Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

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大変お待たせしました、申し訳ありません。正直難産でした。戦闘描写は難しい。

あと、あとがきの次回予告ですが前回のがSEEDより00っぽいと言われて自分でも納得してしまったので00風で行こうかと思います。




第十八話 初陣

 西暦一九九八年――此の年、ティターンズは正式な部隊稼働を迎えていた。格納庫内では整備士達が慌ただしく動きまわり、来る出撃に備えてMSの整備を行っていた。

 

「ふぅ…俺達の出撃はまだなのかねぇ?」

 

 そんな中、その整備士達を見ながらウルフが一人呟いた。部隊としての――引いてはMSの初陣を心待ちにし、彼は自身の乗機である真っ白に塗装された105ダガーを見上げる。

 

「仕方がないでしょう。新造艦の完成が僅かに遅れたのですから…それでも、朝鮮半島に発進するはずです」

 

 そんなウルフに、彼の部下であるゼハートが答える。現在、ユーラシア大陸では光州作戦と称される大規模撤退作戦が開始されていた。ティターンズは新造艦の調整が終了次第、援軍として同作戦に参加の為に発進が予定されている。

 

「それにしても、態々部隊の為に新造艦が造られるとはな」

 

「ティターンズは世界各地を飛び回ることを前提にされていますからね。今までの輸送機や空母では限界があるのでしょう」

 

 ゼハートの言った通り、それが新造艦製造の理由であった。世界各地で独立行動をとることを前提に創設されたティターンズは長距離をできるだけ早く移動でき、かつ高い戦闘力を持つ戦艦が必要となる。そしてジャミトフとアズラエルの話し合いの結果、ティターンズで運用するための専用新造艦が製造されたのである。

 

≪各員に通達!本艦はこれより発進準備に入る!衛士各員はノーマルスーツを着用の上待機!繰り返す、衛士各員はノーマルスーツを着用の上待機!≫

 

「…っと、いよいよか。しかし、ノーマルスーツはまだあまりなれねーな。だいたい、強化装備と違って目の保養になりにくい」

 

 ティターンズで正式に着用するようになったノーマルスーツ。その姿を思い出してウルフは一人溜息を吐く。当然、目の保養とは女性が強化装備を着た場合である。

 

「そんなこと俺に言われても知りませんよ」

 

 呆れながら先を歩いていくゼハート。すると、同じように格納庫から出ようとするユウヤと鉢合わせた。

 

「ゼハート、ウルフ大尉」

 

 二人に気付いたユウヤは軽く敬礼し、三人並んで格納庫から出て通路を歩いていく。

 

「ユウヤ、ミラさんは大丈夫なのか?以前は療養してるという話だったが…」

 

「あぁ、今はもう回復して基地の近くの街に引っ越して来てるよ」

 

 此の基地の近くには街が広がっており、ユウヤの母であるミラは病状回復後に此の街に引っ越して来ていた。そうすることでユウヤとも比較的に会いやすくなるし、何より此の街の人間は以前の街に比べて比較的差別感情は少ない。また、ティターンズに配属が決まった人員の家族も多くは此の街に移住してきている為に近所付き合いも楽になっていた。

 

「此の間なんか御隣さんの食事に呼ばれたって喜んで話してたぜ」

 

「そうか、それは何よりだな」

 

 以前、ミラに会ったことのあるゼハートからすれば彼女が元気なのは喜ばしいことだった。故に、ユウヤの話を聞いて笑顔を浮かべる。

 

「そう言えば、お前の親父さんと兄貴は…」

 

「あぁ、俺がティターンズ行きを決めて激怒していたよ。結局、俺はもう勘当同然だ。もっとも、ティターンズが表舞台に立てばどうなるか解らんがな」

 

 ゼハートは傲慢で、身勝手な父と兄を思い出す。そもそも、そんな父兄との関係を断ちたくてティターンズ行きを決めたのもあり勘当同然なのはゼハートにしても願ったり叶ったりだった。

 

「ったく、話題が暗くなってんぞ!」

 

 次第に話題が暗くなる二人に対し、ウルフが肩を組みながら制止する。

 

「此れから初出撃なんだ、暗くなんのは止めようぜ?」

 

「それも…そうですね」

 

「了解です」

 

 そんなウルフに対し、ユウヤとゼハートも笑みを浮かべて答える。

 

「ところでよ…ユウヤ、お前の御袋さんってのは美人か?」

 

「…紹介はしませんよ?」

 

 女好きなウルフに、ユウヤは当分母を紹介するのは止めようと心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「発進準備完了しました、艦長」

 

 オペレーターの女性が現在の艦の状況を簡潔に艦長に伝える。すると艦長は傍らに置いていた帽子を被る。

 

「よし、構わないな隊長?」

 

「勿論、頼みますよ艦長」

 

 艦長席の横に立つ涼牙に確認をとると、艦長は席に備え付けられている受話器を手に取る。

 

「各員、聞こえるか?艦長のガディ・キンゼー少佐だ。本艦は此れより光州作戦援護の為に朝鮮半島に向かう。到着した時には既に作戦は開始されていることが予測される。よって、到着と同時に主砲発射準備及びMS隊の発進を行う。諸君等も自覚している通り、我々は人数の少ない少数精鋭の部隊だ。恐らく、他の連中は我々を戦力としては当てにしていないだろう」

 

 ガディは苦笑いする。そもそも、ティターンズは新造艦の調整が遅れていることから光州作戦への参加に組み込まれていなかった。しかし、ジャミトフの進言から援軍として参加することが決まった。だが僅か十人程度の衛士と一隻の新造艦では大して期待はされていない。もっとも、それはあくまでも他の部隊がティターンズの真の戦力を把握していないからこそだった。其処まで話したガディは受話器を涼牙に手渡す。

 

「隊長の氷室少佐だ。諸君、キンゼー艦長より聞いての通りだ。ティターンズの力を甘く見ている奴等に目にものを見せてやろう」

 

 其れだけ話すと、涼牙は受話器をガディに返す。ガディは其れを元に戻すと発進の号令をかけ始める。

 

「気密隔壁閉鎖!最大船速!離水…アークエンジェル…発進!!」

 

 ガディの号令と共に港に停泊していた船体が前進し、次第に空へと飛び立っていく。アークエンジェル――不沈艦としてコズミック・イラの世界を戦い抜いたその艦は、本来純白であったその船体をティターンズカラーである濃い青とグレーに塗装され、ティターンズの旗艦として異世界の空へと飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝鮮半島――国連軍と大東亜連合軍の合同で大規模撤退作戦・光州作戦が展開された此の地で国連軍は窮地に立たされていた。

 

「帝国軍は何をしている!!」

 

 国連軍司令部からの怒声が飛ぶ。其の原因は現在、避難民の救助に当たっている彩峰萩閣中将等日本帝国からの派遣部隊であった。本来、避難民の救助は軍人として当然のようにも思える。しかし、最大の問題は此の避難民達が朝鮮半島からの脱出を拒否しているという実情だった。彼等は朝鮮半島を脱出して難民となるよりも故郷で死ぬことを選んだのである。一方、脱出を拒否する避難民達を如何にか脱出させようとする大東亜連合軍と其れに同調した彩峰中将率いる日本帝国軍。結果、国連軍の護りは手薄になりBETAの猛攻に晒されていた。

 

≪ひ…!!た、助けて!戦車級に取りつかれたあ!!≫

 

≪やだやだやだ!死にたくない!死にたく…!!≫

 

≪いやあああああ!!た、たす…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!≫

 

 通信からは前線でBETAに殺されていく衛士達の断末魔の声が入ってくる。此の悲鳴に司令官であるアメリカ人の男性は拳を強く握りしめる。

 

「CP!!帝国軍を呼び出せ!此のままでは司令部は保たんぞ!!」

 

 怒鳴り散らしながら、司令官は指令室の机を思い切り叩く。しばらくして、彩峰中将に通信が繋がる。

 

「彩峰中将!!すぐに帝国軍を援護に向かわせたまえ!でなければ司令部は持たん!!」

 

≪申し訳ありません、ですが帝国軍は無辜の民を見捨てることはできません!≫

 

「馬鹿な!帝国軍は本来国連軍の指揮下にあるのだぞ!!」

 

≪軍人の務めは、民を護ることだと心掛けておりますので≫

 

 其れだけ言い残し、彩峰中将との通信が途絶える。そんな彼に司令官は再び机に拳を叩きつける。

 

「馬鹿な…!確かに、民衆を護るのは軍人の責務ではある…だが、生きることを諦めた死にたがり共の為にいったいどれだけの部下達が死ぬことになるのか解っているのかあの男は!!」

 

 もし、避難民が協力的に避難を行っていれば此処まで時間は掛からなかったろう。寧ろ、此の司令官も避難民救助に協力したかもしれない。だが、肝心の避難民は脱出を拒否して故郷で死ぬことを選んだ。司令官の言葉を借りるなら単なる死にたがりである。そんな彼等の為に此れから先もBETAと戦い続けなければならない前線の衛士達が死んでいく。それが司令官には許せなかった。

 

「司令、国連軍特殊独立戦闘部隊より入電!」

 

「なに…!?あのティターンズとかいうハイマン大将の私兵部隊か!読み上げろ!」

 

「は!『我等、戦場ニ到着セリ。此レヨリ援護ヲ開始スル』とのこと!!」

 

「ちい!了解した…高々十機程度の戦術機と船一隻に何ができるか…だが、いないよりはマシか…!!」

 

 現状、僅かでも戦力の欲しい司令官はティターンズへの返信の後…そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪お前等!戦況は思いの外切迫している!帝国軍は大東亜連合軍と共に脱出を拒否した避難民の救助を敢行、国連軍司令部は陥落寸前とのこと!≫

 

 通信から聞こえるガディの声。それを聞き、涼牙はすぐさまMSに搭乗している隊員達に対しノーマルスーツのヘルメットに内蔵された通信機を使って声をかける。

 

「聞いての通りだ。MS隊は順次発進、戦闘中の友軍を救援する。戦場は乱戦が予想される。ライフルを使うときは気をつけろよ。当然のことだが、此れは訓練ではなく実戦だ。如何に優れた腕があろうとも、どれだけ高性能な機体に乗ろうとも死ぬ可能性をゼロにはできない。だから、決して油断はするな」

 

 涼牙の言葉を聞き、ウルフとヤザンを除く新兵達の顔が引き締まる。

 

「各員…死ぬなよ」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 隊員達の返事に満足そうな顔をし、涼牙はデルタカイをカタパルトに進める。

 

≪カタパルト接続、オールグリーン!ガンダムデルタカイ、発進…どうぞ!≫

 

「氷室涼牙、ガンダムデルタカイ…GO!!」

 

 カタパルトで加速し、デルタカイは発進後すぐにウェイブライダーに変形して戦場に向かう。

 

「………」

 

 涼牙が発進するのを見て、ユウヤは一度深呼吸をする。そして、右手に持った操縦桿を機体に接続する。

 

≪カタパルト接続、オールグリーン!ガンダムX発進…どうぞ!≫

 

「了解!ユウヤ・ブリッジス、GXディバイダー…出るぞ!」

 

 次いで、ユウヤが乗る機体――ガンダムXディバイダーが艦から発進していく。

 

≪ストライカーパックはジェットストライカーを使用!第一小隊、第二小隊…順次発進どうぞ!≫

 

 現状、ティターンズのストライカーパックはジェットストライカー、ソードストライカー、ランチャーストライカーが存在する。当初はエールストライカーも考えられていたが、大気圏内ではジェットストライカーの方が性能が高い為にこちらが開発されていた。

そして、第一カタパルトからはヤザン達第一小隊が…

 

「ヤザン・ゲーブルだ!105ダガー、出るぞ!」

 

「ジェリド・メサ!105ダガー、出る!」

 

「マウアー・ファラオ…105ダガー、出ます!」

 

「カクリコン・カクーラー…105ダガー、行くぞ!」

 

 第二カタパルトからはウルフ達第二小隊が発進する。

 

「ウルフ・エニアクル…ホワイトダガー、出るぜ!」

 

「ゼハート・ガレット…105ダガー、発進する!」

 

「エドワード・ハレルソン…105ダガー、行くぜ!」

 

「アンドレイ・スミルノフ…105ダガー、発進します!」

 

 

 パーソナルカラーに塗られた機体、パーソナルマークを入れられた機体が入り乱れて戦場へと向かっていく。各機が発進してからものの数分で戦場の上空へと接近した。

 

「戦場には光線級も確認されている。各員、警戒を怠るなよ!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 そうして戦場に到着するティターンズのMS隊。その姿を見て声を荒げるものがいた。

 

≪援軍!?たった十機かよ!≫

 

≪例の私兵部隊だとよ!≫

 

≪あいつ等馬鹿か!あんなに高度をとったら光線級に狙い撃ちにされるぞ!≫

 

≪私兵共ってのはBETA戦の常識も知らねえのかよ!!≫

 

 上空から戦場に近づくティターンズに、戦場の衛士達は驚きと侮蔑の声を上げる。本来、戦術機でBETAと戦う際には高度をできるだけ低く保つことが重要となる。高度を高くとれば光線級に狙い撃ちにされ、戦術機は容易く撃墜されるからだ。それこそが航空戦力が無力化された最大の原因であった。故に、現在の戦闘で上空からの爆撃を行う場合には先に戦術機が光線級を殲滅する必要がある。

 

「所詮は私兵部隊、役に立たんか…ましてや、戦闘機なんぞ投入して何のつもりだ?」

 

 その彼等への侮蔑の言葉は国連軍司令官の口からも零れていた。実際、ティターンズの行動は戦術機の運用をする上での常識からは外れたものだった。しかもその部隊の先頭に立つのは一機の戦闘機。BETA戦では戦闘機が大した役に立たないことは戦場にいる者ならば誰もが知っている常識だ。

 

「照射警報!各機散開、俺とユウヤで光線級を狩る!第一小隊、第二小隊は地上の戦術機部隊を掩護だ!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 だが、そんな常識は所詮それまでの常識にすぎない。戦術機とはまるで違う兵器・MSとそれに搭載された新型OS。そして此の一年でそれらを手足の如く使いこなせるようになったティターンズはそんな常識に囚われる道理はない。涼牙の指示を受けた隊員達はすぐに散開、涼牙のデルタカイとユウヤのGXはそのまま空中で光線級の攻撃を回避しウルフやヤザン達は光線級を回避しながら地上へ急降下する。

 

≪お、おい…俺達は…夢でも見てるのか?≫

 

 その姿に戦場の衛士達は驚きを隠せない。此れまで、幾人もの衛士を葬った光線級のレーザー照射。其の攻撃を十機の見たこともない戦術機はいとも容易く回避していく。

 

≪はは…夢だとしたら俺達は全員同じ夢を見てんのか?≫

 

≪嘘だろ?レーザー照射を避けるなんて…≫

 

 此れまでにありえなかった105ダガーの行う回避機動。此れまでの常識を打ち破る彼等の行動に此の戦場にいるものは例外なく驚愕する。

 

「MS全機戦場への到着を確認しました!」

 

「よし、本艦も前進!」

 

 MS隊の戦場到着を確認するとガディもアークエンジェルを動かし、戦場へ向かわせる。

 

「前線のBETAはMS隊が対応する!本艦は後方から湧き出るBETAを攻撃、少しでもMS隊や戦術機の負担を軽減する!前方の友軍に警告!バリアント一番二番、ミサイル発射管スレッジハマー装填、ゴッドフリート照準!」

 

 ガディの号令に合わせ、アークエンジェルの武装が展開し後方のBETAに照準を合わせる。

 

≪な、なんだありゃ!?≫

 

≪飛行戦艦!?≫

 

「撃てえええええええええ!!」

 

 その瞬間、アークエンジェルの砲火が発射される。スレッジハマーがBETAを蹴散らし、バリアントとゴッドフリートが其の身体を貫いていく。其の光景を尻目に、MS隊も各々戦場での戦いを開始していた。

 

「いぃやっほおおおおおおお!!さあ、狩りの時間だ!第二小隊各員!第一小隊に遅れんなよ!」

 

 ウルフの乗る105ダガー――通称「ホワイトダガー」は地上の戦術機部隊に近づこうとするBETAにビームライフルを撃つ。さらに、ビームライフルでは巻き添えにしてしまうほど戦術機に近づいたBETAには着地しながらビームライフルをマウントし、ビームサーベルを抜き放って両断する。

 

「おらよ、ビームとミサイルを大量に食らわせてやるぜBETA共!!」

 

 さらに戦術機を護るように立つとビームライフルと無誘導ロケット弾ポッドを発射。ビームの熱量とミサイルの爆風がBETAを吹き飛ばしていく。

 

≪おい、なんだよあの戦術機!レーザーを撃ったぞ!≫

 

≪光学兵器とでも言うのかよ!んなもんが完成してるなんて聞いたことないぞ!≫

 

 105ダガーが撃つビームライフルに戦場にいた衛士達は先程のレーザー照射回避以上の驚愕を露にする。

 

「ちっ、やっぱり射撃は苦手だぜ!」

 

 一方、エドワードの乗る肩に二本の剣が交差したパーソナルマークを入れられた105ダガー。彼の機体はビームサーベルを抜き、高速で移動し始めると次々にBETAを両断していく。

 

「そら、此れでどうだい!?」

 

 両断されたBETAの死骸に僅かに足を鈍らせるBETA。其処にエドワードは空対地ミサイル・ドラッヘASMを叩き込んで爆葬する。

 

「まったく、二人共突っ込みすぎです!」

 

「あぁ?お前等が援護してくれんだろ!」

 

 真っ先に突っ込んだ二人を掩護するため、吼える熊のパーソナルマークが入れられた105ダガーがビームライフルで二人に近付くBETAを精確に撃ち抜いていく。其の機体に乗る衛士・アンドレイが苦言を呈するが、ウルフは何処吹く風とビームライフルとビームサーベルを駆使してBETAを倒していく。

 

「あの二人に言っても無駄だろう、此れが俺達なりの連携ということだ。それに、なんだかんだでウルフ小隊長は視野を広く戦況を見ている。問題はないだろう」

 

「まったく…こんな疲れる連携は御免被りたい」

 

 地上でBETA相手に切り込むウルフとエドワード。そんな二人を冷静な視点で援護するゼハートとアンドレイ。シミュレーターの頃からこの調子なので、もはや完全に慣れ切った二人だった。また、ただ突っ込んでいるように見えるウルフは実際にはきっちり戦局を見据えており隊員にはちゃんとフォローを入れられる男である。

 

≪ひっ!!たす…助けてくれ!戦車級がぁあああ!!!!≫

 

 そんな時、105ダガーの通信に味方の戦術機に乗る衛士の叫び声が入る。

 

「アンドレイ、援護を頼む!」

 

「ゼハート!…全く、手のかかるのは二人だけではないな!」

 

 呆れながらアンドレイはビームライフルで戦術機の元へと向かうゼハートを掩護する。

 

 

――ギュイン!!

 

 

「…見えた…!!」

 

 僅かに戦術機の動きの先が見える。その感覚を不思議に思いながらも、ゼハートは自らの愛機である真紅に塗装された105ダガーを走らせる。

 

「其処ッ!!」

 

 瞬時にビームサーベルを抜き放ち、戦術機に取りついていた戦車級を全て切り落とす。

 

「動けるか!?」

 

≪あ、あぁ…≫

 

「よし!」

 

 戦術機がまだ動けることを知るとゼハートはすぐにビームサーベルをビームライフルに持ち直し、近付いてくるBETAをビームライフルで蒸発させる。

 

「ヌハハハハハ!ウルフ達も派手にやっているな!」

 

 青く塗装された105ダガーに乗るヤザンは嗤いながらBETAを上空からの射撃で撃ち抜き、ドラッヘで吹き飛ばす。

 

「此の、化け物共があ!」

 

 さらに左肩に赤い星のパーソナルマークの入った105ダガーに乗るジェリドが戦術機を護るように前に立ち、ビームライフルで要撃級と突撃級を。さらにイーゲルシュテルンⅡで小型種達をズタズタにしていく。

 

「ジェリド、突っ込みすぎるなよ!」

 

「解ってる!」

 

「なに、ジェリドが突っ込んでも私が背中を護る!気にするな!」

 

「すまん、マウアー!」

 

 第二小隊とは対照的に、第一小隊は突出しがちのジェリドの背中を護るようにカクリコンとマウアーが連携する。

 

「ヌハハハハハ!あまり無茶するなよヒヨっ子共!」

 

「なぁに、ジェリドは第二小隊の連中よりもまだ可愛いもんでしょう!」

 

「違いない!!」

 

 カクリコンの返答に上機嫌に笑いながらヤザンはBETAを次々に殺していく。突出しがちなウルフとエドワード、さらに場合によっては突っ込むゼハートを冷静なアンドレイが援護する第二小隊。対して小隊員の三人が連携を行い、ヤザンがそれを冷静な視点で見つつ時折援護するというスタイルをとる第一小隊。この二つの小隊は戦い方こそ違えどもこれまでの戦術機では考えられない速さでBETAを駆逐していく。

 

「ははっ、あいつ等は順調だな!」

 

 そんな両小隊の様子を見ながら、涼牙の乗るデルタカイはウェイブライダー形態でレーザー照射を回避し続ける。

 

「其処だなっ!」

 

 デルタカイは空中でMS形態に変形すると、ロングメガバスターでレーザー照射の来た場所を撃ちながら地上へ急降下する。

 

≪な、なんだあ!?≫

 

≪戦闘機が…戦術機に!!≫

 

 そんな衛士達の驚愕を尻目にデルタカイは地上ギリギリで急停止し、ハイメガキャノンを発射しながら腕を横に振るってBETAを纏めて薙ぎ払うとそのまま急上昇する。

 

「行けよファンネル!」

 

 さらにデルタカイのフィンファンネルを射出。ファンネルは様々な場所に飛んでいき、BETAを撃ち抜いていく。

 

≪な、なにが飛んでるんだ!?≫

 

≪奴等の戦術機はビックリ箱か何かか!?≫

 

 もはや理解の範疇を超えたデルタカイの戦いに唖然とする衛士達。彼等がそんな風に思っているとはなんとなく予想しながらも涼牙はデルタカイを駆ってBETAを殲滅していく。

 

「そぉら、食らっとけ!」

 

 地上で戦術機に取りついた戦車級をビームサーベルで排除しながら、振り向きざまに再びハイメガキャノンで纏めて薙ぎ払う。

 

「ふぅ…」

 

 さらに、GXに乗るユウヤは上空を高速で移動しながらひたすら精確無比な射撃を行っていく。BETAの密集している場所にはビームマシンガンの連射モードで面制圧射撃を行い、戦術機に近付いているBETAには威力重視の単射モードで撃ち抜く。

 

≪ひっ!?≫

 

 するとGXのメインカメラが要撃級に攻撃されている戦術機を捉える。

 

「…狙い撃つ!」

 

 ユウヤはすぐに単射モードで要撃級の前腕を精確に撃ち抜く。次いで、そのまま要撃級のもう一方の前腕。さらに身体を撃ち抜いて排除する。

 

≪な、なんて精確な射撃を…!?≫

 

 ユウヤに救われた衛士はその射撃の腕に驚愕する。百m以上離れた上空から要撃級の前腕のみを、しかも動きながら撃ち抜いたのである。もはやユウヤは射撃の腕ではティターンズでもトップクラスの腕前になっていた。

 

「…すぅ…ふう…」

 

 上手く撃ち抜けたことにユウヤは深く息を吐く。初陣で、涼牙から特別な機体――ガンダムを任されたというプレッシャーが其の身体に圧し掛かる。しかし、ユウヤは其のプレッシャーに決して屈しない。自身の最も得意な射撃で次々にBETAを撃ち抜き、友軍の戦術機を救っていく。

 

「要塞級、ならこいつで…!」

 

 ユウヤの視界に巨体を誇るBETA、要塞級が映る。其の内部にBETAを輸送する能力を持つ此のBETAは倒した後も中からBETAが出てくる可能性があるので油断はできない。

 

「ハモニカ砲で一気に叩く!」

 

 GXが持つ特徴的な巨大な盾――通称「ハモニカ砲」を構えると其の前面が二つに割れ、複数の砲口が顔を出す。そして其処から放たれる集中放射で要塞級の胴体部分を一気に撃ち抜き、中のBETA諸共排除した。

 

「光線級は片付いたな。よし」

 

 ロングメガバスターを撃ちながら、涼牙は全てのMSに通信を入れる。

 

「各機、聞こえるか?俺は此のまま帝国軍と大東亜連合軍の避難民救助を支援する。必要な機体は補給を順次終わらせろよ」

 

 涼牙は指揮を出し終えると其のままデルタカイをウェイブライダーに変形させ、避難民支援へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間を遡って――避難民の救助に当たっていた日本帝国軍と大東亜連合軍は遅々として進まない避難に悪戦苦闘していた。

 

「ぐ…此のままでは…」

 

 日本帝国軍を指揮するのは彩峰萩閣中将。中将と言う立場にありながら戦術機に乗って前線に立つ人物であり、其の人格と能力から軍部での人望も厚い人物である。彼は自身の乗機である不知火でBETAを倒しながらも現在の戦況に歯を食いしばる。

 

≪彩峰中将!!すぐに帝国軍を援護に向かわせたまえ!このままでは司令部は保たんぞ!≫

 

 通信で再三司令部からの援護要請が入る。しかし彼は其の指示に従おうとはしない。

 

「申し訳ありません、ですが帝国軍は無辜の民を見捨てることはできません!」

 

≪馬鹿な!帝国軍は本来国連軍の指揮下にあるのだぞ!!≫

 

「軍人の務めは、民を護ることだと心掛けておりますので」

 

 其れだけ言うと彼は通信を切る。彼自身、此の戦いの指揮官に明確な不満があるわけではない。此れだけ大規模な撤退作戦の指揮を任せられる人物が無能な訳がないのだから。しかし、其れでも彩峰は此の場を離れるわけにはいかなかった。彼の背後には未だ多くの避難民がいる。何の罪もない無辜の民を見捨てることは彼の帝国軍人としての誇りが許さなかった。

 

「(司令官の憤りも解る…彼等は死にたがっているのだ…だが、それでも!)」

 

 それでも目の前にいる民を見捨てることができなかった彩峰は大東亜連合軍に同調して避難民救助に当たる。

 

「(此の戦いが終わったら、命令違反で軍法会議か…致し方無し。だが、民を護れるならば!)」

 

 此の戦いの後の自身に降りかかるであろう事態に苦笑いを浮かべ、其れでも行動を変えようとはせずに長刀でBETAを切り捨てる。

 

「味方の被害状況はどうか!?」

 

≪はっ!すでに斯衛軍一個大隊の半数以上が討たれ、帝国陸軍と大東亜連合も被害は甚大です!≫

 

「避難状況は!?」

 

≪避難民は未だ避難を拒否しており難航しています!まだ時間は掛かりますね!≫

 

「了解した!全帝国軍機、聞こえたな!我等は此の場を死守する!一匹たりとも後方に送るな!我等の背には無辜の民の命が掛かっているのだ!!」

 

≪≪≪了解!!≫≫≫

 

 綾峰の檄に帝国軍人達は一斉に返事をし、BETAを相手に食い下がる。

 

≪ああ!?せ、戦車級が…!≫

 

≪うわ…!?き、機体が動かない!ひい!?やめ…来るなあ!!≫

 

≪いやあ!!助けて…≫

 

 しかし、圧倒的物量を誇るBETAを相手に次々に帝国軍や大東亜連合軍の戦術機は撃破されていく。

 

「ぐぅ…保たんか…!!」

 

 何体倒しても後から後から湧き出るBETAに彩峰の頬を嫌な汗が伝う。だが、その時だった。空から一条の光の柱が降り、其のままBETAを纏めて薙ぎ払った。

 

「な、何が…!?」

 

 自らの眼前に降り注いだ光の柱と、纏めて薙ぎ払われたBETAの群れ。其の光景に彩峰は目を丸くする。

 

≪聞こえるか!帝国軍!指揮官はどちらか!?≫

 

「っ…!?私が帝国軍の指揮をとる彩峰萩閣中将だ!」

 

 通信に入った若い男の声に驚き、彩峰は慌てて返事を返す。

 

≪此方、国連軍特殊独立戦闘部隊ティターンズの氷室涼牙少佐です!避難民救助の状況を教えていただきたい!≫

 

 ハッキリと告げられる日本人の名前に彩峰は驚愕する。彼もティターンズの事は聞いていた。アメリカ人であるジャミトフの創った独立部隊――其の特性からジャミトフの私兵と揶揄されている事も知っている。其の指揮官たる人物が自らと同郷の日本人なのが彼には信じられなかった。

 

「…未だ避難民は脱出を拒んでおり、遅々として進まぬ状況だ」

 

 だが、自身の中に渦巻く幾つもの疑問を押し殺し彩峰は簡潔に現在の状況を説明する。現在最も重要なのは避難民の救助、故に彼は己の疑問を一切口にはしない。

 

≪了解しました。此れより援護を開始します≫

 

 そう返答するとデルタカイはロングメガバスターを発射し、BETAを蒸発させる。

 

「…!アレは…光学兵器か!?」

 

 彩峰の驚愕を尻目に、デルタカイはファンネルを飛ばして帝国軍及び大東亜連合軍に近付くBETAを攻撃。さらにハイメガキャノンでBETAを薙ぎ払う。

 

「何故…国連軍に…米国に支配された、国連軍の部隊指揮官に君のような…日本人の若者が…」

 

 誰にも聞こえないような声で彩峰は呟いた。

 

 

 

 

 此の日、此の時――光州作戦は成功を収める。否、それどころかBETAの前に敗北を続けてきた人類は遂に勝利の美酒を味わうこととなった。其の勝利の美酒をもたらしたのは――たった十機のMSと一隻の戦艦。

 

 此の戦いは後に人類の反撃が始まった戦い――光州の奇跡として、人類の歴史に刻まれることとなる。

 

 

 

 




以上でした。設定資料の方にアークエンジェルやダガーの事を載せました。


次回予告

遂に表舞台に立ったガンダム

その圧倒的な力は各国に大きな波紋を広げていた

そして、その波紋は国だけでなく反体制側の人間達にも及ぶ

次回、世界の反応

ガンダムの力に、世界が揺れる

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