「ひーひー……」
フェイの少し前を歩く兵藤が、声に出しながらふらついている。その背には巨大な背負い袋。さらに大量の荷物が追加されている。
ライザー・フェニックスとのゲームが決まった翌日、オカルト研究部の面々は強化合宿と称して山地にある別荘を目指して山を登っていた。
そして山を登る顔ぶれは、
「……大丈夫ですか?」
「普段これだけ負荷をかける事はなかったから身軽にこそ動けんが、この程度ならな。これも修行のうちだ」
女性の中で唯一『持つ者』である塔城が、兵藤以上の荷物を持ちながらもとくに疲れも見せずに隣を歩く『持つ者』フェイに声をかけると、塔城と同程度の荷物を持つフェイも特に疲労の様子もなく返す。
『戦車』として筋力が強化されている塔城はもとより、モンクとして修行を積んでいるフェイもそれなりの筋力は備えている。
本来なら
「ほら、イッセー。早くなさい」
兵藤の更に前を歩く『持たざる者』リアスが兵藤に檄を飛ばす。
「……あの、私も手伝いますから」
「いいのよ、イッセーはあのぐらいこなさないと強くなれないわ」
『持たざる者』アーシアが見かねて兵藤を助けようとするがリアスが止める。
まあ、そうする位なら最初からバッグ・オヴ・ホールディングを禁止しないわな、とフェイは後ろから見ていた。
「部長、山菜を摘んできました。夜の食材にしましょう」
やはり涼しげな顔で『持つ者』木場が軽快にフェイや兵藤を追い越し、リアスに声をかけて通り過ぎてゆく。
兵藤と同じだけの荷物を持ちながら大分余裕を見せ、探索を行うとは……木場は
「……行きましょう」
木場に軽々と追い抜かれた為か、塔城がフェイにペースを上げようと促す。
フェイも頷いてペースを上げ、兵藤に声をかけ追い抜いていく。
「お先に」
その直後、兵藤が気力を振り絞って山道を駆けてフェイと塔城を追い抜き――力尽きた。
この部活には負けず嫌いが多い。
◇◇◇
合宿では修行内容で複数のグループに分かれて修行することになった。アーシアはいざという時の救護班である。
フェイはこの際に塔城、そして兵藤に自身の持つ格闘技術を入り口だけでも教えようと思い、木場も巻き込んで近接戦闘の修行を申し入れた。リアスと姫島はそれぞれ自らの魔力操作を磨くことにしている。
「とりあえず今回教える技術は、塔城と兵藤先輩には役立つと思います。特に塔城もある程度実戦経験を積んで、自分のスタイルとして殴りやすい形で殴っているように見えていますが、運動エネルギーが拳に充分に乗り切っていない為、筋力任せになっている面があります。兵藤先輩もまた格闘については素人なので、神器による増幅エネルギー頼りになっています。今回教えるのは増幅の開始時の威力を1から2、3へと引き上げる技術と思って下さい。もちろん直ぐに確実な成果が出るわけではないので、長期間反復しての修行になりますが」
フェイの説明に兵藤が質問を上げる。
「実際にどれ位変わるもんなんだ?」
「個人差はありますが、多少の具体例を見せましょう」
フェイは兵藤の質問に頷き、修行の場に用意していた3メートル程の岩山の側に立つ。
「まずこれが格闘を修めていない一般人の『手打ち』です」
フェイは白金竜の籠手を出して、わざと腕だけで岩山に拳を打ち込む。
岩山の表面に
「次に拳に充分に全身からのエネルギーが乗り切っている場合の『素手打撃』です」
フェイは全力で拳の一撃を岩山に打ち込む。
轟音を立て、岩山に
「おお、すげぇ」
「……でもこれ位なら」
兵藤は素直に感嘆を漏らし、塔城は自分はもっと激しい一撃を繰り出せると主張する。
「それで、次が呪文で強化した『手打ち』。兵藤先輩がこれに近くて、塔城はこれよりもう少しマシって状態かな」
「…………」
フェイの言葉に多少気分を害した様子を見せる塔城だったが、黙って様子を見ている。
フェイは抑止していた
再び轟音を立て、岩山に
「これは完全な『手打ち』なので、塔城はもう少し威力を出せると思う。最後がこの強化が乗っている状態での全力での一撃です」
塔城にフォローを行いながら、フェイは少し隣に立ち位置をずらし、岩山に全力で拳を打ち込む。
「すげぇ」
「これほどとは……」
「……参りました」
兵藤、木場、塔城がそれぞれ感嘆の声を上げる。
「重要なのは修行を積んだ人間の全力が、魔法で強化した者の『手打ち』と大差ない事ではなく、修行を積んだ者が魔法の強化を得た時の破壊力だ。開始地点の威力が大きければ大きいほど、全力のエネルギーが伝わった時の威力が比例して高まるということを覚えていて欲しい」
最後にそれだけを伝え、これ以上格闘講釈に木場を巻き込むのも悪いので、型稽古や実践的な応用は二人組に分かれた時に行う事にする。
◇◇◇
「……私は、強くなれるでしょうか」
フェイが塔城と二人組になり、型稽古をしているときに、塔城がフェイに問いかけてきた。
「強くするさ。
「バハムートに誓って?」
微笑みながら答えたフェイに対して、さらに塔城が問いかける。
「ああ、バハムートの教えはな。ただ脅威となる悪を倒すだけだと、自分が居なくなった後にまた新たな脅威が表れた時にどうしようもない。だから倒す事も大事だが、それよりも弱者を庇護して逃げ方や、情報や、戦い方を教えて脅威に対抗出来るようにすることを優先しろってものなんだ。信徒の大多数がドラゴンという強力な力の持ち主だからこその教えかもしれないけどな」
フェイの説明に塔城が複雑な顔をして頷く。
「塔城を弱者って言うつもりもないけどな。……ただ、見てて勿体ないって思ったから」
「……勿体ない……」
塔城はフェイの言葉を反復すると、少し顔を赤くして言葉を紡ぐ。
「……色々教わるのなら……師匠、って呼んでいいですか?」
「俺もまだ弟子を取れる程修行を積んじゃいないけどな。だが、教えるのは確かだからまあ…………構わない」
フェイが許可を出すのに大分逡巡したのは、お前にはまだ早い、という師匠の声を幻聴したからである。
ただ、後に再会した師匠が、
「……では師匠、私の事は塔城ではなく、小猫と呼んで下さい。……他人行儀なので」
「ああ、わかった」
顔を赤くして言い出す小猫に対して淡々と答えるフェイ。
白金竜の籠手の中のバハムートは、そこは名前を呼び返すものだろうが、フェイには後で説教だなと少し呆れた。
参考ダメージ
※【筋力】【敏捷力】ボーナスを除いた最大ダメージ
コルトM1911A1拳銃 12ダメージ
ブローニングM2重機関銃 24ダメージ
ダイナマイト 18ダメージ
感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。
D&D知らない人向け
魔術師ヒューワードさんが発明した便利アイテム。
見た目は通常の背負い袋だが、主要部分と両脇のポーチはそれぞれ異空間が広がっていて、ポーチがそれぞれ見た目状は1リットル程の容量だが、実際には
重量もポーチがそれぞれ
また、主要部分とポーチは特定の物を取り出そうと思ったときに対象の物が常に手前に来る仕組みとなっており、前をみたまま取り出したい物を取り出せる、冒険者で持っていない物はまず居ないと言える程の便利アイテムである。
ヒューワーズ・ハンディ・ハヴァサックと同様に中に異空間が広がっているずた袋。
制限内までならどれだけ入れても袋の重量のまま。
フェイの持っている物は、