Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

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最新話更新です!お恥ずかしながらストックは此れで終了。今後はできるだけ週一で更新できるように頑張ります。

あと、今回のメインである彼女の年齢ですが色々と迷走した挙句に15~16歳で落ち着きました。理由としてはヴァレリオがだいたい23歳ぐらいだと解ったこと、彼女は小隊最年少と言われていたからです。ユーラシアの生まれだしジャールの子供達と同じかそれ以下の年齢で前線に出ててもおかしくはないかなと思ったので。

幕間は此の話ともう一話で終了で其の後から新章に入ります。だんだんマブラヴの原作キャラも出てきますのでご期待ください。





幕間の章
第二十二話 北に降り立つ少女


 西暦一九九八年六月――輸送機が一機、インド洋アンダマン基地から北の大地アラスカに存在する国連ユーコン基地へ向けて飛び立った。ユーコン基地は先進戦術機技術開発計画――通称「プロミネンス計画」が行われている場所でもある。此の地には世界最高峰の戦術機開発部隊が集結し、最先端の戦術機の試験運用が行われている。彼の地に開発衛士(テストパイロット)として派遣されるということは其の腕前を認められた証でもある。そんな栄誉ある場所に一人の少女がスカウトされ、輸送機で向かっていた。其の少女、タリサ・マナンダルは…

 

 

 

 

「………ちっ…」

 

 

 

 

 すこぶる不機嫌な顔で窓の外を眺めていた。数日前、インド洋アンダマン島にてテストパイロットの任についていたタリサはテスト中の乗機の損傷から後方のバルサキャンプにて衛士に適性のある子供をグルカ兵の慣例に倣い衛士訓練課程に推薦するという任務に就いていた。

 

さて、此処で一つ説明する。山岳民族グルカ族と呼ばれる彼等だが、実はグルカと言う民族は厳密には存在しない。グルカはグルカに生まれるのではなくグルカに成る(・・)のである。グルカとは本来、山岳民族で固められた陸戦部隊の名であり、そして白兵戦に長けた傭兵集団である。彼等――通称『グルカ兵』は故郷がBETAに滅ぼされた後も其の勇猛さから世界中で重宝され、大戦初期に衛士として選抜された者も数多く存在する。さて、どのようにしてそのグルカ兵になるかだが、グルカ兵は志願制ではない。ネパールの同郷の先達に資質を見出され、厳しい訓練を経て一人前と認められた時、彼等は其の証たるククリナイフを渡されると共に晴れてグルカ兵になるのである。無論、タリサ自身もそんな慣例に倣って先達に見出されたグルカ兵である。グルカ兵が勇猛たる所以は幼い頃に資質を見出され、厳しい訓練を受けたことに起因するものである。成りたくて成れるものではない、其れがグルカ兵であった。もっとも、本来であればこのような慣例は既に廃れ始めていたのだが…BETAの襲来によって民族意識を維持する為に逆に復活を果たしたのである。

 

このような経緯もあり、バルサキャンプのタリサと同郷の子女からグルカに成り得る者を選抜するという役目を何だかんだで果たしていたタリサだが…実は此の任務は乗機が損傷したタリサに休暇を与えると碌なことにならないという基地上層部の思惑から下された任務だった。勿論、今回の任務は必要の無いものでは決してなかった。グルカに成り得る有能な衛士の選抜は必要であるし、将来有望なグルカ候補生達に前線を経験した歴戦の衛士と触れ合わせるというのも大きな意義がある。だが、既に転属が決まっていたタリサに問題を起こさせないように任務を与えたというのも紛れもない事実だった。

 

さて、こうして任務完了前日の夜に今回の経緯と転属の話を聞かされたタリサは上層部に憤慨する反面、喜んでもいた。転属が認められた――其れはもしや自分が転属願を出していたアノ(・・)部隊への転属が決まったのではないか?そんな期待に胸を膨らませたタリサだが、現実は非情だった。

 

 

 

 

『アラスカ……?……っざっけんなあああああああああああ!!!!!!』

 

 

 

 

 騙されて任務を押し付けられた事実と、自分が希望したのとまったく違う場所への転属と言う怒りが凄まじい勢いで爆発し、彼女が上げた咆哮に此の数日彼女と接してきたバルサキャンプの少年少女達は飛び起きたらしい。

 

 こんな感じでアラスカ行きの決まったタリサの機嫌は最悪だった。もしも此れがティターンズへの転属であったのならば逆に落ち着かない子犬のようであったろうが、今の彼女はすこぶる機嫌の悪い狂犬である。

 

「(ったく、なんでアタシがアラスカなんかに…だいたいずっと転属願いだしてたのに全く別のとこに飛ばされるってどういうことだよ!)」

 

 彼女自身、此れは衛士として栄転であるということは理解している。先にも言ったように最先端戦術機の集まるアラスカに開発衛士として転属するということは衛士としての腕前を認められた証であるからだ。だが、其れを理解してもなお彼女はアラスカに行くよりティターンズに行き、最前線で…そして好きな相手の下で戦いたいという想いが強かった。

 

 勿論、彼女自身も基地司令に直接聞いた。何故自分の希望が通らないのか――と。其の返答に対する答えは、今はまだ受理できない――と言うものであった。そう、未だ世界は決めかねていたのである。即ち、ティターンズの戦力を増強して良いものか…僅か十機のMSだけでもあれだけの戦果をたたき出す者達に今以上の戦力を…特にタリサのような歴戦の衛士を転属させて良いものかと。結果、今回の希望転属は保留と言う形で処理され、以前から話の在ったアラスカ行きの方が決定したわけである。勿論、このような形でティターンズへの転属が保留となったのはタリサだけではない。他にも数名、ティターンズへの転属を願いながら保留となった衛士達はいる。

 

「(クソッ…!)」

 

 不機嫌な表情を隠そうともしないタリサは着陸態勢に入った輸送機の中から溜息を吐いてアラスカのユーコン基地を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ユーコン基地に到着し、基地司令にして「プロミネンス計画」の責任者であるクラウス・ハルトウィック大佐へ着任の挨拶を終えた翌日、タリサは自身の所属することになる小隊「アルゴス試験小隊」のブリーフィングに出向いていた。ブリーフィングルームにはタリサの他に理知的でブロンドの髪にタリサとは対照的に起伏の富んだ抜群のスタイルを誇る女性と、黒くウェーブのかかった長い髪に軽薄な笑みを浮かべた男性が座っている。恐らく彼女達がタリサのこれからの同僚となるのだろう。そんな彼女等に僅かに視線を向けつつ、タリサは決意を新たに拳を握り締める。

 

「(いつまでも腐ってても始まんねえ…此処でもっと腕を磨いて、今度こそティターンズに…!)」

 

 一日経って、流石の彼女も気持ちを切り替えていた。配属されてしまったものは仕方がない。ならば、此の環境を利用してさらに腕を磨いて今度こそティターンズに行く。ただそれだけを想い、タリサはブリーフィングの開始時間を待っていた。

 

「うむ、揃っているな」

 

 そしてブリーフィング開始時刻、部屋には黒髪に褐色の壮年の男性が入ってきた。

 

「私が、此のアルゴス試験小隊の指揮を執るイブラヒム・ドーゥル中尉だ」

 

「(イブラヒム・ドーゥル…)」

 

 聞いたことのある名前にタリサは思わず息を飲み、隣に座ってる青年も「ひゅー、ロードスの英雄が隊長かよ」と小声で独り言を漏らす。

 

 「ロードスの英雄」――其れは難民救済の英雄と呼ばれる人物の二つ名ことであり、中東出身者では知らぬものはいないと言われるほどの人物である。無論、中東出身者でなくとも其の名前を知っているものは知っている。其れほどに名の知れた人物が、此のイブラヒム・ドーゥルと言う男性であった。タリサ自身も衛士になる過程で教えられたことがあり、其の名前を知っていた。

 

「諸君も知っての通り、此のユーコン基地では更なる強力な戦術機を開発する為の…所謂「プロミネンス計画」が行われており、諸君にも其の計画の一翼を担って貰うことになる。諸君が担当する機体は「F―15・ACTVアクティブイーグル」。名称からも解る通り、世界で最も多く運用される戦術機「F―15イーグル」から発展した機動力強化型だ。アメリカのボーイング社が安価で高性能機を生み出すという「フェニックス構想」の下に開発した機体であり、性能自体は準第三世代戦術機並みとのことだ」

 

 イブラヒムは淡々とアルゴス試験小隊が担当することになった機体の説明を続けていく。

 

「しかし隊長、ティターンズのMSが活躍してるのに戦術機を安価で強化する計画というのは…」

 

 そんな中で、ブロンドの髪を持つ女性がふと頭を過ぎった疑問を口にする。既に各地で活躍するティターンズのMSと戦術機の性能差は周知の事実である。故に、新しい戦術機を開発するならともかく安価で既存の戦術機を改修するという計画に思うところがあるようだ。

 

「ふむ…そう考えるのも無理はないかもしれん。当然だが…準第三世代機と言ってもティターンズのMSに敵う代物ではない。だが、現状MSの配備数は未だ少なく多くの戦線を支えているのは戦術機だ。故に、安価で高性能戦術機を生み出すというのは決して無意味なものではない。MSが各国の軍に十分配備されるのはまだ先のことになるだろうしな。それと、諸君にはもう一つやって貰うことがある」

 

 一度顎に手を当てて、女性の質問に答えるとイブラヒムは次の彼等の役目を説明する。

 

「もう一つ?」

 

「そうだ。其れは、アズラエル財団から提供された新型OSの慣熟訓練だ。此方も並行して行い、諸君には一刻も早く新型OSに慣れて貰い、行く行くは新型OSを搭載したアクティブイーグルの試験を行って貰う予定だ」

 

「つまり、隊長は既に新型OSの訓練を受けていると?」

 

 手を挙げて発言した女性に対し、イブラヒムはしっかりと首を縦に振って肯定する。

 

「うむ。各小隊の隊長は一ヶ月前、アズラエル財団から派遣されたテストパイロットの教導を受けて新型OSを扱えるようになっている。無論、完全に使いこなしているティターンズと同等とはとても言えんレベルだがな。だが、其れでも要点は抑え諸君に最低限の指導を行えるレベルには達している。後は、諸君と共に行う訓練や試験でより腕を磨くという段階だ」

 

 イブラヒムの言う通り、アズラエル財団は新型の戦術機用OSを各国に提供した後に其の開発に携わったテストパイロット達を各地に派遣して新型OSの教導を行っていた。と言ってもテストパイロット達の数はそう多くはない。ユーコン基地のような後方基地での滞在時間は少なく、各小隊の隊長陣を他者へ最低限教導が可能なレベルまで指導したら前線の基地を回って衛士達に教導をしていく予定である。また、勿論此れから衛士になる新平候補達の為に士官学校等の教官達にも教導を行いに行っている。なのでアズラエル財団のテストパイロット達は激務と引き換えに多額の特別手当を得ていた。

 

「(新型OS…ジム・カスタムみたいな感じか…?だったら願ったりだ、使いこなせばもっと強くなれる!そしたら、ティターンズにも…)」

 

 無意識の内に、タリサ自身の物とは別の…服の中に隠されたもう一つのドッグタグを握りしめる。

 

「MSに使われてるOSの戦術機版って事か…どれ程のもんかねぇ」

 

「楽しみね…」

 

 ふとタリサが視線を向けると左右に座る二人も新型OSの訓練を楽しみにしているのが解る。当然だ、彼等もユーコン基地に転属になって来たと言うことは一流の衛士であることは間違いない。そんな彼等がさらに強くなる可能性を知って楽しみでないはずはなかった。

 

「さて、任務の説明は以上だ。最後になったが、それぞれ自己紹介をして貰う。何せ、しばらくは共に戦う仲間なのだからな」

 

「了解です、隊長。じゃあまずは自分から…」

 

 イブラヒムの言葉を受けて、まずはタリサの左隣に座っていた青年が立ち上がる。

 

「イタリア共和国陸軍、ヴァレリオ・ジアコーザ少尉であります。よろしくお願いしますよ、隊長殿」

 

 青年――ヴァレリオはキッチリと敬礼をしながらも何処か軽薄な笑みを浮かべる。次にヴァレリオとは逆隣りに座っていた女性が立ち上がる。

 

「スウェーデン王国軍、ステラ・ブレーメル少尉です。よろしくお願いします」

 

 女性――ステラは綺麗な姿勢でスッと立ち上がると見惚れるような美しい笑みを浮かべて敬礼をする。立ち上がる際、其の余りにも豊かな双丘にタリサはイラっとし、ヴァレリオは若干鼻の下を伸ばして目を奪われたのは余談である。

 

 そして最後にタリサが元気良く立ち上がって敬礼する。左右の二人が比較的長身なのもあって其の小柄さがより際立っていた。

 

「ネパール陸軍、タリサ・マナンダル少尉であります!」

 

 タリサが堂々と敬礼し、自身の名を告げると左右からは「ほう」「へえ」等と言う声が呟かれる。

 

「ほうほう、お前さんがねえ?」

 

「なんか用かよ、ジアコーザ少尉?」

 

 ジロジロとタリサを眺めるヴァレリオを彼女はジロリと睨みつける。

 

「いやいや、噂の「グルカの黒豹」がまさかこんなに小さいとは思わなかったからな。全体的に」

 

 そう呟いたヴァレリオにタリサは凄まじい速度で反応して詰め寄る。

 

「小さいは余計だ!しかも全体的にってなんだ全体的にって!?」

 

 気にしてること――それも涼牙に恋心を抱いてより余計に気にするようになったことを言われてタリサは狂犬の如く今にも噛みつかんととする勢いである。しかもすぐ横にステラと言うタリサとは真逆にスタイル抜群の美女がいることで若干イライラしていたのも拍車を掛けていた。

 

 ちなみに、ヴァレリオが言った「グルカの黒豹」と言うのは言うまでもなくタリサのことである。涼牙と出会い、帰還してから其の野生の獣のような勘の鋭さで部隊の窮地を幾度も救い、さらには基地内でも抜群のスコアを残したタリサに同基地の人間達が命名し広めた二つ名。其れが「グルカの黒豹」である。始めは「勝利の女神」とか言われた時期もあったが、本人の気質が余りに女神からかけ離れていた為に此の二つ名が定着し、いつの間にか基地の外まで広まったのである。言うまでもないが、由来はタリサがグルカ兵であることと其の特徴的な褐色の肌から来ている。

 

「其処までだ。友好を深めるのは構わんが、どうせならより衛士らしく行かんか?」

 

 今にもヴァレリオに飛び掛かりそうなタリサを諫め、イブラヒムは笑みを浮かべて提案する。彼の提案を聞き、アルゴス試験小隊の面々はブリーフィングルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、あの野郎ボコボコにしてやる」

 

「意気込みは買うけど、もう少し落ち着いた方が良いわよ?マナンダル少尉」

 

 ブリーフィングルームでの出来事からしばらくして、タリサ達アルゴス試験小隊は強化装備に着替えて戦術機へと搭乗していた。事の発端はイブラヒムの提案で、「友好を深める為に互いの実力を知るための模擬戦を行おうではないか」ということだった。要は互いに全力で戦わせた方が遺恨が残り難いだろうというイブラヒムの判断である。

 

「とにかく。ブレーメル少尉、援護頼むぜ?」

 

「解ってるわ。接近戦が得意な貴女を援護するのが一番効率がいいしね」

 

 彼女――ステラ・ブレーメルは遠近バランスのとれた衛士だが最も得意とするのは其の狙撃能力からの援護射撃である。此れはステラの提案で、「まだ知り合ったばかりで複雑な連携は取れないから単純に行く方が良い」と言う理由であった。一方のタリサも自分の持ち味が生かせる為に反論することはなかった。

 

 ちなみに、チーム分けに関して綺麗に男女に分かれてしまったのは単純にタリサがヴァレリオを物凄い勢いで睨みつけて仲間割れを起こしかねない状況だったからである。また、全員搭乗している機体はストライクイーグルであり此れは戦術機の性能に左右されずに実力を確かめ合うための配慮でもある。

 

「…ったく、あの野郎人が気にしてることをズケズケと…絶対ぶっ飛ばす」

 

「ふふ、あまり気にすることないわよ?ああやって、女性を見た目でしか判断できない男の言うことなんてね。そんなの気にしなくても、貴女の良いところを見てくれる人はきっといるわよ」

 

 未だに怒りの収まらないタリサだが、ステラが笑顔で口にしたフォローの言葉で脳裏に涼牙の顔が過ぎる。すると先程までの怒りが僅かに和らぎドッグタグに手を触れ、我ながら単純だと自嘲する。

 

「そう…だな…サンキュー」

 

「あら?其の反応は…もしかして、もうそういう相手がいるのかしら?」

 

「え゛…それは…」

 

「…へぇ~、マナンダル少尉も隅に置けないわね」

 

 タリサの反応から当たりを付けたステラはニマニマと笑みを浮かべて顔を赤くするタリサをからかう。

 

「で、どんな人なの?やっぱりネパールの人?其れとも他の国の?」

 

「…~ッ!!そ、そんなのどうでもいいだろ!?」

 

 タリサの反応を面白がり揶揄うステラと顔を真っ赤にするタリサ、そうこうしているうちに模擬戦開始の時間が迫る。

 

「…と、此の話はあとで聞くとして…援護は任せて、思い切り突っ込んでね?」

 

「…勿論、其のつもりだぜ」

 

 ステラの言葉にタリサが笑顔で返す。散々揶揄われてまだ若干顔が赤いが、其れでも意識はしっかり模擬戦に向ける。まだ知り合ったばかりで、其の腕も見たことがない相手だがステラの援護の腕は信頼できると…涼牙と知り合って以降、鋭くなったタリサの勘が言っている。何も不安はなかった。あるのは、世界最高峰の衛士達に自分の力がどれだけ通じるかと言うことだけだった。

 

「さぁ、始まるわよ」

 

「あぁ…」

 

 演習区画に両チームが配置につき、しばらくすると開始の合図が鳴り響く。

 

「…いくぜえ!!」

 

 開始の合図と共にタリサが飛び出し、其の後をステラが追従する。互いにレーダーを警戒して敵の姿を探し続ける。そうしてしばらくするとレーダーに二機分の戦術機の反応が現れた。

 

「来た、二方向から!」

 

「挟み撃ちって訳ね…」

 

 レーダーの反応はそれぞれ別方向から、ちょうど左右から挟み込むように接近してくる。イブラヒムもヴァレリオも共にどちらかと言えば近接戦闘が得意な衛士であり、必然的に近接型と遠距離型のタリサとステラとは別の作戦を考えていた。

 

「マナンダル少尉、どうする?此のままじゃ挟まれるわよ?」

 

 挟み撃ちと言うのは実に有効な戦術である。別れれば一騎討ちになるし、片方に戦力を集中しようとすれば背後から攻撃される。相手の腕が大したことなければ其れでもなんとかなるだろうが、相手は間違いなくエース級の実力を持つ二人である。しかも、どちらかに戦力を集中させれば片方は生き残ることを第一に考えて味方が背後を突く時間を稼ごうとするだろう。如何にニ対一でも逃げに徹するエース相手では撃破するのに時間がかかる。其の間に背後を突かれれば危うい。故に、タリサは直感的に前者の方法を選択する。

 

「ブレーメル少尉、もう片方の相手…時間稼げるか?」

 

「…其れは、ちゃんともう一機を倒してきてくれるって事かしら?」

 

 瞬時にタリサの意図を察したステラは笑みを浮かべて聞き返す。そんな彼女にタリサも笑みを浮かべた。

 

「おう!すぐにぶっ倒して助けに行くぜ!」

 

「そう…じゃあやってみるわ。落とされたらごめんなさいね?」

 

 それだけ言葉を交わすとステラはレーダーに映るもう一方の敵に元へと機体を走らせる。其れを確認し、タリサもまた一方の敵の元に機体を急がせる。

 

「おいおい、ずいぶん思い切ってきたな!」

 

 オープン回線で軽薄な男の声が聞こえる。其の瞬間、タリサは口を釣り上げた。散々自分を馬鹿にした男をボコボコに出来るという喜び、そしてイブラヒムよりも楽な相手だからだ。当然、ヴァレリオ自身も優れた能力を持つ衛士だがやはり長年の経験値の差でイブラヒムよりは劣る。故に、ステラを助けに行くのが幾分楽になる。その分ステラの相手はイブラヒムと言うことになるが、逃げに徹すればそうそう簡単に落とされはしない。如何にイブラヒムよりは劣ると言っても格段に実力が離れているわけではないのだ。

 

「覚悟しろよイタリア野郎!!」

 

 同じくオープン回線で叫びながらタリサは得意の近接戦闘へと移行する。そして其れを迎撃しようとヴァレリオも突撃砲を構えた。

 

「おいおい、ただ突撃するだけとは…俺も舐められたもんだな!」

 

 其の言葉と共に、ヴァレリオは高速で移動しながら突撃砲を発射する。正確な射撃…少なくと今まで共に戦った仲間達の誰よりも正確な射撃がタリサを襲う。しかし、其の攻撃は全てタリサに回避され次第に接近を許していく。

 

「(なんだ?こりゃあ…)」

 

 其処でヴァレリオは違和感に気付く。可笑しいのだ。回避されることがではない、回避のされ方(・・・・・・)が可笑しいのだ。ある程度距離が開いている時はさほど不思議ではなかった。だが、距離が縮まるにつれて其の違和感が大きくなる。目の前のタリサの回避…其れはまるで先が見えているかのような回避だった。現在、戦術機に搭載されているOSはMSに比べて格段に反応速度が遅い。操作してから機体が動くまでのタイムラグが大きいのだ。故に可笑しい。タリサの回避はもはや先が読めていなければできないレベルの回避だった。前もってヴァレリオの動きを読んで、コマンド入力を行う。結果、現在の完璧な回避が成り立っている。

 

 

――ピキィン!

 

 

「(悪ぃな、見えてるぜ…全部よぉ!!)」

 

 そして、其れは当たっていた。タリサには見えている。ヴァレリオがどう動くか、其の先が見えている。

 

「おらあ!!」

 

 ヴァレリオの弾幕を回避すると、お返しとばかりに突撃砲を発射する。

 

「ぐ、この…!?」

 

 先程の回避と同じように此方の動きを読むような射撃に僅かにヴァレリオ機の体勢が崩れる。其れをタリサは見逃さない。

 

「貰ったぁ!!」

 

 急速に跳躍ユニットを吹かして急接近、其のまま模擬専用の短刀がコクピットを直撃する。

 

≪ジアコーザ機、コクピットブロックに被弾。致命的損傷により大破と認定≫

 

「な…!?」

 

「よっしゃあ!さて、次だ…今行くぜブレーメル少尉!」

 

 CPの声を聞くと二人は対称的な声を上げると同時にタリサ機はすぐに機体を翻してイブラヒムの足止めをしているステラ機の元へと向かう。

 

「おいおい、アイツは化け物か?…アレが、『グルカの黒豹』か…」

 

 タリサの異質さに溜息を吐きながらもヴァレリオは笑顔を浮かべる。

 

(こりゃあ、退屈はしなさそうだな)

 

 そんなことを考えながら、身体を休ませるように深く息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、其の頃…タリサ達と同じように一騎討ちを繰り広げていたステラとイブラヒムだが、其の勝敗はなかなか着かない状態が続いていた。

 

「ッ…!(流石ドーゥル中尉、強い!?)」

 

「(ブレーメル少尉のあの動き、時間稼ぎが目的か。しかし、強引に突破できるものでもない…!)」

 

 単純な力量で言えばイブラヒムの方が上だが、ステラ自身もエース級の腕前であり容易く勝てる相手ではない。そんなステラがあくまで時間稼ぎに徹しているのでイブラヒムはさらに決め手を欠く状況となっていた。彼女の行動が時間稼ぎを狙っていることはイブラヒムにも解っているが、かと言って強引に突破してヴァレリオと合流しようとすれば狙撃を得意とする彼女に狙い撃ちされるのは目に見えている。結果、時間稼ぎをしたいステラの思惑通りに進んでいた。

 

「ブレーメル少尉!まだもってるよな!?」

 

 そうして時間稼ぎを続ける彼女に元気のいい少女から通信が入る。其の瞬間、ステラは機体を大きく後方に跳躍させる。自身の得意とする狙撃によってタリサを援護する為に。

 

「(ほう…もうジアコーザ少尉を倒してきたか。やはりマナンダル少尉の実力は此の小隊の中でも飛びぬけているな)」

 

 ニ対一と言う圧倒的不利な状況になっても諦めず機体を動かしてステラの狙撃の的にならないようにしながらタリサに銃口を向ける。だが―――

 

「悪いな、ドーゥル中尉!見えてるぜ!!」

 

 先程のヴァレリオとの戦いと同様に、放たれる銃撃をまるで予知していたかのようにタリサは回避する。其の光景にイブラヒムも、味方であるステラも驚愕する。

 

「(凄い…あの距離でまったく被弾しないなんて!!)」

 

 既にタリサとイブラヒムの距離はかなり縮まっている。にも拘らずタリサは至近距離で放たれた銃撃を完璧に回避していく。其れはもはや、予測などと言うレベルの問題ではなかった。

 

「(成程…此れが、『グルカの黒豹』の真の力か!!)」

 

 銃撃を回避し、タリサがイブラヒムに肉薄すると互いに短刀を取り出して切り結ぶ。だが、其の僅かな瞬間。動きが止まったのを見逃さずステラが狙撃してイブラヒムの体勢を崩す。

 

「むう!?」

 

「貰ったあ!!」

 

 そして、タリサ機の模擬戦用の短刀がイブラヒム機のコクピットに突き立てられる。アルゴス試験小隊最初の模擬戦はタリサ・ステラチームの完勝に終わった。

 

 

 

 

 

 




以上、タリサ及びアルゴス試験小隊の結成話でした。ちなみにタリサの異名は前々から考えていました(笑)では次回予告を





次回予告


結成されたアルゴス試験小隊


彼等は新たなる力を求めて新型OSの訓練を開始する


果たして彼等は此の力を使いこなせるのか


次回 アルゴス試験小隊


彼女はひたむきに、ティターンズを目指す

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