プロローグ
誰も入れぬようにしていた祭殿に入り込む気配、それも儀式を続けていればそのまま死を迎えていたような強力な気配を感じたからだ。
祭殿の入り口には男がいた。
白金に輝く籠手を嵌め、同じく白金に輝く兜に覆われた顔は表情が窺えない。しかし、体には防具らしきものは身につけておらず、簡素な衣服のみ。
龍司祭は男を知っていた。非実体の霊体をも切り裂く鉤爪の伸びた白金の籠手は、
「――
そして龍司祭は、男の敵だった。
「
轟く雷鳴に見合わぬ若い声だった。そんな下らぬ事をふと思いながら、龍司祭はメイスを構えた。自分は神官としての技量はあれど武については然程磨いていない。護衛を全て屠ってきたのだ、恐らく自分では目の前の男には勝てないだろう。しかし仕える神たるティアマトの宿敵、バハムートの強力な信徒をこのままにしておいたのでは教団の不利益となる。ならば、この身を賭してでも奴をこの世界から消し去る。そう決意して龍司祭は男に向かっていった。
◇◇◇
フェイ――
ここは町中だろうか、樹木が生えている付近は土だが、少し離れると石畳に覆われている。道と思わしき場所は石畳ですらない。素材は石と思われるが、土のようにならされている。
道沿いには街灯らしき物はあるが、火を灯している様子はなく、
ここはこれまで師匠と二人旅をしてきたどの場所とも異なり、そして異質だ。別の国という以前に、別の次元界なのだろう。
ティアマトを祀る教団の祭殿にいた自分がなぜこんな所にいるのか?
その答えは簡単だった。ティアマトの龍司祭が死の間際に作り出した次元の裂け目に放り出されたのだ。ここは自分の居た次元界ではない、しかも今の自分に戻る手段はない。目の眩みそうな現実にフェイは頭を抱え込みたくなるが、こんな事でいちいち落ち込んでいては冒険者は務まらない。気を取り直して装備の確認をする事にした。
鉤爪の籠手は装着している。衣服類も無事。秘術呪文構成要素ポーチも多少の損失はあるかもしれないが大体の内容は揃っている。
安心して頭を掻き上げる。そこでふと気付いた。白金の兜が無い。
背負い袋から手鏡を取り出して確認すると、そこには兜で覆われた顔ではなく短く刈った黒髪、そして竜の血の顕われか猫目状の金の瞳を持った、美形と言うよりも精悍と表現されがちなフェイの素顔が映されていた。
白金の兜が外れていること自体は不思議では無い。あの全てを吸い出す次元の裂け目に巻き込まれたのだ。その時に外れて行方が判らなくなることもあるだろう。しかし――
「なんで"竜の感知能力"が発揮されたままなんだ?」
思わず声に出してしまっていた。すると周囲には誰も居ないのに返答が来た。
『それは我が答えよう、我が
「!?――誰だっ!」
辺りを見回すが誰も居ない。"竜の感知能力"にも捉えられない。
『我はお前の身に付けている籠手の中に居る』
「鉤爪の籠手の中に?――鉤爪の籠手が知性あるアイテムだなんて聞いた事がない……いや、そもそも数が少ない
『我はそのようには創ってはおらぬ。鉤爪の籠手はあくまでモンクの能力を高め霊を討つ為のもの。本来知性などは存在しない』
「しかしお前は喋って……っこの気配っ。――失礼しました、
フェイは一瞬訝しんだが、籠手に宿る神性に気付き跪いて礼を取った。
『ようやく気がついたか未熟者め。だが我はバハムートの本体の意識ではない。鉤爪の籠手に籠められた神力の残滓、それと融合した白金の兜の神力が結びついて目覚めた意識。バハムートに限りなく近くはあるが
「白金の兜が融合したですって?」
そんなバカな。驚くフェイに対して、鉤爪の籠手の中にいるバハムートの意識は語り続ける。
『然り。この次元界に放り出されるまでの間に聖遺物同士が結びついてしまったのだろう。だが面白い事に鉤爪の籠手の特性と白金の兜の特性のみならず、聖遺物自体の神力が増したおかげで新たな特性を宿したようだ』
「新たな特性とは?」
尋ねるとバハムートは楽しげに語った。
『我が末裔フェイよ、お前が拳に魔術を籠めて敵を討つが如く、我が
「
バハムートは
『然り。威力も本来の物よりも大分劣る上に、対象も1体のみとなるがな。それに……』「それに?」
『……いや、これは必要な時に告げよう。この意識は神として全てを見通せるわけではないのでな』
とても気になるが
「了解しました。それで私はこのまま鉤爪の籠手を使い続けても良いのでしょうか?」
『扱える者が扱うのが正しい。……聖遺物が統合されて
「神器!?」
神器はフェイの居た世界では下級の神器ですら既に製法が失われた、あるいは神々やそれに匹敵する者にしか作製することが出来ない程強力な伝説の秘宝。上級の神器となると唯一無二の力を持ち、神々ですら意図して作製は出来ず、破壊することも困難だという。この籠手がそんな代物になったのだとしたら、尚更自分が持つのに相応しいのか……。
『お主にしか扱えぬと言ったのだ。そんな事で一々悩んでいるのを
「……はい」
呆れたかのようなバハムートの言葉に、フェイは師匠が烈火の如く怒る様を想像して顔色を青くして頷く……が、突然顔を上げると明後日の方向に駆け出した。血の、争いの匂いを感じたからだ。"竜の感知能力"を持ち、モンクでもあるフェイの感覚は研ぎ澄まされている。常人なら
D&D知らない人向け
白金竜:バハムート
善竜(メタリックドラゴン)を統べる神様。
弱者を助け、圧政を覆す弱きものの味方。武闘派正義。
バハムートがドラゴンになった元凶がコイツ。(イメージが広まったのはコイツを元に幻獣王を設定したFFのせい)
ハイスクールDXDのバハムート(魚)とは別の存在。
万色竜:ティアマト
悪竜(クロマティックドラゴン)を統べる神様。
赤緑青黒白の5色のドラゴンの首をもつ多頭竜の神。
征服、強欲を教義としている。
天魔の業龍とは別の存在。
手鏡
自分の顔よりも、ダンジョン内で曲がり角の先を確認したりの用途が多い。