甘粕正彦は勇者部顧問である   作:三代目盲打ちテイク

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壇狩摩は讃州中学地理教師である

 四国のどこか。そこは大赦と呼ばれる組織の本部。大仏堂に寝殿造りの屋敷。風水的にここはもっともすぐれた所謂パワースポットだ。

 そこから出てくるのは一人の男であった。大赦首領。そう呼ばれている男。青の羽織りを羽織った男だ。髪は黒の混じった白と言うべきか、なんというべきか微妙。

 

 そんな男――壇狩摩はとても面倒そうに大仏堂から出てくる。

 

「よいよ、たいぎぃこって」

 

 からんころんとげたを鳴らして石畳を歩く。煙管を吹かせば漂う紫煙。まったくもって面倒くさい。そう言っている。

 なにせ、ついに始まったのだ。一ヶ月半前に。

 

「こっちはこっちでたいぎぃちゅうのに、大将は本当好き勝手やりおる。困ったもんじゃ。のう、そうは思わんかいな。なあ煮干し娘と完璧超人」

「煮干し娘いうな!」

「…………」

 

 突如として虚空から現れる少女と男。三好夏凛と三好春信。この大赦における彼の部下であり、勇者候補であった少女とその兄だ。

 少女の場合は、今も勇者であるが二人の付けた面がそれよりもまずこの男の部下であることを印象付ける。

 

 即ち大獅子と小獅子の面。両面で対となっている面であり二つあって一つの面である。これをつけているということは、この者らが五穀豊穣の祈りと鬼払いの役割にあることを示す。

 

「なんじゃい。今はオフっちゅう奴よ。たいぎぃことは全部奴ら任せ。俺らはこれから大将んところ乗り込んで大暴れよ」

「ああもう、昨日は静観してるって言ったじゃない!」

「思い立ったら吉日よ。今いかんでいつ行くんなら!」

「……聞かなくてもわかるけど、一応、理由を聞いておこうかしら」

「そんなもんあるわきゃあないわ。言うなら反射神経よ」

「あー、やっぱり。手続きとかどうするのよ」

「問題ないのう。というか、PTAからいい加減、お前さんを学校に通わせろとうるさいんじゃ」

 

 だから問題はない。その中学校がたまたま大将たる甘粕正彦のいる学校で、たまたま勇者たちがそこにいた。ただそれだけのことである。

 つまり? 考えてなかった。とりあえず行くだけ行ってみるつもりだったが、お膳立ては全部出来ていた。

 

「はああああ」

 

 夏凜が深い溜め息をつく。

 

「ほうれ、行くぞ煮干し娘。お前の初陣じゃ。盛大に決めて奴らのど肝ぬいたれや。完璧超人はここで老害共のお守りでもしてろや」

 

 春信は頷いて反対方向へ。溜め息をついた夏凜は狩摩についで階段を下りていく。

 

「さあて、どの目が出るか。まあ、俺らも楽しむとしようや。なあ、煮干し娘」

「煮干し娘言うな」

「ほうれ来たぞ、行けや小獅子。お前の戦の真を奴に見せて来いや!」

「わかったわよ。やってやろうじゃない!」

 

 創界が成る。樹海と呼ばれる神樹の創界。現れる六体のバーテックス。十二の星座に二十九の駒を加えた四十一のうちの六体。倒された五体を考えれば、十一体めまでの登場だった。

 

「さあて、手伝っちゃるよ。こんな何もない陰気くさい創界なんぞ糞喰らえじゃ。砂でもぶっかけてみるんが吉よ! さあ、行けや煮干し娘、誰にも邪魔はさせんからのお!」

「あんたが邪魔よ!」

 

 二刀を携えて獅子面の少女は疾走する。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「え、なに、これ」

「樹海のはず、ですよね甘粕先生」

「何か超嵐なんですけど」

「お姉ちゃんでもわからないの?」

 

 意気揚々とバーテックスを殴り倒しに行くために樹海へとやって来た勇者部と甘粕。しかし、そこはいつもの不可思議空間ではなかった。

 いや、樹海自体が不思議空間なのだが、いつもと様子が違ったのだ。少なくとも穏やかさがあったあの空間は今や大しけの嵐。

 

 何が起きているのか、勇者部の面々にはわからない。五回の戦闘のうちこんなことは一度もなかったからだ。ただ甘粕だけは何が起きているのか把握しているようであった。

 

「まったくやることなすこと読めん男だ。いいや、あの男に対して読むなどという行為こそが無駄であったな」

「甘粕先生。先生はこの状況について知っているんですか?」

 

 東郷が問う。

 

「ああ、知っているが。あいつのやることに間違いはない。そう奴が信じているならば俺もまたその意志を尊重しよう。あれもまた己を信じている男だ」

「なるほど」

「え、東郷さんわかったの?!」

「ええ、つまり甘粕先生の知り合いがなにかやらかしたらしいわ」

「凄いよ! 東郷さん! 甘粕先生の言葉だけでそこまでわかるなんて! 甘粕先生に言われたら気合いで立てるようにもなっちゃったし」

 

 そう東郷は何か気合いで立てるようになった。記憶は相変わらずであるが、なんか立てるようになった。気合いと根性は凄い。

 

「みんな、あれを見て!」

 

 その時、風が声をあげる。そちらを見れば、六体のバーテックス。本当は十二体だったのだが、どこぞの馬鹿が何かに砂をかけたり、どこぞの馬鹿が諦めないと奮起しまくったのを阿頼耶が感じ取って増産されたようだ。

 数が増えたからと言ってもバーゲンセールはないだろう。

 

「今日は六体だね」

「いいえ、違うわ。あれを見て」

「え?」

 

 友奈たちが見たのは切り刻まれていくバーテックスだった。二本の刀だけを手にした能面の少女がバーテックスを一刀両断していくのだ。

 あれが甘粕が言っていた勇者システムなのかとも思ったが違う。あれは気合いと根性と思いの力で限界振り切った勇者部と同じだ。

 

 なにせ、同じ分類の人間がここにはたくさんいるのだ。だからこそ、分かる。同類の匂いと言う奴を。何せその大元は此方にいて、いつも会っているのだから。

 というか実は讃州中学の全校生徒が限界をぶっちぎっているらしく、全員が創界に入れるとか入れないとか噂があったりする。

 

 そんな少女は次々にバーテックスを倒してく。たった一人だというのに六体を相手に臆することもなく真っ直ぐに。

 それはおそらくはこの嵐のおかげもあるだろう。この嵐。どう見てもあの少女に良いように働いている。少女にバーテックスが攻撃を仕掛けようとしたら嵐が強まり風がバーテックスを吹き飛ばす。

 

 しかし、六体、一体減って五体を一人で相手にするのを見ているほど勇者部は薄情ではない。

 

「行こう、みんな!」

 

 そう少女を助けに加勢しに行こう、そう言って飛び出して行こうとした瞬間。

 

「やめろや、萎えろうがそんなは。あんなの初陣よ。なら、最後まで見てやるんが華ちゅうもんじゃろ。 タタリ狩りは俺らの領分よ。分かったら、分際知って亀になっちょれ。勇者部のヒヨッコども」

 

 どこにいたのか。突如として生じた巨大な仏像の上にいる男。羽織りを纏った男は煙管を吹かしながらそんなことを言う。

 

「だって、一人で戦ってるんだよ!」

「これでも俺らはタタリ狩りの専門家よ。その中でもあいつはそれだけは飛びぬけちょる。もう一回言うぞ。そこで亀になっちょれ」

 

 それでも助けに行こうとする友奈の前に降り注ぐ氷塊。嵐を操作し氷塊を生み出して攻撃してきたのだ。つまり、この嵐はこの男の術によるもの。

 この空間においてこの男に逆らう事などできないということ。見ているしかない。だが、それも問題はなかった。もうすでに戦いは決着したからだ。

 

 六体の最期の一体が消え失せる。

 

「ふう」

「さあて、それじゃあやろうや小獅子。お前が気にしちょった勇者部のヒヨッコ共の戦の真、聞き出して来いや。それでお前の眼鏡に叶わんならここで殺してしまえ!」

 

 男が大手を広げる。

 

「相変わらず型にはめるのが好きな男だ。良いだろう。勇者部諸君! 俺たちの戦の真を奴に見せてやるのだ! だからこそ、嵌ってやろうお前の急段に!」

 

 本来ならば複雑な条件を必要とする術。しかし、この場に限りこの男がいる限りその条件は達成される。

 

三国相伝(さんごくそうでん)陰陽輨轄(いんようかんかつ)簠簋内伝(ほきないでん)

 ――急段・顕象――

 軍法持用(ぐんほうじよう)金烏玉兎(きんうぎょくと)釈迦ノ掌(しゃかまんだら)!」

「ああああ、このあほおおおおおおお!?」

 

 男が行った愚行に少女が叫びをあげるももう遅い。この急段、簡単に言うと相手も自身も含めて将棋の駒に当てはめて強化や弱体化を行う。

 割り当てられた駒は少女が獅子、友奈が桂馬、東郷も桂馬、風が銀将、樹が横行。

 

 勇者部の面々は樹以外が軒並み弱体化したことになる。更に言えばその駒が動ける方向しか攻撃することが出来ず更に言えば、感覚すらも制限される。

 つまり、友奈と東郷は前こそ見えるもののそれ以外が見えない。ただし突進、前に進むという行為においては他の追随を許さない状態となった。空間すら超えて攻撃が届くのである。

 

 風は銀将。前と斜め後ろは見ることができるがそれだけでほとんど性能は普段と変わりがない。この中で唯一良い駒をもらった樹は前と横を見ることができる。横はどのような距離でも攻撃が届く。

 

「な、なに、これ」

「動きが、制限されます」

「ちょっ、なんかおかしい」

「て、手が増えたみたいです」

 

 困惑する勇者部一同。それも当然だろう。こんなものわかっていなければ、いやわかっていたところで困惑、混乱は免れない。

 そこに超強化された相手。それがしかも人と戦え? 意味がわからない。だが、それでも立ちふさがるのであれば立ち向かう。

 

 恐怖からではない。いつもそうやっている甘粕を尊敬し、それに倣ってだ。如何に困難な状況だろうと諦めない。

 だからこそ、勇者部は構えを取った――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 それから翌日。結局、あのあと戦いはあった。何があったかというととにかく凄まじいものであったとだけ言っておこう。

 空間を飛んでくるバーテックスすらいちげきで粉砕する拳だとか、一刀両断する二刀の一撃を絡め取った糸だとか。

 

 まあ、いつも通りの勇者部クオリティが炸裂してなんとか引き分けに持ち込んだのだ。そういうわけでけっこうくたくたな勇者部であったが学校はおろそかにできない。

 特に風は歴史の授業だ。眠りでもしたら柊聖十郎に何を言われるかわかったものではないのに比べたらまだ友奈たちはマシだと言える。

 

「おはよう、諸君!」

 

 眠いが聞けば起きる甘粕ボイスによって友奈覚醒。

 

「今日は転校生を紹介しよう。はいりたまえ」

 

 入ってくるツインテールの少女。友奈と東郷は気が付いた。あれが昨日の少女であると。

 

「三好夏凛ですよろしく」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 そして、一年の樹の教室。

 

「えー、担任の先生が産休になったので臨時の新しい地理の先生が決ます」

 

 そんな教頭の声と共に一人の男が入ってくる。

 

「お前らに担任で地理を教える壇狩摩じゃ。よろしくな」

 

 讃州中学は今日も平和である。

 




狩摩さんが暴走したんで更新してみました。

さて、壇狩摩登場。広島弁難しいなり。あくまで息抜きなんで戦闘描写カット。これは楽しい楽しい讃州中学の日常を描く話です。

さて、ゆゆゆキャラの中で一番好きな夏凜ちゃん登場ですが、設定が変わっていますね。

まあ、それはさておき、どうしてこうなった。狩摩の急段の駒、ダイスで決めたんです。夏凜は一撃で獅子だして、噴き出しました。
軒並み敵を弱体化させつつ味方を強化した狩摩、何かとり憑いてるんじゃね? と思っちゃいました。

次回の予定は未定です。

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