表情をする。彼はミラが元技術者だと言うことを涼牙が知っていると思っていた。

 

「はい、ミラさんの過去のことはユウヤの父親が日本の武家出身だと言うことしか…」

 

 その返答に、ジャミトフは苦笑いした。

 

「成程な…まぁ、話す必要がないと判断したのやもしれんな」

 

 そう言うと、ジャミトフはミラの大まかな経歴を語りだした。

 

「彼女はアメリカでも有数の技術者だぞ。ボーイング社に所属するフランク・ハイネマンに師事して世界初の第二世代戦術機F-14の設計者の一人でもある」

 

 F-14トムキャット――世界初の第二世代戦術機。かつて失敗作とされたF-11の後継機として開発され、その性能は当時厳しい要求仕様を出したアメリカ海軍を驚喜させた。その性能は「F-14の登場で此れまでの戦術機は旧兵器になった」とまで絶賛された傑作機である。

 

「そうだったのですか…」

 

「うむ…かつて、曙計画の折りに行方を晦ましたと聞いたが…実家に戻っていたのは先代から聞いていた」

 

 曙計画とは、アメリカに同盟を結んでいる各国が戦術機開発研修チームを派遣した計画である。アメリカ側も戦術機供給不足解消の為に研修チームを受け入れた。ミラはその曙計画にアメリカ側として参加していたのだ。

 

「と言うことは、ミラさんはその計画で…」

 

「可能性は高い…」

 

 涼牙とジャミトフは二人とも同じ考えに達する。即ち、ユウヤの父親はその曙計画に参加していた日本人である可能性が非常に高いと考えた。

 

「…閣下、ミラさんの件は…」

 

「無論、解っている。乗りかかった船だ、彼女が回復するまでは面倒を見よう。儂としても先代とは少なからず親交があった。知らぬ仲ではないからな」

 

 涼牙の願いを察し、ジャミトフは快く答える。その返答に涼牙は安堵した。

 

「そう言えば、部隊の人員の件ですが…確保は出来そうですか?」

 

 部隊を効率よく運用するためには優れた人材が必要となる。しかし、敵の多いジャミトフの設立する部隊に上手く人員が回って来るかは涼牙にとって心配なことだった。

 

「案ずるな、儂に考えがある。まず、二人…二つの小隊を指揮する人材には目星がついている」

 

 設立して実績を上げるまでは部隊の規模は少数精鋭で行くことになっている。その為、前線指揮官である涼牙に加え、二小隊八名の計九名が今の所確定している戦闘部隊である。それに加えて、艦の艦長やそのクルー。整備士がティターンズに属することになっている。

 

「後の六名は、士官学校に出向いて人員を得る」

 

 小隊長には指揮能力を考えて経験のある人間を、そして残りはMSの操縦に慣れやすくするために戦術機に慣れ切っていない士官学校の人間を獲得すると言うのがジャミトフの予定だった。

 

「涼牙!!」

 

 そうして部隊のことを話していると、背後からユウヤが走ってくる。

 

「どうした、坊主?」

 

 何をそんなに急いでいたのか――そう問いかける涼牙に対し、ユウヤは息を整えて真っ直ぐ涼牙を見据える。

 

「涼牙は、ハイマン中将の部隊に入って戦場にいくんだよな?」

 

「…あぁ…」

 

 嫌な予感がする――それが涼牙の感想だった。一方、ジャミトフの方にはブリッジス家の人達に涼牙が色々と説明したことは伝わっていた。なので、このユウヤの発言に驚くことは無かった。

 

「俺も…俺もその部隊に入れてくれ!俺も一緒に戦わせてくれ!」

 

 その予感は、見事に的中してしまった

 

 

 

 

 

 


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