修行二日目。
午前中の時間は主に座学の時間が用意されていた。
この世界の裏の常識を知らない兵藤、アーシア、フェイなどにその知識を授ける事になっている。
「フェイくん、僕ら悪魔の仇敵たる神が率いる天使。その天使の最高位の名前は? さらにそのメンバーは?」
一通りの知識を教え込んだ後に、確認テストのように木場がフェイに問いかける。
「『
「正解」
天使の名前は
セレスチャルのように善性の塊であるのならばフェイとしては問題はないのだが、実際に見るまでは判断出来ない。
フェイの回答に頷いた木場は、続けて兵藤に問いかける。
「イッセーくんには僕らの王、『
「それなら任せとけ! いずれ出世してお会いする予定だ! バッチリ覚えてるぜ! ルシファー様、ベルゼブブ様、アスモデウス様! そして憧れの女性悪魔であらせられるレヴィアタン様!」
「正解」
「絶対レヴィアタン様に会ってみせるぜ!」
兵藤は煩悩絡みだと各方面で性能が上がるようだ。
それにしてもアスモデウスか……。
フェイが苦笑しているのを目敏く見つけた木場が訊ねた。
「フェイくん、『魔王』さまがどうかしたかい?」
「いや、元の世界の
「へぇ、フェイの世界の悪魔か、どんなのか教えてくれよ」
フェイの答えに兵藤が興味を持って、デヴィルの事を問いかけた。
「ではまず俺の世界の悪魔――デヴィルの概念ですが、デヴィルは肉体的外観を与えられた『悪』の抽象概念と言える存在です。人間などと同じような肉体構造を持つ者もいますが、生物としてあるべき生理的欲求はないに等しく、例えば連中の生命維持の手段は、虐げられた魂を取り巻く負のエネルギーとなります」
「それだけ聞くと私たちとは大分違うようね。負のエネルギーというのは?」
そこまでの説明を聞いてリアスが嘆息する。
「要は苦しみ、恨み、絶望、そういったモノを己の力に変えているわけです。そしてデヴィルはその為に人間を堕落させ、地獄へと呼び込みます。売魂契約というものがありますが、デヴィルは人間の欲を叶える代わりに、魂を求めるというのが一般的な手段ですね。それに比べれば事前に代償がどうなるか、と提示しているこちらの悪魔は良心的と言えます」
「流石にそんなのと一緒にされたくはないわね」
若干気分を害したかのように吐き捨てるリアス。フェイとしてもその気持ちはわからないでもない。
「そしてアークデヴィルについてですが、俺の世界で悪魔が居るのは
「なるほど、アスモデウス様と同じ名前の方と、ベルゼブブ様の
「それに72柱のベリアル、番外の悪魔たるメフィストフェレス、マモンの名前まであるのね。これも偶然の一致なのかしら」
フェイの説明に木場が頷き、リアスが首を傾げる。
「なんらかの影響はあるのかもしれませんね、俺が今ここに居るように。そうそうポイニクス――フェニックスも元の世界に居ましたよ。あちらのは神聖なる炎の不死鳥なので悪魔とは違いますが」
「へぇ、それはほぼ同じなのね。フェイ、こちらの世界にもフェニックスという名前の聖獣はいるわ。命を司りし火の鳥」
フェイの補足にリアスが興味を示して反応する。ポイニクスは生来の能力として次元を渡る事が出来る。
もしかしたら聖獣のフェニックスは同じ存在なのかもな、などとフェイが考えていると、リアスの表情が引き締められる。
「人間達は聖獣のフェニックスと区別するために悪魔のフェニックスを『フェネクス』と呼ぶようだけど、聖獣と称されるフェニックスとライザーの一族は能力的にほぼ一緒――つまり不死身ということになるわ」
「最強じゃないっすか! 不死身とか無敵すぎる!」
リアスの説明に兵藤が思わず驚きの声を上げる。
「そうよ。ほとんど無敵ね。攻撃してもすぐに再生して傷を癒やし、業火の一撃は骨すら残さない。ライザーの公式な『レーティングゲーム』の戦績は八勝二敗。でもこの二敗は懇意にしている家系への配慮でわざと負けただけ、実質全勝みたいなものよ」
「ふむ……倒す方法はないのですか?」
フェイはリアスの説明を聞きながら腕を組みリアスに訊ねた。
「ないこともないわ。倒す方法は二つ、圧倒的な力で押し通すか、起き上がる度に何度も潰して心を折るか。前者では神クラスの力が必要、後者は相手の精神が尽きるまでスタミナを保つこと。身体は再生して不死身でも、心や精神までは不死身じゃないところを衝くしかないわ。神みたいに一撃で相手の肉体も精神も奪い去る力があれば一番楽なんでしょうけどね」
「なるほど。ところでポイニクスは例外的に異なるものの、火に結びつきの強い連中は概ね冷気に弱いものですが、そちらはどうですか?」
ポイニクスは炎を扱うが火のクリーチャーではない為、炎の耐性もないかわりに冷気の弱点もない。耐性と弱点の有無を知る事は、戦闘において重要な要素のひとつである。
「通常よりもダメージは与えられるでしょうね、一撃で全て凍らせる位の事が出来れば『レーティングゲーム』でのリタイア状態にも出来るわ。でもレヴィアタン様ほどの氷結魔法を使えるならともかく、生半可な冷気じゃ再生されるだけで焼け石に水よ――もしかして出来るの?」
「可能性はありますが……俺がライザーを撃破するのは出来ればしない方がいいですね。姫島先輩は無理ですか?」
リアスの問いかけにフェイは嘆息しながら答え、姫島に話を振る。
「私の氷結魔法では流石に無理ですわね。何故フェイくんでは駄目なのです?」
「そうだよ、なんでフェイでは駄目なんだよ!?」
姫島と兵藤が続けざまにフェイに問い詰める。それに答えたのはリアスだった。
「――そうね、フェイはやめた方がいいでしょう。いい、皆。フェイはライザーの気紛れにより参加が認められた
「……でも、参加が認められているのにそれじゃ……」
表情に陰を作ったリアスの説明に小猫が悔しそうに呟く。フェイはその小猫の頭に慰めるように手を置き、リアスに告げる。
「悪魔だから……というよりは貴族だからという問題なんでしょうがね。俺だって参加する以上、黙って見過ごす気はないですから、最後の最後にはライザーも倒しにいきますよ」
「ふふ、そうならないように私たちも頑張らなくちゃね、小猫?」
「……はい!」
リアスの言葉に小猫も力強く頷いた。
その後、三陣営の残る一角、堕天使とその組織、代表格についての説明――組織を作って神器を研究し、「神の子」である神器所有者を見張り、殺すか仲間に引き入れていることなど――や、アーシアによる悪魔対策の講義などが行われ、アーシアとフェイは悪魔にとって劇薬と言われる聖水をある程度所持しておくことが決められた。
その際にフェイも悪魔対策の技術があるかと問われたが、残念ながらアーシアと異なり武と魔術に重きをおいていたフェイには
午後の修行も順調に進み、合宿の二日目が終わった。
◇◇◇
「ブーステッド・ギアを使いなさい。イッセー」
合宿三日目、修行を始める前にリアスが兵藤に告げる。
合宿が始まってから今日まで、兵藤は神器の利用が禁止されていた。
神器の何を兵藤に見せるのか、フェイはその事を考えていた。
「相手は祐斗でいいわね」
「はい」
リアスに促され木場が兵藤の前に進み出る。
「イッセー、模擬戦を開始する前に神器を発動させなさい。……そうね、発動から二分後に戦闘開始よ」
神器を発動させてから二分後……つまり十三回の倍加済の状態での戦闘か。
「ブースト!」
『
兵藤が赤龍帝の籠手を出現させ、掛け声をかける。それに応じて神器が音声を発し、十秒経過するごとに倍加の通知が鳴り響く。
「ストップ」
リアスの指示に兵藤が頷く。
「いくぞ、ブーステッド・ギア!」
『
兵藤の掛け声と共に神器で倍加されていた力が、兵藤自身に行き渡っていく。
「その状態でイッセーは祐斗と手合わせしてみて頂戴。祐斗、よろしく頼むわね」
「はい、部長」
リアスの指示で木場が構えを取り、兵藤もまた構える。
「では、二人とも初めて頂戴」
リアスの宣言と同時に木場が動き出す。フェイントをかけつつ大きく横に移動する動き、兵藤は木場を一瞬見失ったことだろう。兵藤が木場を捕捉しなおすまでに一気に距離を詰めた木場は、勢いのまま木刀を突き入れる。
「っ!」
両腕を交差させて木刀を防ぐ兵藤に対し、木場は驚きで一瞬足を止める。未熟者め、フェイは内心毒づく。
兵藤の筋力、構え方ならば本来ならば防御を弾き飛ばして一撃を加えられただろう、しかし今は強化されている最中だ。強化は想定外にせよ、敵の目前で驚きで足を止めてどうするのだ。
案の定、兵藤の反撃の一撃が繰り出される。それを木場は上空へ跳び上がる事で躱した。
兵藤は再び木場を見失ったのだろう、左右、そして振り返って背後を確認、最後に上を見上げたところで木場の一撃が兵藤の頭を打った。
「痛っ……」
兵藤はそれだけ言って、木場の着地際を狙って蹴りを放つがそれも躱される。
フェイは驚いた。強化されているにせよ、綺麗に頭部に決まった一撃が痛いだけですむのか。木場にしても魔力で強化をしているだろうその木刀が折れかけている。俺が相手をしたかった、いや後でそうするか。などとフェイがとりとめも無い事を考えていると、リアスが兵藤に声をかける。
「イッセー! 魔力の一撃を撃ってみなさい! 魔力の塊を出すとき、自分が一番イメージしやすい形で撃つの!」
その言葉に兵藤は片手を目の前に持ってくる。その手のひらに魔力が集中していくが米粒ほどの大きさの塊でしかない。しかし、手を木場に突き出し、魔力の塊が兵藤を離れた瞬間、米粒が巨岩へと変化する。
しかし直線に飛ぶだけの魔力の塊は簡単に木場に躱され、隣の山に着弾してその山を消し飛ばした。
倍加を重ねればこれほどまでに力を引き出すのか、恐ろしい、そして面白い。フェイは思わず顔を緩めさせた。
『
その合図とともに、兵藤に巡っていた魔力が霧散していく。
「そこまでよ」
リアスの言葉で模擬戦は終了した。
「二人ともお疲れ様。さて、感想を聞こうかしら。祐斗はどうだった?」
リアスの問いかけに木場が答える。
「はい。正直驚きました。最初の一撃で決めるつもりだったんですが、イッセーくんのガードを崩せませんでした。打ち破る気まんまんでいたんですけどね。二撃目は上からの振り下ろしで頭部を狙い、打ち倒そうとしましたが――」
木場はそう言って折れかけた木刀を皆の前で振り
「この結果です。このまま続けたら僕は得物を失って逃げ回るしかなかったですね」
と続ける。リアスは頷くと兵藤に声をかける。
「ありがとう、祐斗。そういうことらしいわ、イッセー。あなたは私に『自分は一番弱く、才能もない』と言ったわね?」
「は、はい」
リアスの言葉に頷く兵藤。そんな事を言っていたのか。フェイが見る限りでは兵藤は格闘の才能は充分あると思っている。型稽古の覚えはともかく、模擬戦を行ったときの状況に対応するセンスは見事なものだ。今現在力が足りないのは、偏に経験が足りないだけに過ぎない。
「それは半分正解。ブーステッド・ギアを発動していないあなたは弱いわ。けれど籠手の力を使うあなたは次元が変わる」
リアスが消し飛んだ山を指さす。
「あの一撃は上級悪魔クラス。あれが当たれば大抵の者は消し飛ぶわ」
驚く兵藤に対して、さらにリアスが続けて言った。
「基礎を鍛えたあなたの体は、莫大に増加していく神器の力を蓄える事の出来る器となったわ。現時点でも力の受け皿として相当なもの。前から言っているでしょう? あなたは基礎能力を鍛えれば最強になっていくの。始まりの力が高ければ高いほど増大していく力も大きいのよ」
「……師匠が言った通りですね」
リアスの解説に、拳撃の基礎の話と同じだと小猫が頷く。
「あなたはゲームの要。イッセーの攻撃力が状況を大きく左右するの。あなた一人で戦うのなら、力の倍加中は隙だらけで怖いでしょうね。けど、勝負はチーム戦であなたをフォローする味方がいる。私たちを信じなさい。そうすれば、イッセーも私たちも強くなれる」
リアスが自信満々に言葉を続ける。
「相手がフェニックスだろうと関係ないわ。リアス・グレモリーとその眷属悪魔……いえ、フェイとアーシアも含めたオカルト研究部がどれだけ強いのか、彼らに思い知らせてやるのよ!」
『はい!』
全員が力強く返事をする。フェイもまた、余計な横やりが入らない程度に、しかしできる限りの事はしようと心に決めていた。
そして山籠り修行の合宿は順調に進み、無事終わりを告げて、決戦当日を迎えるのだった。
合宿編終了、次はゲーム開始。
感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。
D&D知らない人向けムダ知識
肉体的外観を与えられた『善』の抽象概念と言える
特定の神の使徒というよりも、特定の組織や職業の守護者であったり、彼らの概念の理想を広める為に選択した特定個人の守護者であることが多い。
例えばパラゴンの中でもセレスチャル七人組は布告官と使者の守護者
なおバレイキーエルさんはやっぱり放電がメイン武器。話題が出ていたら今の朱乃さんだと多分檄おこ。