Muv-Luv AlternativeGENERATION 作:吟遊詩人
あと、前回のアメリカ軍の援護内容を艦砲射撃から武器の譲渡に変更しました。いろいろと自分で読み直して違和感もあったので。
あと、今回と次回…つまりユウヤ関連の話は賛否あるかもしれませんがこんな感じで進めますのでご容赦ください。
「日本帝國から?」
帝都に於ける戦いから数日、日本帝国の首都は京都から東京へと移されていた。其の中でアークエンジェルは日本帝國軍白陵基地に停泊し、補給と休息を摂っていた。其処へ日本帝國から涼牙の元に会談の申し入れが来ていた。
「はい、会談を申し入れてきたのは五摂家の煌武院悠陽様。近々政威大将軍になられると言われている方です」
「…大物だな…」
オペレーターのノエルが日本帝國から申し入れられた会談の内容を伝える。しかも相手は次期政威大将軍と目される煌武院悠陽、涼牙が驚くのも無理はなかった。
「彼方からは今回の件での事で正式に謝罪と感謝を伝えたいと…また、MSを始め機密に関することは一切聞かないとの申し出付きです」
「…そうか…其処までの大物からの申し出だ。其れに、上手くいけば日本帝國との友好関係も築けるか…」
頭を掻いて涼牙はノエルに会談の申し出を受けると伝えると、彼女はすぐに其の場を離れて日本帝國に会談申し入れの返事を伝えに行く。
「さて、じゃあ行くか」
一方の涼牙は服装を整えると同じようにティターンズの軍服に身を包んだ隊長補佐であるユウヤを伴って会談へと向かって歩き始める。
「しかし…其のコウブインユウヒってのは次期政威大将軍なんだろう?なんで東京じゃなくて白陵基地に居るんだ?」
「なんでも、今回の会談の為に無理に残ったらしい。俺達はBETAを警戒しなきゃならんから東京に行く訳にもいかんからな。つまり、次期政威大将軍殿下は俺達ティターンズとの会談にそれだけの価値があると考えてるってことだ」
涼牙はユウヤと共にアークエンジェルの廊下を歩いていき、其の中でユウヤが感じた疑問に涼牙が答えていく。
「しかし、アメリカが安保条約破棄をしたのは正直驚いたけどな…」
「そうか?俺は連中が核を民間人や友軍の犠牲関係なく使おうとした時点でだいたい想像できてたけどな」
「え…そうなのか?」
疑問符を浮かべるユウヤに対して、涼牙は首を縦に振って肯定する。
「大方、今頃――」
涼牙が自分の考えをユウヤに聞かせている其の頃、アメリカ合衆国では政府や軍の上層部が集まって会議を開いていた。議題は当然ながら今回の日本帝國侵攻のことである。
「やはり、帝國は核攻撃を容認しませんでしたか…」
「まったく、大人しく従ってくれていれば此方もやり易かったものを…」
「まぁ良いではないですか。核攻撃等は所詮実行できれば儲けものと言うだけの話です。少なくとも、今回の安保条約破棄で帝國内の反米感情は煽れた。ティターンズの介入は忌々しいが、想定の範囲内ではあります」
「しかし、今回もティターンズのMSは一機も堕とされず残りましたか…」
「上手くガンダムでも撃墜しされてくれれば何としても回収したのですがな」
「仕方あるまい。焦って仕損じた方が此方の被害も大きくなる。先ずは様子を見ることも肝心でしょう」
「其の通り、まずは今回の目標である日本帝國の反米感情は煽れた。一先ずは良しとしましょう」
「此の後も予定通りに?」
「ええ…日本帝國の反米感情を煽り、クーデターを起こさせる。そして其のクーデターを国連を通じて我等が派遣した部隊に鎮圧させる…戦時中に自国を纏め切れない日本帝國を我等の傀儡にすれば…第四計画も行えなくなるでしょう」
「ってなこと考えてんだろうな」
涼牙がユウヤに言って聞かせた予測は寸分違わずアメリカの上層部の思惑を見抜いてのものだった。
「其処までわかんのかよ…」
「まぁ、冷静に考えればな。先ず第一に、最初の核兵器の使用。一見、敵の殲滅を考えるなら戦略上は悪くないように見えるが…今回の核の使用は民間人の避難や友軍である日本帝國軍の撤退を許さず、彼等を犠牲にすることをアメリカ軍は命令していた。其の時点で、アメリカの思惑はだいたい察しがついた」
「…?どう言う事だ?」
「解りやすく言うと…民間人がBETAに殺されたら憎しみはBETAに向く。じゃあ、味方であるはずのアメリカが核攻撃で民間人を巻き添えにした上に日本帝國も其の犠牲を容認していたとしたら?」
涼牙の言葉にユウヤは顎に手を当て、自分の思いついた言葉を口にする。
「アメリカと…帝國に恨みが行く?」
「そうだ。政府の連中は仕方ないと言う奴もいるかもしれないが、国民が…本来自分達を護る側である筈の国が民間人の巻き添えを容認した…しかも、爆風から助かっても放射能で二次被害のある核攻撃にによる攻撃を容認したなんてなったら…仮にBETAを撃退しても政府への不信感とアメリカへの反米感情は決定的なものになる。最善で政府の人間達の挿げ替え…最悪は内戦が起こる可能性すらある。ましてや、光州作戦の時もそうだが…帝國軍は総じて民間人を護ると言う意識が強い。民間人への犠牲を容認した政府への不信感による内戦はかなりの確率で起こるだろうな」
話しながらアークエンジェルを降りた二人は軍用のジープに乗って出発すると会談場所となっている基地へと向かいだす。
「じゃあ…アメリカの核攻撃は…」
「あぁ、日本帝國内に政府への不信感と反米感情を植え付けて内戦を誘発する。其処に介入して内戦を治めて見せることで日本帝國を傀儡にすることだろうな。そして、内戦の際に邪魔になりそうな人物を消せれば一石二鳥…アメリカの傀儡になった日本帝國では…第四計画の実行は難しくなるだろう」
第四計画――オルタネイティブ4と呼ばれる其の計画は日本人である香月夕呼の案が採用され、日本主導の元に行われている。BETAに対する諜報員育成計画である。
「まさか…アメリカが日本帝國を傀儡にしたいのは…」
「あぁ、戦時中でありながら内乱を許し…其れを自分達で解決できない国にオルタネイティブ計画を任せられない…そんなところだろう。そうして第四計画を中止に追い込んでアメリカ主導の第五計画を発動するつもりだ」
第五計画――オルタネイティブ5は第四計画の予備案であり、其の概要は全人類から選抜した10万人を地球から脱出させた上で大量のG弾を用いてBETAを殲滅するという作戦。脱出した10万人は他星系に移住させるという事だが、それ自体は実質オマケでありアメリカの目的はBETAをG弾で殲滅することである。多くのハイヴやBETAがユーラシアに集中しており、アメリカに被害が出ないことを計算しての作戦である。
「BETAを殲滅した後は、国土が無事でG弾を保有するアメリカが戦後の世界を牛耳ろうって魂胆だろうな。だから連中は如何にか第五計画を発動させたいのさ」
「けど、もしも核の攻撃の影響が予想以上で日本列島全域がカナダみたいになったら?」
「それはそれで構わないんだろう。そうなれば、作戦の責任者である香月博士も無事じゃない。作戦責任者や主導する国がなくなった後で第五計画を発動すれば良い」
「どうなっても、アメリカにとっては悪くないって事か…」
「そうだ。だが、アメリカにとっては日本帝國が核の使用を許さないのは想定の範囲内だったんだろう。核の使用は理想だが、ダメなら次善策として命令不服従を理由に安保条約を破棄すれば核を使う程ではなくとも日本帝國の反米感情を煽ることは出来る。後は帝國内での工作次第だ。聞いた話じゃ、日本帝國内にもアメリカのシンパは相当数いるらしいからな」
淡々と説明しながら、二人を乗せた車が基地の前に到着する。其処には壮年の男性が立っていた。
「ようこそ。私は基地内の案内を仰せつかった巌谷榮二中佐です」
「御出迎えありがとうございます、巌谷中佐。ティターンズ隊長の氷室涼牙少佐です。こっちは隊長補佐の…」
「ユウヤ・ブリッジス少尉です」
「では此方へ…」
挨拶もそこそこに巌谷は涼牙とユウヤを連れて基地の中に入っていく。基地内の通路を歩いていると、巌谷が口を開く。
「つかぬことを聞くが、ブリッジス少尉の母親はもしやミラ・ブリッジス女史ではないかな?」
「…!?母を知っているのですか?」
榮二の言葉にユウヤは眼を見開いて驚く。見ず知らずの男性の口から母の名が出た、其れも日本人から…
「私は昔、戦術機の研修でアメリカに行っていたことがあってね。其の時は親友共々彼女には十分御世話になった。そう、もう十数年前のことだったかな」
「っ…!?」
其の言葉にユウヤは確信する。目の前の男性は自分の父のことを知っていると…そして其れは涼牙も察していたようだった。
「巌谷中佐は、ミラさんとは親しかったので?」
「ええ、
涼牙の言葉にも巌谷は軽く振り返って笑って答える。だが、涼牙は気付いた。巌谷の眼は真剣だ。少なくとも思い出話をする眼ではなく、何か重大なことを伝えようとしている眼だ。
「もし良かったら此の後、君のお母様の思い出話でもどうかな?私としても旧友の息子と話したいと思っているのでね」
巌谷の申し出にユウヤは逡巡する。此処で巌谷の申し出を受ければ父親の話を聞けるかもしれない。だが、今の自分はティターンズの隊長補佐として此処に来ている身だ。個人としては受けたいと思っていても、軍人としては話を受けるべきではないと考えて…そして涼牙に視線を向ける。
「良いんじゃないか?母親の旧友と話をするくらい。其れくらいの時間は取れるしな」
だが、涼牙本人からの返答は簡単なものだった。彼は此の思い出話の申し出を二つ返事で受け入れたのだ。其のことにユウヤは一瞬驚いて、そしてすぐに苦笑いした。そう言えば涼牙はこう言う男なのだと思い出したのだ。身内に対して出来得る限りのことをしようとする。現在、最も注目されている部隊の部隊長でありながら実に軍人らしくない男だった。
「ありがとう。勿論、此れは私人としての申し出だからね。決して軍事的、政治的方面での詮索はしないと約束しよう」
「はい、よろしくお願いします」
何処かホッとした様な表情の巌谷に対して涼牙は変わらず笑顔を向けている。そうして歩いていると基地の中にある応接室へと到着する。
「此の向こうに煌武院悠陽様が待っておられる。私は会談の間に部屋を準備させるとしよう」
「解りました。では後程…」
「うむ…巌谷です。ティターンズの氷室少佐とブリッジス少尉をお連れしました」
巌谷が扉をノックしてから部屋の中に声を掛けると、すぐに中に入るようにと言う声が聞こえる。
「失礼致します」
返事が来てから巌谷が扉を開けると、応接室の椅子に紫の髪をした美しくもまだあどけなさの残る少女と其の左右に特徴的な髪形の壮年の大柄な男性と緑色の髪の眼鏡をかけた女性が少女を何時でも護れるように座っていた。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞ、お掛けください」
「はっ…其れでは、失礼致します」
涼牙とユウヤ、共に緊張の面持ちで対面の椅子に腰掛ける。
「私は此れで…」
「はい。御苦労でした、巌谷中佐」
少女の労いの言葉に巌谷は深々と頭を下げると其のまま応接室を後にした。そして、改めて両者は応接室の机を挟んで相手を見据える。
「改めて…煌武院悠陽でございます」
「ティターンズ部隊長の氷室涼牙少佐です。此方は私の補佐の…」
「ユウヤ・ブリッジスです」
少女――悠陽の挨拶に涼牙とユウヤも深々と頭を下げながら答える。
「(本当に此の子が…次の政威大将軍なのか?)」
ユウヤは目の前のまだ幼さの残る少女が次の政威大将軍なのかと信じられないような様子であった。
「此度はティターンズの方々には深く御詫びと感謝を申し上げます。一度、救いの手を振り払ってしまった我々を救って頂いたこと…日本帝國の民に代わって、誠に感謝いたします」
「いえ、我々の立場の特異性は重々理解しているつもりです。結果、このような弊害が起こりえることも…」
涼牙は余り気にしすぎないようにと伝えるつもりだったが、当の悠陽は首を横に振る。
「全ては我々日本帝國の不徳の致すところであります。日本帝國の民がティターンズの方々に救われるのは此れで二度目…一度目は光州作戦の折りに…そして此度で二度目…一度救われた恩があるにもかかわらず、貴方がたの申し出を断った挙句に此の体たらく…申し開きのしようがありませぬ」
深々と頭を下げる悠陽と其れに倣って頭を下げる紅蓮と真耶の姿に涼牙は困ったようにユウヤと顔を見合わせる。そして、涼牙は溜息を吐くと口を開く。
「…承知いたしました。煌武院悠陽様の感謝と謝罪、有難く受けさせていただきます。そして、もし叶うならば今後は友好的な関係を築いていきたいものですね」
「はい、勿論です。まだ城内省を始めティターンズに否定的な意見を持つ者はいますが今回の一件で少なくとも軍部や政府はティターンズへの悪感情は減少しています。私に出来ることは多くありませんが、今後はティターンズの方々との友好に向けて全力を尽くさせていただきます」
悠陽の返答に涼牙は満足そうに笑みを浮かべて頷く。
「今後は米国との安保条約破棄の影響もあってティターンズの方々に助力をいただくことも増えると思います…どうかよろしくお願い致します」
「いえ、前線国の支援は我々の任務ですので。日本帝國と友好的な関係を築ければ支援の方もし易くなります」
「しかし、此方の見通しも甘かったですな。よもや米国が此処まで強硬な手段を取るとは」
悠陽の後ろに立つ紅蓮が口を開くと涼牙とユウヤも彼に対して視線を向ける。
「確かに…民間人や友軍を犠牲にしての核弾頭使用の指示に、其れが果たされないと見るや一方的な条約の破棄…いくら何でも手段が強引だな」
「其れだけアメリカの連中…正確には政府上層部の大半を占める第五計画派が第四計画を潰したがってるって事です」
紅蓮の発言を受けて顎に手を当てて考えるユウヤに溜息を吐きながら涼牙が答える。
「其れもあるでしょうが、同時に第五計画派はティターンズの存在に焦っているのではないでしょうか?ハイマン大将がアメリカ上層部と不仲なのはすでに周知の事実。ティターンズの戦力が増強し、第四計画に協力し始めれば第五計画派にはかなり不利になります」
其処に悠陽の背後に控えるもう一人、真耶が自らの考えを口にする。其れは実際のところ当たっていた。ジャミトフが第五計画に協力するなどありえないと確信している彼等は圧倒的戦力を持つティターンズが第四計画に協力することで第五計画が用無しになることを恐れているのだ。
「でしょうね。此方としてもアメリカの第五計画を実行させるわけにはいかないです。其の為にも日本主導の第四計画には頑張って欲しいですから、そう言う意味でもハイマン閣下は日本帝國と友好的な関係を保ちたいと考えています」
「其れは此方としても願ってもないことです。どうか、今後もよろしくお願い致します」
「いえ、此方こそ…」
涼牙の言葉に悠陽は優しく微笑みながら頭を下げる。そして其れに応えて涼牙とユウヤも頭を下げて此の日の会談は終わりを迎える。
「では、我々は此れで」
「はい、本日はありがとうございました…最後に、氷室少佐に伺いたいことがあります」
「…なんでしょう?」
なんとなく質問の意図を理解しながらも、涼牙は温和な態度を崩さずに聞き返す。そんな彼に対して悠陽は真っ直ぐに眼を見つめて口を開いた。
「氷室少佐は、何故米国に?何を願って戦っておられるのですか?」
其の質問は多くの日本帝國の人間が抱く疑問であった。日本人でありながら、アメリカ人であるジャミトフやアズラエルに協力して国連の独立部隊に所属する理由。もしも其の力を日本帝國で発揮してくれればと思うだけに悠陽や、彼女の後ろに控える紅蓮と真耶も気になっていたことだった。
「人類と…何よりも此の地球を救う為です。其の為に国に縛られない考え方のできるジャミトフ閣下に協力を仰ぎました」
「地球を…」
地球を救う――言われてみて悠陽は気付いた。日本帝國の人間達を始めとして、多くの国の人間達は祖国の為、人類の為と言って戦う者が多いが…地球の為と言って戦う者は少なくとも悠陽は見たことがなかった。そして、其れは紅蓮や真耶も同様である。
「人類は、今まで地球から多くのものを貰って繁栄してきました。其の代償として、地球を汚しながら…そして今、地球はBETAの影響でさらに荒廃してきています。だから、俺は地球を救いたい。此れまで
其れはかつての世界で多くの戦いを経験し、そして地球のことを考えて戦ってきた者達を間近で見てきたからこその言葉だった。
「しかし、BETAの侵攻を受けた地は草木も生えぬというが…?」
「其れこそ、人類と地球が生き残れば原因を究明して改善する可能性も残ります。ですが、人類や地球が滅べば其の可能性すらも失われる。其れに…此れはまだ完全に確定しているわけではありませんが…アズラエル財団の研究で第五計画によるG弾集中運用を行った場合のシミュレーションで、地球環境が改善不可能な程に悪化する可能性があると…そのような結論も出ています」
「…そう言う事ですか…其れでティターンズの方々は第五計画を阻もうと…しかしBETAに汚染された土地の改善…簡単にはいかなさそうですね」
「俺達に出来なければ、次の世代がやってくれます」
真っ直ぐ悠陽達を見据える涼牙の瞳に、悠陽は笑顔を浮かべた。そして彼には自分達に見えていなかったもの――即ち人類と地球の未来が見えているのだと理解して、涼牙が日本帝國を選ばなかった理由に納得した。
「成程…引き留めて申し訳ありません、ありがとうございした。どうか、御武運を」
「はい、貴方がたも…」
最後に改めて涼牙とユウヤが部屋を出る前に頭を下げて退室していく。そんな二人を見送って、悠陽は紅蓮と真耶の二人に向き直った。
「あの真っ直ぐな瞳…嘘は言っていないようですな。祖国を救う、人類を救うというのは聞いたことがありますが…地球を救うとは…なんとも大きな話です」
「…はい。私たちは少し視野が狭かったのかもしれませんね。祖国を、人類を…と言うだけで母なる此の地球を救うとは考えていませんでした。お恥ずかしい限りです」
「ですが、其れも彼等の戦力が現れてこそのものです。現行の戦力では地球はおろか人類を救うことも難しかったのが事実ですから」
困ったような笑顔で少しだけ落ち込む悠陽に真耶は励まそうと声を掛ける。
「そうですね…彼等のお陰で希望は見えました。そして、同時に理解もできました。彼等が何故一つの国に所属することを良しとしないのか…何故各国に等しく手を差し伸べ続けるのか…」
納得し、改めてティターンズとの友好関係構築を心に決める悠陽。現在、政威大将軍はお飾りの存在と言われてしまっているが…自分が政威大将軍になった際には其れを変えてみせると心に誓う。
「そう言えば、巌谷が言っておりましたな。此の後、氷室少佐やブリッジス少尉と思い出話をしたいので人払いをお願いしたいと…」
ふと、紅蓮は此の会談が開始される前に巌谷から頼まれたことを思い出す。
―――どうか…何卒…お願い致します。事情を聴かず、聞き入れていただけませぬか
巌谷は涼牙達を迎える前に悠陽達に二人と思い出話をしたいので人払いをお願いしたいと、深く頭を下げて必死に頼み込んできたのである。真剣な面持ちで、何も聞かずに聞き入れて欲しいと…日本帝國の不利益になるようなことはしないと何度も頭を下げたのだ。
「あの巌谷があそこ迄必死に頼むとは…よほど其の思い出話は大事な話なのでしょう」
其の光景を思い出して悠陽はクスッと困ったように笑う。其の姿に真耶は溜息を吐いた。
「しかし、本当に宜しかったのですか?巌谷中佐の頼み通り何も聞かずに受け入れて」
「巌谷があそこ迄必死になるのです。きっと、本当に大切で…大事な事なのでしょう。であれば、詮索するのは無粋と言うものです」
「ふむ…其処まで必死になる…そう言えばブリッジス少尉は確か日本人と米国人との…」
「其処までです、紅蓮…」
以前、帝國が独自にティターンズ構成員を調べた時の情報を頭に思い浮かべる紅蓮。其の中で、ユウヤの情報には母親のことは書いてあったが父親は日本人と言うだけで誰なのかは不明のままだった。其のことを口に出そうとした瞬間に悠陽は彼を制止する。
「どの道、此れは我々が詮索してはならぬことです。其れに万が一、其の考えが正しくとも我々に出来ることは口を噤むことのみ。其れを政治に利用しようとすればたちどころにティターンズとの友好は断たれる危険があります」
「申し訳ありません…」
悠陽の叱責に口を閉ざす紅蓮。悠陽はただ、巌谷との約束の為に人払いを命じるのだった。
「では、此処で少し待っていてくれ」
会談を終えた後、涼牙とユウヤは巌谷に連れられて別の部屋へと通されていた。部屋には向かい合わせで備え付けられたソファーと其の間に置かれた横長の机からして、来客用の部屋の一つなのだろう。其のソファーの片方に並んで座り、一度部屋から出た巌谷を待つ。
「…なぁ、リョウガ…良かったのか?此の話を受けて…」
「ん?巌谷中佐の言ってた思い出話のことか?構わないさ、こうでもしないとお前の親父さんの話は聞けないだろうからな」
ユウヤの問いかけに涼牙は構わないと手を横に振って応える。涼牙自身も常にユウヤの父親について気になっていたので今回の思い出話はまさに渡りに船だった。
「…やっぱ…親父の話だよな…」
「だろうな…まぁ、さっき言ってたミラさんの友人ってのは本当みたいだったし…巌谷中佐が親父さんって線は無いだろうが、関わりがあるのは確かだろう」
父親のことであると改めて考えてはユウヤの気持ちが沈む。ユウヤの脳裏には此れまでのことが思い浮かんでいた。
――――始めに抱いたのは憧れだった、母から父は日本と言う国の優しく勇敢な侍だと聞かされていたから
――――次に抱いたのは戸惑いだった、母と祖父が言い争う姿…自分と母を捨てたと言う祖父と違うと言う母…厳格な祖父の涙を見た時、本当のことが解らなくなってきた
――――戸惑いは憎しみに変わった、日本人の血を引いていることで受ける迫害と自分達を助けに来てくれない父に憎しみを抱き、其れは何時しか日本人全体への憎しみと嫌悪になった
――――其の憎しみは再び戸惑いになった、自分が想像していたのとは全く違う…飄々としているようで優しく厳しい日本人との同居生活が始まったからだ
――――憎しみの形は変わった、父への悪感情はあれど少なくとも日本人全体へのものではなくなっていた…共に暮らしている日本人…涼牙と接するうちに日本人も人それぞれなのだと改めて理解した
――――そして、今…胸に抱く感情を何と言っていいかは解らない…恐らく、父のことを知れるという僅かな喜びもあるし、其れを大きく上回る悪感情もある…でも、少なくとも此処で自分の過去にとって一つの決着がつくと…そう思う…だからとりあえず話を聞いて、其の後で一発ぶん殴ろうと思う
「…待たせてすまない」
其処まで考えて、部屋に巌谷が戻ってくる。さらに巌谷に続いて、黒髪の壮年の男性と黒く短い髪を切り揃えた、まだまだ幼さの残る少女が入ってきた。三人は涼牙達の対面のソファーに座る。巌谷ともう一人の男性は覚悟を決めたような面持ちだが、対称的に少女は困惑の表情を隠せていなかった。恐らく少女は何故自分が此の場に呼ばれたのか理解できていないのだろう。
「アンタは…!」
「先程は、救援感謝する。ブリッジス少尉」
男性の顔を見てユウヤは驚く。彼はティターンズが日本帝國に上陸したときにユウヤが最初に救援したあの部隊の指揮官――篁祐唯だった。
「…まさか…!」
何故彼が此処に居るかを考えて、そして思い出した。戦闘中は意識を戦闘に集中させていたこと、さらにユウヤの家にある写真はユウヤが生まれる以前の…もう二十年近く前のもので随分歳を取っていたので咄嗟には気付かなかったが…確かにユウヤの家にある写真の人物だった。
「………」
ユウヤの驚く表情を見ながら祐唯は真剣な表情で口を噤み、その娘であり先の戦闘でゼハートに救われた少女――篁唯依はただ困惑するばかりである。其の状況に巌谷は溜息を吐いて口を開いた。
「祐唯、唯依ちゃん。さっきも話したが、彼等がティターンズの前線指揮官である氷室涼牙少佐と其の補佐をしているユウヤ・ブリッジス少尉だ」
まず、本格的な話の前に巌谷が祐唯と唯依に涼牙達を紹介する。其れに応えて涼牙は頭を下げ、少し遅れてユウヤも頭を下げた。
「氷室少佐、ブリッジス少尉…此処に居るのは俺の同僚で、親友の篁祐唯中佐と其の娘の篁唯依少尉だ」
次の今度は祐唯と唯依の二人が紹介され、二人とも揃って頭を下げる。
「そして、此処からが本題だが…唯依ちゃん、何も説明せずに連れてきてしまってすまないね」
「あ、い…いえ…あの、私が此処に居ても良いのでしょうか?」
優しく微笑む巌谷の謝罪に唯依は慌てて逆に自分が居て良いのかと言う疑問をぶつけるが、巌谷は首を縦に振って肯定する。
「勿論だ。今回のことは君にとっても他人事ではないからね。本来なら、君のお母さんも呼びたかったが…まぁ、其れは仕方ない」
そう、巌谷としては祐唯の妻にして唯依の母である
「(篁中佐の娘…ってことは…篁少尉は…)」
困惑する唯依に声を掛ける巌谷を見ながら、ユウヤは目の前の祐唯が自分の考えている通りの人物ならば…唯依は…と其処まで思考していたところで巌谷が涼牙達に向き直る。
「唯依ちゃん、此れから言うことは他言無用だが…紛れもない真実だ。其のことを頭に置いて、聞いて欲しい」
「は、はい…!」
「氷室少佐、ブリッジス少尉もよろしいですか?」
「勿論です。話の内容は想像がつきますし、今回のことを言い触らす気はありません」
「…俺も…同じです…」
巌谷の言葉に慌てて頷く唯依と冷静に返す涼牙、そして暗い表情のユウヤ。彼等は巌谷が紡ぐであろう言葉を待つ。
そして…遂に――
「ブリッジス少尉…此処に居る篁祐唯こそ、君の母親――ミラ・ブリッジスのかつての恋人であり…そして、君の父親でもある男だ」
――――彼等は、運命と対峙する
以上、ニ十八話でした。遂にユウヤが父親と出会いました。結構独自設定で進めますので次回以降、否の意見もあると思いますがお手柔らかに願います。では次回予告
次回予告
男は女を愛し、女は男を愛した
例えそれが茨の道であろうとも
語られる過去は、遠く離れた父と母の物語
次回 過去の記憶
そしてユウヤは、真実を知る