Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

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投稿です。今回はヒロインの名前が最後で出ます

少しお知らせで、本小説は以前のものより設定変更に伴い僅かに台詞や地の文を変えてますがプロローグと一話を修正しそこなっていたので修正しました。

では、感想お待ちしています


第二話 保護された少女

「よっと、とりあえずこんなもんか」

 

 キャリー・ベース内の通路、そこを涼牙は医務室に向かいながら歩いていた。その手にはお盆の上にお粥が乗っている。少女が保護されて数時間が経過し、すでに夜になっているのでとりあえず消化に良い食べ物を作って持ってきたのだった。

 

「しっかし、あんな子供が兵士とはねぇ」

 

 現在、医務室には先程謎の異形に追われていた女性が寝かされている。あの後、キャリー・ベースを出た涼牙は悪寒がする場所に急ぎ、その場所で異形に追われている女性を見つけた。明らかに少女の命が危ないと考えた涼牙はすぐさま彼女と異形の間に割って入り、異形の群れをデルタカイの頭部バルカンで一掃。気絶した少女をキャリー・ベースに連れてきたのである。

 

「…まぁ、歳で行ったらウッソと同じくらいだったが…それでも、嫌なもんだ」

 

 Gジェネ世界で戦争を経験した涼牙は子供を戦場に出すのに強い抵抗を感じていた。ゲームやテレビで見ていた時も多少は感じていたが、実際にそう言う世界に行って明確に子供が戦場に出ることへの抵抗感が生まれていた。しかも、同じ部隊に幼子である「カチュア・リィス」や「シス・ミットヴィル」がいたこともその抵抗感の一員となっていた。

 

「しっかし…」

 

 次いで、涼牙の脳裏に浮かんだのは自身が殲滅した異形のことでもなければ、この世界のことでもなかった。それは…

 

「可愛い子だったなぁ」

 

 それは自身が保護した少女の姿だった。濃い茶色の髪に褐色の肌、活発そうな顔立ち、歳相応に未発達な肢体――そこまで思い浮かべ、涼牙は頭を振ってその妄想をかき消す。

 

「う~ん、俺ってロリコンの気があったのか?カチュアやシスをそう言う目で見たことはないんだけどな」

 

 実際、カチュアやシスに対しては妹のように感じていたが、あの少女に対しては違うように感じていた。

 

「一目惚れって奴なんかねぇ。ま、それは今のとこ置いとくか」

 

 呟きながら涼牙は医務室に入って行く。そこには未だ眠ったままの少女と、彼女が目覚めた時に話し相手になればと置いていったハロの姿があった。

 

「ハロ、起きたか?」

 

「マダ、マダ」

 

「そか」

 

 ハロと一言二言話した後、涼牙は医務室に備え付けられている椅子に腰を下ろし、机の上に食事を置く。

 

「…にしても、凄い格好だな。これがこの世界のノーマルスーツなのか?」

 

 改めて少女を見た時に涼牙の口から出たのはその少女の着ているものへの感想だった。涼牙は知らないことだが、少女が纏っているのは強化装備と呼ばれるこの世界の主力兵器「戦術機」に搭乗する衛士は必ず身に着けるものであり、衛士の身を護るために多彩な機能を有している。のだが、そのデザインは装着者の身体のラインがモロに出るもので涼牙は驚いた。ノーマルスーツにも身体のラインが出るものはあるが此処までではない。ちなみに涼牙の感想は「見る分には良いが自分が着るのはなぁ…」と考えている。

 

「ん…んん…」

 

 涼牙がどうでも良いことを考えているうちにベッドの中の少女が身動ぎを始める。そしてゆっくりと、彼女の瞼が上がって行く。

 

「お、気が付いたか?」

 

「あれ?アタシ…!?」

 

 眼が開いた瞬間、少女は勢いよく起き上がる。どうやら、先程の自分が置かれていた状況を思い出したらしい。

 

「此処何処だ!?アタシは確か…」

 

 少女の脳裏に先程まで自分が置かれていた状況が思い出される。異形に追い回され、命の危機に瀕していた自分。そして、突如自身の前に現れた謎の戦術機。そこまで思い出して、少女の身体が少しずつ震え始めた。

 

「…アタシ、生きてんだ…アタシ…」

 

 少女は自身の身体を抱き寄せ、恐怖に震える。恐怖体験と言うのは、実は実際に体験したときよりも後になって思い出す方がより恐怖を感じる。特に命に係わる恐怖と言うのはそれが顕著だ。実際に体験している時は自身や仲間が生き延びることで精一杯だが、終わってから思い出すとゆっくり考えることができる分、様々な想像をしてしまう。自身の死、仲間の死、それらを明確に想像してしまって恐怖感が強くなるのだ。

 

 すでに数多くの実戦を経験してきた彼女であったが、それでも死ぬことへの恐怖心がないわけがない。何より、彼女は戦術機でBETAと対したことはあったが生身でBETAと対したことなどなかった。

 

「よく、頑張ったな」

 

 自身の身体を抱いて震える少女を優しく抱き締めた。涼牙は少女のことは何一つ知らないが、それでも彼女が震えている理由ぐらい察することができた。だから、涼牙は抱き締めた少女の頭を優しく撫でる。

 

「っ…あ…あああぁぁぁあぁぁぁぁ!!」

 

 涼牙に抱き締められ、少女は堰を切ったように大声で涙を流し始めた。涼牙に抱き締められたことで、自身が生きていると言うことをより実感できたのだろう。涼牙は少女が泣き止むまで、ただただ優しく彼女の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分後、一通り泣き終わったのか少女は涼牙から離れていた。

 

「……」

 

 少女は顔を紅くしており、その瞳は涼牙を睨んでいた。睨むと言っても、別段敵意を見せているわけではなく単なる照れ隠しの意味合いが強い。つまり、少女は涼牙の前で大泣きしたのが恥ずかしかったらしい。

 

「…とりあえず、食わねえか?もう冷めちまってるけど」

 

 そんな少女に対し、涼牙は自身が持ってきた食事――お粥を彼女に差し出す。持ってきたときには立ち上っていた湯気はなく、中のご飯はある程度温くなっている。

 

「…食う…」

 

 涼牙の問いかけに少女は肯定の意を示した。あれだけ走り回って、数時間意識を失い、さらに先程も数十分間大泣きしていたのだから多少なりとも空腹は感じていたのだろう。彼女はすんなりとお盆を膝の上に置き、レンゲを手に取ってお粥を口に運んだ。

 

「はむ…!?」

 

 お粥を口にした瞬間、少女の顔が驚愕に染まる。そして、すぐさま彼女は涼牙に視線を移した。

 

「お、おい!これ…天然物か!?」

 

「はぁ?」

 

 少女が驚愕の表情をするのに対し、涼牙は質問の意味が解っていなかった。何か言われるとすれば、料理に付きものの「美味い」か「不味い」の評価であると思っていた。だが、少女からの言葉はそのどちらでもなかった。

 

「天然物?…言ってる意味がよく解らん。まぁ、人が育てたものであることは確かだが…」

 

 正直、何と言う風に答えればいいのか解らず涼牙は首を捻る。が、あまり深く考えずに涼牙は少女に食事を続けるように促す。

 

「まぁ、その辺は後で話すとして…今はさっさと飯食っちまえよ。それ以上冷めたら、あんま美味くねえぞ?」

 

「別に、これなら合成食より全然美味いから問題ねえよ」

 

 涼牙に促されるがままに少女は食事を続ける。今度は途中で止まることはせず、がつがつと凄まじい勢いで口の中に掻き込んでいく。

 

「落ち着いて食えよ。誰も盗ったりしねえから」

 

 一応、言っては見るものの少女は涼牙の言葉など意にも介さずにお粥を食べ尽くしていく。そして、食事を再開してからものの数分で彼女は食器の中身を全て食べ尽くした。

 

「ふ~、食った食った」

 

「お粗末さん」

 

 少女が食事を終えたのを確認し、涼牙は空になった食器を机の上に下げる。そして涼牙と少女は改めて向き合った。

 

「んじゃま、とりあえず自己紹介と行きますか?氷室涼牙だ、よろしくな?」

 

 自身を見る少女に対し、涼牙は笑顔を浮かべて自己紹介する。一方の少女は警戒こそほとんどしていないが、彼女の頭の中には涼牙への疑問で一杯だった。自身が何処に居るのかと言うこともそうだが、先程の食事に自分が見たあの戦術機。聞きたいことがありすぎて逆に何から聞けばいいのか解らない状況だった。

 

「ヒムロ…リョウ…ガ?お前…日本人か?」

 

「ん、解るのか?」

 

「そりゃあ、日本人の名前は特徴的だしな」

 

「あぁ、確かに」

 

 改めて考えてみると日本人の名前は特徴的だ。ある程度知っている人間なら、名前を聞いただけでも日本人だと解る。涼牙が納得したのに満足したのか、今度は少女が自身の名を名乗ろうと口を開いた。

 

「アタシはタリサ…タリサ・マナンダルだ」

 

 

 


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