Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

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三連投です。もう少しで以前更新していたところまで更新できます。

感想お待ちしています。


第五話 ガンダムの力

 

 キャリー・ベースを飛び立ってから数十分、タリサは涼牙の操縦するウェイブライダー形態のデルタカイの中で空中散歩を楽しんでいた。

 

「なんか、こうやって空飛ぶの初めてだな。シミュレーターでもこんな飛ばないし…」

 

「光線級…だっけか?戦術機で戦う上で気を付けんのは?」

 

「あぁ。あいつらがいるから戦術機の訓練はとにかく高度を低く保つのが大事なんだよ」

 

 昨日、タリサに聞いたBETAでも人類が最も警戒するであろう光線級。このBETAにより人類は航空戦力を無力化されたと言う事実がある。

 

 しかし、涼牙にはあまり実感が沸かなかった。何せ、以前の世界ではビームやレーザーを避けるなどは日常茶飯事であったし、下から以上に全方位からビームが飛び交う宇宙での戦闘も熟していたのだ。

 

「…で、タリサの居た基地ってのはあとどのくらいなんだ?」

 

「もうそろそろだと思う。予想以上にこいつが速いし」

 

 一応、タリサにかかるGを考慮してある程度緩やかに飛んでいるが、それでもデルタカイの速度はかなりのものがあるのでそれほど距離もないのだろう。彼女の言葉に納得した涼牙が視線を元に戻す。

 

「…っ!?この感じは!」

 

「リョウガ?」

 

 昨日感じたばかりの不快感を感じ取った涼牙は操縦桿を操作してデルタカイの進行方向を変える。そんな彼に疑問を感じたタリサが横から顔を出す。

 

「BETAが居る。多分、戦闘中だ」

 

「っ!?ホントかよ!」

 

「あぁ、この嫌な感じは間違いない。少しスピード上げる、Gがきつくなるが我慢してくれよ?」

 

「わ、解った!」

 

「良い子だ…行くぞ!」

 

 涼牙の言葉を聞き、タリサは目を瞑って来るであろうGを覚悟する。それを確認し、涼牙はさらに強くフットペダルを踏み込む。

 

「ぐっ!」

 

 強いGにタリサが苦悶の声を上げる。そんな彼女のことを案じながらも、涼牙は急いでデルタカイをBETAが居るであろう場所に急行させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうそろそろだな」

 

 涼牙がBETAの存在を感じ取り、現場にデルタカイを急がせてから数分が経過した。涼牙はデルタカイのスピードを緩め、タリサの様子を見る。

 

「大丈夫か?」

 

「うん、結構Gキツイな」

 

 溜息を吐き、ウェイブライダーのスピードの感想を口にする。すでに乗りなれている涼牙は当然苦にしないが、初めて乗ったタリサには結構な負担であった。

 

「確かに俺も初めの頃はきつかったけどな。ただ、MSにはもっとGのかかる奴もあるぜ」

 

「…そんなすげえのか?」

 

 涼牙の言葉にタリサは冷や汗をかく。本人にとってはデルタカイのGもきつかったのに、それ以上があると言うのは想像がつかなかったのだろう。

 

「くく、まぁな。っと、見えた…!」

 

 二人の視線の先には三機の戦術機の姿が映っていた。機体の種類は「F-4E ファントム」――タリサが乗っていたのと同型の戦術機である。

 

「…!あれは…」

 

 何か思い当たる節があるのか、タリサは三機のファントムを凝視する。それを察し、涼牙は手元の機器を操作する。

 

「今、あの三機の通信を傍受する。聞けば知り合いかどうか解るだろ?」

 

「っ…リョウガ…」

 

 タリサの呟きを背に涼牙は手元の機器の操作を続ける。そしてすぐにデルタカイの通信機から声が聞こえてきた。

 

≪こちらビーグル2、38ミリ残り残弾100です!≫

 

≪ちぃ!此処まで来て、BETAの糞共がぁ!≫

 

≪不味いですよ!このままじゃ!?≫

 

 通信機から聞こえてきたのは一人の壮年の男性の声と、二人の若い女性の声だった。すでに武装も尽きかけているようでかなり焦っている様子なのが解る。

 

「サーシャ!ミリス!隊長!」

 

 そんな通信機の声を聞き、タリサが声を荒げる。どうやら、彼等はタリサの仲間であるらしい。タリサは今まで生き残っていてくれたことを嬉しく思う反面、現在の危機的状況にある彼等に非常に取り乱していた。

 

「リョウガ!」

 

「解ってる、安心しろ」

 

 タリサが何を言いたいのかは涼牙にはすぐに解る。彼女は仲間達を助けて欲しいのだろう。涼牙とて、目の前で命の危機に瀕している人間達を見捨てる程冷たい人間ではない。

 

「まずは…そこ!」

 

 デルタカイをウェイブライダー形態からMS形態に変形させ、右手に持ったロングメガバスターをタリサの仲間達に近付くBETAに撃ち込む。着弾地点に存在していたBETAはその瞬間に跡形もなく蒸発し、付近の小型種はその余波でズタズタに引き裂かれた。

 

≪な、何!?≫

 

≪あの戦術機は!?≫

 

 

――ビー!ビー!

 

 

 戦術機に乗る、サーシャと呼ばれた女性と小隊長が空を見上げて驚きの声を上げる。それとほぼ同時にデルタカイのコクピット内で熱源接近のアラームが鳴り響く。

 

「っ!光線級!?」

 

 機体の真下から一直線に光線級の攻撃が接近してくるのをタリサが悟る。戦術機ならまず間違いなく蒸発させられる一撃。その攻撃にタリサは思わず目を瞑る。

 

「だいじょーぶだって、心配すんなよタリサ」

 

 

 しかし、そんなタリサの不安など気に懸けないようにデルタカイは空中で身を翻して光線級の攻撃を回避する。その後も、次々に地上から放たれる光線級の攻撃をデルタカイは危なげなく回避していく。

 

≪嘘…≫

 

≪空中で…光線級の攻撃を避けるだなんて…≫

 

 そんなデルタカイの機動をタリサの仲間であるサーシャとミリスが唖然としてみている。だが、驚いているのは彼女達だけではなくデルタカイのコクピットに居るタリサも同じだった。

 

「…光線級を…避け…てる?」

 

「このくらいで感心されても変な気分だな。向こうじゃ、これ以上の弾幕の攻撃なんざザラだったぜ?」

 

 口ではそう言いながらも涼牙は空中で光線級の攻撃を回避する。Gジェネ世界では数十機の敵MSが一斉にビームライフルを乱射してきたり、全方位からビームが飛んでくるファンネルやドラグーン。さらには高速で飛来する数万を超えるELSの大群に比べれば光線級の弾幕を回避するなど容易いことだった。

 

「けど、やっぱ鬱陶しいなぁ…そこ!」

 

 光線級の攻撃を回避しながらデルタカイはロングメガバスターの引き金を引く。放たれた黄色いビームは光線級へと直進してその存在を蒸発させ、その余波で周りに居た小型種のBETAを吹き飛ばす。

 

「まだまだぁ…!」

 

 立て続けに涼牙は自身を狙ってくる光線級に向かって次々にロングメガバスターを発射する。数秒後にはデルタカイを襲う光線級の攻撃は完全になくなっていた。

 

「すげぇ…」

 

光線級の攻撃を回避するどころか、逆に光線級を殲滅する涼牙とデルタカイにタリサは感嘆の声を漏らす。そうしている間にもタリサの仲間達にBETAが迫っていた。

 

「へ、させるかよ…行けよファンネル!」

 

 涼牙の言葉と共にデルタカイのバックパックに装着されていた二基のプロト・フィン・ファンネルが飛翔する。

 

「な、何だアレ?」

 

 初めてファンネルと言う類の武装を見たタリサは眼を見開く。飛翔したファンネルはデルタカイに先んじて急降下。そのままタリサの仲間達に近付くBETAに攻撃を開始する。デルタカイのファンネルは従来のファンネル搭載MSと違って僅か二基しか存在しない。しかし、そこから発射されるビームは拡散式であり高い面制圧能力を誇る。

 

「消えろ…!」

 

 その高い面制圧能力故に、複数のBETAを一気に撃ち抜き蒸発させる。そうして縦横無尽に飛び回るファンネルは涼牙の意志の通りに動き、次々とBETAを殲滅する。

 

≪何…あれ?≫

 

≪なんか小さいのが飛び回って…BETAを殺してる?≫

 

 その光景にタリサの仲間であるサーシャとミリスは唖然とする。しかし、それも無理はない。ファンネルのような自立誘導武器はこの世界では考えられてすらいない。

 

「………」

 

 そしてその光景を見て唖然としているのは彼女達だけではなく、デルタカイのコクピットに居るタリサ自身も唖然として口をパクパクさせていた。そんな彼女に涼牙も面白そうな笑みを浮かべていた。それを理解したタリサは顔を紅くして拗ねたように頬を膨らませて視線を逸らす。

 

「くく、アレはファンネルって言ってな。NTが脳波でコントロールすることができる誘導武器だ」

 

「…ってことは、アレはNTじゃねえと使えないってことか?」

 

「まぁそうなるな。最も、NTじゃない人間でも似たような武器が使えるようにした奴もあるけどな」

 

 そうしている内に二基のファンネルは一時デルタカイの下へと帰還。もとあった場所に装着され、デルタカイはロングメガバスターを射ちながら急降下する。

 

「そら!」

 

 そのままデルタカイはロングメガバスターを腰にマウントし、ビームサーベルで三機のファントムに近付いていた突撃級と要撃級を斬殺、さらに群がる小型種もビームサーベルで纏めて蒸発させる。

 

「ちっ、まだ結構数いんな」

 

 しかし、それでもBETAの数は膨大でデルタカイに近付く大量のBETAの姿が涼牙の目に映る。

 

「だから言ったろ!BETAの数は異常なんだよ!」

 

「だったら…薙ぎ払わせてもらう!」

 

 タリサの言葉に答えるようにデルタカイは自身の左腕をBETAに向かって突き出す。

 

「リョウガ、何する気だ?」

 

 デルタカイ――引いては涼牙がとった行動にタリサは疑問符を浮かべる。デルタカイの左腕にはロングメガバスターが持たれているわけでもなく、ただシールドが装備されているだけだ。デルタカイの武装を知らないタリサには彼の行動が理解できなかった。

 

「まぁ見てなって」

 

 そんな彼女の問いに笑みを浮かべる涼牙。BETAへと向けられた左腕に装備されたシールド。そこにはオプションとして装備された、単純な破壊力で言えばデルタカイ最強の武器が存在する。

 

「こいつで終わりだ、消えなよ…この世界から…!ハイメガキャノン、ぶち抜けぇ!」

 

 デルタカイの左腕に装備されたシールド。その砲門から極太のピンク色のビームが吐き出される。そのビームは一直線にBETAへと向かい、数十体――その余波で消滅した小型種も含めれば数百体のBETAが一気に飲み込まれる。

 

「まだ、まだぁ…!」

 

 しかし、デルタカイの攻撃はそれだけでは終わらない。デルタカイはハイメガキャノンを発射したままその左腕を横に移動させ、周囲のBETAを纏めて薙ぎ払っていく。それでもBETAはただ愚直に直進を行なおうとするが、所詮は無意味。全てのBETAはデルタカイに近づく前にハイメガキャノンによって薙ぎ払われ、その体液すらも残らずに蒸発してこの世界から消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 BETAの殲滅を終えた涼牙は改めてタリサの仲間達が乗る三機のファントムに向き直る。一方、自分達の方に向いたデルタカイに三機は明らかに警戒の色を強めてそれぞれ残された武装を向けている。いきなり攻撃するなどと言うことは間違ってもないだろうが、デルタカイが自分達に危害を加えようとすれば間違いなく抵抗するだろう。

 

「まぁ、そりゃあ警戒するだろうなぁ」

 

 如何に自分達を助けてくれたとしても、見ず知らずの相手である。警戒するのは軍人としては当然の反応だ。彼等の行動に納得しながら、涼牙は手元の機器を操作してオープン回線を使用する。

 

「俺の名は氷室涼牙、こちらには貴官等との交戦の意思はない。貴官等の隊長殿と話がしたい」

 

 オープン回線で三機に呼びかける涼牙。それを受け、一機のファントムが一歩前に出る。そしてすぐに涼牙へオープン回線での返答が返される。

 

≪私がこの小隊の隊長、ブライアム・ウードル中尉だ。貴殿の救援には感謝する。しかし、そのような戦術機は見たことも聞いたこともない。貴殿の所属と目的を明らかにして貰いたい≫

 

 通信で壮年の男性の声が聞こえる。その声音からも彼が歴戦の戦士であることは涼牙にも理解できた。

 

「…あ~…信じて貰えるかは解らんが、俺は何処の軍にも所属していない。此処に来た目的は、昨日保護した貴官の部下を返還することだ。本当は、基地の近くまで送るだけの予定だったが途中で戦闘を確認。勝手ながら援護させて貰った」

 

≪何処にも所属していない?それほどの戦術機を所持しながら…いや、それよりも私の部下を保護したと?≫

 

 ブライアムが心中で「まさか…」と予想する。当然その脳裏に浮かんだのは長年共に戦ってきた、破損した機体から脱出して行方知れずになった褐色の少女のことであった。部下を失ったブライアンは自身の力の無さを痛感したものだ。

 

「タリサ…」

 

「あ、わ、解った」

 

 涼牙はタリサに声をかけるとすぐにデルタカイのコクピットハッチを開き、タリサは三機から顔が見えるように外に出る。

 

「ウードル隊長、サーシャ、ミリス!アタシだ、タリサ・マナンダルだ!」

 

≪ま、マナンダル少尉!?≫

 

≪そんな…本当に生きて…≫

 

 タリサの顔を見て、サーシャとミリス。二人の女性が涙声になるのが解った。サーシャと呼ばれた女性にとってタリサは長年共に戦ってきた戦友であり、ミリスは配属早々にフレンドリーに接してくれた先輩で、自分を庇てくれた恩人だった。そんな彼女がMIAとなり、ミリスは昨日延々と涙を流していたし、サーシャも必死に悲しみを押し殺していた。それが生きて自分達の前に現れてくれた。彼女達にはそれがたまらなく嬉しかった。

 

≪…正直、先程の貴殿の言葉を信じることは出来ん。だが、部下を保護してくれたことには礼を言う…ありがとう≫

 

 震える声でブライアンが涼牙に礼を言う。その声音からでも彼がタリサの帰還を喜んでいることがよく解る。

 

「出来るなら、彼女を引き渡したい」

 

≪…了解した。サーシャ≫

 

≪はい!≫

 

 涼牙の提案を了承し、サーシャの機体がデルタカイに近付く。そしてある程度近付くとタリサを乗り移らせるためのデルタカイのコクピットに右手を伸ばす。

 

「さて、しばらくのお別れだな」

 

「リョウガ…」

 

 笑顔を浮かべる涼牙に対し、ファントムの右手に飛び乗ったタリサは複雑な表情を浮かべる。仲間達と再会できたのは嬉しいが、タリサにとっては涼牙との別れを惜しんでいるのだろう。ましてや、此処で別れれば次に生きて会えるかどうかどうかも解らない。もしかしたらこれが今生の別れになるかもしれない。

 

「んな顔すんなって…ったく…」

 

 そんなタリサの顔を見て涼牙は溜息を吐きながらヘルメットを外してコクピットの外に出る。

 

「わぷ!りょ、リョウガ!?」

 

 コクピットを出てタリサに近付いた涼牙は彼女を抱き締める。一方のタリサは涼牙に抱き締められて顔を真っ赤にしてワタワタしている。

 

「心配すんなよ。俺は死なない、だからお前も死ぬなよ?」

 

「リョウガ…」

 

 優しく頭を撫でる涼牙にタリサも落ち着き、頷く。もっとも、彼女の顔は未だに真っ赤のままだが。

 

「そんでもって、次に生きて会えたら俺の女にならねぇか?」

 

「はぇ!?」

 

 突然の告白にタリサの身体が硬直し、ようやく落ち着いた脳内がまたもやパニックを起こす。

 

「(は?付き合う?って…え?)」

 

 思考が追いつかず、タリサの顔はまるで湯気が出そうなほどに紅く染まって行く。それから数分して、ようやくタリサは言葉の意味を理解したのか再び慌て始めた。

 

「ちょ、ちょっと待て!じょ、冗談止めろよ!」

 

 タリサは大慌てで涼牙から離れる。そんな彼女の反応に涼牙は苦笑いしながら頭を掻く。

 

「おいおい、俺は女に嘘を吐いたことは…まぁ、あるっちゃあるが…」

 

「ってあるのかよ!?」

 

 涼牙の言葉にタリサは鋭く突っ込みを入れる。ちなみにタリサの仲間達は余りの展開に呆然としていた。

 

「けどなぁ…こういう恋愛事で冗談言う程、性質悪い性格はしてないつもりだぜ?」

 

「あ…う…あ…」

 

 暗に、それは先程の告白が涼牙の本心であることに他ならない。今まで男性に告白されたことのないタリサは顔を真っ赤にして困惑する。

 

「まぁ、答えは今すぐじゃなくていいさ。だから「また会えたら」って言ったんだしな」

 

 そう言いながら涼牙は自身のノーマルスーツの胸元を開けて何かを取り出す。それは銀色に輝く小さなプレートだった。

 

「…ドッグタグ?」

 

 それを見たタリサが呟く。ドッグタグ――それは軍人の認識票であり、そこには「Ryoga Himuro」の文字が刻まれている。

 

「こういう時、ホントは「ハウメアの護り石」でもあれば恰好がつくんだろうけどなぁ」

 

 涼牙の脳裏には、「ガンダムSEED」の登場人物であるカガリ・ユラ・アスハがアスラン・ザラに御守りとして「ハウメアの護り石」と呼ばれる石を渡した光景が思い浮かぶ。後々、アスランが命の危機に瀕しながらも悉く生き残っていることからもあの石の御利益は確かにあったのだろう。

 

「ハウメア…?」

 

「なんでもねぇ」

 

 苦笑いしながら涼牙は疑問符を浮かべるタリサの手に自身のドッグタグをしっかりと握らせる。

 

「けどまぁ…散々泣き喚きながらしぶとく生き残ったクソガキの名前が彫ってあんだ、きっと生き残れる。だから、また生きて逢えたら…答え聞かせてくれよ?」

 

 最後にタリサの頭を一撫ですると涼牙はデルタカイのコクピットに戻ってハッチを閉める。それを見て我に戻ったサーシャもファントムを操作し、タリサをコクピットに収納した。

 

「あ~、それと隊長さん。ちょっと頼みがあるんだが…」

 

≪…何かな?≫

 

「出来れば、俺のことは報告しないで貰えると助かるんだけどなぁ…」

 

 涼牙の頼みにブライアムはしばしの間無言になる。本来、軍人ならば正体不明の強力な兵器の存在を報告するのは当然だろう。しかし、ブライアムには仲間を助けてくれた目の前の青年の頼みを聞きたいと言う想いもあった。

 

≪隊長…≫

 

 しかも、サーシャのファントムに収容されたタリサも懇願するような視線をブライアムに向けて来ていた。恐らく彼女も涼牙の頼みを聞いてほしいと思っているのだろう。

 

≪それで、私がその頼みを拒否したらどうするつもりだ?≫

 

 ある程度、答えが解りきった質問をブライアムは涼牙に対して投げかける。その問いに涼牙は溜息を吐いて答えた。

 

「言ったろ?コレはあくまで「頼み」だ。聞き入れてもらえなくてもアンタらに危害を加える気はないさ」

 

≪……≫

 

 涼牙の答えを聞いてブライアムはホンの数秒無言になる。しかし、少しすると口を開いた。

 

≪…我々は撤退中、昨日MIAとなったタリサ・マナンダル少尉を発見・保護。その後、速やかに基地への撤退を再開した。なお、戦闘記録は戦闘の影響で一部が欠損してしまった。また、我らの撤退後に何者(・・)かがBETAを殲滅したようだが…そのことに関して我が小隊は一切関与していない≫

 

 ブライアムは目を瞑って独り言を呟く。それは自分と、他の二人の小隊員に向けたものなのだろう。それは涼牙とデルタカイのことを報告しないと言うブライアムの決断だった。

 

≪お前達も、それで良いな?≫

 

≪了解です、隊長≫

 

≪命を救われたんですから、それぐらいの頼みを聞いても罰は当たらないですよね≫

 

 ブライアムの問いかけにサーシャとミリスの二人も了承する。そんな仲間達にタリサは笑顔になって喜んでいた。

 

「…礼を言う、ありがとう」

 

 笑みを浮かべるとデルタカイは少しずつその機体を上昇させる。

 

「じゃ、またなタリサ」

 

 そしてデルタカイはウェイブライダーへと変形し、空の向こうへと飛び立っていった。

 

 

 

 

 この後――涼牙とタリサ、この二人が再会するのに数年の月日を擁することとなる。

 

 

 

 

 

 

 


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