Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

17 / 31
ようやく更新。お待たせして申し訳ありません。

今回は久々登場のあの子が…!?

感想お待ちしています。


第十五話 それぞれの今後

 

「ぐ…この…!!」

 

 キャリー・ベース内のシミュレーター、其処ではユウヤが涼牙の指導の下にMS操縦技術を学んでいた。

 

≪投げやりになるなよ!考えることを止めるな、敵の動きやレーダーを見ながら常に頭をフル回転し続けろ!≫

 

 通信越しに涼牙の声が響く。ユウヤはその声を頭に留め置き、限界まで思考をフル回転させながら敵の動きに対応しようと尽力している。

 

「そこ!!」

 

 ユウヤの搭乗する105ダガーの放ったビームが敵のストライクダガーを撃ち抜き爆散させる。彼が涼牙の指導を受け始めてからすでに三ヶ月が経過した。当初はMSの基本的な操縦法を学んでいたユウヤは、ある程度動かせるようになってからはシミュレーターでデータ上の様々な戦場で戦っていた。

 

 ユウヤの搭乗する機体は基本的に105ダガーである。これはティターンズの正式採用量産機がダガーシリーズであることからの選択だった。結果、戦場として選択されるのはコズミック・イラの世界の戦場が多かった。

 

「っ…!ぐ…!!」

 

 105ダガーの四方からビームが襲い掛かり、それをギリギリで回避しシールドで防御しながら逆に敵を撃ち抜いていく。

 

「(落ち着け、相手の動きを良く見て予測しろ…)」

 

 敵の攻撃による衝撃に歯を食いしばりながら、ユウヤは必死に冷静さを保とうとする。

 

「そこ…!」

 

 ユウヤの放ったビームはストライクダガーのコクピット部分を撃ち抜き、爆散させる。

 

「…ええい!」

 

 さらに、接近してきた敵をビームサーベルで迎撃する。ビームサーベルは接近していたストライクダガーの脚部を切り裂き、体勢を崩したところにビームライフルで撃ち抜く。

 

「くそ…!キリがねえな!!」

 

 敵を倒した傍から次々に敵がかかってくる。このデータの難易度はかなり高かった。続々とかかってくるダガーシリーズに対し、ユウヤは悪態を吐く。戦場の名前は第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦――コズミック・イラ71の時代…地球連合とザフトが行った最終決戦。ユウヤはその中にザフト側として戦っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(三ヶ月でこれか…)」

 

 シミュレーターの外、戦闘を行うユウヤの姿を涼牙は映像で観察していた。訓練を始めてはや三ヶ月、ユウヤの操縦技術は日に日に上達していた。

 

≪はぁ!!≫

 

 特に目を見張るのは射撃であった。近接戦闘に関してはまだ並み程度だが、射撃はすでに準エース級と呼べるものになり始めている。

 

「(素質はあったってことか…)」

 

 ユウヤを戦場に出したくないと言う想いは変わらないが、一方でユウヤの才能が稀有なものであることも涼牙は理解していた。特に射撃の才能は特筆すべきものがあった。それは狙撃ではなく、高機動戦闘と精密射撃の併用である。高速戦闘装備のエールストライカーを装備し、高速で動きながら的確に敵のコクピット部分を撃ち抜いているのである。

 

「(…なんか、複雑な気分だな)」

 

 眼前で繰り広げられるユウヤの戦闘…それはすでに並みの兵士を置き去りにしていた。まだまだ回避に甘いところはあるが、この分なら涼牙の示した期日までに十分な腕を身に付けるだろう。

 

「(にしても、坊主ももうすぐ卒業か)」

 

 既にユウヤがジュニアハイスクールを卒業するまでもうすでにひと月を切っている。現在は勉学と訓練の双方に必死に取り組んでこれほどの成長を見せているのだ。卒業後、訓練に集中すればより成長速度は増していくだろう。

 

「ハロ、次からもう少し訓練のレベル上げるぞ」

 

「了解、了解!」

 

 涼牙の言葉に傍らにいたハロが跳ねながら了承する。訓練の間、涼牙は常にスパルタだった。本人もこうして操縦技術を教わったのでそれをユウヤにも課しているのである。

 

「さて、俺はもう少しデータを纏めてくる。ハロ、坊主の訓練が終わったら教えてくれ」

 

 そう言うとシミュレーターに背を向け、部屋の片隅に用意したPC端末に向かう。既にアズラエルの下にMSのデータは送り終えており、MSの開発は始まっている。

 

「(こっちもとっととOSを組み上げないとな)」

 

 現在、涼牙が取りかかっているのは戦術機用の改良OSであった。MSの開発が出来ても、やはり戦力の多くは現状用いられている戦術機である。故に、戦術機の動きを格段に良くするOSの開発を涼牙は行っていた。開発と言ってもゼロからではなく、コズミック・イラで用いられていたナチュラル用のOSを独自に改良しているのである。これが中々大変な作業である。そもそも、涼牙はプログラミングが得意と言うわけではない。幾らデータの元があってもこれを戦術機用に改良し、雛形が出来たら今度はアズラエルの抱える戦術機のテストパイロットと協力して仕上げなければならない。

 

「(しかし、ユウヤの戦い方…アレならアイツを任せてもいいかもしれないな)」

 

 涼牙の思考の中には一機のMSの姿。予備機として仲間から受け取り、現在は格納庫で静かに起動の時を待つ機体が思い浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

「タリサ、お疲れ様」

 

 ユーラシアの国連軍基地、其処では数ヶ月前に涼牙に救われたタリサが仲間達と共に任務を終えて一息ついたところだった。

 

「お、サーシャか。お疲れさん」

 

 同僚であるサーシャから差し出されたドリンクを受け取り、タリサはそれを一気に飲み干していく。

 

「今日も問題なく任務完了ね。他の部隊も噂してるわよ?」

 

「らしいな~、まぁ悪い気はしねぇな」

 

 サーシャの言葉にタリサは笑顔で返す。実際の所、タリサ達ビーグル小隊の戦果は此の基地にいる国連軍の中では群を抜いていた。小隊員の欠員はゼロ、それどころか機体の損傷も目立ったものはなく一方でBETAを撃破したスコアもトップクラスだった。

 

「それもこれもタリサのおかげね。貴女に助けられたことも一度や二度じゃないもの」

 

 タリサのおかげ――それは決して誇張でもなんでもなかった。タリサは戦場ではまるでBETAの動きを読んだかのように味方のサポートを行い、被害を抑えながらスコアを伸ばすことに成功していた。そう言った戦果は他の部隊にも知られており、一部ではタリサを「幸運の女神」と呼ぶ者も出始めている。

 

「ん~、何となく解るんだよな。BETAが近くにいると、何か気持ち悪い感じがしてよ」

 

 それは数ヶ月前から感じ始めた感覚だった。初めは不思議な違和感を感じ始め、次第にその感覚は強くなっていった。そして遂にはBETAの存在を感じとることができるようになっていた。

 

「(この感覚を感じ始めたのは涼牙と別れてしばらくしてからだったな)」

 

 涼牙に出会う以前はこんな感覚は感じたことがなかった。故に、タリサはこの感覚のきっかけは涼牙だと考えていた。

 

「(これが、涼牙の言ってたNTの感覚って奴なのか…涼牙に会えれば何か解りそうなんだけどな)」

 

 此の数ヶ月、タリサは涼牙のことを考える時間が増えていた。それは自身の身に付けた感覚の正体を知りたいと言う考えでもあり、そして単純に涼牙に会いたいと言う考えでもあったが――離れている間に、涼牙の心が変わらないかが気掛かりで…一刻も早く会って自分の想いを伝えたいと言う乙女の思考であった。

 

「………」

 

 脳裏に浮かぶ涼牙の姿。その姿を想像して胸元に光るドッグタグを握る。普段も、そして戦場に行く時も彼女はこのドッグタグを肌身離さず持っていた。

 

「タリサ~?またあの人のことを考えてるの?」

 

「うぇ!?」

 

 そんなタリサをからかう様にサーシャが声をかける。そんな彼女の発言にタリサは顔を紅くした。

 

「まったく、タリサは解りやすいわよね~?彼のことを考えてるときは絶対ドッグタグに触ってるんだから」

 

「え…あ…」

 

 自分の手の中にあるドッグタグに視線を移し、そして顔をさらに紅くする。どうやら、無自覚の行動だったらしい。だが、事情を知っているビーグル小隊の面々は皆タリサの癖を見抜いていた。

 

「でも、まさかタリサに先を越されるとはね~。性格的にも体形的にも縁がないと思ってたのに」

 

「…おい、体形的にもってのはどういう意味だ?」

 

「…あ」

 

 先程、羞恥に紅く染まっていたタリサの顔は怒りに染まる。彼女自身、体形が年齢不相応に幼いのは非常に気にしていることである。ましてや、好きな相手ができた今では猶更であった。故にサーシャの言葉はタリサの逆鱗に触れた。

 

「サーシャ、テメエ!今すぐ模擬戦だ!ぼっこぼこにしてやる!!」

 

「ごめんごめん!」

 

 怒りに燃えるタリサと謝るサーシャ。模擬戦でタリサに敵わないサーシャは逃げ回るが、其処に思わぬところから助け舟が出された。

 

「マナンダル少尉!すぐに司令室に出頭しろ!!」

 

「「え…?」」

 

 声の主はビーグル小隊隊長のブライアムだった。その言葉に呼ばれた当人であるタリサと、傍にいたサーシャは疑問符を浮かべた。

 

「(アタシ、何かやったっけ?)」

 

 タリサからすれば身に覚えがなかった。最近は命令違反も犯していないし、ましてや司令室に呼ばれるようなことをやらかした覚えはない。もしかしたら涼牙のことを報告していないのがばれたのかもと思ったが、それなら自分だけが呼ばれるのもおかしいと考える。

 

 結局、何も心当たりがないままにタリサは司令室に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「転属!?」

 

 司令室に呼ばれたタリサを待っていたのは衝撃の言葉だった。司令官から告げられたのはタリサの転属と近々ビーグル小隊に補充要員が来ると言うことだった。

 

「そうだ。マナンダル少尉、貴様にはインド東部アンダマン諸島にて開発衛士(テストパイロット)の任について貰う。貴様の高い技量と戦歴を評価しての転属…云わば栄転だ。私も鼻が高いよ」

 

 司令官の言葉に嘘はない。開発衛士は戦術機の問題点を洗い出して改善する為には必要不可欠な存在であり、故に開発衛士に抜擢されると言うことは衛士としての技量を認められたと言うことに他ならない。開発衛士としての腕が良い程、問題点が改善され最前線の衛士達の命を護ることにも繋がるのだから。

 

「そんな!アタシは…!?」

 

「此れは決まったことだ、辞退は出来ん」

 

 タリサの反論を司令官は封殺する。司令官自身、タリサの様に腕の良い衛士が前線に拘る理由は理解している。しかし、それと同時に腕の良い衛士に開発衛士になって欲しいと言う想いもあった。だが、司令官は知らない。タリサが前線に拘る理由はもう一つあると言うことも。

 

「(開発衛士が重要なのは解ってる…けど…)」

 

 前線に居れば何処かの戦場で涼牙に会えるかもしれない。そんな淡い期待があった。だが、そんな明らかな私情で上からの命令が覆る筈もない。

 

「マナンダル少尉、開発衛士に選ばれると言うことは多くの衛士の命を背負うことでもある。其処から背を向けて、彼に胸を張って会えるか?」

 

「あ…」

 

 隣にいたブライアムがタリサに静かに語る。開発衛士は技量が認められた証であり、同時に大きな責任が伴う。開発衛士が機体の欠陥を見抜けなければそれはそのまま前線の衛士の命に影響するからだ。だからこそ、その責任ある立場に背を向けて好意を向ける青年に胸を張れるのかと。

 

「………」

 

 そんなブライアムの言葉に、しばらく沈黙したタリサだが…意を決したように顔を上げる。

 

「タリサ・マナンダル少尉、謹んでお受けします」

 

 瞳に強い意志を宿し、タリサは敬礼する。こうしてタリサは開発衛士としてアンダマン諸島へ向かうことになった。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。