Muv-Luv AlternativeGENERATION 作:吟遊詩人
なお、此の話で部隊設立編は終了で此の後に幕間を二話ほど挟んでから新章に入ります。
「ユウヤ!同じ機体なら負けやしねえぞ!」
「俺だって負けないさ、ウルフ小隊長!」
次の任務へ向けてシミュレーターによる訓練を繰り返すティターンズ。現在行われているのは第二小隊の二対二に分かれて行う戦闘訓練。だが、其処には本来いるはずのゼハートの姿はなく代わりに片方のチームの指揮をユウヤが執っていた。
「く…!」
「おら!もっと他の隊員の位置をしっかり把握しろ!」
機体の性能による有利不利をなくす為にユウヤは105ダガーに搭乗して指揮を執っていたが、同性能の機体を駆るウルフのチームにユウヤ達は圧倒されていた。其れは単純な操縦技術ではなく、明らかな指揮能力の差だった。
「(く…気を抜くとアンドレイの援護が来る!ウルフ小隊長の位置取りが上手いんだ!)」
アンドレイがエドワードの相手をしながらでも時折援護できる絶妙な位置にウルフはユウヤを誘い込む。其れは明らかな指揮経験からくる差だった。正規の士官学校を出ておらずに涼牙からの訓練でGXを乗り熟せるだけの操縦技術を手に入れたユウヤは単純な操縦技術ならば部隊内でもトップクラスだ。しかし、同じ性能の機体で互いにチームを指揮しながらの戦闘となると明らかにユウヤのチームが不利になる。其れはやはりまだまだ経験の浅いユウヤと、最前線で部下を率いて戦ってきたウルフの明確な差だった。ウルフは普段の素行の悪さから中尉と言う階級に甘んじていたが単純に能力だけを見るならば十分左官クラスの実力は備えている。勿論、其れはヤザンにも言えることではあるが…故に操縦技術はユウヤが僅かに上だとしてもチーム戦に於ける指揮能力の圧倒的な実力差が此の戦闘訓練の状況となっていた。
「貰った!!」
「ぐ…!?」
ウルフ機のビームサーベルがユウヤ機の胴体を切り裂く。此の瞬間、ユウヤのチームの敗北が決定した。
「…くそ…!?」
シミュレーターから降りてきたユウヤは悔しそうに天井を見上げる。ユウヤ本人も自分の指揮能力がウルフに及ばないことは理解しているが、其れでも負けたことに対する口惜しさが湧いて来ない訳がない。そんなユウヤにウルフが背後から近付く。
「よぉ、ユウヤ。また俺の勝ちだな?」
「…ぐ…はい…」
強引に肩を組んできたウルフにユウヤは前につんのめりそうになりながらも踏み留まる。
「そうしょげた顔すんなよ。お前は頭が良いし、どんな不利な状況でも考えるのを止めようとはしねえ。場数を熟しゃ、すぐに指揮官としても一人前になれる」
笑みを浮かべたウルフがユウヤに語り掛ける。其れは彼の率直な感想だった。涼牙の教えによりユウヤはどんな困難な状況でも常に考える癖を身に着けている。そしてそれが指揮官に最も必要な要素の一つだとウルフは考えている。実際、ユウヤは一人になると部隊指揮に関する書物などを読み漁っていることもあって知識も順調に蓄えている。其れを知っているウルフは敢えてシミュレーターによる戦闘を繰り返してユウヤに経験を積ませることを重視していた。
「さて、んじゃ次は対BETA戦のシミュレーターだ。キッチリ指揮を執って、損害を出さずに任務完了してみな」
ユウヤの肩から手を放すと、ウルフは笑顔をのままにユウヤにそう告げる。ウルフの訓練はかなりのスパルタだが、ユウヤの顔には一切の躊躇いはなかった。
「(よし…俺は俺のできる最大限をやる!やってやる)」
表情にもユウヤのやる気が見て取れる。まさしく向上心の塊、そんな彼を見てウルフも面白そうに笑みを浮かべた。
「(…へっ…此奴は化けるな、其れもそう遠くないうちに…まぁ、俺様も簡単に抜かれてやる気はねえがな…くくくく)」
ユウヤの成長を喜びつつも、まだまだ指揮能力で負けてやる気はないと…サディスティックな笑みを浮かべて此れからもユウヤを扱くことを固く決めるのだった。そして…
「(ぶるる…!!)」
そんなウルフの考えを無意識の内に察したのか、ユウヤはぶるりと身体を震わせていた。
一方其の頃、同じようにティターンズの基地内のシミュレーターの前には四人の少年の姿があった。一人はティターンズの衛士であるゼハート。そして残りの三人は新たに此の部隊に着任した新任の衛士達である。
「俺はゼハート・ガレット、階級は
自身の名と階級、そして自分が小隊の隊長だと告げると三人は納得できなさそうな表情をする。此の三人だが、御世辞にも品があるとは言えなかった。見るからに柄が悪く、まともな環境で育ってきていないことは一目瞭然だった。
「納得がいかない…と言った顔だな」
「当たり前だろ…?大して歳が変わらない上に立つ?世間じゃ、『真紅の閃光』とか言われているけどよ…こっちは力のない奴に従って死ぬのはごめんだぜ?」
三人のリーダー格の金髪の少年が不満気な感情を隠そうともせずゼハートに物申す。ちなみに『真紅の閃光』とはゼハートに付けられた二つ名であり、其の機体カラーと高機動戦闘を得意とすることから付けられた二つ名だった。
「だろうな…確かに、噂で聞いていても実際に目にしなければ…と言う気持ちはよく解る。俺自身、自分が隊長として何処まで出来るか判らん。だが、指揮する以上はお前達を死なせるつもりはない」
「「「…!?」」」
力強く語るゼハートに三人が僅かにたじろぐ。しかしゼハートは気にすることなく次の言葉を告げる。
「シミュレーターに入れ、三対一だ。お前達に俺の実力を見せる、其れが一番手っ取り早いだろう?」
「…へっ、上等!」
「…へぇ…言うじゃん…」
「吠え面かいても知らないからね?」
ゼハートの提案に笑みを浮かべてシミュレーターに乗り込む三人。そしてゼハートはシミュレーターに乗りながら数週間前のことを思い出していた。
「…俺が小隊を…ですか?」
アークエンジェル内の涼牙のいる隊長室に呼び出されたゼハートは自分に下された命令に目を丸くしていた。
「あぁ…実は少し前にハイマン大将から新たに三人の訓練校の人間を部隊に加えるって連絡があってな。MSの慣熟訓練も無事に終了してもうすぐ部隊に合流できるんだが…其の三人の指揮をゼハート、お前に頼みたい」
そう言いながら涼牙は机の上に三人の新たな隊員の情報の記載された書類を置く。その書類をゼハートは涼牙に断りを入れてから目を通していく。
「…全員、スラムの生まれですか…」
書類には全員の経歴が記載されていた。三人共十六歳と若く、さらには全員がスラムの生まれだった。
「あぁ、スラムに居た頃もかなりの悪ガキだったみたいだが…食って行くために軍人になったらしい。だが、腕は確かだ。そいつ等三人は訓練校でも常にトップ争いをしていたからな」
「よくそんな有望な人員を引き抜けましたね」
「そりゃあ、解るだろ?問題児だったんだよ、三人共例外なくな」
溜息を吐く涼牙にゼハートも苦笑いする。彼にもだいたいの想像はついた。スラム出身者は総じて気性の荒いものが多い。勿論中には例外もいるが、スラムでも有名な悪ガキだったのなら相当気が荒い部類だろう。結果、腕は良いが素行の悪い訓練性として訓練校でも問題視されたのだ。書類に書いてある訓練校での問題行動を見ればそれなりに問題児であったジェリドが可愛く見えるレベルの物だった。
「ただ、全部が全部連中が悪いわけじゃねえ。ハイマン大将が色々調べたところによるとだ…スラム出身者ってことで相当差別があったらしい」
「やはり…」
涼牙の答えをゼハートも予想していたのだろう。ジャミトフが念の為に三人について調べたところ、此の三人がしょっちゅう起こした問題…要は暴力行為なのだが、それ等は全て原因は他の訓練校性による三人へのスラム出身者へ向ける差別だった。訓練校入学当初は三人共、悪戯に自分から喧嘩を吹っ掛けるような真似はしなかった。しかし、スラム出身である彼等が訓練校のトップにいると言う現実を妬んだ周りの訓練校性が喧嘩を吹っ掛けて返り討ちにされると言うことが続いた為に三人は周りを敵視し始めてしまい日常的に喧嘩をするようになってしまったのだ。
「そういう境遇だからか、他の国への差別意識も持ってないし腕も良い。こっちがキッチリ受け入れてやれば問題ないってのが俺やハイマン大将の見解だ」
基本的にティターンズは実力を第一に考える。そして実力があると判断されてから更に身辺調査が行われ、特にG弾推進派との関連がないかどうかを調べられるのだが今回の三人はそう言った背景はなく、また他国への差別意識もないことから入隊する運びとなった。後は入隊後に問題が起きないかと言う事だったが、幸い涼牙を始めとして隊の中で出身で差別するような人間はいないので其処まで気にすることではない。まぁ、血の気の多い人間もいるので多少の衝突はあるだろうが少なくとも訓練校に居た頃のようにはならないだろうと判断されていた。
「しかし、俺が抜けた後の第二小隊はどうするのですか?」
「其処は考えてある。しばらく、ユウヤを第二小隊の指揮下に入れる」
「ユウヤを…ですか…?」
涼牙の返答にゼハートは困惑する。そんな彼に対して涼牙はすぐに其の理由を話し始めた。
「あぁ、ユウヤは衛士としての操縦技術ではもう一人前だ。だが、正規の軍人として訓練を受けた訳でもないから指揮能力がない。今はまだいいが、此れから先ティターンズの人員が増えていけばユウヤが指揮をする場面も必ず出てくる。そうなったときに困らないように一時的に第二小隊に編成してウルフに鍛えて貰う。まぁ、アイツは頭が良いからすぐにモノにできるとは思うけどな」
「成程…しかし、何故俺に小隊の指揮を?指揮能力ならばアンドレイも高いと思いますが」
ユウヤに対する疑問が消えたゼハートは次に自身への疑問が浮かぶ。彼の言うようにアンドレイも冷静で思慮深く、指揮官に向いていると判断できたからだ。
「アンドレイはまだ少し視野が狭い。もう少しだけウルフのところで鍛えて貰う予定だ。其の点、ゼハート。お前は操縦技術、指揮能力、視野の広さが一番バランスが取れていると判断した。やってくれるな?」
「…解りました。全力を尽くします」
「よし、新隊員到着したらお前の階級も小隊長として中尉に昇格になる。いろいろ手を焼くだろうが、頑張れよ?」
「はっ!」
涼牙の言葉にゼハートは敬礼で返す。すると涼牙は思い出したようにゼハートの肩に手を置く。
「そうそう、一つだけアドバイスだ。今回の連中みたいな気性の荒い奴らは最初にキッチリ実力を見せといた方が後々面倒がなくて良いぜ?」
「ふっ…ご忠告、感謝します」
涼牙のアドバイスに笑顔で返すゼハート。こうしてゼハートはMS隊の中でも一番早い昇進を経て中尉となりティターンズ第三小隊の小隊長に就任したのだった。
「くそ!なんだアイツ!」
「未来でも見えてんのかよ…うわっ!」
「…当たらない…」
そして現在、三対一のシミュレーターでの対戦を始めた彼等はゼハートに一発も攻撃を当てることが出来ないでいた。
――――ギュイン!
「(…見える…!)」
ゼハートには全ての攻撃が見えていた。いや、攻撃だけではない。相手がこれからするであろう攻撃や回避を先読みして其の方向に回避と攻撃を行う。其れは経験による予測とかそんなレベルではない、ハッキリと見えるのだ。相手がこれから行う動作が確かに見える。そしてその動作に対してゼハートは最適な動きを選択して行う。
「(此の感覚は何なんだ?)」
少し前の戦闘から其の兆候は現れ始めていた。最初は漠然と何となく見えるだけだったのが今ではハッキリと見える。其の感覚に困惑しながらも、其の力もまた自分の物であり先頭に役立つものだとすぐに割り切ってゼハートは105ダガーを操って操縦する。結果、此の日三人はゼハートに只の一撃――いや、掠る事すらもできなかった。
「はぁ…はぁ…くそ…!」
「あ~、もう…強すぎでしょ…」
「…はぁ…」
そして何度目かの三対一のシミュレーター戦闘を終えて、三人は疲れ果てた面持ちでへたり込んでいた。そんな彼等にゼハートが近付いていく。
「此れで解ったか?お前達は確かに筋が良い。だが、まだまだ戦い方がなっていない。其れでは俺には勝てないぞ」
「ちっ…くそ…」
「まぁ…こんだけ良い様にやられたら言い返せないよねぇ…」
「…だね…」
ゼハートの言葉に三人は渋々ながらも納得する。涼牙の言った、まずは実力を示すというのは上手くいった。此れで彼等はゼハートの実力を疑うことはない。
「先程も言ったが、俺は隊を預かる以上お前達を死なせるつもりはない。其の為にはお前達の協力も必要だ。俺に力を貸してくれ」
「「「………」」」
先程、圧倒的な実力を示して自分達をコテンパンにした相手が今度は一転して頭を下げている。其の光景に三人はただ茫然とした。そして、そんな中でリーダー格の少年が口を開いた。
「良いのかよ、小隊長が頭なんて下げて…命令すりゃいいだろ、ましてや俺達みたいなスラム出身のガキにはよ」
少年はぶっきらぼうに、困惑しながら答える。だが、その問いにゼハートは関係ないと答えた。
「スラム出身者か等関係ない。此処ではスラム出身も名家出身も等しく同列だ。必要なのは力だけ、そして小隊として力を発揮するにはお前達の協力が必要だ。…後な、隊員の信頼も得られていない内から頭ごなしに命令するなんて出来るほど…俺はウルフ隊長やヤザン隊長みたいに経験豊富じゃないんでな」
最後に苦笑いしながら答えたゼハートに三人も笑みを零した。
「しょうがねぇな…ま、精々新米隊長を盛り立てるとするか」
「…俺達も新米だけどね」
「っつーかさ、素直じゃなさすぎでしょ?もうとっくに認めてるくせにさ」
「うるせえ!」
わいわいと言い合いを始める三人。だが、其処には険悪なムードは一切なくじゃれ合いと言う印象が強かった。恐らく、此れが彼等のいつも通りの姿なのだろう。
「よし…なら休憩を挟んでシミュレーターを再開するぞ。あと、うちは言葉遣いには寛容だが…公の場では敬語も喋れるようになれよ。特にオルガ」
「ちっ…わーったよ…」
「うわっ、だっせえ。名指しで言われてやんの!」
「んだとこらクロト!」
「…ぷ…」
「シャニ、てめえも笑ってんな!」
此の三人の新米衛士――オルガ・サブナック、クロト・ブエル、シャニ・アンドラスもまた…いずれ世界に名を轟かせるエースとなるのだが、其れはもう少しだけ先のお話…
以上、ゼハートの小隊長就任とSEED三馬鹿登場回でした!ちなみに三馬鹿の性格は原作よりもGジェネDSのライバルルートを元にしています。
次回予告
北の大地アラスカ
其処で多くの衛士達は新たな剣を鍛える
そして、あの少女もまた…
次回 北に降り立つ少女
彼女はひたすらに強さを求める