甘粕正彦は勇者部顧問である   作:三代目盲打ちテイク

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勇者部がほとんど出てこないただのセージが歴史を教えるだけの話。

ただの息抜きのネタです。


柊聖十郎は讃州中学歴史教師である

 讃州中学。他の中学校ともあまり変わらぬ中学校。休み時間ともなれば仲の良い友達やその他のクラスに遊びに行って前の授業で何があっただとか話に行くのが大半だろう。

 あるいは、移動教室の為に教室を移動しているのかもしれない。もしくは、体育の授業ということもあって女子更衣室か男子更衣室に覗きに行こうと戦っているか普通に着替えているのかもしれない。

 

 だが、この時間の三年生のとあるクラスは見るからにそれから外れて異様であった。誰も彼もが机に座って鬼気迫る表情で教科書を読んでは蛍光ペンで線を引いたり、ノートをとっている。

 これが受験であるからだというのならばまだ話はわかるが生憎と現在はまだ五月。進級してから一ヶ月とはいえどもさほど経っていない。

 

 だからこそまだ受験という空気を意識しているはずもなく、現に他のクラスは二年や一年生と同じく休み時間を大いに謳歌している。

 だが、このクラスだけは違った。普段は大雑把であまり真面目そうに見えない犬吠埼風(いぬぼうざきふう)ですら机にかじりついている。

 

 それもこれもこれから行われる授業に関係がある。その授業とは歴史だった。今、歴史なんぞ覚えるだけだろうと思った者は当然いるだろう。

 だが、それを今からこの教室にやってくるだろう歴史教師に言ってはならない。なぜならば、そんなことを言えな塵屑のように恐ろしいことになるからだ。

 

 現に、最初の授業で彼はこう言った。

 

『良いか、屑ども。甚だ不本意ではあるが、今日から俺がお前たちに歴史を教える。まず最初に言っておくが今、歴史なんぞ暗記教科などと思った馬鹿ども、お前たちは留年だ。

 これから貴様らに教えるのは歴史ではない。人間についてだ。愚図でもわかるように言ってやる。お前らの祖先についてだ。

 歴史を形成してきた人について俺は貴様らに教える。つまり、俺がお前らに課すのは論文だ。暗記していればいいなどと思わないことだ』

 

 などとこんなことを言ったのだ。そうこれからのこの教室を訪れる歴史教師に限っては歴史は暗記科目ではないのだ。

 しかも、予習前提で進める。というか、高校の授業で行うようなことは全て予習の範囲内。彼が教えるのは、その範囲内の人が何を考えて、何を思い、何をしたのか。

 

 教科書では一行程度でしかかかれない事柄の裏にあるそれぞれの時代のさまざまな人の動き、考えや背景。それについて時間一杯に語る。

 そして、最後に小論文を課す。自分なりに考察して見せろということ。ゆえに、中間試験などなくこの全てが成績の指標となる。

 

 まったくもって油断などできないし、油断している奴から落ちていく。だからこそ、その教師は嫌われていた。この学園でも一位二位を争う嫌われようだ。

 そんな男の名は柊聖十郎(ひいらぎせいじゅうろう)。黒いシャツ、黒のネクタイ、白いスーツという一見すればアレな恰好をしているがそれがとても似合っているのだ。

 

 どこか幽鬼のようにも思える容貌から見るだけで他者を不安にさせるようなそんな男。言動も性格も俺様であり、教師をしていることすら不可解。

 そんな教師が今日も教室へと入ってきた。ペンの音が止む。一斉に、

 

「さて、始めるぞ。今日は、大正の英雄柊四四八についてだ――」

 

 本来ならば起きていただろう大戦を止めた大英雄の話。いつもの如く、一切他者を考えないスピードで話が始まった。

 

「では、稀代の英雄柊四四八についてだ。知ってのとおり彼について扱っている歴史書は多く在れどその全てが正しいとは思えないことばかりだ」

 

 彼の時代は動乱の時代であったがゆえに資料は少ない。それでも少ない資料をつなぎ合わせて歴史は今の時代まで繋がっているし、過去は残っている。

 しかも、大戦を回避した稀代の英雄。当時の諸外国からはまさに怪物扱い。そのおかげで色々と恨まれたりもしただろうが、今もこうして四国が残っているのは彼の影響も大いにあるだろう。

 

 つまり、諦めず彼のように立ち向かった結果が今の生存なのだ。

 

「彼が何を考えて、何を行ったのかを知るには甘粕事件を知ることが肝要だ」

 

 そして授業も佳境を過ぎる頃に、小論文が課される。

 

 

「終わりだ。さっさと小論文を提出しろ屑ども」

 

 そう言って、彼は回収した小論文を数え、ぱらぱらと一瞥してから返却した。

 

「ふん、一ヶ月だが少しはマシになったか。まあ、屑が塵に変わった程度だがな。特に犬吠埼」

「は、はい!」

「貴様がどんぐりの背比べでは一番マシだ。あとは読むに値しない。せいぜい次はもっとましになっておくことだ」

 

 そう言って聖十郎は教室をあとにしたのであった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 柊聖十郎は図書館に特別な教員室を持っている。図書館の蔵書管理という名目で彼の研究室がここにあるのだ。図書館の隣に併設された扉をくぐれば彼の領域。

 ここに入ろうなどと言う猛者は早々いない。ある三年生を除いて積極的に入ろうとする奴はいないだろう。

 

「柊先生いますか? はいります」

「真奈瀬か。俺は言ったはずだぞ。入るのならばまずはノックをしろとな」

「昼休みは短いので」

 

 聞こえるように舌打ちして見せるが彼女は一向に気にした様子がない。

 

「それで、今日は何の用だ?」

「いや、私の友達がわかないところがあるらしくて」

「ふん、また仲介か。貴様も暇だな。そんな暇があるのならば少しは勉強をしたらどうだ。ミジンコ並みからゾウリムシ並みになれるかもしれんぞ」

「それより教えてくれるのか?」

「ならばさっさと本人を呼んで来い。俺とて暇ではない」

 

 じゃあ、呼んでくるぜー、と言って一人の女生徒を真奈瀬は連れてくる。おどおどとした様子の気の弱そうな女生徒だ。

 

「あ、あの、えっと」

「さっさとわからないところを言え屑。俺は暇でない」

「は、はひゃい! えっと、えっとここなんですけど」

「ここか。まったく、この程度もわからんとは。貴様のちっぽけな役に立たない脳みそでもわかるように説明してやるから一回で納得しろ。それ以降は知らん」

 

 そう言って聖十郎はホワイトボードを利用して説明を始めた。それはとてもわかりやすく、言外にこの程度でなければわからんだろう屑め、と言われているような気がしたもののわかりやすいことに変わりはなく無事女生徒は半泣きになりながらも理解して帰って行った。

 それと入れ替わるように入ってきたのは赤色の髪の少女。結城友奈。

 

「柊せんせー!」

「結城か。うるさいぞ。ここは図書館でもある。最低限のルールも守れない塵屑か、貴様は」

「あ、すみません!」

「それで、今日は何だ」

「勇者部の活動で、猫探しをしてるんですけど知りませんか?」

 

 そう言って友奈が取り出すのはネコの写真である。

 

「知らん、と言いたいところだがこの猫だけは昨日校庭で見た」

「本当ですか!」

「ええい、近い!」

「あ、すみません」

「本当だ。昨日からうるさいことこの上ない。そろそろ処分しようと思っていたところだ。さっさと連れていけ」

「はーいっ!」

 

 元気よく飛び出して行った友奈。

 さて、そうしてようやく静かになった昼休み。愛妻からの手作り弁当に箸をつけようとした瞬間に再び訪れる来客。

 

「セージ、我が親友よ。一緒に飯を食べようではないか!」

 

 それは赤いジャージを着た体育教師甘粕正彦であった。

 

「ええい、甘粕貴様、許可なく入るなと言っているだろう!」

「俺とお前の仲だろう。小さいことを言うな。今日は俺も弁当なのだ」

「貴様が弁当をつくることなど想像できんな」

「俺とて毎食惣菜や学食というばかりではない。コンビニ弁当も良いが、やはり手作りに勝るものはないのだ。手間暇かけ愛情を注ぐからこそ手作り料理はたとえそれが不味かろうともうまいのだ。そういうわけだ、セージ、ここは親友らしくおかずの交換と洒落込もうではないか」

「なぜ、俺が貴様の弁当とおかずを交換せねばならん子供か貴様は」

 

 しかし、甘粕に道理は通じない。この男に道理を説くことすら間違っている。なにせ、この男は道理を飛び越えて自らが新たな道理となるようなそんな男だからだ。

 ゆえに、この男がやると言ったのならばそれは実行されるのだ。有言実行。今まで実行しなかった言はない。言葉にしたならばこの男はその全てを実行した。

 

「ふむ、やはりお前の妻の弁当は美味い。これもまたお前への愛が成せるものだろう」

「くだらん。……それで、甘粕。貴様がここに来たということは、この前バーテックスと戦ったのだろう」

「ああ、戦ったさ。お前には悪いがセージ、お前が作った勇者システムは使わなかった」

「懸命だな」

 

 自らがこの時の為に作ったものを使わなかったと言われたにしてはあっさりした反応を聖十郎は返す。そもそもそれが良いとはどういうことなのか。

 

「当然だ。俺が設計したものを神樹が奪っていた紛い物だ。効率よく供物を提供させるためのシステムにすぎん。あんなもの反吐が出る」

 

 満開すれば散るのは道理。だが、それでは意味がない。

 

「護国の為に神を利用するのが、利用されては本末転倒だろう」

 

 古の神祇省を母体とした大赦の大元の理念としてはそれだ。神を利用して護国を成す。勇者システムを用いれば確かに神の力を得ることはできるが、その代わりに代償を払わねばならない。

 無論、それが望むものであればよいが、その実態は強奪だ。使用者が望む、望まないに限らわず全てを奪っていく。そして、生かし続けるのだ。

 

 生き地獄の逆さ磔。少なくとも柊聖十郎が創ろうとしたものではないし、それでは利用されているようなものだ。

 そもそもこの状況こそが神の創りだしたものを思えばなんとも茶番でしかない。

 

「然り。俺の愛しの男のように。神に縋るなど認めない。ああ、認めんとも。それによって輝きが奪われるなど断じて否だ。俺は認めん、俺はその輝きをこそ愛でていたいのだ。そのために俺はここに立っている」

「フンッ、貴様の考えなど知るか甘粕。せいぜい世界が滅びないように苦心することだ」

「任せろセージ、俺と勇者部が全てを守ってやる」

 

 その瞬間、世界は停止し神樹の創界が成る。樹海と呼ばれる創界。現れるバーテックス。

 勇者部は今日も戦う。

 




またも息抜き。
今度はセージの同姓同名のそっくりさんが讃州中学で歴史を教えているだけの話です。

ただのネタでした。


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