Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

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大変お待たせいたしました!!

今回遅れた理由としましては…データが飛びました…前回の更新の後、やたらモチベが上がって一週間ぐらいで六話ぐらい書き溜めたんです。なので其れを小出しにしつつさらに続きを書こうとしていたら…データを保存していたUSBが壊れて…データがアボン…もともとモチベが高まっていただけに突然データが消えて一気にモチベが急転直下した結果、再び書き始めるのが遅れてしまいました。

此れからまた頑張りますのでよろしくお願いします!


第二十六話 救出

 ゼハート達ティターンズの助けを受けた嵐山中隊の面々、彼女達は佳織を先頭に帝國軍の集積所である京都駅方面へと向かっていた。比較的開けている場所であり、光線級もいないことから遭遇するBETAを駆け抜けながら撃ち殺して目的地へと急いでいた。

 

「凄かったね、ティターンズ…」

 

「うん…噂では聞いてたけど…あんなに…」

 

 不意に中隊の一人が口を開く。思い出されるのはゼハート達の圧倒的な強さ。彼等の活躍がなければこうして脱落者がゼロのまま撤退することなどできなかっただろう。特に志摩子と安芸、クロトとシャニに直接助けられた彼女達は彼等がいなければ自分達は死んでいたであろうことを強く感じていた。

 

「量産機の衛士であの強さ…ガンダムの衛士は一体どれだけの…」

 

 唯依は量産機である105ダガーに乗るゼハート達の強さを目の当たりにして、其れ以上の性能を持つと言われるガンダムの衛士達はいったいどれほどの強さを持つのか…其れを考えて戦慄する。

 

「(もし万が一…あの人達が敵に回ったら…帝國は勝てるの…?)」

 

 不意に唯依の脳裏に最悪の状況が思い浮かぶ。あれだけ強大な力を持つ者達が万が一敵に回ったらと思うと勝てる気がしなかった。

 

「あの強さ…単純に機体の性能が良いとかいう次元ではありませんでしたわね」

 

「私達にも…あんな強さがあれば…」

 

「…なら、強くなろうぜ」

 

 己の無力を痛感する上総や和泉の言葉に安芸が力強く返事を返す。其の瞳には強い意志が宿っていた。

 

「身の程知らずかもしれないけどさ…強くなって、今度は私達がティターンズを助けるんだ」

 

「そうだね…助けられっぱなしじゃ、ダメだよね」

 

 安芸の決意にまずは志摩子が同調する。彼女達二人は先程自分を救ってくれたティターンズに強い恩義を感じていた。そして、そんな二人の決意に他の嵐山中隊の隊員達も同調する。今よりももっと強くなることを。

 

「(そうよね、まだ敵に回ると決まった訳じゃない。ううん、敵に回さないように頑張らないと)」

 

 先程まで最悪の状況を想像していた唯依は思いなおす。ティターンズと敵対する未来を考えるのではなく、どうすれば敵対しないように出来るかを考える。

 

「(…此奴らは大丈夫だな…こんな目が出来るなら強くなれる)貴様等、お喋りは此処までだ!」

 

 そんな彼女達に佳織は感心し、心の中で嵐山中隊の新人達の決意に笑みを浮かべる。だがすぐに気を引き締める。彼女達の目の前には京都の街が見えてきていた。

 

「此処からは市街戦になる!殲滅する必要はないが、奴等が何処から現れるか解らん!周囲の警戒を怠るな!一応は光線級を警戒してビルの合間を抜ける!石見少尉と甲斐少尉は私と先頭を、篁少尉と山城少尉は後方を!他はビルの上からBETAが降ってくるかを警戒しろ!」

 

「「「「了解!!!!」」」」

 

 佳織の指示を受けて嵐山中隊はすぐに隊列を組み直して周囲を警戒する。すでに弾薬も少なくなり始めている彼女達は集積所への到達を第一に考えて行動を開始した。

 

「後方より要撃級!」

 

「最低限の迎撃で良い!弾の無駄遣いはするなよ!」

 

「了解!!」

 

 後方を警戒していた唯依の報告に素早く佳織が指示を出し、唯依と上総は突撃砲を要撃級の生身の部分に数発叩き込んで動きを止める。そしてすぐに其の場を後にする。

 

「前方!要撃級二、戦車級五!弾幕を張るぞ!」

 

「「了解!!」」

 

 次いで、道路の前方から現れたBETAに対し佳織の命令に応えて安芸と志摩子が突撃級を乱射してBETAを無効化する。後方は最低限の攻撃に留めているが前方の敵は後続の隊員の為に確実に排除していく。

 

「頭上から反応!降ってきます!!」

 

「回避!大した数ではない、落ち着いて速度を落とすな!」

 

 さらにはビルの上から戦車級が降ってくるも機体の速度を殺さずに最低限の回避で潜り抜けることで回避できないほどの数が降ってくる頃には既にそのビルの下を全機が駆け抜ける。

 

「よし、集積地までまもなくだ!各員、気を抜くなよ!」

 

「「「「「了解!!!!」」」」」

 

 集積地までもうそう遠くない位置に来た。其の事実に嵐山中隊の面々は安堵した。否、安堵してしまった。

 

「!?左方向にBETAの反応!」

 

「何っ!?」

 

 レーダーの反応を察した隊員の声に全員が反応する。次の瞬間、ビルを突き破って戦術機とは比べ物にならない巨体が姿を現した。

 

「っ!?要塞級だと!こんなところに!!」

 

 佳織は驚愕しながらも必死に要塞級の巨体を躱す。だが先程の一瞬の油断で反応が遅れた三機が要塞級、或いは要塞級が破壊したビルの瓦礫にぶつかって体勢を崩す。

 

「きゃあ!!」

 

「うわああ!!」

 

「大丈夫!?」

 

「今助ける!!」

 

 激突の衝撃で墜落しようとする三機の内の二機は別の隊員によって捕まえられて墜落を免れた。だが一機だけ、和泉の乗った機体だけが間に合わずに後方に吹き飛ばされる。

 

「「きゃああ!!」」

 

 さらに悪いことに、其の和泉の機体が後方にいた唯依と上総の機体に衝突して三機ともコントロールを失う。

 

「みんな!ぐ…っ!?」

 

 寸前のところで安芸が和泉の機体の手を掴んで墜落から救う。だが、勢いのついていた瑞鶴を無理に助けたことで安芸の機体の腕にも相当の負荷がかかって使い物にならなくなってしまう。

 

「安芸、和泉!!」

 

 そんな彼女達をすぐに志摩子がフォローに入るが、助けることが出来たのは和泉だけ。唯依と上総は京都の街へと墜ちていった。

 

「唯依!返事して、唯依!」

 

「山城さん!山城さん!」

 

 和泉の乗る瑞鶴を支えながら安芸と志摩子は必死に墜ちていった二人に通信で呼びかけるが繋がらない。落下の衝撃で機体に異常が発生したのか、他に原因があるのか…だが其れを気にする余裕も残された嵐山中隊の面々にはなくなっていた。

 

「くっ、石見少尉と甲斐少尉は能登少尉を護れ!残りは要塞級を殺すぞ!」

 

「了解!和泉、機体は動く!?」

 

 佳織の指示を聞き、安芸と志摩子が和泉の機体を近場のビルの屋上に下すと通信で呼びかける。

 

「駄目…手足は動くけど跳躍ユニットが…」

 

 先程の衝突の影響で和泉の機体の跳躍ユニットが故障したらしい。此の後の行動も考えれば跳躍ユニットが機能しないのは致命的であるために志摩子はすぐに和泉に指示を出す。

 

「なら、私の機体に移って!安芸は周囲の警戒をお願い!此処もいつBETAが来るか…!」

 

「う、うん!」

 

「わかった!和泉、急いで!」

 

 志摩子は和泉に自分の機体の管制ユニットに移動するように、さらに安芸には周囲の警戒を指示する。安芸の機体は先程真っ先に和泉の機体を受け止めた衝撃で片方の腕がイカれており、その分神経を使うからこそ自分の方に和泉を乗せることで安芸の負担を軽くしようという判断だった。

 

「(今は此れがベスト…此れが一番生き残る可能性が高い!)」

 

 先程、最初の交戦で冷静さを失い危うく光線級にやられそうになった志摩子は今度こそ冷静さを失わず自分に出来ることをしようと務めていた。当然、唯依や上総への心配はあるが冷静さを失えば二人との再会が叶わないことを理解してきている。

 

「急いで!少しずつだけどBETAの反応が近付いてきてる!」

 

 一方の安芸も周囲の警戒をしながらビルの屋上に続く道を封鎖して小型種の到達を阻止し、壁を登ってくるかもしれないBETAに備えている。安芸もまた、一度BETAに殺されかけたことで必死に冷静さを保とうとしていた。

 

「ごめん、ありがとう!」

 

「ううん、しっかり掴まってて!安芸!」

 

「うん、解った!」

 

 和泉の移動が完了すると志摩子が安芸に合図を入れて、安芸もまた其れに呼応して跳躍ユニットを吹かして上昇する。そして二人が要塞級と戦う嵐山中隊に目を向けると、まだ仕留め切れてはいないまでも全員無事な仲間達が眼に入った。

 

「戻ったか!?」

 

「「「はい!!」」」

 

 戦線に復帰した二機を見て佳織は少しだけ安堵して、そして再び引き締める。既に何機かは弾切れを起こしている此の状況で要塞級の相手は正直辛いものがある。一気に倒すには単純に火力が足りないのだ。だが、一方で時間をかけてもいられない。唯依と上総が墜落して多少なりとも時間が経っている。此れ以上時間を掛ければ二人の救出を断念せねばならなくなる。

 

「(ならば一気に勝負を…いや、しかし…!)」

 

 だが、焦って勝負を急げば逆に現在無事なメンバーを危険に晒すこととなる。確実に要塞級を倒すなら慎重に戦うべきだが、そうすると今度は墜ちた二人の身が危険だ。

 

「(ならば…!)私が奴を引き付ける!其の間に全員で攻撃しろ!」

 

「中隊長!?」

 

 一気に勝負を決める為に佳織は自ら最も危険な囮の役を買って出る。其の危険性に中隊の人間が引き留めようとするが其れよりも早く佳織が要塞級に向かおうとする。だが次の瞬間、閃光が要塞級を撃ち抜いた。

 

「あの攻撃は!?」

 

 閃光が来た方向に嵐山中隊の人間達が視線を向ける。其処には四機の機影、先程自分達を救ってくれたゼハート達が追い付いてきていた。

 

「おら、止めだ!」

 

 真っ先に到着したオルガの105ダガーが要塞級の体内に残っていたBETAを一掃する。其の光景を見ながらゼハート達は嵐山中隊との通信を開く。

 

「間に合ったか…キサラギ中尉、隊員の数が少ないようだが…」

 

 佳織と対面したゼハートはすぐに先程会った時よりも中隊の数が減っていることに気付く。其のことに対して佳織は暗い表情で要塞級と遭遇した際に唯依と上総の二人が墜落したことを伝えた。

 

「そうか…了解した…貴官等は此のまま集積地への撤退を続けてくれ。クロト、シャニ、お前達は彼女達の援護だ」

 

「ん…」

 

「はーい」

 

 ゼハートの命令にシャニとクロトは何処か気だるげにしながらも返事を返す。そして次にゼハートはオルガへと視線を向けた。

 

「私とオルガは墜落した隊員を捜索する。キサラギ中尉、両名が落ちたと思われる場所のデータを」

 

「…!?な…あ…!」

 

 佳織はゼハートの言葉に絶句する。彼等は自ら行方不明になった隊員の捜索を申し出たのだ。其れも、要職についている人間ではなく繰り上げ任官したばかりの新人衛士をだ。日本帝國側からすれば、唯依に関しては譜代武家の一角であり相応の名家の生まれではあるがそんなことは他国の人間であるゼハート達には関係ない。にも拘らず、ゼハートは迷いなく彼女達の救出を決断した。

 

「…私が聞くのも変な話だが、良いのか?他国の一兵士に為に其処まで…」

 

 其の質問の意図を察したゼハートはフッと笑みを浮かべる。

 

「構わないさ。私達はどの国にも属さない独立部隊だ。人を救うのに国の利益と言うしがらみには縛られない。そして、私は全ての人類を同胞と考えている。同胞を救うのにそう理由は要らないだろう?」

 

「…そうか…」

 

 其の言葉を聞いて佳織は内心で自分を恥じた。いや、彼女だけではない。嵐山中隊の中にもティターンズは実はアメリカの手先なのではないかと思っている人間もいた。だが、彼女達は其の考えを改める。真っ直ぐな瞳で己の意思を語るゼハートが嘘をついているようには思えなかったからだ。

 

「…ガレット中尉、部下達をよろしくお願いします」

 

 佳織は其の言葉と共に二人が墜ちたと思われる地点のデータをゼハートに送る。すぐにゼハートは其のデータをオルガにも転送する。

 

「了解した、行くぞオルガ!」

 

「わーったよ!」

 

 悪態をつきながらも反抗することなくゼハートについていくオルガ。二人を見送ると佳織も機体を反転させる。

 

「我々も撤退を急ぐぞ!アンドラス少尉、ブエル少尉…手間をかけるが…」

 

「はーい…」

 

「解ってますよ…ちゃーんとお仕事しないとゼハートが煩いしね」

 

 どことなく気怠げに返事をする二人だが、任務を放棄するつもりは勿論手を抜くつもりもない。何だかんだで彼等もゼハートと同じ気持ちではあるのだ。

 

「唯依、山城さん…」

 

「無事に帰ってきてよ?」

 

 嵐山中隊が撤退を開始する中で志摩子と安芸、和泉は二人が墜ちた方向を心配そうに見ている。

 

「ほら、とっとと行く!後ろは俺達が見るからさ」

 

「あの二人に任せとけば大丈夫だよ…」

 

「は、はい!」

 

「よろしくお願いします!」

 

 そんな彼女達にクロトとシャニが声をかけ、二人は慌てて機体を動かす。そしてクロトとシャニもまた、ゼハートとオルガが降りて行った方向に一瞥するとすぐに嵐山中隊の後を追って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、ゼハートとオルガは二人が墜落したであろう地点の上空に来ていた。眼下には既に人気がなくなった京都の街が広がっている。

 

「ちっ…しかし、ある程度場所が解るとはいえめんどくせーな」

 

「ぼやくな、一人でも多くの味方を助けるのも私達の仕事だ」

 

「へいへい…じゃあどうするよ?」

 

 ゼハートの言葉にオルガは肩を竦めて返事をする。そして此の後の指示を待つ。

 

「此の近辺に墜ちたことは間違いない、二手に分かれて捜索するぞ。レーダーを注視して生体反応を見逃すなよ?」

 

「わーってるよ。さ、行こうぜ」

 

 オルガは返事をするとすぐにゼハートと別れて京都の街に降下していく。其れを見届けてゼハートもまた京都の街へと降りる。

 

「…反応はないか…」

 

 辺りを見渡しながら、同時にレーダーにも反応がないかと注意する。神経を尖らせ、戦術機、人間、BETA、あらゆる反応を見失わないように心掛ける。

 

「もっと低く飛ぶか…」

 

 ゼハートはさらに高度を下げてビルの上すれすれを飛び始める。其の状態でレーダーを注視すると、すぐに反応が現れる。

 

「…反応…!だが、、此れは…!?」

 

 反応があったのは地を這う数体のBETAだった。すぐさまゼハートは急降下してビームライフルで精確にBETAを撃ち抜いて沈黙させる。

 

「…やはりそれなりの数のBETAが入り込んできているか…」

 

 あまり時間に猶予はない、時間を掛ければ其の分だけ唯依や上総の生存率が低くなることを改めて実感したゼハートは再び捜索を再開する。

 

「…ん?此の反応は…」

 

 捜索再開から程なくして、ゼハートのレーダーが新たな反応をキャッチする。

 

「居た…!」

 

 BETAとは違う反応の下に居たのはビルの谷間に墜落して機能を停止している山吹色の瑞鶴の姿だった。

 

「山吹色の機体…タカムラ少尉のものか…」

 

 機体が嵐山中隊のものであると確認するとゼハートは其のすぐ傍へと機体を降ろす。幸いにBETAに攻撃された痕跡はなく、コクピットも閉じていることからまだ中に衛士がいるものと考えられた。

 

「タカムラ少尉!聞こえるか!タカムラ少尉!」

 

 瑞鶴へと通信を繋げて唯依に呼び掛けるゼハート。するとしばらくして瑞鶴の方からも声が返ってきた。

 

「…ん…んん…此処は…」

 

 どうやら意識を失っていたらしい唯依の声が通信越しにゼハートの耳に入る。

 

「タカムラ少尉、聞こえるか?」

 

「え…?紅いダガー…ガレット中尉!?」

 

 ゼハートの問いかけに唯依はモニターに目を向けて、其処に映された真紅の105ダガーに目の前にいるのが自分達の中隊を助けてくれたティターンズのゼハートであると初めて認識した。

 

「ど、どうしてガレット中尉が…!?」

 

「落ち着け、自分の状況は解るか?」

 

 慌てる唯依を通信越しに宥めながら自分に何が起こってか認識できているかと質問する。

 

「…あ…確か…横から要塞級が出てきて…和泉の機体がぶつかって…」

 

 少しずつ冷静になり始めた唯依は自分の身に起こったことを思い起こす。要塞級に和泉の機体が衝突し、飛ばされてきた彼女の機体に巻き込まれたこと。そして機体の制御が効かずに墜落したことを思い出す。

 

「そうだ。君とヤマシロ少尉の機体が巻き込まれて墜落した。其の後に我々は嵐山中隊と合流し、君とヤマシロ少尉の捜索に来た」

 

「…!和泉は!和泉は無事なんですか!?」

 

 ゼハートの言葉の中に含まれていなかった、要塞級に衝突した親友の安否が気にかかり慌てて問いかける。そんな彼女にゼハートは安心させるように笑みを浮かべる。

 

「心配はいらない。ノト少尉は他の隊員に救われて墜落はしなかった。墜ちたのは君達二人だけだ」

 

「あ…そうですか…和泉…良かった…態々私達の為に…申し訳ありません…」

 

「気にすることはない。味方を護る、其れが俺達の戦いだからな。機体は動かせるか?」

 

 申し訳なさそうな表情の唯依に対してゼハートは笑顔のままで気にするなと告げて、次いで機体の状況を確認するように促す。

 

「…駄目です…各部のダメージが大きすぎて…もう…」

 

 唯依は機体の状況を確認するが、既に各部のダメージが限界に達しており機体は動かすことが出来ない状況になっていた。其れを聞き、ゼハートはすぐに機体のマニピュレーターを瑞鶴の管制ユニットの前に移動させる。

 

「そうか…了解した。なら機体を放棄して此方のコクピットに移れ」

 

「え…?あ、あの…」

 

 ゼハートの指示に唯依は困惑するがあまり時間を掛けたくないゼハートは反論を聞かずに指示を出す。

 

「急げ、すぐにヤマシロ少尉の捜索に当たっている隊員と合流する」

 

「は、はい…!」

 

 反論を許さないゼハートの言葉と上総への心配から唯依はすぐに頷いてコクピットを出ると105ダガーのマニピュレーターの上に乗る。そして其のままマニピュレーターは105ダガーのコクピットまで動き、ゼハートはすぐにハッチを開ける。

 

「こっちだ、狭いだろうが我慢してくれ」

 

「はい、失礼します…て…!?」

 

 ゼハートは唯依の手を引くと自分の膝の上に横抱きの形で座らせる。

 

「あ、あの…」

 

「すまないな、見知らぬ男と触れ合うのは気が進まないだろうが我慢して欲しい」

 

「…あ…はい…」

 

謝罪しながらもゼハートは手早くハッチを閉じて機体を動かす。ゼハート本人は自身のするべきことを考えているので余り気にしていないが、膝の上の唯依はそうではなかった。

 

「(…どうしよう…!男性にこんなことされたの初めてで…心臓が破裂しそう!)」

 

 必死に声に出さないようにしているが唯依の顔は真っ赤である。其れもそのはずで所謂名家のお嬢様である唯依は此れまで男性との接触など殆どしたことがない。其れこそ父親や其の父親の親友ぐらいで後は屋敷の使用人と年に数回会うかどうかの親戚達である。勿論、親戚の中には年の近い男子は要るが皆武家であるが故に其処まで親しくしたことはなく、こうして若い男性と触れ合うのは初めての経験だった。

 

「(…其れに…)」

 

 しかも、下から見上げる唯依の眼にヘルメットから僅かにゼハートの顔が見える。美形である。間違いなく親戚の同年代の少年達より圧倒的に美形である。唯依自身、美形に黄色い声援を送るほどミーハーではない。だが、だからと言って眉目秀麗な男性と触れ合っていると思ってしまうと流石に胸が高鳴ってしまう。

 

「(…って、私は何を考えて!?)」

 

 しばらくゼハートに見惚れて、顔を紅くしていた唯依だが…今はそんな状況ではないと思い直して視線をモニターの向こうに向ける。もしかしたら上総の機体を見つけることが出来るかもしれないと…そんな希望を抱いて必死にモニターの外の街を見渡す。そして二人を乗せた105ダガーはオルガとの合流を急いだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…く…此処は…」

 

 少しだけ時間が遡って、上総は墜落した白い瑞鶴の中で目を覚ました。墜落の影響か、身体中に痛みが走る。眼前には管制ユニットのモニター…ではなく、むき出しになった外の景色が見て取れた。どうやら管制ユニットの全面が落下の際に何処かに衝突して破壊されてしまったらしい。恐らくは何処かの建物に落下したのだろう。月の光も最低限しか差し込まない建造物の中に彼女はいた。

 

「…機体は…駄目ね…」

 

 軽く見渡しただけでもわかる。見るからに管制ユニットの機器は何ら反応を示しておらず、機体が機能を停止しているのがすぐに理解できた。

 

「…脱出を…ぐっ…!」

 

 機体から身体を動かそうとして、手足に激痛が走った。元から痛みはあったが、力を入れたことで余計に痛みが酷くなる。

 

「腕が…脚も…痛っ…!!」

 

 其の痛みはもはや打撲と言ったレベルではなかった。腕も脚もまともに動かせない、動かそうとすればするほど激しい痛みが身体を襲う。

 

「…折れてるの…?こんな…時に…!?」

 

 其の激しい痛みとまともに動かない己の手足を見て上総は折れているのだと確信する。其れも両腕両脚全てだ。其れと同時に脱出も絶望的になった。四肢が使い物にならなければ外に出るのは不可能だ。此れではもはや救助を待つことしかできない。だが、彼女の絶望は此れで終わりではなかった。

 

 

――がりがり…

 

 

「…?何の音…?」

 

 まるで何か、硬いものを噛み砕くような音が上総の耳に届く。其の音の元を探そうと、彼女が目を凝らして外を見る。其処には…

 

「…ひっ!?」

 

 大量のBETAが存在していた。小型種である無数の兵士級、そして赤黒い身体を持つ最も多くの衛士を食い殺したという戦車級の群れだった。そして悟る、あの噛み砕くような音は戦車級が瑞鶴を噛み砕いている音なのだと。

 

「…此のままじゃ…あ…!?」

 

 咄嗟に身に着けていた拳銃を手に取ろうとして、落とした。無情な金属音が管制ユニットの中に響く。当然だ、折れた腕で銃を持つことなどできるはずがない。

 

「っ…此れじゃあ…あ…」

 

 満足に動かすことのできない身体、眼前に広がるBETAの群れ。もはや脱出は不可能と考えた上総の脳裏に「自決」と言う単語が過ぎる。だが、すぐに其の思考は「どうやって?」と言う疑問に埋め尽くされた。最も確実な自決は銃によるものだが、上総は銃を持てない。両腕が使えないのだから当然だ。では他の方法は?管制ユニットから身を投げる?其れも今の彼女には難しい。両脚が満足に動かせないのだ。仮にできたとしてもかなりの時間がかかる。もはや八方塞がりだ。脱出も自決もできず、次第に機体を噛み砕く音が上総に近付いてくる。

 

「いや…いや…!?やだ…!!」

 

 じわじわと迫ってくる音と、其の音の現況が自分の元に到達した後の…生きたままBETAに貪り食われると言う地獄を想像して…上総は恐怖から歯をカチカチと鳴らして、涙を流した。生きたまま、腕を、足を食い千切られて激痛の中で死を迎える。想像してしまった其の未来にまだ十四歳の彼女が耐えられるはずがなかった。如何に武家の出身とはいえ、訓練校でトップクラスの成績を誇るとはいえ、彼女は…上総はまだ幼い少女なのだから。

 

「助けて…誰か…!誰か私を…殺して…!」

 

 迫りくる捕食と言う恐怖に怯え、助けられることを願い…そして、一思いに殺して欲しいとも願ってしまう。もはや彼女の精神は限界だった。だが…

 

「こんなとこに居やがったか…」

 

 怯える上総の視界に何かが突然入り込んできた。紺色のカラーリングを施されたMS、105ダガーが派手に天井を突き破って降りてきたのだ。結果、足元に居た何匹かのBETAを踏み潰していた。

 

「え…?あ…?」

 

 突然の乱入者に上総は呆然として現状を飲み込めない。だが、そんなことは気にせずに105ダガーの衛士――オルガ・サブナックは瑞鶴の胴体を両手で掴む。

 

「悪ぃが、少し乱暴に行くぜ」

 

 オープン回線で上総に告げると、105ダガーは瑞鶴を抱えて飛翔する。其の勢いで瑞鶴に組み付いていた戦車級は振り落とされ、辛うじて組み付いていたものも105ダガーによって叩き落される。そして其のまま105ダガーは一度、BETAの反応のないビルの屋上へと着地した。

 

「おい、生きてるか?」

 

 通信が通じない相手の安否を確かめる為、オルガは105ダガーのコクピットから出るとすぐに管制ユニットの中を覗き込む。其処には未だ呆然としている上総の姿があった。

 

「ちっ、生きてんなら返事ぐらいしろよ。嵐山中隊のヤマシロカズサで合ってるな?」

 

「あ…は、はい!」

 

 名前を呼ばれて、ようやく上総は我に返る。そんな彼女にオルガはすぐに次の質問を投げかける。

 

「よし、動けるか?」

 

「あ…痛っ…其の…腕が…あと脚も折れているみたいで…」

 

 オルガの問いかけに咄嗟に身体を動かしてしまった上総は痛みに顔を歪める。そして申し訳なさそうに手足が折れていると告げた。そんな彼女の姿にオルガは大きく溜息を吐く。

 

「…しょーがねーな…おら、持ち上げるぞ。痛ぇのは少しは我慢しろ」

 

「え…!わ、ちょ…っ!!」

 

 動けないことを把握するとすぐにオルガは次の行動に移った。管制ユニットの中に入り、上総の身体を抱きかかえたのだ。所謂お姫様抱っこである。其の行動に対する羞恥と驚きから咄嗟に身体を動かそうとしてしまい…痛みで悶絶した。

 

「何やってんだよ?大人しくしてろ」

 

 悶絶する上総に呆れながらオルガは105ダガーのコクピットへと戻る。シートに座り、彼女の身体を横抱きに抱えたオルガは出来るだけ上総の身体に負荷を掛けぬようにゆっくりと機体を上昇させた。

 

「………」

 

 オルガに抱きかかえられて、上総が感じたのは唯依のような恥じらいではなく…安心だった。オルガの身体から伝わる体温が、自分は救われたのだと…助かったのだということに安堵する。眼前に迫った死の恐怖から救われたのだと実感した彼女の身体は震えていた。

 

「…ちっ…無理すんなよ。泣きたきゃ泣きゃ良いだろうが」

 

 震える上総に気付き、オルガは彼女の顔を見る。其処には泣くのを我慢している彼女の顔があった。其の様子にオルガはバイザーを開けて顔を出すと、ぶっきらぼうに語り掛ける。其の言葉に上総は涙声になりながらも懸命に答える。

 

「わ…わた…くしは…武家です……涙など…流すわけには…」

 

 其処には、武家と言う誇りから必死に人前で泣くのを耐える少女の姿があった。其の姿にオルガは声を荒げて反論する。

 

「馬鹿か?武家だろうが何だろうが、死ぬのが怖いのは当然だろうが。生きてんのが嬉しくて泣くことの何が恥ずかしいんだ?」

 

 オルガの言葉を受けて上総の瞳から少しずつ涙が零れ始める。其の表情は「泣いて良いのか」と、「泣くのは恥ではないのか」と戸惑っているような表情だった。

 

「良いから大人しく泣いてろ。誰にも言わねえでおいてやるからよ」

 

「う…あ…あぁ…うあああぁぁぁ…!」

 

 其の言葉が最後の止めだった。其の言葉を聞いた瞬間に上総はオルガの胸に顔を埋めて声を上げて泣き始めた。

 

「怖かった…!死にたく…なかった…!」

 

 泣きながら己の心情を吐露する上総。其処には武家の人間ではなく、まだ幼い山城上総と言う一人の少女の姿があった。そして…

 

「ありがとう…ございます…!助けてくれて…ありがとうございます…!」

 

 最後にはひたすらに、オルガへの感謝を口にする上総だった。

 

「…おう…」

 

 一方、当のオルガ本人は自分で存分に泣いて良いと言って置きながら実際に涙を流す上総の姿に上手く言葉を告げられず、ぶっきらぼうに頷くことしか出来なかった。今までスラムの中で生きてきた彼にはこの手の経験は皆無なのである。

 

「オルガ、聞こえるか?」

 

 そうしているとオルガの乗る105ダガーに通信が入る。其の送り主は勿論、唯依を救出して来たゼハートだった。

 

「そろそろ、落ち着けよ…おう、聞こえてるぜ」

 

 小声で軽く上総に通信に出ることを伝えると、オルガはゼハートの通信に出る。其処にはゼハートと唯依の姿が映し出された。

 

「此方はタカムラ少尉の救助に成功した。其方も問題はなかったようだな?」

 

「あぁ、ヤマシロカズサは助けたぜ。怪我はしてるが、命がどうこうなるもんじゃねえ」

 

「…山城さん!」

 

「篁さん…!よく御無事で…!」

 

 オルガとゼハートが互いに報告を行い、一方で唯依と上総は互いの無事を喜び合う。そして二機の105ダガーは嵐山中隊が向かった集積所へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 其の頃、嵐山中隊が退避した集積所では志摩子や安芸、和泉達嵐山中隊の面々がゼハート達の帰還を今か今かと待ち侘びていた。初陣の疲れが残る彼女達は集積所の警戒任務は与えられなかったが、仲間が帰らぬ内には休めないとばかりに全員が京都の街の方向の空を見上げている。

 

「お前等、少しは休んだら?」

 

「…初陣だったんでしょ?疲れ、取れないよ」

 

「あ…ごめんなさい…でも唯依達が心配で…」

 

「うん…気になって休めないんだ」

 

 105ダガーに搭乗して集積所の護衛をしつつゼハート達の帰還を待つクロトとシャニは彼女達の休むように言うが、其の言葉に嵐山の少女達は申し訳なさそうにしながらも誰一人其の場を離れようとはしなかった。

 

「おっと…噂をすれば…かな?」

 

「…だね…」

 

 そんな中で、クロト達の機体のレーダーがいち早く味方の反応をキャッチする。其れは当然、自分達の隊長のものだった。

 

「来た…!」

 

 少し遅れて、二機の105ダガーの姿を肉眼で確認した安芸が声を上げる。其れと同時に彼女達は仲間が無事なのかと言う不安に駆られた。そんな彼女達の前に二機が着地してまずはゼハート機のコクピットが開く。

 

「立てるか?窮屈だっただろう?」

 

「あ…い、いいえ…ありがとうございます」

 

 唯依がコクピットの出口に立つと、ゼハートは機体を操作してマニピュレーターをハッチの前に付ける。そして唯依がマニピュレーターの上に乗ったのを確認すると、其のままゆっくりと地面に降ろす。

 

「…!唯依!!」

 

「唯依ぃ!」

 

「唯依、無事だったのね!!」

 

 無事な唯依の姿を確認して志摩子、安芸、和泉の三人は涙を流して喜び、地面に降りた唯依に抱き着いた。

 

「良かった…無事で良かった…!」

 

 特に自分が激突した為に危険な目に遭わせてしまった和泉の喜びは相当なものだった。

 

「ありがとう…みんなも無事でよかった…私も山城さんも大丈夫よ」

 

「やっぱり、山城さんも無事なんだね!」

 

 唯依の言葉に嵐山中隊の少女達はさらに歓声に包まれる。すると、オルガの機体のハッチも開く。オルガは変わらずお姫様抱っこのまま上総を抱えて出てきた。

 

「おい、帝國軍!こっちは生きてるけど重傷だ!とっとと手ぇ貸せ!!」

 

 礼儀も糞もないオルガの言葉にゼハートは溜息を吐くが、其れと同時に機体を動かしてオルガをマニピュレーターの上に乗せると先程のようにゆっくり地面に降ろした。ちなみに、此の時の上総の顔は林檎の様に真っ赤であった。

 

「山城さん!」

 

「…ふふ、無様を晒したわね…篁さん、皆…」

 

 帝國軍が用意した担架に乗せられた上総は駆け寄ってきた嵐山中隊の仲間達に向けて苦笑いする。

 

「そんなことない、私達だって…今日はティターンズの人達に助けられてばかりで…」

 

「…そうですわね…改めて、自分の未熟を思い知りましたわ」

 

 唯依の言葉に上総は同意する。そして、其のまま自分を運んで来てくれたオルガに視線を向ける。

 

「ん…?なんだよ?」

 

「…サブナック少尉達は、此の後も前線に行かれるのですか?」

 

「だろうな、其れが俺達の仕事だ」

 

 ぶっきらぼうに答えるオルガに上総は優しく微笑む。

 

「今日の御恩は一生忘れません。どうか御武運を、オルガ様…」

 

「…ちっ…サンキュ…」

 

 笑顔で礼を言われたオルガは照れ臭そうに自らの機体へと戻っていく。まだまだ戦いは終わっていない、彼等は此の後一度補給に戻ってから再び前線に戻るのだ。

 

「山城さん…もしかしてサブナック少尉の事…」

 

「『オルガ様』…なんて言ってたしね~」

 

 オルガに対する上総の態度にいち早く志摩子と安芸が反応し、ニヤニヤと笑う。

 

「っ…知りません!」

 

 一方の上総はオルガに言葉を伝えたい余りに周りの状況を失念していたことを理解して、再び顔を紅くする。そして同じように微笑ましく上総を見ている衛生兵たちに救護所へと運ばれていった。

 

「あれ…?でも志摩子と安芸もブエル少尉とアンドラス少尉のこと気にしてたわよね?」

 

「「!!??」」

 

 上総を見てニヤニヤしていた二人は、和泉から投げかけられた言葉にびくりと身体を震わせる。

 

「そ、そんなんじゃないわよ!」

 

「そ、そうだぜ!直接助けられたから恩は感じてるけどさ!」

 

 今度は二人が顔を紅くし、其の二人を和泉がニヤニヤと眺めている。そんな彼女達を唯依は苦笑いしながら、親友達が無事であることに安堵していた。

 

 

 

 

 

 一方、其の頃…

 

「「「ぶえっくしょん!!」」」

 

「風邪か?健康管理は怠るなよ」

 

 少女達に噂されていた三人は仲良く同時にくしゃみをしてゼハートに注意されていた。

 

 

 

 

 

 

 




以上、ニ十六話でした。はい、順調にフラグが立ってます!では次回予告




次回予告



帝國千年の都…その威容は燃え尽きようとしていた


数多の文化が炎の中へと消えていく


だが、其れでも人は抗い続ける


次回 帝都陥落


狼と狩人が、侍と舞う



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