Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

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最新話でなく申し訳ありません。

実は今回、出すはずだった人物を出し忘れてしまったので新たに追記して更新しました。

最新話は現在執筆中ですのでもう少々お待ちください。


第十九話 世界の反応(改)

 光州作戦終了後、ティターンズの司令官であるジャミトフのもとには様々な国から説明を求める声が集まっていた。当然、その説明の内容は光州作戦で活躍し作戦を成功に導いたMS及びアークエンジェルに関してであった。戦術機を遥かに超える空中での光線級の攻撃回避を可能とする機動性。そして何より、どの国でも実用化の目途すら立っていないビーム兵器を標準装備していた為である。

 

「あの兵器の名称はMS。戦術機とは全く違う概念を持って開発された新型機動兵器です」

 

 そうして説明を求める声に対し、ジャミトフはアズラエルと共に臨時に開かれた国連総会で各国への説明を行っていた。説明を行う二人の後ろにある巨大モニターには光州作戦におけるMSの姿が映し出される。二人は機密に触れないレベルで其々の機体の説明を行う。

 

「MSは装甲から駆動系に至るまで戦術機とは全く違う技術や概念で開発された機体です。現状、ティターンズのみに配備されているこれらの機体は我等アズラエル財団とティターンズの実働部隊長である氷室涼牙少佐が共同で開発した機体であり、其の機体を運用する為にハイマン大将が部隊を設立いたしました」

 

 アズラエルが真剣な顔で各国の代表達に説明していく。そんな彼の説明に各国の代表達はざわつく。

 

「ティターンズの主力量産機は此の機体、105ダガーです。此の機体は汎用性を重視し、複数の装備を換装することで様々な戦況に対応できます。当然、どの装備の場合でもビーム兵器を標準装備しています」

 

 映像の中で次々にBETAを撃破していく105ダガー。その姿に各国代表は皆一様に難しい顔をしている。高々十人程度の衛士しかいない部隊が凄まじく高性能の兵器を所有している。此れは彼等にとっては由々しき事態であった。可能であれば一機でも入手したいと其の脳裏で考えを巡らせている。

 

「次に、ティターンズの旗艦であるアークエンジェル。此の戦艦は此れまでの艦と違い、空を飛ぶことで広範囲での作戦行動を可能としています。当然、此方も主砲にビーム兵器を採用しています」

 

 次いで映し出されるのは後方からの援護射撃を繰り返すアークエンジェル。戦闘の行える空中戦艦など此れまで空想の中にしか存在しなかったが故に各国代表は食い入るように映像を見つめる。

 

「最後に…」

 

 其れまでアークエンジェルが映されていたモニターが切り替わり、二機のMSが映し出される。

 

「戦闘機への可変機構を有するのがガンダムデルタカイ、巨大な盾を有するのがガンダムX。これらの機体こそが我等ティターンズの象徴ともいうべきMS――ガンダム。此の地球の守護者として生み出されたエース専用の機体であります」

 

 アズラエルの言葉を引き継ぎ、ジャミトフが口を開いた。各国の代表は105ダガーを遥かに凌駕する二機の性能に目を奪われる。

 

「此の場を借りて各国の皆様方にお伝えします。我等ティターンズは此れより先、我々が保有する独立行動権を持って世界各国を駆け回りBETAと戦うことをお約束いたします。無論、未だ規模の小さい部隊故に至らぬこともあるでしょう。ですが、未だ世界各地で奮闘する皆様方をお助けする為に此のティターンズは起ったのです。故に、全力を持って世界各地に急行し戦うことを此処の宣言します」

 

 立ち上がり、各国の代表を見渡しながら語るジャミトフ。其の姿に再び各国の代表達は困惑する。

 

「私の方からも一つ――現在、我がアズラエル財団では105ダガーの簡易量産機を販売する準備を進めています。当然、これらの簡易量産機もビーム兵器を標準装備しており、BETAと戦う前線国の方々に優先的に販売いたします。また、MSに使用されている新型OSの戦術機版の提供も予定しており、此のOSを搭載すれば現行のOSよりも遥かにスムーズな動きを可能とします」

 

 アズラエルの宣言に、各国代表――特に前線国の代表達は歓声に近い声を上げた。そんな中、一人の代表が手を挙げて質問する。

 

「アズラエル代表、105ダガーではなく簡易量産機を販売する意図とは?販売するならばより性能の良い機体のほうが良いのでは?」

 

「御尤もな疑問ですね。最大の理由はコストです。105ダガーは少数精鋭の部隊で運用する為に開発したためにコストが高く、また各ストライカーパックも準備しなければならない為に販売額も大きくなります。よって、コストの低く数の揃え易い簡易量産機の販売を行うのです。無論、ゆくゆくは105ダガーの販売も視野に入れておりますが…如何に簡易量産機とはいえ戦術機を大きく上回る性能を持っているということは御約束いたしましょう」

 

 代表の質問に対して淀みなく答えるアズラエル。其の返答に一応納得したのか、代表は其のまま座る。そうして、臨時の国連総会は閉幕した言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アメリカ合衆国では軍部のトップや政治家達が集まって話し合いを行っていた。当然、其の内容はティターンズの事である。

 

「あの私兵部隊(ティターンズ)が光州作戦を成功に導いたってのは本当なのか?」

 

 未だ、ティターンズの戦闘映像を見ていないのだろう。其の問いに戦闘映像をすでに見ていた者達は忌々しげな顔で頷いた。

 

「無論だ。此れが其の映像だ」

 

 其の言葉と共にMSの戦闘映像が流される。するとすぐさまその場の全ての人間の顔色が変わる。

 

「…おいおい、此れはSF映画か?私は光州作戦の映像を見せてほしいのだが?」

 

「信じられないのも無理はないが…此れが其の光州作戦の映像だ。奴等は未だどの国でも開発されていないビーム兵器を搭載し、光線級の攻撃を回避できるだけの性能を持った機体を配備しているのだ!しかも、開発に携わったリョウガ・ヒムロはジャップだという」

 

 そう語りながら、彼は拳を強く握りしめる。此の事態は此の場にいるすべての人間達にとって予想外すぎたのだ。

 

「おのれハイマンめ!元より此の兵器の配備があったから正規軍の指揮権を放棄してまで独立部隊の設立を行ったのだ!」

 

「どうする?アズラエル財団は前線国に此の機体の簡易量産機を優先販売するという。此れでは我が国の戦術機の需要が激減するぞ!」

 

「決まっている!奴等に命じてMSを接収すれば良いだけの話だ!」

 

「馬鹿を言うな!奴等には何者も介入できない独立権を与えてしまっている!それを、予想外の戦力があったからと無視しては我が国の信用問題だ!何より、あの男がそんな言葉に従うわけがない!最悪、あの力が我等に向くぞ!」

 

「そもそも!国連に所属させよう等と言わなければ彼等は我が軍の一員として使えたのはないのか!?」

 

「そうとも!悪戯にハイマン大将を排斥しようとするからこうなるのだ!」

 

「ではあの時点であれ程の戦力があると予測できたというのか!?」

 

「だいたい、我が国の戦術ドクトリンはG弾を基本としている!どのみちハイマン大将とは解り合えんよ!」

 

「其れが間違いなのだと言っている!G弾に拘りすぎればいずれ我が国の首を絞めることになるぞ!」

 

 ティターンズにどう対処するかを話し合うも、全く解決策が出てこない。ジャミトフのことを知っている彼等は、ジャミトフが必要とあらばアメリカに牙を剥く可能性があることを理解している。故に強硬策にも出れなかった。さらに、G弾推進派と此れまで表立っていなかった反対派も対立し始めていた。

 

「そうだな、強硬策に出るとしてもことを急いではいかんだろう。君、我が国で開発中のラプターとの戦力比はどのぐらいだ?」

 

「は、はい…戦闘データからの計算ではありますが…少なく見積もっても50対1…ティターンズの105ダガーに乗っている衛士がエース級であることを考えると此の数値となります」

 

「…成程、つまり105ダガーに搭乗する衛士の腕が新兵レベルならばもっと下がるというわけだな?」

 

「はい…また、アズラエル財団が販売するという新型OSの性能如何ではさらに戦力比は縮まるでしょうが…其れでもラプターでは105ダガーに歯が立ちません」

 

 研究者に訊ねた男性のこめかみがぴくぴくと震える。映像データでも解る105ダガーの性能。戦術機を遥かに上回る機動性と火力。恐らく装甲も戦術機とは比べ物にならないだろうことを彼は予測する。あの機動性に撃墜できるまで攻撃を当てなければならないとなると此の戦力比は仕方がないと頭では理解していた。

 

「…我等が最新鋭機として開発を急がせているラプターが、手も足も出ない機体がすでに実戦配備されているだと…ハイマンめ…!ガンダムとの戦力比はどうなっている?」

 

「は…恐らくは…1000対1にはなるかと…105ダガーをも大きく超える機動性にあの殲滅力…現行の戦術機で太刀打ちするのはまず不可能です」

 

 忌々しい事実に怒りの形相を浮かべる。だが彼は如何にか平静を保ち、冷静に頭を働かせる。

 

「とにかく、ラプターの性能をできる限り向上させろ。其れと、簡易量産機の販売が開始したらせめて一機でも手に入れて解析に回すのだ!新型OSも入手次第、教導部隊に回して検証を行わせろ!ええい、忌々しい…ハイマンにアズラエル、そしてリョウガ・ヒムロ…薄汚い黄色猿が…!」

 

 その後も、彼等は必死にティターンズへの対抗策を練るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ヨーロッパでも欧州連合各国の代表が集まってティターンズに関する話し合いが行われていた。

 

「諸君、知っての通り光州作戦は成功に終わった。たった十機の兵器によって」

 

「戦闘データを見たが、あの力は異常だろう。特に、ガンダムと言ったか?たった一機の戦術機にあれだけの火力を持たせるとは」

 

「スペイン代表、戦術機ではなくMSです。此の機体は戦術機とはそもそもの設計概念からして違うとのことなので」

 

 スペイン代表の間違いをフランス代表が指摘する。

 

「いや、此れは失礼…して、此の部隊をどうするかだが…」

 

「とにかく、まずはユーラシア奪還の為に共同戦線を張るのが重要だろう。ハイマン大将は前線国の支援を大々的に発表してくれたのだ。人数が少ないから常にと言うわけにはいかんだろうが…其れでも此れまで以上の戦果は挙げられるだろう」

 

「それでも、いつまでもティターンズに頼るわけにもいかん。此方もアズラエル財団からMSを購入して研究するしかあるまい。其れまではティターンズとの共同戦線を行うほかあるまい。其れと、OSの方の購入もな」

 

「しかし、アメリカの狗である国連がこれほどの部隊を結成するとは」

 

「いや、そうとは言えまい」

 

「というと?」

 

 イギリス代表の言葉にフランス代表が聞き返す。

 

「ハイマン大将がアメリカの軍内で孤立していたのは諜報部の調べで解っています。其のハイマン大将が国連に移ってまで結成した部隊。アメリカとは全く別の部隊と思った方が良い」

 

「成程…」

 

 ティターンズの登場に危機感を募らせるアメリカに対し、ヨーロッパ諸国は彼等を上手く利用する方針で纏まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、アラスカのソ連首脳部でもティターンズに対する考察が行われていた。

 

「資本主義の狗め、此れほどの兵器を隠し持っていたとは」

 

 映像データを目にし、書記長は忌々し気に顔を歪める。

 

「しかし、あの部隊はアメリカとは関係が薄い…或いはないと考えられますが」

 

「ほう、何故そう言えるのかね?同志アブラモフ」

 

「はっ…KGBの情報によればジャミトフ・ハイマンはアメリカ軍部で孤立していました。その彼に、あれだけの兵器を有する部隊を指揮する権限を与えるとは思えません。何より、正規軍の指揮権を剥奪した点も彼がアメリカ軍部との関係が断たれていることの証明になるかと」

 

「成程」

 

 書記長は其の説明に納得し、頷く。

 

「とにかく、当面は此れより販売されるMSの解析と新型OSの検証だ。そしてティターンズへの共同戦線の打診を行う。もしもあの部隊の機体が撃墜された場合、回収することを視野に入れてな」

 

 こうして、ソ連でもティターンズを上手く利用する方向で考えを纏めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ティターンズに対する考察は此処でも行われていた。日本帝国である。

 

「MSか…国連もとんでもないものを投入していたな」

 

 国会の会議室で、内閣総理大臣の榊是親は溜息を吐く。

 

「やはりあの部隊は、アメリカの部隊とは言えないのでしょうか?」

 

「うむ、まず間違いあるまい」

 

 議員の言葉に、榊は頷く。

 

「情報省からハイマン大将が米国軍部で孤立していたという確証は得ている。その彼が、今更米国に素直に従うとも思えん。寧ろ、米国から離れる為に国連に移ったと考える方が自然だ」

 

「…確かに」

 

「ところで、氷室少佐についてですが…城内省からはなんと?」

 

 彼等、日本帝国は他国以上に涼牙に対して関心が強かった。何せ、日本人である涼牙が実働部隊長でありMSの開発関係者なのである。自国の者がそんな地位にいることに関心が行かないはずがない。

 

「それがな…城内省のデータベースには彼のデータはないらしい。いや、無論氷室と言う姓の人間は数多くいる。だが、氷室涼牙と言う人物のデータは一切存在しないらしい」

 

「そんな馬鹿な!!」

 

 榊の返答に、議員は驚きで声を荒げる。城内省のデータベースには全ての日本帝国民のデータが入っている。しかし、涼牙に関してはその痕跡は一切発見できなかったとのことだ。

 

「それでは彼は、国外に渡った日本人の子孫とか?」

 

「それもない。データベースの氷室姓の人間には移住したという記録がないのだ」

 

「では…彼はいったい…」

 

 まさか異世界の人間だなどと想像できるはずもない。涼牙に関して何も知ることができなかった。

 

「彼のこともそうだが…MSに関しても考えなければなるまい。軍部はアズラエル財団から購入し、解析をしたいという考えだ」

 

「それは当然でしょう。寧ろ、一切異存はないかと」

 

「うむ、其れと新型OSも購入し富士教導隊で検証を行うことも軍部では考えている」

 

「そうですね、それも必要でしょう」

 

「異存はありません」

 

 榊の言葉に異存はないと議員達は頷く。

 

「それと、もう一つ…彩峰中将に関してだ。結果的にティターンズのおかげで司令部陥落は免れ、光州作戦も成功。避難民も無事に救出できたが、国連軍からは彩峰中将の命令違反に対して厳罰を求める声が多い」

 

 彩峰の行動は大東亜連合や帝国軍からは称賛を受けたが、一方で国連軍からは司令部陥落の危機を招いたとして日本帝国に厳罰を求める声が寄せられていた。

 

「幸い、国内で厳重に処罰するということで国連を納得はさせた」

 

「処断なさるのですか?」

 

「仕方あるまい、逆らえば帝國主導のオルタネイティブ4が失速するし国連に参加している多くの国からも批判が出る。だが、此れで軍部の反発は免れんだろうな」

 

 榊は溜息を吐く。彼自身、彩峰とは知らぬ仲ではない。だが、帝國の為に私情を挟むことはできなかった。そうして、重々しい空気が蔓延する中で会議は遅くまで続いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…シャワー浴びて来ねえとな」

 

 インド東部アンダマン諸島アンダマン基地。其処ではテストパイロットとして転属となったタリサが日々、試作機の運用テストを行っていた。彼女は此の日のテストを終え、シャワーを浴びようと通路を移動している。すると、前方の三人が何やら話しているのが見えた。

 

「おい、聞いたか?此の前に行われた光州作戦だけどよ、なんでも十機の戦術機が成功させたらしいぜ?」

 

「あぁ、その話なら俺も聞いたぜ。なんでも空中で光線級の攻撃を回避したり、光学兵器を使う戦術機を国連が使ったって話だろ?」

 

「(…空中で光線級回避?光学兵器?)」

 

 そんな彼等の会話が耳に入り、タリサはピタリと立ち止まる。

 

「あと、何でも戦闘機に変形する戦術機がいるらしいぜ?確か…ガンダムとか言ったな」

 

 恐らく彼等はまだ噂で聞いたレベルなのだろう。実際、MSに関することは今のところ国家や軍の上層部と光州作戦に参加した人間以外には詳しくは知らされていない。しかし、彼等が聞いた噂は殆ど間違っていなかった。

 

「(戦闘機に変形する…ガンダム…!?)」

 

 其処まで聞いて、タリサの脳裏に想い人の姿が思い浮かびすぐさまその場を駆け出す。

 

「へぇ~、そんな戦術機があんのか。整備士としては是非とも弄ってみたいもんだな」

 

「其の話は本当か!?」

 

「うお!?マナンダル少尉!!」

 

 いきなり大声で問いかけられ、三人は驚愕する。どうやら彼等は整備兵であるらしく、休憩中に此処で談笑していたらしい。

 

「さっきの話本当かよ!戦闘機に変形するガンダムって!?」

 

「は、はい。俺達も噂で聞いただけですが…なんでも其の戦術機が光州作戦で大暴れしたとか…」

 

「そっか、ありがとよ」

 

 整備兵に礼を言うと、タリサは三人に背を向けて其の場を後にする。

 

「(デルタカイだ…涼牙、来たんだな!)」

 

 彼女は確信していた。彼等が話していた戦闘機に変形するガンダムと言うのは涼牙の愛機であるデルタカイであると。

 

「リョウガに…会えるかもしれない…!」

 

 彼の顔を思い出すだけで胸が高鳴り、首に掛けた涼牙のドッグタグを強く握り締める。

 

「そう言えば、国連軍って言ってたな…」

 

 其処まで考えて、タリサは歓喜する。涼牙は現在国連軍にいる――ならば、自分も其の部隊に転属することができるのではないかと。

 

「そうと決まれば!!」

 

 そして、タリサは駆け出した。件の部隊の事を調べ、其の部隊に希望転属する。そして彼に自分の想いを伝えようと。

 

 しかし、悲しいかなタリサはすでに別の場所――アラスカはユーコン基地への転属が決まっていた為に、其の転属願いが聞き届けられることはなかった。結果、彼女が涼牙と再会するのはさらなる時間を要することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「国連め、こんなものを開発していたのか…」

 

 薄暗い部屋の中、何人かの男達がモニターに映し出されたMSの映像を見ていた。彼等の表情は一応に怒りの色が見えている。

 

「難民達の生活を無視して、いつの間にこんなものを…!」

 

 彼等は難民解放戦線。現在、BETAによって発生した難民に対する扱いに不満を抱きそれを改善させようとする所謂テロリストである。

 

「………」

 

 そんな中、一人だけ会話に参加せずにモニターを食い入るように見ている金髪に真紅の瞳を持つ青年がいた。彼は男達の会話にまるで興味を示さず、後ろの椅子に胡坐をかいて座ってモニターを見ている。そしてその隣には銀色の髪の幼い少女が座っていた。

 

「同胞から流れてきた情報では、此奴はMSっていう戦術機とは全く別の兵器らしい。開発はアズラエル財団とリョウガ・ヒムロ――此の変形する機体、ガンダムの衛士の共同開発らしい」

 

 傍らに立っていた男が映像をデルタカイのところで停止させ、さらに何処かで入手した涼牙の顔写真も画像に映し出される。

 

「…おい、此のヒムロって奴の経歴は解るか?」

 

「いや…帝國に潜入している同胞の情報では一切データがないらしい。他にも色々調べてはいるが、経歴不明とのことだ」

 

「へぇ…」

 

 青年は其の質問に答えて貰った後、再びモニターに目を移す。

 

「しかし、アズラエル財団は確かに大企業だが…戦術機開発の実績はないはずだ。にも拘らず、こんなものを…」

 

「案外、アズラエル財団が開発したんじゃないのかもな」

 

 不意に口を開いた青年に周りの人間達は一斉に視線を向ける。

 

「ジュニア、どういうことだ?此の機体はアズラエル財団が造ったのではないというのか?」

 

「いや、確かに造ったのはアズラエル財団だろうな。だが、妙なことがある」

 

「妙なこと?」

 

 其の問いかけに頷くと、ジュニアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「此の105ダガーって機体だけなら極秘開発してたって可能性もある。だが、問題は此のガンダムだ。此奴は105ダガーと技術系統が違いすぎる。明らかに、全く別種の技術で建造された機体だ」

 

「其れが?」

 

「解んねえか?普通、ワンオフ機にするとしても量産機と多少の互換性は持たせるはずだ。じゃねえと、修理なんかで苦労するしな。だいたい、此れだけ性能の高い機体だ。ガンダムなんぞ造らんでも十分な戦果を挙げられる。にも拘らず、全く技術体系の違うガンダムと全く同時に実戦に投入された。此れは、ガンダムが後に開発されたんじゃなく105ダガーが出来る前にガンダムが存在していたからだ。其処で俺が出した結論だが…此のガンダムを持って来た奴が105ダガーの設計図をアズラエル財団に持ち込み、財団が其の設計図通りに造ったって訳だ。完成された設計図通りに造るなら、一から開発するよりも遥かに早く」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、ジュニアは自身の考えを周りの人間達に聞かせていく。

 

「それ、見ただけで解るのか?」

 

「まぁ、凡人には無理だろう。目の前の現実すら見ようとしないからな。だが、俺様には見える。どんな不都合な現実からも目を逸らさない。そう…俺様には全てが見える」

 

 ジュニアの傲岸不遜な物言いに、傍らの少女を除く周りの人間達が不快な表情を浮かべる。だが、ジュニアはそんなことは気にせずにモニターに視線を向けている。

 

「そして、ガンダムと設計図を持ち込んだのは此奴だ」

 

 ジュニアは迷うことなく、モニターに移された涼牙を指さした。

 

「此れまでの経歴が一切不明のガンダムの衛士。恐らく此奴が、MSをアズラエル財団に持ち込んだ張本人だ」

 

 其の言葉に、周りの視線はモニターに映された涼牙に向く。

 

「だが、其れが真実だとして…此のガンダムはいったい何処で造られたんだ?105ダガーにしたって設計図があるってことは何処かに設計者がいるってことだろ?」

 

「…案外、此の地球で造られたもんじゃねぇかもな」

 

「…は?」

 

 ジュニアの突然の発言に周りが唖然とした。

 

「此奴は、明らかに今の地球の技術で造れるレベルじゃねえ。だとすると、BETAみたいに他所の星から来たか…或いは異世界から来たか…」

 

 其れを聞き、其の場には暫しの沈黙が訪れる。そして…

 

「「「ぷ…あはははははははは!!!!」」」

 

 其の沈黙は周りの人間達の爆笑によって破られた。

 

「お、おいジュニア!そりゃあSF小説の読みすぎだぜ!」

 

「何を言うかと思えば…そんなことあるわけねーだろ!」

 

 腹を抱えながらジュニアの考えを否定する人間達。其れをジュニアは冷めた目で見ていた。

 

「へっ…まぁ、お前等が信じるとは思ってねぇよ」

 

 そう語るとジュニアは席を立って部屋から出ていき、其の後を少女が追いかける。

 

「よぉ、お前は如何思う?」

 

「先程の他の天体、或いは異世界から流れてきた技術と言う話ですか?」

 

「あぁ…他所から持って来た設計図で其のまま同じのを造ったとしたら、地球に良く似た星か…別世界の地球と考えるのが妥当だろうな」

 

「正直、論理的にはあり得ないと思います」

 

 少女はジュニアの言葉をすっぱりと否定する。しかし、其の言葉にジュニアが気を悪くした様子はない。

 

「他の天体、或いは異世界からあれだけの兵器の実物及び設計図を保持したまま地球に現れる可能性は限りなくゼロに近いと思われます。恐らく1%に満たないと考えます」

 

「だが、ゼロじゃねえ」

 

 ジュニアの発言に、少女はハッとした様に彼の顔を見る。

 

「もし、異世界から持ち込まれた技術だとすれば…あそこまでの高性能機が突然、何処の諜報機関にも察せられずに現れたのにも説明が出来る。恐らく、設計図が持ち込まれて二年か三年程度で実機が造られたんだろうな。それぐらいなら或る程度完璧に隠すことはできる」

 

 其処まで語り、ジュニアは凶悪な笑みを浮かべ始める。ティターンズの――否、涼牙の存在が彼の好奇心を大いに刺激したらしい。

 

「面白ぇ…ガンダム…リョウガ・ヒムロ…!俺様に、お前の全てを見せろ…!あげゃげゃげゃげゃげゃげゃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、アメリカ国内のとある一室。其処でも光州作戦におけるティターンズの戦闘映像を見ている一組の男女がいた。

 

「MS…此れほどの兵器だとは…」

 

 眼鏡をかけた理知的な女性が其の顔を驚愕に染める。しかし、もう一方の男性は涼しい顔で映像を見ていた。

 

「成程…ハイマン大将が無理を押して部隊を設立するわけだ。彼等には其れだけの価値がある」

 

 彼は何処か納得したような顔でモニターの中で戦うガンダムの姿を見つめる。

 

「ですが…此れがいつか貴方様の物に「其れは違うな」…は?」

 

 女性が呟こうとした言葉を男性が遮る。

 

「そうではないよ、彼等は同志なのだ」

 

「同志?」

 

「そう…私と同じく、地球と人類を護りたいと願う同志。故に、彼等は私の物になるのではない。いつか…私と共に戦ってくれるであろう同志なのだ。其れが何時になるかはわからないが…いつか必ずその日は来る。其れまで、私は裏方に徹するさ」

 

 いつか来る其の日を待ち望むように、男性は目を細める。

 

「申し訳ありません、出過ぎたことを…」

 

 詫びる女性に対して、男性は優雅に気にしていない――と口にする。

 

 

 

 

 こうして、世界の様々なところでティターンズやMS…そして涼牙に興味を持つ者達が動き出していた。

 

 

 

 

 

 




以上でした。最後の人物、誰だか…まあ解る人は解りそうですね(汗)

次回予告

ティターンズに新たな指令が下された

向かう場所は北の大地、カムチャツカ半島

故郷の戦地に、アンドレイは何を思うのか

次回、北の戦場

今、一つの再会が成る


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