Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

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第一章 異世界来訪
第一話 出会い


「う…あ…?」

 

 少しずつ、涼牙は目を覚ます。身体に感じるのは冷たい床の感触。そうして彼は意識を失う前のことをうっすらと思い出す。

 

「…確か、俺は光に包まれて…」

 

「涼牙、起キタ!涼牙、起キタ!」

 

 頭を押さえて起き上がる涼牙を出迎えたのは耳をパタパタと動かしているハロの姿だった。

 

「ハロ、俺はどれぐらい寝てた?」

 

「三時間二十四分三十四秒!」

 

「そんなに長く寝ていたわけでもないのか…」

 

 ハロに自身が意識を失っていた時間を聞いた後、涼牙は艦橋の外に広がる景色に目を向けた。

 

「は…?」

 

 そこに広がるのは山々が連なる山岳地帯。その中に隠れるようにキャリー・ベースは着陸していた。

 

「おいおい、俺達はいつの間にコロニーに入ったんだ?」

 

「違ウ、地球!違ウ、地球!」

 

「解ってる。言ってみただけだ」

 

 涼牙の間違いを指摘するハロ。だが、涼牙自身もコロニーの中ではないことは解っている。そもそもスペースコロニーの中にも森があったりするのはあるが、眼前のような山岳地帯はない。

 

「ハロ、マーク達への極秘回線は繋がるか?」

 

「接続不能!接続不能!」

 

「そうか…俺達が此処に居るのは…あの光のせいか」

 

 宇宙にいたはずが、目を覚ませばいた場所は地球。しかもキャリー・ベースには大気圏突入能力はない。となれば原因が何なのかはすぐに解った。あの時、キャリー・ベースを包み込んだ光。そして、誰のものかもわからない声…

 

「あの声の主は…俺に何を伝えたかったんだ?」

 

 どれだけ考えても、答えは出ない。今ではあの声も聞こえないし、声が訴えてきた言葉も解らない。

 

「ま、その辺考えるのは後にするか。今は…っ!?」

 

 涼牙が思考を切り替えようとしたその時、何かを感じ取った。

 

「何だ…この気持ち悪いのは…」

 

 それは、今まで感じたことのない嫌な感覚だった。敵意とも、悪意とも判断しきれない禍々しい気配。多少距離はあるが、一つや二つではない。

 

「…行ってみるか。ハロ、カタパルトの発進準備してくれ。何かあったら艦を動かして避難しろ」

 

「了解!了解!」

 

 ハロに指示を出すと涼牙は艦橋を出てノーマルスーツに着替えて格納庫へ向かう。現在、

キャリー・ベースに存在するMSは別々の種類の機体が二機存在する。一機は以前の世界から涼牙が愛機として搭乗している機体。そしてもう一機は愛機に問題が発生した際に搭乗する予備機である。

 

「よっと、行くぜ相棒」

 

 手早くノーマルスーツに着替えた涼牙はすぐに自身の愛機の前に来ると、リフトに乗ってコクピットまで上がって行く。

 

 彼の愛機――白と青のカラーリングが施され、右腕には主力武装である「ロングメガバスター」と呼称されるビームライフル。左腕には武器として使用できるシールドを装備し、頭部にはV字のアンテナと特徴的な顔。「MSN-001X ガンダムデルタカイ」と呼ばれるMSである。この機体の特徴としては、豊富な武装の他にも搭乗者がNT能力を持たない者でも人工的にNT能力を与える、所謂「強化人間」に変貌させるシステムである「ナイトロ」が存在する。最も、現在の搭乗者には必要ない為このシステムは今の所OFFの状態になっている。

 

涼牙は愛機のコクピットに搭乗すると機体を起動させる。すると頭部のツインアイが光り輝き、薄暗かった機体内部が明るくなり、全天周モニターから外の映像が鮮明に映し出される。それを確認した涼牙は愛機を動かしてカタパルトに機体を接続する。

 

≪カタパルト接続、オールグリーン!発進ドウゾ!発進ドウゾ!≫

 

 艦橋に居るハロから通信が入り、涼牙も改めて操縦桿を握る。

 

「氷室涼牙、ガンダムデルタカイ…GO!」

 

 身体にGを感じながら、機体がカタパルトによって加速。そして大空へと飛び立つ。その瞬間、涼牙は愛機を戦闘機形態であるウェイブライダー形態へと変形させ、自身の能力を頼りに、先程の邪気を感じた場所へと飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西暦一九九六年 七月 ユーラシア大陸

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 走る走るただ走る。少女の頭の中はただそれだけだった。かなりの距離を走っているが、それでも少女の頭の中には「立ち止まる」と言う選択肢は存在しない。立ち止れば、それだけ自身の命を縮めると理解しているからだ。

 

「っ…ちくしょう…!」

 

 見た目は幼く十を少し過ぎた辺りの少女。褐色の肌に黒い髪、日本人や中華系ではないがその顔立ちはアジア系のそれだ。まだ歳相応に未成熟な、簡単に言ってしまえば凹凸のない小さな身体で、右手には拳銃を、その身にはボディラインがハッキリと解る強化装備と言うものを纏っている。

 

「ちくしょう!」

 

 そんな少女の口から、何度目かになるか解らない悪態の言葉が漏れ出る。少女はその表情を恐怖と怒りに染め、必死になって森の中を逃げていた。ふと、後方を見る少女の眼に、忌々しい捕食者の姿が僅かにだが確認できた。頭が大きく筋骨隆々の両腕を持ち、歯を剥き出しにして追ってくる異形。それと並ぶようにまるで象のような鼻を持つ異形が少女の跡を追ってくる。双方の異形に共通していることは、非常に生理的嫌悪感を感じさせる容貌であると言うことだ。

 

「くそぉ!この野郎!!」

 

 走りながら少女は右手に持っていた拳銃を異形に向けて発砲する。弾はどうにか数発は異形に当たるものの、異形は倒れる気配を見せず、何より数があまりにも違いすぎる。あとからあとから湧き出る異形の数は少女の拳銃に装填されているであろう弾丸よりも遥かに多い。

 

 少女を追う異形――通称「BETA」は、数十年前からこの地球を侵略し始めた地球外起源種――平たく言ってしまえば「異星からの侵略者」だ。そして、この少女はそんなBETA共を駆逐するため、そして数年前にBETA達によって故郷であるネパールを取り戻すために国連軍に所属したのである。

 

 故郷を滅ぼされ、難民となった少女には生活するために軍人になるか娼婦になるかしか道はなかった。そして、直情的な気性のこの女性には娼婦になる道など考えてもいなかった。あったのは軍人としてBETAを駆逐することだけだった。

 

「ぐ、くそぉ!」

 

 一向に数の減らないBETAの群れに少女は再び悪態を吐いて必死に逃げ回る。彼女の脳裏にはほんの数時間前の光景が思い出されていた。

 

 この世界における主力兵器――戦術機を操縦する衛士になってから数年、彼女は様々な戦場を生き残り、その技量はベテランの域に達していた。しかし、戦場では不測の事態は付きものである。彼女は小隊に配属されたばかりの新人衛士をBETAの攻撃から庇ったのである。幸か不幸か少女自身は怪我を負わずに済んだものの、搭乗していた「F-4E ファントム」は行動不能になり、フレームが曲がったのか強化外骨格の使用も不可能となった。

 

 そんな状況で戦術機の中に残っていれば無数に群がってくる中型BETA、戦車(タンク)級に戦術機ごと喰われるのは眼に見えている。幸いにもハッチの開閉に支障はなかったので女性は意を決して戦術機から脱出、徒歩で基地までの距離を走り始めた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 しかし、戦術機ならば十数分で移動できる距離も人間の足では数時間以上かかる。しかも、途中で前線の戦いを区切り抜けたのであろう小型種の闘士(グラップラー)級と兵士(ソルジャー)級に遭遇してしまった。それらのBETAから逃げようとするあまり、森の中へと迷い込んでしまい、現在に至るのである。

 

「くそ!この化け物がぁ!」

 

 少女とは思えない荒々しい口調で彼女は逃げながら拳銃の引き金を引く。

 

「(っ!?弾が!)」

 

 カチカチ――っと、引き金を引いた少女の耳に弾切れの音が響く。すぐに少女は拳銃を兵士級に投げつけて逃走を再開する。拳銃を投げつけた所で足止めにもならないが、今の彼女にそれを判断できるほどの冷静さはなかった。

 

「は…うあ!」

 

 拳銃を投げつけて走り出そうとした直後、少女の身体が地面に倒れ込む。此処まで長距離を走ってきたことに加えて極度の緊張状態に普段以上体力を消費していた少女の足がもつれ、転倒したのだ。急いで少女は立ち上がろうとするも、兵士級と闘士級の群れはすぐ傍まで近付いて来ていた。

 

「あ…っ…あ…」

 

 恐怖の感情で少女の身体が小刻みに震える。もうあと数分で自分の身体が兵士級の歯でかまれ、食い千切られ、捕食される。そんな自分の姿、その際に自身を襲うであろう痛みに少女は恐怖し、その瞳に涙すら浮かべた。

 

「…っ、ちくしょう!」

 

 だが、少女は恐怖に震え、涙を浮かべながらも自身に近付くBETA群を歯を食いしばって射殺さんばかりに睨みつける。だが、どれだけ睨みつけるともBETAが止まることはありえない。じわじわと兵士級の腕が少女を捕えんと伸ばされる。

 

「…え…?」

 

 BETAが少女まで数十mと迫ったとき、彼女の眼前が白い何かで覆われた。次の瞬間、BETAは頭上から降り注ぐ銃撃によって掃討され、ただの肉塊へと成り果ててゆく。

 

「いったい…何が…」

 

 つい先程まで自身を追い詰めていたBETAが瞬く間に駆逐されていく光景に、少女は眼を丸くする。一方、BETAを一掃するのに大した時間はかからずものの数分で兵士級等BETAの群れは完全に駆逐された。

 

 そして、BETAが駆逐されて安心したのか少女の意識がゆっくりと闇に沈んでいく。そうして彼女が最後に見たのは――

 

 

 

 

――自分の方に振り向いた、今まで見たこともない戦術機――

 

 

 

 

 

――いずれ、世界に名を轟かせることとなる「ガンダム」の姿だった――

 

 

 

 

 

――青年と女性の出会い…それは誰も知らない「あいとゆうきのおとぎばなし」の幕開け――

 

 

 

 


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