Muv-Luv AlternativeGENERATION   作:吟遊詩人

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更新です。二人目の原作キャラが登場。彼の未来が大きく変わります。

あと設定資料も更新したので興味があったら見てみてください。

感想お待ちしています。


第七話 日系の少年

 アメリカ合衆国バージニア州ペンタゴン――アメリカと言う大国の国防・軍事を統括する場所、その廊下を二つの人影が歩いていた。

 

 片や、アメリカ陸軍中将の地位を持つ人物「ジャミトフ・ハイマン」。もう片方はそのジャミトフの補佐官を務める男性「アジス・アジバ」が歩いていた。

 

「やはり、会議の内容はG弾に関するものばかりでしたね」

 

「うむ…まだ実戦では実戦でこそ使われていないが、軍部はG弾を戦術ドクトリンの中心に据え始めている」

 

 アメリカはG弾を開発して以降、G弾による攻撃を中心とした戦術ドクトリンに変更されており戦術機の運用はG弾の攻撃から生き残った敵を殲滅することへと変わっていた。

 

「ハイマン中将…」

 

 廊下を歩くジャミトフのアジスの前に一人の男性が現れた。眼に特徴的なゴーグルを着用した禿げ頭の厳つい男性である。アジスはその男性に苦手意識があるのか、少々萎縮した。

 

「貴公か、儂に何の用だ?」

 

「何故、G弾の導入に頑なに反対なさるのですか?アレこそが下等生物を殲滅する切り札であると言うのに!」

 

 男性の名は「バスク・オム」。アメリカ陸軍の中佐であり、G弾推進派の一人である彼は多少なりとも知った仲であるジャミトフにG弾推進派として活動するように再三に渡って説得していた。

 

「儂とてBETAを殲滅することに異論はない。アレはこの惑星を食い荒らす癌だ、それを殲滅することに躊躇いがある筈もない」

 

「ならば何故!?」

 

「だが、ではG弾は地球の癌足り得ぬと言うのか?研究ではG弾を使用すれば爆心地から数十kmは植物も生えぬ空間になるらしいではないか。そんなものを儂が容認するとでも思ったか?」

 

「馬鹿な!BETA共を殲滅できるならばその程度の犠牲が何だと言うのです!」

 

 ジャミトフの言葉にバスクは強硬に反論する。そもそも、バスクが此処までBETA殲滅に拘るのには理由があった。かつて、バスクは戦術機の衛士として大陸の派遣部隊に籍を置いていた。その時の戦いでの負傷がもとでバスクの両目の視力が著しく低下してしまったのである。それ以来バスクはBETA殲滅のために手段を選ばない人間になったのだ。

 

「貴公に何と言われようが儂は地球を汚すような真似は断じて認めん。貴公も儂の説得は諦めるのだな」

 

「(ぬぅ…ここでハイマン中将の力を得られぬのは残念だが…)」

 

 バスクがしきりにジャミトフの説得を続けていた理由はその能力にあった。ジャミトフは非常に高い政治力・指揮能力を持っている。その能力をG弾推進派に引き入れることができればと考えていたのだ。

 

「…良いでしょう。どの道、通常兵器でのBETA殲滅など不可能…BETAを殲滅するにはG弾が不可欠なのですからな」

 

 それだけを言い残し、バスクは背を向けて去って行く。その姿をアジスは睨みつけていた。

 

「失礼な人ですね、上官に向かって…」

 

「構わん、いちいち目くじらを立てるほどでもあるまい。それに…いつまでもG弾推進派の好きにはさせんよ」

 

 ジャミトフの口元に僅かな笑みが浮かぶ。その脳裏に思い浮かぶのは数日前に届いた謎の人物からのデータが原因だった。

 

「あの「ストライクダガー」と言う戦術機のデータですか?」

 

「うむ、スケジュールはどうなっている?一刻も早くあの人物との会見を行わなければな」

 

 ジャミトフの言葉にアジスがすぐさまこれからの彼のスケジュールを確認する。ジャミトフは中将と言う役職である以上、多忙だった。時間を空けるにはそれなりに無理をしなければならない。

 

「どうにか予定を調整していますが、それでも十日程の時間が必要かと」

 

「ふむ、思ったよりも時間がかかってしまうな…」

 

「致し方ありません…閣下はG弾推進派に睨まれています。少しの弱みも見せるわけには…」

 

 現在、アメリカの大多数を占めるG弾推進派はその考えに真っ向から対立する反対派のジャミトフを警戒している。これが無能な人間なら放っておくのだろうが彼はすこぶる優秀だ。故に僅かな失態も見逃さずに失脚を狙っている可能性も有る。

 

「…そうだな、では先方にその旨を伝えておいてくれ」

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 一方、ジャミトフへのメッセージを送ってから数日後。涼牙はアメリカのとある街へと入り込んでいた。

 

「あ~、視線が鬱陶しいな」

 

 片手でホットドッグを口に含む涼牙は先程から感じる周りの視線に辟易していた。それは明らかな嫌悪を含んだ視線。しかも涼牙のNT能力も周りからアリアリと嫌悪の感情を感じ取っている。

 

「ちっ…」

 

 涼牙がこの街に居るのには理由があった。ジャミトフに連絡を取ったところ、会談まで十日程が必要だと告げられた。勿論、ジャミトフが多忙だと言うのは理解できたので時間が必要なのは理解できた。また日程と同時に会談場所はジャミトフの自宅があるこの街に決まったのである。涼牙は会談場所の下見としてこの街を訪れ、ジャミトフの家の場所も確認している。ジャミトフの自宅はアメリカ軍の高官なだけあって警備員が門を護っているそれなりにデカい家だった。

 

「(まさか此処まで差別が酷いとはな…)」

 

 涼牙は自身に向けられる感情の正体を理解している。それは謂わば人種差別だ。アメリカで黒人が差別されていたのは有名だが、どうやら黄色人種への差別も酷いらしい。先程、この街で食事を摂ろうとした涼牙も何軒か「ジャップに食わせるもんはねえ!」と言う言葉と共に入店を拒否され、ようやくホットドッグを購入できたのだ。

 

「…ったく、嫌なもん思い出すぜ。…ん?」

 

 不意に、涼牙の眼が街の一角を捉えた。そこでは複数の学生揉めている。それだけならただの喧嘩だが、問題は人数が六人ほどで一人を囲んでいるのだ。しかもその一人は黒髪で顔立ちも日本人のそれに近い…まず間違いなく日系人だろう。周りの人間は誰一人として助けようとはしていない。

 

「はぁ…」

 

 そんな周囲と、一人を囲む学生たちに見かねて涼牙は学生達の所へ近付いて行った。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「このジャップが!目障りなんだよ!!」

 

「ぐう!?」

 

 少年は頬を殴られ、尻餅をつく。少年はこの近くに通うジュニアハイスクールの学生で、彼を囲んでいる六人はそのジュニアハイスクールの同級生だった。

 

「へへ、ジャップはこの国から出てけよ!」

 

「パパから聞いたぜ!ジャップってのはどうしようもない屑野郎なんだろ!」

 

 同級生達は口々に少年を、そして日本人と言う存在を罵りその中の一人が彼の胸ぐらを掴む。

 

「(どいつもこいつも…!)」

 

 そんな同級生達に対し、少年の眼は痛めつけられる恐怖ではなく怒りに染まっていた。

 

「俺は…アメリカ人だ!」

 

「おっと!」

 

「ぐほっ!」

 

 どうにか殴りかかろうとするが、それを遮るように横に居た同級生が膝蹴りを少年の腹部に叩き込む。格闘技をやっていない限り、ただの喧嘩では人数が多い方が有利なのは当然。少年が一人に殴りかかろうとすると他の同級生が攻撃してそれを遮る。

 

「どうしたよぉ、腰抜けジャップ!」

 

「ぐ…クソ…」

 

「おいおい、それぐらいにしとけよ」

 

「あ゛ぁ!?」

 

 少年の胸倉を掴んでいた同級生の肩に突如として手が置かれる。その手の主はこのやり取りを見かねてやって来た涼牙だった。

 

「お~い、こいつもジャップだぜ?」

 

「へぇ、同類を助けに来たってか?泣かせるねぇ…けど、身の程ってもんを知れよ負け犬ジャップが!」

 

 掴んでいた少年の胸倉を放し、今度は涼牙に殴りかかる。だがその拳が涼牙の顔面を捉えることはない。

 

「止めとけよ、お前らみたいなチンピラに負けるほど…俺は弱くねえ」

 

 パシン――っと、軽い音と共に涼牙はその拳を受け止めた。そしてそのまま受け止めた拳を握りしめる。

 

「づっ!?イダダダダダダダダ!!!!」

 

 受け止めた手を捻って関節を決めると彼は激痛で顔を歪める。

 

「この野郎!」

 

「そら…!」

 

 仲間を助けようと一人が殴りかかるが、涼牙はそれに対して関節を決めていた同級生の背中を蹴り飛ばしてぶつける。

 

「テメエ!」

 

「このジャップが!」

 

 さらに周りの同級生達も殴ろうと接近する。しかし…

 

「がっ!?」

 

涼牙は拳を回避して裏拳で顎を殴って一人を昏倒させ…

 

「ぐふっ!」

 

そのまま逆の相手の鳩尾を殴る。

 

「がはっ!?」

 

そして正面から来ていた同級生に蹴りを叩き込んだ。

 

「ひ、ひい!」

 

 仲間がやられ、残った一人が恐怖の声を上げる。そんな彼に対し、涼牙は不敵に笑う。

 

「さ、どうするよ…まだやるかい?」

 

「っ!?お、覚えてやがれ!」

 

 定番な捨て台詞を吐きながら倒れている仲間達を助け起こして逃げていく。その後ろ姿を見ながら涼牙は溜息を吐いた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 涼牙は振り返ると少年に手を差し伸べる。

 

「あぁ、サンキュ」

 

 少年は差し伸べられた手を握ると、逆の手で口から流れる血を拭いながら立ち上がる。

 

「大変だな、ああいう奴らが周りに居ると…」

 

「別に、絡まれるのは馴れたよ」

 

「そか…」

 

 余程しょっちゅう絡まれているのだろう、少年はすでに諦めたような表情を涼牙に向けた。

 

「お前さん、その顔立ちと言い黒髪と言い…日系人か?」

 

「…っ!?…まぁな…」

 

 一瞬、涼牙を睨んだが少年は肯定の意を示す。初めは殴りかかって来るかと考えられたが、先程助けてくれた人間であるため思い留まったようだ。

 

「…アンタもか?」

 

 涼牙も日系人なのか?――そんな疑問を投げかける少年。だが、涼牙は首を振って否定した。

 

「いや、俺は日本人だ。純血のな…」

 

「っ!!??」

 

 そう告げた瞬間、少年はまるで親の仇でも見るような視線を涼牙に向ける。恐らく少年は日本人に対していい感情を持っていないのだろう。それはNT能力で感じ取らなくても察知することができた。

 

「ユウヤ!」

 

「…ママ…!?」

 

 するとそこに一人の女性が駆け寄ってきた。金髪のブロンドの髪に美しい容姿、涼牙は少年の姉かとも思ったがどうやら母親であるらしい。彼女は自身の息子――ユウヤが傷を負っているのを見て駆け寄ってくる。

 

 これが氷室涼牙と、長い付き合いになるユウヤ・ブリッジスの出会いだった。

 

 

 

 


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